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Productive agingとは何か

公開日:2019年10月25日 09時00分
更新日:2019年10月18日 14時22分

柴田 博(しばた ひろし)

桜美林大学名誉教授


高齢者の社会的役割に関するパラダイムシフト

 実態はともかく、高齢者が社会に貢献するという概念は、1970年代までは存在しなかった。生涯現役を是とする活動理論も、もっぱら高齢者の幸せの観点から論じられていたのである。社会的な存在としての高齢者は一方的に、若い年代に支えられるべき存在とされていた1)

 しかし、1980年代に入り、様相が変わってきた。老年学のパイオニアButlerは、ウィーンのザルツブルグで長年行われてきたセミナーの1983年のテーマをProductive agingとすることを強く主張し、それが実現した。ザルツブルグセミナーは、アメリカの学徒がヨーロッパの老年学の学者から学ぶことを目的として毎年行われていた2)

 このProductive agingの正式な日本語訳はまだ定まっていない。筆者は「社会貢献」という訳語を当てている。それは、この頃書かれたKahnのProductive behaviorsの内容3)に照して、この訳語がもっともふさわしいと考えたからである(表1)。

表1:社会貢献活動(Productive behaviors

  1. 有償労働(自営、起業も被雇用も含む)
  2. 無償労働(家内工業や農業への従事の他、家事労働や育児、家庭内介護も含む)
  3. 組織的なボランティア活動(教育、労働組合、地域組織の一員としての無償労働)
  4. 互助(組織、グループ、個人レベルでの無償労働)
  5. 保健行動(self-care

文献3の概念に基づき、日本の現状を踏まえて筆者作成

 KahnProductive behaviorsは包括的である。有償労働も、すぐ収入にならないが同じような能力と意欲の必要な無償労働も含まれている。ボランティア活動も組織的なものも、最近日本で強調されている互助も入っている。保健行動も社会貢献としているところがアメリカ的である。各々の行為に対する能力や意欲に優劣差はないとしている。

Productive aging概念の与えたインパクト

 高齢者の社会貢献が可能であるという考えは、高齢者に対するサポートのあり方を見直すきっかけともなった。高齢者の残存能力を損なうような、また、自尊感情を損なうようなサポートは有害であると考えられるようになってきた。「自立支援」という用語は、このことを意味する。

 たとえば、妻に先立たれたために、食事に不自由している高齢者に毎日型の配食サービスが有効とは限らない。本人の生活機能に障害がなければ、"男性料理教室"で調理のスキルを与えるサポートがベストである。配食のみでは、残存能力や適応力(Resilience)を疎外してしまうのである。

 高齢者に関する研究テーマも、QOL(生活の質)やSuccessful aging(成功した人生)の中に社会貢献の要素を入れることが試みられるようになってきた。

 RoweKahn4)は1997年、Successful agingの構成要素に人生に対する積極的な関与を包摂した。これは、有償無償を問わず"Productive behaviors"を含意している。この10年前の2人のSuccessful agingの概念には、病気にならないことや高い認知能力や身体機能は入っていたが、Productive behaviorsは含まれていなかった。

 筆者たちの学際的縦断研究の主要なテーマとして、QOLのみでなくProductivityを加えることに舵を切った5)。その結果、Productivityが自他にどのような影響を与えるかの研究結果が生産されることになった6)

 2002年、国連の第2回高齢化会議が160か国4,000名の代表によりスペインのマドリードで開催された。この会議は「高齢者は社会の荷物ではない。社会資源として活用されなければならない」という宣言を採択した7)

 Productive agingという概念が生まれて20年で世界の意識はこのように変化したのである。高齢人口が増加し、高齢者の力なくして社会は立ちいかなくなったという認識が広がってきたのである。それは、高齢者の心身の能力が、社会貢献に足るものであることがわかってきたことにもよる。

 1972年東京都老人総合研究所、1974年アメリカ国立老化研究所が設立され、病気や障害を持った高齢者は一部のみで、大多数の高齢者は自立し、社会貢献能力があることが実証されてきた。高齢者と高齢社会に対する観念は大きく変化してきたのである。

有償労働をめぐる比較文化的考察

 筆者は、欧米の生活の質(QOL)を評価する尺度の中に社会貢献(Productivity)が入っていないことに疑問を抱き続けてきた8)。生活機能が自立していて、環境(物的および社会的)が整っていて、精神的な満足を感じていれば、生活の質が高いとされるのが一般的であった。生活の質を測定する尺度はさまざまあるが、内的な構造はほぼ共通している。

 長い間、老年学に従事しているうちに、社会貢献(Productivity)の中に有償労働が含まれていることが、生活の質を測定する構成尺度に取り込まれることへの妨げになっているのではないかと考えるようになった8)。やがて、「日本人が働くことが生きがいである」というメンタリティに対し、スペイン、イタリア、フランスなどカソリック系の研究者がきわめて批判的であることを感ずるようになってきた。

 旧約聖書を読み返してみた。創世記の第3章には、禁断の木の実を食べたアダムとエバに神は罰を与えた。それは、エバには「苦しんで子供を生むこと」、アダムには「一生、苦しんで地から食物を摂ること」である。英語のlaborには苦役と陣痛の両方の意味がある。

 このように、旧約聖書を尊重しているユダヤ人、カソリック系の人々にとっては、糧を得るための仕事はスティグマ(恥辱)か必要悪なのである。イスラム教もユダヤ教、キリスト教と同じくエホバの神への一神教であることに変わりはない。祈りは人間の営みの本質であり、労働は必要悪なのである。

 キリスト教の中のプロテスタンティズムは労働に対する意識がカソリックと異なるとマックス・ヴェーバーは述べている9)。プロテスタンティズムの倫理である倹約が資本を育て、資本主義の精神である勤勉が生産力を向上させるとしている。ただし、羽入10)は、プロテスタンティズムの教義に関するマックス・ヴェーバー言説はすべて捏造(ねつぞう)であるとしている。この羽入の著書は、社会学の分野における画期的業績であるが、紙幅の都合上、これ以上の言及はしない。

 ともあれ、経験的には、ドイツ、スウェーデン、イングランドなどのプロテスタンティズムの国々の研究者には有償労働に対するスティグマは少なく、国の政策にもそれが表われている。

 興味深いのは、アメリカである。プロテスタントの最左翼であるピューリタンがメイフラワー号で乗り込んでつくりあげてきた国アメリカには、Productivityの精神があふれている。1967年、連邦法として「雇用における年齢差別禁止法」が制定された。1986年、70歳という年齢の上限も取り払われた。現在、①上級管理職など(44,000ドル以上の退職給付の受給資格を有することを条件に65歳以上の定年が認められる)、②州の警察官、消防士(定年年齢は55歳以上で州法または地域法で規定)を例外として一切の定年が廃止されている。

 ユダヤ教、カソリック、イスラム教の人々以外には有償労働に対するスティグマは存在しない。一信教の影響がきわめて小さい日本も然りである。日本人の「生きがい」は生活の質(QOL)に似ているようで、大きく違っている。神谷11)は、「やりたいこととやるべきことが一致したときが最高の生きがい」と述べている。概念図にすると図1のようになる。QOLに役割意識とその達成感が加わって「生きがい」となるのである8)

図1:欧米のQOLと日本型生きがいの関係を示す図。QOLに役割意識とその達成感が加わって生きがいとなる。
図1:欧米のQOLと日本型生きがいの関係

 日本の高齢者の仕事を続ける理由として、最近では経済的理由が増えてきたが、かつては、生きがいや健康のためが多かった。これは、日本人の文化であり価値観である。有償労働をスティグマとしている一神教の人々が文句をいうのは筋違いなのである。

高齢者の社会貢献(Productivity)の意義

 高齢者の社会貢献(Productivity)の意義は2つの側面から検討されなければならない。1つは、高齢者の社会貢献活動がどのように社会に役立っているか、また役立つことが期待されているかを検討することである。2つ目は、高齢者の社会貢献活動が、高齢者自身にとってどのような有用性をもたらすかである。

 1つ目の問題は、なかなか実証がむずかしい。高齢者の社会貢献活動に関わった多くの人々の意識を調査する必要があるためである。さらに、評価の基準も一定しているわけではない。

 たとえば、子育て支援が高齢者の社会貢献活動として行われているケースがある。この場合、支援を受ける側が経験豊かな高齢者の支援を肯定的に評価する場合もある。一方、同じ支援であっても、古い育児法を押しつけられたと受け止められる場合もあるのだ。

 有償労働に関しても、その評価はむずかしい。政府も筆者たちも、これまで企業経営者が高齢者を雇用することにどのような意識を持っているかを調査してきた。しかし、必ずしも肯定的な結果は得られていない。これは、高齢労働者の実質がよく知られていないことによる。また、高齢者差別(Agism)の偏見に起因する可能性もある。

 2つ目の高齢者の社会貢献活動が、自身にどのような影響を与えるかの問題は実査が容易なので、かなりデータが蓄積してきている。筆者たちも、日本を代表する55~64歳の4,000名と70歳以上の2,000名の2つの集団の追跡調査を行った6)

 55~64歳の集団4年間の追跡では、男性では有償労働に従事しているほど、うつの傾向は小さかった。一方、女性では家庭内の無償労働に従事しているほど、うつの傾向が小さかった。うつの傾向が小さいことは、生活満足度が高いことを意味し、社会貢献活動がポジティブに作用していることが実証されたことになる。

 70歳以上の集団の3年間の社会貢献活動の変化を表2に示した。有償労働の時間は、80%以上は変化なしであった。当然のことながら、増加よりも減少が多かった。家庭内の無償労働の時間は、男性ではあまり変化せず、女性では増加より減少が多かった。奉仕・ボランティア活動は、女性ではあまり変化しなかったが、男性では減少の倍近くの増加がみられた。有償労働の減った時間が奉仕・ボランティア活動に回されたと解釈できる。

表2:70歳以上高齢者の3年間の活動時間の変化
減少変化なし(±1SD)増加
男性女性男性女性男性女性
有償労働 12.2 9.6 84.9 87.6 2.9 2.8
家庭内の無償労働 10.0 14.1 81.0 77.4 9.0 8.5
奉仕・ボランティア 4.9 2.8 86.3 95.7 8.8 1.5

注)初回調査時の活動の1SD(標準偏差)以内の変動は「変化なし」とみなした

出典:柴田博,杉原陽子,杉澤秀博.応用老年学 2012;6:216)

 ともあれ、各々の活動の時間は短いので、すべての活動の合計時間も計算し、活動している高齢者自身への影響をみることにした。その結果が図2である。下向きの矢印は、予防的に働くこと、矢印の数が多いほどその作用が強いこと示している。

図2:有償労働、家庭内無償労働、奉仕・ボランティアの3年間の社会貢献時間によるADL障害レベル、認知障害レベル、死亡に与える結果を示した図。
図2:1999年の総社会貢献時間の2002年のアウトカムに与えた影響

 有償労働時間も奉仕・ボランティア活動も、単独では、ADL障害レベル、認知障害レベル、死亡率に予防的に働かなかった。家庭内無償労働時間が多いほどADL障害、認知障害が予防された。3つの活動の合計時間は多いほど、ADL障害、認知障害が予防されるのみでなく、死亡率も低下(つまり余命が長くなる)することが示された。

 このように、高齢者の社会貢献活動は、自身の身体的障害と認知障害を予防し、余命も延伸させることが明らかとなった。社会貢献活動は、無理のない程度におおいに進められるべきである。

 最近、認知症予防のために趣味的な社会参加を進める向きもある。趣味的活動も高齢者の心身の障害の予防に有用であることが示されている。しかし、社会貢献活動に比べ、その作用は弱い1),8)

 おそらく、趣味的活動や自己発見的社会参加は、いやになれば撤退できるので、社会貢献活動と比較し、自己変革の必要性が小さいため、このような違いがもたらされるのかもしれない。

高齢者の社会貢献の今後

 少子高齢化による生産年齢人口の減少が喧伝されている。図3は、これからの15~64歳の年齢層の全人口に占める割合の推計を示している。政府の統計でも、このような計算があまり行われない。この図で明らかなように、将来、この年齢層の割合は今より10%くらい減少するが恐れるほどではない。1人あたり生産能力が年々向上していくことを考えると、十分コーピング(対処)できると考えられる。

図3:2010年から2060年までの15から64歳人口割合の推計を示した図。
図3:15~64歳人口割合の推計

 当然のことながら、65歳以上に十分生産能力を持つ人材が存在しているので、生産年齢人口の減少をおおげさに考える必要はない。

 大切なことは、65歳以上の労働力を15~64歳の労働力の単なる補完と考えないことである。高齢者は長年の人生経験の上に英知を身につけた存在である。若年層では成し得ない社会貢献活動を成しうる存在として尊重されなければならないのである8)

文献

  1. 柴田博:日本型プロダクティブ・エイジングのための概念整理.応用老年学 2013;7:4-14.
  2. Butler RN, Gleason HP eds. Productive Aging : Enhancing Vitality in Late Life. Springer, New York, 1985.
  3. Kahn RL : Productive behavior : Assessment determinants and effect. J Am Geriat Soc 1983 ; 31 : 750-757.
  4. Rowe JW, Kahn RL :Successful aging. The Gerontologist 1997 ; 37 : 433-440.
  5. Shibata H, Suzuki T, Shimonaka Y eds. Longitudinal Interdisciplinary Study on Aging. Serdi Publisher, Paris, 1997.
  6. 柴田博,杉原陽子,杉澤秀博:中高年日本人における社会貢献活動の規定要因と心身のウェルビーイングに与える影響:2つの代表性のあるパネルの縦断的分析.応用老年学 2012;6:21-38.
  7. United Nations Report of the Second World Assembly on Aging. United Nations, New York, 2002.
  8. 柴田博:長寿の嘘.ブックマン社,2018.
  9. 牧野雅彦:プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神.光文社,2011.
  10. 羽入辰郎:マックス・ヴェーバーの犯罪:「倫理」論文における資料操作の詐術と「知的誠実性」の崩壊.ミネルヴァ書房,2002.
  11. 神谷美恵子:生きがいについて.みすず書房,1983.

筆者

筆者_柴田博先生
柴田 博(しばた ひろし)
桜美林大学名誉教授
略歴:
1965年:北海道大学医学部卒業、1966年:東京大学医学部第四内科医員、1972年:東京都養育院付属病院医員、1993年:東京都老人総合研究所副所長(現・東京都健康長寿医療センター研究所名誉所員)、2002年:桜美林大学大学院老年学教授(現・名誉教授)、2011年:人間総合科学大学保健医療学部長、2016年:社会福祉法人三光会最高顧問。医学博士
専門分野:
老年学、老年医学、予防栄養学

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団 機関誌Aging&HealthNo.91 2019年10月発行

Aging&Health(エイジングアンドヘルス)No.91(新しいウィンドウが開きます)

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