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共生型ケア拠点の政策化の経過と今後の課題

公開日:2019年1月25日 12:00
更新日:2019年4月18日 13:56

平野 隆之(ひらの たかゆき)

日本福祉大学社会福祉学部教授


「共生型サービス」の導入の意義と制約

 「共生型サービス」が、2018年度に介護保険制度および障害者総合支援制度の中で導入された。同サービスは、たとえば介護保険制度の「通所介護」の指定変更による特例によって、障害福祉の「生活介護」の利用者が利用可能となり、報酬が障害福祉から支払われるというものである(表1)1)。しかしながら、介護保険制度の「小規模多機能型居宅介護」といった新たな居宅サービスとして成立しているわけではない。そのこともあって、国の「地域共生社会の実現」をめざす1つのプログラムとしては、いまだあまり注目されていない。

表1:新たな共生型サービスの位置付け
(三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2018)『共生型サービスに係る普及・啓発事業報告書』1)より引用、注は筆者加筆
現行制度障害福祉事業所介護保険事業所課題
障害児者が利用
(例外扱い)
  • 障害福祉の給付の対象とするか否かは、市町村長が個別に判断
  • 障害支援区分に関わらない同一の報酬設定となっているため、重度者の報酬額が低い。加算もつかない。
高齢者が利用 ×
(給付の対象外)
  • 介護保険の給付の対象外
  • 障害者が65歳になって介護保険の被保険者となった際に、使い慣れた障害福祉事業所を利用できなくなる。

※(注)例外扱いには、「富山型デイサービス」をはじめ、共生型ケアとして先行してきた取り組みが含まれる

新たに共生型サービスを位置付け

見直しの方向性 障害福祉事業所 介護保険事業所 改善事項
障害児者が利用
(本来的な給付対象)
  • 事業所が指定を受ければ、障害福祉の本来的な給付対象
  • 報酬額の見直し(給付の改善(障害支援区分に応じた報酬設定等))
高齢者が利用
(本来的な給付対象)
  • 事業所が指定を受ければ、介護保険の本来的な給付対象

 もちろん「共生型サービス」には、多くの導入意義がある。1つは、介護保険制度優先の原則に依拠するのではなく、「障害者が65歳以上になっても、使い慣れた事業所においてサービスを継続して利用する」ことが実現する。

 2つ目に、これまでの共生型ケアとして、基準該当や制度外のサービスとして実践されてきた取り組みが、既存の介護保険・障害福祉両方の制度によって介護報酬および障害福祉サービス等報酬によって、正当な報酬が確保され、先行してきた実践の持続性が確保されることになる。その結果、共生型ケアといわれる高齢者だけでなく、あるいは障害児・者だけでなく、両制度の壁を超えて利用者が交わるケアを進めることが促進されることになるといえる。

 これに関連して、これまで共生型ケアの経験がなく新規に「共生型サービス」への指定変更を申請する事業所が、本来の多様な人たちの間に形成される関係性を豊かにするケアの機能を発揮することが期待されることを意味している。そのためにも、今回の改正では、表1が示すように共生型サービスへの指定変更が申請されれば、市町村長の判断に左右されることなく自動的に指定されることから、共生型ケアの中で培われてきた理念やケアを理解しながら、市町村行政が事業所や人材の研修などの強化に取り組むことが必要となる(本特集・高橋氏、池田氏を参照)。以下、ボトムアップとして取り組まれてきた共生型ケアの実践や拠点づくりの理念や動向にふれておく。

 なお、これまでの共生型ケアでは、拠点型での多様な利用者の交わりをめざしてきたが、今回の改正では、拠点型のサービス以外の訪問介護(居宅介護・重度訪問介護)にも適用されている。また、中山間地などでは、福祉に携わる人材に限りがある中で、たとえば介護保険事業所の人材を障害分野にも活用しながら適切にサービス提供を行うという背景からの導入契機も含まれる。

先行した共生型ケア拠点づくりの経過

 共生型と呼ばれるケア(共生型ケア)の実践には、多様な系譜や物語がある。もっとも有名なのが、「富山型」といわれる共生型ケアである。1993年に富山市で生まれた「このゆびとーまれ」(お年寄りも障害のある人も子どもみんな一緒の考えに基づき実践)以降、富山市・県などの支援もあって県内に普及したことから、そのように称されている(図1-2)。実践者自らがネットワークを組み(当初は富山県民間デイサービス連絡協議会、現在は富山ケアネットワーク)、その意義や普及に向けて全国に発信している。2年に1回「地域共生ホーム全国セミナーinとやま」も開催されている。実践者による多面的な運動と行政の支援が融合する形で、「富山型」の名称が普及した(本特集・富山県を参照)。

 先の全国セミナーのタイトルにあるように、総称として「地域共生ホーム」という場合もある。地域での共生をめざす家庭(家族)づくりをイメージしてのネーミングである。筆者は、「このゆびとーまれ」の調査研究などの成果から、次のように共生型ケアを定義している2)

  1. 地域の中で当たり前に暮らすための小規模な居場所を提供
  2. 利用の求めに対しては高齢者、子ども、障害者という対象上の制約を与えないこと
  3. その場で展開される多様な人間関係を、共に生きるという新たなコミュニティとして形づくる営み

 このように、ホームでの多様な人間関係の形成を重視し、その関係がさらに地域に広がることを期待したケアの理念を形づくってきたといえる。

 富山県のように都道府県が支援する場合には、地域性や担い手を踏まえて、共生型の地域呼称が採用されている。長野県では、文字通り「宅幼老所」という名前を用い(図1-3)、熊本県では、地域社会との共生を意識した「地域の縁がわ」という名前を与え(図1-4)、高知県では、「あったかふれあいセンター」と呼ばれている(図1-6)。高知県での普及は、他県には見られない県の運営費単独補助によって進展している(本特集・高知県を参照)。熊本県と高知県の2つは、地域福祉を意図した事業として展開されている。

 国も、共生型サービスに至る制度化までの間に、先のような都道府県の動きを受けて、2009年に内閣府が「フレキシブル支援センター」の名称で共生型を支援し(図1-5)、2013年度には東日本大震災を受けて、東北地方で「共生型福祉施設」の整備を政策化した(図1-7)。さらに、地方創生の中で、高知県のような中山間地に向けに、小さな拠点として、「多世代交流・多機能型福祉拠点」の整備(図1-8)に活用できる政策として、共生型のタイプをバックアップしている。

図1:普及から共生型サービスの制度導入までの共生型ケアの拠点づくりの経過を表す図。地域の活動として、富山型、長野県の宅幼老所、熊本県の地域の縁がわ、高知県のあったかふれあいセンターなどがあり、事業所を通じ地域との共生に努めた。都道府県の動きを受け、国の共生型に対する支援・政策化につながった。
図1:共生型ケアの政策化の展開

共生型ケア拠点づくりとその支援の到達点

 2017年度において、筆者は「共生型サービスに係る普及・啓発事業」の検討委員会の委員長を担った。その中で実施した調査に基づき、見えてきた成果と運営上の課題を2点ふれておく。

 第1は、2017年末現在において「共生サービス」(今回の検討委員会では、前項での共生型ケアを「共生サービス」と呼称している)を実施している事業者における同サービスの効果・成果と運営上の課題についてである。図2が示すように、両制度を活用している事業所では、「多様な利用者を受け入れること」からみられる効果、「信頼を得られている」53.5%、「コミュニケーションが増える」48.1%、「他の利用者に関わろうとする」24.6%と、それぞれのレベルでの効果が確認されている。これに対して、比較的利用者の状態が軽く、制度活用に結びついていないと考えられる「その他共生サービス事業所」では、同様の項目でそれぞれの比率が低くなり、反面「地域住民の関心が高く、交流が進んでいる」27.4%が高くなる傾向にある。

図2:2017年度において共生サービスを実施している事業者の視点からの、サービスの効果・成果と運営上の課題についての調査結果を示す図。
図2:事業者の視点からみた「共生サービス」の効果・成果(複数回答、n=300)
(三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2018)『共生型サービスに係る普及・啓発事業報告書』1)より引用

 運営上の課題では、両制度を活用している事業所で、「多様な個別ケアの実施に苦労している」42.8%、「共生ケアに関する職員向け研修が少なく、受講機会が得にくい」33.7%と高い割合を占めている。

 第2に、都道府県・指定都市・中核市を対象に実施した調査の結果からは、これまでの「共生サービス(共生型ケア)」の推進においても、今後の「共生型サービス」の普及においても、関係部署間の調整課題が指摘されている。高齢と障害の部門での共管となる自治体が多く、その運営については未知数の部分が多い結果となっている。

「共生型サービス」の普及と今後の課題

 前述の事業者調査結果では、「共生型サービス」への移行の予定・検討中を合わせた数値は、両制度を活用している事業所では約5割を占め、その他共生サービス事業所では、25%程度となっている。「わからない」との回答がいずれも3分の1を占めている。このように、新制度に乗ることにも不安を抱えている状況が見てとれる。

 先の運営上の課題や上記の不安を克服する方法について、新たなサービスとして2008年に導入された「小規模多機能型居宅介護」との比較から整理しておきたい(表2)。小規模多機能型居宅介護は、「通い」「泊まり」「訪問」といった機能を包括的に展開する小規模拠点として、先行する宅老所などの実践をモデルに導入された(図1-1)。あまりにも新たなサービスであったので、人材育成のための研修事業や認知症高齢者への対応が中心となることから、表2のように、地域密着性が担保されるよう、地域参加による運営推進会議の設置などが求められたのである。「共生型サービス」では、指定の特例としての対応のみでは、その密着性までを求めることは困難なのかもしれない。

 小規模多機能型居宅介護事業者連絡会の機能強化に関する調査結果では、障害者の受け入れを基準該当などによって実施している割合は、886事業所のうち6.5%の実施がみられている。その背景には、地域密着型のサービスを展開すればするほど、要介護高齢者に限定されないニーズに向き合うことになるという状況があると考えられる。「共生型サービス」の普及にもこうした地域密着志向が求められる。

 さらに、第三者評価の義務づけや人材の研修への対応措置が十分でないのも大きな課題といえる(表2)。確かに、指定の特例としての対応のみでは規制する方法を導入しにくい面があるが、共生型という新たなサービスの方法に着目するのであれば、またこれまでの高齢・障害のそれぞれの専門的なケアを越えるケアへの展開が求められるという点では、人材の研修については、少なくとも強化される必要があった。この点を補う上で、都道府県がその研修条件を整備する必要があると考える。

表2:2つの新規サービスの導入における条件比較
小規模多機能型居宅介護共生型サービス
導入年 2008年4月 2018年4月
政策的意義 認知症ケアの新たなサービス 介護保険・障害福祉の制度活用
報酬の支払 介護保険による包括払い 2つの制度による支払
地域密着性 地域参加による運営推進会議 なし
質の確保 外部評価の義務づけ なし
人材の研修 研修事業の義務づけ なし

 先ほどの都道府県・指定都市・中核市を対象に実施した調査結果では、「サービス提供を担う事業所職員の人材育成研修」を支援策として選択した割合は、5割にとどまっている状況にある。この点での積極的な支援を期待したい。

 最後に、高齢と障害の部門をはじめ関係部署間の調整の課題が大きく、どの行政部署がリードするのかについてふれておきたい。本稿の最初にも指摘したように、地域共生社会の実現の推進上での「共生型サービス」の役割が期待されているにもかかわらず、なかなか注目されない現状にある。その理由の1つには、それを推進する高齢と障害の行政部門の連携の弱さとともに、地域福祉部門の中に「共生型サービス」への関心が醸成されていないことがある。地域共生社会の実現を推進する上で自治体の組織機構上、地域福祉部門の強化が課題といえるが、その中で、共生型サービスや制度外の共生型ケアの普及を担う地域福祉行政の形成が期待される。

 この点では、本特集の高知県における地域福祉行政(地域福祉政策課)の取り組みは注目される。制度横断的な資源利用をめざすとともに、相談機能や支え合い支援としての地域福祉の拠点機能を共生型のサービスに付加している点は大いに評価できるものである。

参考文献

  1. 三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2018)『共生型サービスに係る普及・啓発事業報告書』
  2. 平野隆之編(2005)『共生ケアの営みと支援-富山型「このゆびとーまれ」調査から』CLC

筆者

筆者_平野隆之氏
平野 隆之(ひらの たかゆき)
日本福祉大学社会福祉学部教授
略歴:
1985年:大阪市立大学大学院修了、名古屋経済大学経済学部、1995年:名城大学都市情報学部教授、1999年より現職
専門分野:
地域福祉。博士(社会福祉学)

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団 機関誌 Aging&Health No.88 2019年1月発行

Aging&Health(エイジングアンドヘルス)No.88(新しいウィンドウが開きます)

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