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生活支援における高齢者の互助──その可能性と問題点

公開日:2019年10月25日 09時00分
更新日:2022年11月30日 12時57分

杉澤 秀博(すぎさわ ひでひろ)

桜美林大学大学院老年学研究科教授


本稿で考えてみたいこと

 地域における包括的な支援・サービスを整備・拡充する目標は、高齢者が可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることを支援することにある。

 「高齢者の社会参加の推進」は、この施策の1つとして位置づけられており、高齢者が社会参加を通じて生活支援の担い手としての役割を持つことで、生活支援を必要とする高齢者への支援の充実を図るとともに、参加する高齢者も生きがいの獲得や介護予防を実現できるという一石二鳥をめざしたものである。これはまさに、元気高齢者が虚弱高齢者を支える、すなわち高齢者の互助活動を推進することで、他の世代への負担を軽減していこうという画期的な施策のように思われる。

 なお、「生活支援」という言葉になじみがない方もいるかもしれない。生活支援は、掃除、洗濯、調理、買い物など、日常生活を営むうえで不可欠な家事が困難な場合、それを支援したり、代わって行うことである。孤立している高齢者の場合には、話し相手や見守りの活動なども含まれる。この生活支援は、専門家でない高齢者でも行うことができ、介護保険で提供される専門的な介護・看護サービスではカバーされない部分を担う支援として位置づけられている。

 本稿では、生活支援における高齢者の互助について、①その担い手としての高齢者の希望と虚弱高齢者の利用状況から、利用可能性を探るとともに、②担い手と受け手の関係の面からその問題点について考えてみたい。最後に、簡単には解答を見出すことがむずかしいが、②の問題点を踏まえて、③高齢者の互助をいかに推進していくか、私案を示してみたい。

生活支援ニーズの割合とそれへの対応

1.生活支援ニーズの割合

 筆者が東京都下の自治体で行った65歳以上の住民に対する調査1)(2013年実施)では、生活支援ニーズの充足度を調べている。取り上げた家事は、「日常品の買い物をする」「食事の用意をする」「掃除をする」の3項目で、回答の選択肢は「十分に援助を得ている」「もっと援助が必要」「自分でできるので援助は不要」であった。

 図1に、いずれかの家事で「もっと援助が必要」と回答した高齢者の割合を示している。この割合は全体で6.9%であり、年齢階級が高くなるほど増加し、85歳以上では13.7%と8人に1人が生活支援ニーズに十分に対応できていないとしている。

図1:日常品の買物、食事の用意、掃除のいずれかの家事に対する生活支援が必要である高齢者の割合を表す図。
図1:生活支援ニーズの出現割合

 以上は高齢者全体の中での割合であったが、生活支援ニーズがある人に限定した場合、「もっと援助が必要」と回答し、対応が十分でないという人の割合は26.8%であった。

2.担い手の希望と活用状況

 上記の調査と同じ自治体で行った65歳以上の住民を対象とした調査2)(2016年実施)では、生活支援の担い手の希望に関する質問をしている。具体的には、「高齢者のお宅を訪問し、買い物、調理、清掃などを手伝う活動」をしてみたいか否かを質問したところ、「すでに活動している」が2.5%と少ないものの、「すぐにでも活動してみたい」(0.5%)、「今後活動してみたい」(12.9%)を合計すると、高齢者のうち15.9%が生活支援を実際に行ったり、活動への希望を持っていた。

 上述した高齢者における生活支援ニーズに関する調査では、ニーズへの対応を誰が行っているかが調べられていない。同じ自治体で2013年に実施した要支援高齢者に対する調査1)では、「部屋の掃除」「洗濯」「食事」「買い物」という家事を取り上げ、それぞれについて「一部手助けが必要」「全面的に手助けが必要」と回答した人が誰から手助けを受けているかを質問している。

 図2には、「部屋の掃除」について、誰から支援を受けているかの回答分布を示している。「家族や親族」が47.0%、「サービス利用」が52.3%、「ボランティア、近隣、友人」が3.4%であった。

図2:部屋の掃除に手伝いが必要な高齢者の支援を行う者として、家族・親族、介護サービス、ボランティア・近隣の人・友人、いないの4項目で全体と単独世帯に分類した割合を表す図。
図2:部屋の掃除に手伝いが必要な高齢者の援助者

 「洗濯」「食事」「買い物」については、それぞれ「家族や親族」が70~80%、「サービスの利用」が20%程度と、「部屋の掃除」とは割合が異なるものの、「ボランティア、近隣、友人」は3%未満であり、「部屋の掃除」と大差なかった。同居家族がいない独居高齢者に限定してみても、「サービス利用」が増加するものの、「ボランティア、近隣、友人」は5%未満に留まっていた。

 以上の結果から、生活支援ニーズを持つ高齢者が一定程度存在しており、他方では担い手希望を持つ高齢者もかなりいることから、生活支援における高齢者の互助を実現させる条件は、高齢者の間に存在しているとみることは可能であろう。

 しかし、現実には、生活支援ニーズへの対応の手段として、担い手希望を持つ高齢者が有効に活用されているとはいえない。なぜ、担い手希望を持つ高齢者の活用が進まないのであろうか。以下ではその理由について考えてみたい。

担い手の希望がなぜ生かされないのか?

1.支援は受け手に役立っているか?

 担い手の希望が生かされない理由を、生活支援の担い手と受け手それぞれの側から検討してみたい。

 まずは、支援することが支援の担い手に役立つか否かをみてみよう。担い手の健康維持・増進に役立つか否かを調べた多くの研究では、ボランティアへの参加に関して、死亡率の低下、身体機能、健康度自己評価、精神健康、さらには生活満足度の向上に役立つことが明らかにされている3)。家事などの生活支援を行った高齢者については、それが健康の維持や増進に役立つか否かを評価した研究は、筆者が調べた限り見出すことができなかったが、ボランティア活動に関する知見からすれば、同じように健康の維持・増進に役立つという結果が得られる可能性が高い。

 つまり、生活支援などのボランティアの担い手はこれらの活動から得るものが多いと考えられることから、担い手にあまり役に立っていないことが生活支援における互助の支障になっているとはいえないであろう。

 では、支援の受け手の役に立っているのであろうか。実は、この課題に取り組んだ研究は少ない。筆者が調べた限り見つけることができたのは、Knight4)と中西ら5)による研究であった。

 Knightらはボランティア活動に対する評価ではないが、日常生活に支援を必要とする高齢者が居住する施設のケアスタッフと入居者を対象に、それぞれが社会参加のための活動に対してどのような評価をしているのかを質的に分析した結果をまとめている。ケアスタッフは活動への参加は価値があり、勇気づけられるものとみなしていたが、入居者は孤立し、傷つけられているように感じるなど、立場の違いによって評価が大きく異なることが明らかにされている。

 中西らは、傾聴ボランティアを受け入れた高齢者を対象に、傾聴ボランティアに対する評価を質的に研究している。分析の結果、傾聴ボランティアに対しては正反対の2つの評価がみられている。1つは「話をするという欠かせないことを支えてくれる」「動けないから来てくれることが楽しみ」など、個人的意義を認めているという評価であった。この背景には、誰かに話や悩みを聞いてもらいたい、誰かと交流したいという意欲がありながらも、身体上の障害のために外出がむずかしいという制約から、人との交流が十分できていないことがあったと指摘している。他の1つは「本音は話せない」「1人でいるのに慣れるとさみしくなくなる」というように、個人的な意義を認めないものであった。この背景には、話すことをあまり重視しておらず、孤立的な状況を改善する意欲が低いことがあると指摘している。

 数少ない研究からではあるが、受け手が希望する支援と担い手がよかれと思って提供する支援の間のミスマッチがあった場合、その受け入れが進まない可能性がある。

2.受け手の心理的負担

 それに加えて、支援を受けることの心理的な負担にも着目する必要がある。その1つが他者への依存が自尊心の低下につながるというものである6)

 一般的には人々は自立に価値を置いており、人に助けを求めるよりも問題に直面した場合には、自分で対処することを選択しようとする。そのため、他者から支援を受けることは、自尊心が傷つけられ、自分が弱い人間であるとの意識が強められることになりかねない。このような意識が支援の受け入れを拒んでいる理由かもしれない。他の1つが相手に迷惑をかけるという罪悪感である7)

 以上の2つの負担感について、山根は要支援の1人暮らしの男性の支援を受けるプロセスを研究する中で、次のような知見を提供している8)。周囲の人からの援助を受けるとき、相手に迷惑をかけるという意識から少なからず引け目を感じていること、援助を受けなければ日常生活の維持が困難となるため援助を受け入れざるを得なくなった場合、援助を受けることを自分の中で正当化し、自尊心を保つための対処を行っていることを明らかにしている。

3.受け手と担い手の異質性

 受け手の心理的な負担とともに、もう1つ考える必要があるのが担い手と受け手の異質性の問題である。自然や環境を守る活動、安全な生活のための活動、まちづくりのための活動などのボランティア活動は、直接の対象が人でないことから、受け手との関係は問題にならない。生活支援については支援の受け手が高齢者であることから、受け手と担い手の関係性が重要となる。

 Lesterらは、英国における高齢者の訪問ボランティアを受け入れた高齢者を対象とした研究において、受け入れには、訪問ボランティアと「友達になる」こと、さらにそのためには、「互酬的な関係」(お互いに見返りを期待せずに与え合う関係)の構築が重要であると指摘している9)。生活支援においては、受け手の自宅での作業となり、家庭内の個人的な事情を担い手に知られることになることから、担い手は受け手との間に信頼関係を築くことが求められる。

 一般的には、性や年齢、社会階層が共通する、関心や趣味が共通するなど、共通の属性や社会的背景、文化的な背景を持つなど同質性が高い人の間で親密な関係ができやすい10)。アルコール依存症、精神科疾患、認知症患者、がん患者など疾患を持つ患者の間で多く組織されているピアサポートグループは、共通する症状や悩みの体験を持つという同質性を生かし、共感的な相互理解と信頼をベースに相互支援の機能を果たしている。

 では、高齢者という年齢で共通点があることから、高齢者の間での担い手と受け手は同質性が高く、相互理解と信頼関係を築きやすいとみなせるのであろうか。

 受け手である虚弱高齢者は、収入や教育年数が低いなど低い社会階層出身者、社会関係なども狭い人が多い11),12)。他方、ボランティアに取り組む人は社会階層が高く、社会関係も豊富な人が多い13),14)。このような異質な特性を持つ両者の間では、相互に理解し合い、信頼関係を築いていくのは容易なことではないであろう。加えて、Carstensenの社会情動的選択理論によるならば、高齢者の場合、中でも健康状態がよくない虚弱高齢者は人生の残りの時間が短いという意識を持つことから、社会関係に対しては情緒的で親密な関係性を求めようとする動機が強くなる15)

 したがって、受け手と担い手とは年齢以外では異質性が高いこと、さらに虚弱高齢者が社会関係に特に親密さを求めるという動機も加わり、生活支援ニーズがあっても、受け手の高齢者が担い手の高齢者を迎え入れることを躊躇(ためら)う可能性が高い。

まとめにかえて

 受け手と担い手の間で相互の信頼関係を築く方法の1つとして、適切なマッチングが重要であるとの指摘がある16)。そのためには、多くの共通する特性を持つ人同士でマッチングさせる工夫が必要である。

 本稿で論じてきた受け手と担い手の関係性を考慮した、その他の取り組みも新たに提案したい。その取り組みの重要な点は、英国における訪問ボランティアの活動の成功要因として指摘されていることと共通して9)、受け手と担い手の「互酬的な関係」を築き、それによって受け手の心理的な負担を軽減していくというものである。

 そのためには、担い手の支援に対する理解が重要となる。すなわち、一方的に支援を提供しているのではなく、自分の老後のことを考えたり、自分のスキルを役立たせたり、あるいは生きがい獲得の機会を提供してもらっているなど、支援活動を通じて多くのものを獲得していることを理解する必要がある。さらに、楽しい、有意義な経験をさせてもらっていることを受け手に率直に伝えることも忘れてはならない。

 このような取り組みを行うことが、虚弱高齢者が高齢者の担い手を積極的に受け入れる土壌をつくることにつながるのではないかと思われる。

 以上、読者の方々の日頃の活動の振り返りに役立つならば幸甚である。

文献

  1. 三鷹市.平成25年度高齢者・障がい者等の生活と福祉実態調査報告,2014.
  2. 三鷹市.平成28年度高齢者・障がい者等の生活と福祉実態調査報告書,2017.
  3. Morrow-Howell N: Volunteering in later life: Research frontiers. J Gerontol Soc Sci 2010; 65B:461-469.
  4. Knight T, Mellor D: Social inclusion of older adults in care: Is it a just a question of providing activities?.Int J Qual Stud Health Well-being 2007; 2:76-85.
  5. 中西泰子,杉澤秀博,石川久展 他:閉じこもり高齢者への傾聴ボランティア活動に対する利用者評価:聞き取り調査に基づいた検討.研究所年報(明治学院大学社会学部付属研究所発行)2009; 39:85-96.
  6. Krause N: Received support, anticipated support and mortality. Res Aging 1997;19:387-422.
  7. Cousineau N, MacDowell I, Hotz S, et al:Measuring Chronic Patients' Feelings of Being a Burden to their Caregivers. Med Care 2003;41:110-118.
  8. 山根友絵,百瀬由美子,松岡広子:要支援一人暮らし男性高齢者のサポート獲得プロセス. 日看研会誌 2012;35:1-11.
  9. Lester H, Mead N, Graham CC, et al: An exploration of value and mechanisms of befriending for older adults in England. Ageing & Soc 2012; 32: 307-328.
  10. Cattan M, Newell C, Bond J, et al: Alleviating social isolation and loneliness among older people. Int J Ment Health Promot 2003; 5: 20-30.
  11. Sugisawa H, Harada K, Sugihara Y, et al: Socioeconomic status disparities in late-life disability based on age, period, and cohort in Japan. Arch Gerontol Geriatr 2018; 75: 6-15.
  12. Liu X, Liang J, Muramatsu N, et al: Transitions in finctinal status and active life expectancy among older people in Japan. J Gerontol Soc sci 1995; 50: S383-S394.
  13. Tang F: What resources are needed for volunteerism: A life course perspective. J Appl Gerontol 2006; 25: 375-390.
  14. Wilson J, Musick M: Who cares? toward an integrated theory of volunteer work. Am Soc Rev 1997; 62: 694-713.
  15. Carstensen L: Evidence fore a life-span of socio-emotional selectivity. Curr Dir Psychol Sci 1995; 4: 51-56.
  16. Andrews GJ, Gavin N, Begley S, et al: Assisting friendships, combating loneliness: users' view on a 'befriending' scheme. Ageing & Soc 2003; 23: 349-362.

筆者

写真:筆者_杉澤秀博先生
杉澤 秀博(すぎさわ ひでひろ)
桜美林大学大学院老年学研究科教授
略歴:
1987年:東京大学大学院医学系研究科保健学博士課程修了、保健学博士、東京都老人総合研究所研究員、2002年より現職
専門分野:
老年社会学

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.91(PDF:4.8MB)(新しいウィンドウが開きます)

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