健康長寿ネット

健康長寿ネットは高齢期を前向きに生活するための情報を提供し、健康長寿社会の発展を目的に作られた公益財団法人長寿科学振興財団が運営しているウェブサイトです。

笑いの免疫機能・ストレスへの作用について

昇 幹夫(のぼり みきお)

日本笑い学会副会長(医師)

はじめに

 生体の恒常性を一定に保っているのは自律神経と内分泌系である。ガンをはじめ、大半の生活習慣病は持続性の交感神経過剰緊張(わかりやすく言えば、高速道路をブレーキのきかない車が猛スピードで走り続けている状態)が原因と考えると、治療は過剰緊張を解き副交感神経優位、つまり心と身体と緩めたリラックスした状態にすることがポイントである。締まりすぎたネジをねじ切るのが「イヤミ」、緩めるのが「ユーモア」である。

 表1は、ある保険会社が調べた、ガンになりやすい職業別ランキングのデータである。故・逸見政孝アナウンサーに代表されるように、絶えず時間に追われるマスコミ関係の仕事は通常の2.63倍で、2番目は看護師やタクシー運転手に代表される不規則生活者、次が銀行、証券など他人のお金のために神経をすり減らす仕事と続く。「笑う門には福きたる」という言葉のとおり、笑いはリラックス法として非常に有効であることが科学的に証明され、数多くの医学論文が出ている。

表1:がんになりやすい仕事
仕事割合
1.マスコミ関係(放送・新聞・出版など) 2.63
2.交通機関乗務員(タクシー運転手など) 2.47
3.金融機関の職員(銀行・信金・証券の管理職) 2.34
4.商社マン・外務営業職 2.15
5.生産工場の管理職 2.03
6.建設会社の現場管理職 1.98
7.研究開発部門の技術職 1.67
8.中小企業の経営者 1.59
9.小・中学校教師 1.53
10.コンピュータ、OA機器業界の管理職 1.48
11.電力・ガス・通信会社管理職 1.46
12.百貨店・スーパーの管理職 1.44
13.個人商店主 1.44
14.地方公務員(教職員を除く自治体職員) 1.38
15.国家試験資格取得者の自由業(弁護士・公認会計士・税理士) 1.35

※一般のがん死亡者発生率を1とした時、どれだけ高いかを倍数で比較

 リウマチ患者に落語を聞かせた実験や、ガン患者らに吉本新喜劇を見せ、その前後でガン細胞を直接攻撃するナチュラル・キラー細胞(以下、NK細胞)の活性化を調べるというという実験、また最近では糖尿病患者に漫才を聞かせて血糖値の改善を認めたという報告まである。それらはマスコミでも面白い話題として、しばしば取り上げられ、お笑い産業は健康産業と豪語する状況になっている。笑いは学問だというコンセプトで研究しているのが、日本笑い学会で2013年には設立20年を迎え、全国で列島縦断講演会をこの1年で実施中である。その一部を紹介する。

落語を聞かせてリウマチの症状が改善1)

 1995年3月、30年以上のリウマチ治療のキャリアを持つ、日本医科大学リウマチ科の吉野槙一教授は病院の一室に寄席の舞台をつくり、落語家の林家木久蔵(現・林家木久扇)さんを招き、慢性関節リウマチ患者を対象にある実験を行った。慢性関節リウマチは気分のよいときは痛みが軽く、気分の悪いときには痛みが強く出るという特徴がある。そして、リウマチ患者は「病人の中で一番マジメ」「最も笑わないのがリウマチ」ともいわれている。

 吉野教授は、患者らに落語を聞いてもらい、笑った後に痛みがどうなるか、血液データがどうなるか調べる実験を計画した。介入群には女性患者26人を選出。平均年齢は57.7歳、病歴は6~36年にわたる。そして、全員が手足の関節が変形して重症度は中ないし高度と認定される症例で、鎮痛薬やステロイド剤などを常用していた。効果を比較するためコントロール(統制)群も設けた。平均年齢51.1歳の健康な女性31人を選出。両群ともに、1時間寄席で落語を聞いてもらった。落語を聞く前後に血液を採取し、炎症の程度を示す物質で免疫にも関係する生理活性物質「インターロイキン6」(以下、IL-6)やストレスホルモンのコルチゾールの変化を調べた。

 その結果、落語を聞いた後では介入群の26人中22人にIL-6の顕著な減少が認められた。中には、正常の10倍もあった値が正常値にまで改善した例も確認された。また、リウマチが悪化すると上昇するガンマ・インターフェロンが両群で減少した。通常、大量のステロイドを使わない限りこのような結果は生じないのに、落語を1時間聞いて大笑いしただけで全員の痛みが軽くなり、ある人はそれから3週間も鎮痛剤がいらなかったという例もあった。

 吉野教授は、「1時間でこれほど効果があって副作用のない薬はない。医師は薬だけでなく精神面でのサポートも必要であることを痛感した」と予想を上まわる効果に驚きを禁じ得なかった。「病やまいは気から」を裏付け、「精神神経免疫学」にあるとおり、まさに心と免疫系が体内では密接につながっていることが判明した。患者自身の声にも「こんなに声を出して笑ったのは久しぶり。毎日笑えたらどんなにいいか。今日はほんとにありがたかった」という意見があった。実験に協力した木久蔵さんになぜ効果が出たかと聞くと、「やはり名前がよかったのでしょうね。『林家木久蔵』という名前ですから」と見事にオチをつけてくれ、さすがプロの落語家と再認識した。この実験は米国のリウマチ専門雑誌「Journal of Rheumatology」23巻4号(1996年)に木久蔵さんの写真入りで掲載されている(図1)。

写真1:落語を聞くリウマチ患者が笑うことで症状が軽くなった様子が掲載された写真。
図1:アメリカの「リウマチ学会雑誌」(1996年)に掲載され、ほんまもんのお墨付き!

吉本新喜劇の鑑賞でがん患者の免疫力が向上2)

 1991年、吉本興業の「なんばグランド花月」で、がん患者を含む19人(20~62歳)に漫才、漫談、吉本新喜劇(計3時間)を鑑賞してもらい、その前後で血液採取を行い、血中のNK細胞の活性度や免疫システムのバランス力(CD4/8比)の変化を調べた。リンパ球にはCDというナンバーで働きによって番号が決まっている。CD4は車のアクセル、CD8は車のブレーキの役目。免疫システムのバランス力というのはCD4とCD8の比で、これが低すぎるとがんに対抗する抵抗力が弱く、高すぎると自分自身の身体を破壊する病気(リウマチ、膠原病など)になりやすいということである。調査の結果、NK細胞の活性度は参加者の7割以上で上昇が認められ、バランス力は基準値よりも低すぎる人は高く、高すぎる人は基準値の方向へ低くなるという傾向が示された(図2)。

図2:NK細胞の活性度と免疫システムのバランス力の笑いによる変化を示す図図2:NK細胞の活性度は直前値が基準値内の人と基準値以下の人がそれぞれ5人、最初から高かった方が8人いた(図2)。測定できなかった方が1人いたためデータ総数は18人である。最初から低い人、基準値内の人いずれも上昇した。最初から高い8人のうち大笑いをした後、さらに上昇したのが4人、下降した人が4人という結果であった。

 人の体内では毎日、約5,000個のがん細胞が発生するといわれている。喩(たと)えるなら、工場でつくられた製品の不合格品、それががん細胞と考えてよい。その不良品を日々処分しているのが50億個あるといわれるNK細胞である。わずか5分間笑うことでNK細胞は活性化するが、注射による活性化には3日も要するそうである。しかし、免疫の働きは年齢とともに低下する。20歳でその働きを100とすると、40歳ではその半分、60歳では1/4に低下する。老化とがん化は同じ道筋とも言える。それ故、NK細胞を活性化すれば元気で長生きし、がんにもなりにくくなる。笑う以外にもNK細胞を活性化する方法を表2にまとめた。「破顔一笑」は「破がん一笑」でもある。反対に、うつ状態になるとNK細胞の活性は低下する。阪神・淡路大震災の後、神戸で被災した人々のNK活性が著しく低下し、震災後1年を過ぎても低いままという報告もあった。

表2:NK細胞を元気にするには
表2:NK細胞を活性化する方法
図3:NK細胞ががん細胞を攻撃している様子を示す図
図3:NK細胞ががん細胞を攻撃しているところで、京都のルイ・パストゥール医学研究センターで撮影した写真を吉本実験を一緒にした岡山の伊丹仁朗先生からお借りした。

笑いある生活で血糖値が改善する3)

 糖尿病ではネガティブなストレス(不安、悲しみ、恐怖、怒り)によって血糖値が増加する。それではポジティブなストレス、すなわち快く思う、楽しい、嬉しい気持ちは血糖を下げるのではないかと筑波大学の村上和雄名誉教授は考えた。2003年1月、2日間にわたってユニークな実験を行ったので、紹介する。

 実験参加者は2型糖尿病でインスリン治療を受けていない19人の患者(男性16人、女性3人:平均年齢63.4歳)、平均BMI23.5で少し太り気味、HbA1c平均7.2%で合併症のない症例を選んだ。1日目は参加者に500キロカロリーの寿司を食べてもらい、その後「糖尿病のメカニズム」という単調な講義を40分間聞いてもらった。2日目は吉本興業の「B&B」の漫才を40分間聞いてもらった。それぞれについて、講義と漫才を聞く前後で血糖値を測定した。

 測定の結果、単調な講義の場合には食後2時間の血糖値は平均123mg上昇したことから、面白みのない講義は身体に悪いので聞かない方がよいことがわかった。一方、漫才を聞いたときには77mgの増加を示し、これは専門家も驚く予想外の結果となった。次に、患者の個別的変化と併せて見ると、腹を抱えて大笑いした患者では講義後と漫才後の数値で約80mgの差があり、ちょっと笑った人でも約36mgの差が認められた。その結果は米国の専門誌に掲載され、ロイター通信が世界中にその実験結果を配信した。

 これまで、糖尿病患者には食事制限や運動とつらいことばかりを言わなければならなかった。しかし、これからは「もっと笑いのある生活をしなさい。そうすると糖尿病もこれほどよくなるよ」と言えるようになった。

笑いの胎教への効果落語で胎動が活発に4)

 日本笑い学会理事の松本治朗医師は、落語仕立てにした「医学落語」というものを生み出した。モーツアルトの胎教コンサートの代わりに、妊婦に落語を聞かせる実験に取り組んだ。妊婦さんに桂米朝師匠の落語『地獄八景亡者戯(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)』、続いて桂文珍さんの『老婆の休日』という落語、最後に駆け出しの若手落語家の『動物園』という落語を聞いてもらい、胎児心拍陣痛計を着けて調べた。実験結果、桂米朝さんの古典落語はクスッと笑うことはあるが、大笑いというようにはいかないが、胎動は活発になった。次に、文珍さんのは妊婦さんが声を出して大笑い。胎動も活発であった。駆け出しの若手の噺(はなし)では胎動が減ることがわかった。

 これらのことから、「妊婦さんが楽しい気分でいると赤ちゃんも楽しい気分になる」という胎教の根拠を実験結果に証明した。また、予定日を過ぎても生まれそうにないときは桂文珍さんの落語を聞かせると、自然に陣痛がきてお産になることもわかった。

「笑い体操」の実施により70歳以上の医療費が23%減

 大阪府大東市は地元の大阪産業大学と組んで、その改善策に取り組んできた。プロジェクトリーダーの大槻伸吾教授(整形外科医)は単なる体操でなく「笑い体操」を考案。まじめに体操をやるのではなく、インストラクターが冗談を交えながら行う体操である。これにより、血圧・筋力等において顕著な効果が認められ、国から1億6千万円の予算もついた。その結果、70歳以上の医療費が23%も減少(31,960円/月→24,608円/月)、通院日数も8%減少した。そして参加者は現在減るどころか半年で倍増した。

 今まで、リハビリ・筋トレ・ダイエットなどはどれも長続きしなかった。主な原因は「楽しくなかった」の一言に尽きる。プログラムを作成した人がしかめっ面をしながら、必死にやられても、その必死さが受ける方にも伝わり疲れてしまう。修行でなく楽しみながらやると続く。

おわりに5)6)

 人生80年。これを日にちで数えたことがあるだろうか。365×80で、ざっと29,000日である。人は人生の終わりに際して、楽しいことしか思い出さない。認知症になっても楽しいことは覚えている。その思い出は誰もつくってくれない。自分でつくるしかない。日本人の三大死因の1つである心臓病は突然死んでしまうことが多いので、言いたいことも言えない。脳卒中では半身不随で数年の寝たきりとなる可能性が高い。がんの場合、みんなが同情してくれて、痛みも95%は取ることができ、残された時間もそこそこあるので、そう悪くない。老衰で亡くなる割合は50人に1人と、難しいことである。しかし、老衰で亡くなった人を解剖すると8割以上ががん死であることがわかっている。がんは下手にいじらなければ、共生できるのだ。

 なぜがんだけ「告知」という言葉を使うのか。その言葉を使うもう1つは「受胎告知」。聖母マリアが天使からキリストの受胎を告げられるときのこと。そのニュアンスが意図するところは「反論を許さない」ということである。他の病気で告知されたとは言わない。痔を告知されたなんて言わないだろう。がんだけ「告知」という言葉を用いるから誰もが「もうアカン」と戦意喪失になる。

 では、病名が「ポン」だったらどうでだろう。「あの人、ポンで死んだって」「国立ポン研究所」「乳ポン」などすると、あまり恐い感じがしない。ポン患者は自分には時間がないと自覚してるからイヤなものははっきり「イヤ」と言う。残された時間があとわずかとわかったとき、皆さんどう過ごすか考えてみよう。この世で一番のストレスは人間関係。残されたわずかな自分の大事な時間をストレスのない人と過ごして、できるだけたくさん楽しい思い出をつくって「じゃあね」というのが一番だと思わないか。白黒つける正しい生き方はやめて、楽しい生き方はいかがだろう。

 コツは「許す」「忘れる」こと。日常で「絶対許したらへん」と言うから眠れなくなる。コツをつかめば笑顔が戻り、眠れるようになり、みんなからも「あの人はすごい」と褒められる。高齢者は「忘れる」が既にできているから、後は「許す」だけ。簡単でしょう。21世紀はこれでいこう。

参考文献

  1. Yoshino S et al. :Effects of Mirthful laughter on Neuroendocrine and Immune Systems in Patients with Rheumatoid Arthritis. JRheumatol. 23(4), 793-794, 1996.
  2. 伊丹仁朗 ほか:笑いと免疫能. 心身医学. 34(7), 565-571,1994.
  3. Hayashi K et al. :Laughter lowered the increase in postprandial blood glucose. Diabetes Care. 26(5):1651-1652, 2003.
  4. 松本治朗:お母さんが落語を聴くと、お腹の赤ちゃんは?!:笑いと胎教に関する一考察.笑い学研究.3, 4-19, 1996.
  5. 昇幹夫:改訂 笑いは心と脳の処方せん. リヨン社.(二見書房).東京. 2003.
  6. 昇幹夫:笑って長生き 笑いと長寿の健康科学. 大月書店. 東京.2006.

筆者

筆者_昇幹夫氏
昇 幹夫(のぼり みきお)
日本笑い学会副会長
略歴:
1971年:九州大学医学部卒業後卒業。同年、九州大学麻酔科助手、1975年:福岡大学産婦人科病院講師、1979年:のぼり病院(鹿児島市)、1982年:浜日病院(大阪市)、1989年:各口病院(大阪府泉佐野市)。現在も全国各地で産婦人科・麻酔科医として診療、当直中。「元気で長生き研究所」所長として講演活動も行っている。
専門分野:
産婦人科・麻酔科

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.68

このページについてご意見をお聞かせください