スローショッピング〜認知症の人の生きがいと共生社会の実現へ〜
公開日:2026年7月13日 09時00分
更新日:2026年7月13日 09時00分
紺野 敏昭(こんの としあき)
医療法人館こんの神経内科・脳神経外科クリニック理事長
NPO法人やまぼうしネットワーク理事長
こちらの記事は下記より転載しました。
はじめに
認知症は単なる記憶障害ではなく、さまざまな脳の機能が障害されることで起こってくる生活の障害である。認知症を支えるには、医療だけでは不十分であり、介護との連携が必要で、車の両輪として機能することが求められる。連携を線だけではなく、介護も含めた多職種、住民を含めた面へと広げることが肝要である。社会とのつながりが多い人ほど認知症発症リスクが低下する可能性があり1)、さらには認知症とともに生きる社会をつくり、認知症の人の孤立・孤独を解消するための社会的処方を活用してウェルビーイングを高めることが重要である2)。人生の目的がある人は、脳にアルツハイマー病の変化があっても認知機能が保たれやすいという報告もある3)。日常臨床の場でも認知症の治療を受けていても、孤立・孤独に陥っている人は進行が速いと実感することも多く、社会的処方の受け皿となる社会資源の創出、発掘・育成が求められている4)。
スローショッピング開始までの経過
筆者が所属する一般社団法人岩手西北医師会は、増加の一途をたどる認知症に対処するために早期診断・早期治療開始の医療モデルの実践として、2013年12月1日岩手西北医師会認知症支援地域ネットワークを立ち上げた。医師会が主導して、5自治体にまたがる多職種の連携をつくった5)。同時に社会モデルの視点から、担当自治体の多職種、住民を対象とした研修会、講演会、住民公開講座などを展開し、正しい認知症の知識と当事者中心のケアの普及に努めてきた4),5),6)。
見えてきた認知症の人が抱える不自由
ネットワーク開始後に見えてきたのは、認知症の人の外出の機会の減少と閉じこもりの傾向である。また、もの忘れの症状で初診する人の中には、配偶者を亡くして数年間孤立している人も多い。一方、認知症の人には買い物行動に伴ういろいろな障壁(バリア)に困難を感じ、何もできなくなったと思い込んで自ら買い物行動をやめる人や、家族から禁じられてしまう人もいる。このような状況が続くと家族内での役割感を喪失し、閉じこもりがちになって孤独感・孤立に陥ることになる。このような状態に陥っている人に、「買い物を再びやってみたくはないですか?」と聞くと、多くの人が「またしてみたい」と返答してくる。認知症初期集中支援チーム、ケア会議、多職種との事例検討会などを介して明らかになってくるのは、単なる介護支援だけでは不十分で、孤立・孤独の解消を支援することの大切さである。経験上、日常診療からも孤立・孤独に陥っている人は進行が速いと感じることも少なくない。
スローショッピングの趣旨、目的
認知症の人の生活の障害の視点に立った支援の試み(図1)として、買い物行動の再開が自分で決める喜び、生きる希望の回復、自信・自立の回復、役割感の回復、尊厳の回復、他人との交流の維持、生きがいの発見をもたらして孤立・孤独の解消につながるのではないかと想定した。地元岩手のスーパー株式会社マイヤと交渉して、2019年4月「認知症になってもやさしいスーパー・プロジェクト」を立ち上げた(図2)。当初から認知症の人と家族の会の意見を取り入れながら企画をつくり上げた。当事者の買い物に付き添うボランティア(我々はパートナーと呼んでいる)は、すでに認知症サポーターとして登録している人の中から募集し、スーパーのスタッフとともに改めて認知症サポーター養成講座、キャップハンディ体験研修などを行った。
スーパー側には、場所の提供の許諾と、スーパーの負担が最も少ない曜日・時間帯での実施によって出費を必要最小限にしたい旨をお願いした。開催日には対面での専用レジを確保し、焦らずにゆっくりと会計ができるように「スローレジ」と名づけた。また、つながりの場としてイートインコーナーの使用許可をいただき、「くつろぎサロン」の名称で、買い物の前後での交流の場とした。その場には医師会、地域包括支援センター、社会福祉協議会、認知症の人と家族の会が毎回参加することで、本人やご家族からの相談、本人同士、家族同士のつながりの機会をつくり、社会資源の利用の仕方の相談、医療・介護に関する相談ができるようにした。

パートナーの寄り添い方として、スローショッピングは効率よく買い物をするのが目的ではないのでゆっくりと会話を楽しみながら当事者のペースで店内を回ること、商品の選択は本人に決めてもらうが困難な時には選択肢を絞ってあげること、買い物メモはパートナーが手に持つのではなく本人が手に持ち本人のペースに合わせること、助けすぎないことなど、緩やかなルールとした。
認知症サポーター約30名を確保して2019年7月11日、「スローショッピング」と銘打ってキックオフした7),8)。最初からイベント開催ではなく、毎週木曜日13時から15時の開催で、現在まで継続している。

認知症の人へのアンケート調査
普段の買い物行動に伴って、当事者にはどのような不自由とニーズがあるのかを把握する目的で、2021年1月に認知症の人160人にアンケートを実施した。不自由さでは、「支払いの困難さ」を筆頭に概ね想定通りであったが、「袋詰めの難しさ」や「店舗への行き帰りの不安」なども多かった。希望するサポートでは、「自分のペースで買い物がしたい」が最多で、やはり買い物はあくまでも自分が主体となって行動することに意味があるのだと気づかされた(表)。
| 項目 | 割合 |
|---|---|
| 自分のペースで買い物ができる | 24% |
| どこに何があるかわかるように | 16% |
| 家から一緒にお店に行ってくれる | 13% |
| 支払いや袋詰めなど急かされない | 11% |
| 支払いを手伝ってくれる | 8% |
| 商品を一緒に選んでくれる | 7% |
| 袋詰めを手伝ってくれる | 7% |
| その他 | 4% |
| 未回答 | 10% |
スローショッピングでみられた効果
【当事者】最も多いのは笑顔が多くなり、会話が増えることである。パートナーと談笑しながら品定めを行い、スローレジでは急かされることなくゆっくりと会計行動を行い、お金を払う時にレジ係の店員さんに嬉しそうに笑顔でお辞儀する姿は感動的である(図3)。家族内でのコミュニケーションが増えたり、デイサービスで他の利用者と談笑できるようになったり、拒否的行動が減ったりする。

【家族】「あんなに楽しそうに談笑する姿を見るのは数年ぶり」「あれほどおしゃべりな人だとは思わなかった」などの感想が多い。さらに「くつろぎサロン」では、家族が日頃の介護上の悩みや医学的疑問を相談したりして、認知症観が変わったと言われることも多い。
【スーパー側】スタッフからは「認知症への理解が深まった」「認知症の人や高齢者への対応を考えるいい機会となった」などが寄せられた。開始後も、当事者やパートナーから挙がってきた大小さまざまな困りごとについて協議しながら、バリアフリー化を目指して店内設備の改善・工夫につなげていった。
「くつろぎサロン」併設の効用
「くつろぎサロン」は、当事者同士の交流、介護家族の交流の場であるだけでなく、一般の客も同席できるので、市民の啓発に一役買っている。繰り返し参加している当事者にその理由を尋ねると、買い物の楽しさが半分、「くつろぎサロン」でいつもの人たちに会って会話を交わす楽しさが半分という答えが多い。社会とのつながりの場(social capital)としての効用が大きいと思われ、当事者のニーズが単なる買い物行動だけではないことがわかる9)。
社会的処方の実践とバリアフリー社会の実現に向けて
2022年5月、経済産業省の「サービス産業強化事業費補助金(認知症共生社会に向けた製品・サービスの効果検証事業)」において、株式会社マイヤの製品・サービス名「認知症になってもやさしいスーパー・プロジェクト」が採択され、参加した10)。
スローショッピングを開始してから、参加したいのに移動手段がない当事者をいかにして支援するかを模索していた。2023年4月、岩手ダイハツ販売株式会社から無償で車両が提供されることになり、道路運送法に抵触しない形で、利用者の生活支援として運用している。その後、車両の利用者も徐々に増え、2025年9月には同社から2台目の車両がリースされることになった。
このような地域づくりは、認知症の人に限らず、高齢者、孤立・孤独を抱える人、身体的不自由のある方など、誰もが住みやすい社会につながるので、現在は参加対象者を認知症の人に限定せず、広く門戸を開放している。スローショッピングから始まった社会的処方の受け皿づくりは、他の受け皿づくりへと派生してきている。共生社会の実現を目指して、社会的処方の実践と普及をさらに進めていきたい。2023年11月に市民中心の活動として永続させたいと願って、活動の主体をNPO法人化した(図4)。

おわりに
スローショッピング活動に強い興味をお示しになった国立長寿医療研究センター老年社会科学研究部部長の故斎藤民先生が二度にわたって現状を視察に来られ、多くの示唆と励ましをいただいた。さらに2025年3月14日に開催されたNCGG-UniCoシンポジウム(第3回プレコンソーシアム会議)報告会にお招きいただき、講演の機会を頂戴した11)。本稿を借りて、生前のご厚誼に謹んで心から哀悼の意と感謝を申し上げる。
文献
- Saito T, Murata C, Takeda, Kondo K, et al.:Influence of social relationship domains and their combinations on incident dementia:a prospective cohort study. J Epidemiol Community Health 2018;72(1):7-12.
- 斎藤民:高齢者のWell-being. 月刊地域医学 2024;38(11):1160-1164.
- Boyle PA, Buchman AS, Wilson RS, et al.:Effect of purpose in life on the relation between Alzheimer disease pathologic changes on cognitive function in advanced age. Arch Gen Psychiatry. 2012;69(5):499-506.
- 紺野敏昭, 高橋邦尚:認知症の人にまだ残っている能力を奪わないために〜買い物支援「スローショッピング」の試みと地域社会づくり〜. 第6回日本脳神経外科認知症学会総会2022:78
-
紺野敏昭, 高橋邦尚:医師会主導で始めた 5 つの自治体にまたがる多職種連携認知症支援地域ネットワーク作り. 第36回日本認知症学会総会2017. ポスター N0.350.
- 医師会主導で自治体を超えた認知症支援ネットワークを構築 紺野敏昭 こんの神経内科・脳神経外科クリニック院長に聞く vol.1〜vol.3. m3.com地域版, 2021年8月27日, 9月3日, 9月10日.
- 認知症も買い物安心 医師会や市など連携 住民らをサポーターに. 岩手日報, 2019年7月13日.
- :動画「スローショッピングはじめました」〜認知症になってもやさしいまちは誰にとってもやさしい〜岩手県滝沢市. 2019(2026年6月23日閲覧)
- (2026年6月23日閲覧)
- :令和4年度経済産業省「サービス産業強化事業費補助金 認知症共生社会に向けた製品・サービスの効果検証事業(令和4年度実施分)(2026年6月23日閲覧)
- NCGG-UniCo(ユニコ)プロジェクト成果・進捗報告会. 公益財団法人長寿科学振興財団 Aging & Health 2025;34(1):42(2026年6月23日閲覧)
筆者

- 紺野 敏昭(こんの としあき)
- 医療法人館こんの神経内科・脳神経外科クリニック理事長
NPO法人やまぼうしネットワーク理事長 - 略歴
- 【略歴】1974年:岩手医科大学医学部卒業、脳神経外科学講座入局、1978年:岩手医科大学大学院神経解剖学講座修了、1985年:岩手医科大学神経内科学講座に移籍、1998年よりこんの神経内科・脳神経外科クリニック理事長、2023年よりNPO法人やまぼうしネットワーク理事長。脳神経外科専門医、脳神経内科専門医、認知症専門医、脳卒中専門医、頭痛専門医など
- 専門分野
- 脳神経内科、脳神経外科、認知症、脳卒中
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