健康長寿ネット

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笑って認知症を予防できるか

大平 哲也(おおひら てつや)

福島県立医科大学医学部疫学講座教授

はじめに

 厚生労働省が実施している「平成22年度国民生活基礎調査」によれば、わが国において介護が必要になった原因の第1位が「脳卒中」(21.5%)であり、次いで「認知症」(15.3%)が第2位となっている。平成16年度の同調査では、認知症は10.7%で第4位であったことを考えると、今後、介護・寝たきりの原因として認知症がさらに増加していくことが懸念される。

 また、急速に高齢化が進んでいるわが国においては、認知症そのものが急増していることも報告されている。平成24年度の厚生労働省研究班(代表者・朝田隆筑波大学教授)の調査では、平成24年時点で65歳以上の高齢者のうち、認知症の人は推計15%であり、全国で462万人に上ることが推計されている。認知症は介護・寝たきりの原因になるだけでなく、心筋梗塞・脳卒中、生命予後との関連が指摘されており、その予防は現在の超高齢化社会の中で重要な課題と考えられる。

 一方、笑いはユーモアを理解し、面白いと思うことで起こる行動であるため、高次脳機能によりその機能が維持されていると考えられる。したがって、日常生活において笑う頻度が多いことは、高次脳機能を維持していることを一部反映している可能性がある。また、笑うこと自体が脳機能の維持に働く可能性もある。そこで本稿では、笑いと認知機能・認知症との関連についてのこれまでの研究を報告するとともに、笑いが認知症を予防する可能性について考察する。

笑いは老化指標の1つとなるか

 従来から認知症は年齢と深く関係することが知られている。上述の厚生労働省研究班による調査において、65歳以降年齢の上昇とともに認知症の頻度は高くなっており、これまでのわが国の疫学研究においても同様の関連が報告されている1)。したがって、もし笑いが認知症と関連するのであれば、笑いの頻度は年齢と深く関連するはずである。

 そこで、われわれは秋田県I町および大阪府Y市M地区住民で、2007年~2008年に健康診断を受診した4,780人(男性1,786人、女性2,994人:平均年齢59歳)を対象として、笑いの頻度と年齢との関連を検討した。笑いの頻度は、日常生活における"声を出して笑う"頻度を「ほぼ毎日」「週1~5回」「月1~3回」「ほとんどない」の4段階で評価した。

 図1に男女別の笑いの頻度を示す。女性において「ほぼ毎日」と回答した割合は53%だったのに対し、男性では40%にとどまり、女性の方が日常生活において声を出して笑う頻度が多いことがわかった(p<0.001)。次に、年代別に笑いの頻度をみると、40歳未満の女性では「ほぼ毎日」と回答した割合は65%であったのに対し、年齢が上昇するとともにその頻度は少なくなり、70歳以上の女性では46%と半分以下となっていた(図2)。男性も同様に年齢とともに笑いの頻度は少なくなり、70歳以上では35%まで低下していた(図3)。したがって、笑いの頻度は男女ともに年齢とともに少なくなり老化指標の1つと考えられた。

図1:男女別の笑いの頻度を表す図。
図1:男女別にみた笑いの頻度
図2:年代別に女性の笑う頻度を表した図。
図2:年代別にみた笑いの頻度(女性)
図3:年代別に男性の笑う頻度を表した図。
図3:年代別にみた笑いの頻度(男性)

大規模疫学研究からみる笑いの頻度と認知機能の関連

1.横断研究

 次に、笑いの頻度と認知機能との関連を検討した。上記対象者のうち、大阪府Y市M地区において、2007年度循環器健診を受診した65歳以上の男女985人を対象に、介護予防のための生活機能調査票に準じて、物忘れなどの認知機能に関する症状を調査した2)。調査では認知機能に関係する以下の3項目の1つ以上に当てはまった場合に「認知機能低下症状あり」と定義した。すなわち、1.周りの人から「いつも同じことを聞く」などの物忘れがあると言われる→「はい」、2.自分で電話番号を調べて、電話をかけることをしている→「いいえ」、3.今日が何月何日かわからないときがある→「はい」に当てはまる場合に「認知機能低下症状あり」とし、笑いの頻度との関連をみた。

 その結果、「認知機能低下症状あり」に当てはまった人は全体の26%であり、その頻度は年齢とともに高くなった。次に、「認知機能低下あり」の頻度を「ほぼ毎日」と答えた人と比較した結果、笑う頻度が少ない群ほど認知機能低下ありのオッズ比が高く、笑う機会が「ほとんどない」人は、「ほぼ毎日」笑う人に比べて男性では2.11倍、女性では2.60倍認知機能低下症状をもつリスクが高かった。

 また、笑いの頻度と認知機能の関連では性と年齢を調整した後にも有意な関連がみられた(傾向の検定:p<0.01)。笑う機会が「ほとんどない」人と、「ほぼ毎日」笑う人を比べた認知機能低下ありの性・年齢調整オッズ比は、2.15倍(95%信頼区間、1.18-3.92、p=0.01)であった(図4)。

図4:笑いの頻度と認知機能低下の関連性を示す図。
図4:笑いの頻度と認知機能低下症状との関連(横断研究)2)

 さらに、笑いの頻度との関連がみられた生活習慣のうち、従来から認知機能との関連が知られている喫煙の有無、うつ症状の有無を調整した上で笑いの頻度と認知機能との関連を検討しても、ほぼ同様の傾向がみられた。したがって、これらの結果から笑いの頻度が少ないことは認知機能の低下と関連することが明らかになった。

2.縦断研究

 一方、これらの検討は横断研究であるため、認知機能の低下が笑いの頻度を少なくしているのか、笑いの頻度が少ないことが認知機能の低下を招くのかは明らかではなかった。そこで、認知機能低下がみられなかった738人について、1年後にも同じ調査を行い、笑いの頻度が1年後の認知機能低下と関連するかを検討した。

 性・年齢を調整した上で、笑いの頻度と認知機能低下との関連を調査した結果、笑う機会が「ほとんどない」人は、「ほぼ毎日」笑う人に比べて認知機能低下症状出現する危険度が3.61倍(95%信頼区間:1.46-8.91、p=0.005)であり、笑わない人ほど1年後に認知機能が低下するリスクが上昇していた(図5)。さらに、この関連はベースライン時の生活習慣、うつ症状を調整しても同様にみられた。

図5:笑いの頻度と認知機能低下低下症状出現との関連を示す図。
図5:笑いの頻度と1年後の認知機能低下症状出現との関連(横断研究)

 本検討は追跡期間が短いため、笑いの少ない生活が認知機能低下の原因になると結論付けることはできない。しかし、笑いの頻度が少ないことが認知機能の低下に先行すること、すなわち、笑いの頻度は1年後の認知機能の低下を予測する因子であることが明らかになった。今後、笑いと認知症との因果関係を明らかにするために、長期的な前向き研究が望まれる。

笑いと認知症の危険因子との関連

 認知症はアルツハイマー型認知症と脳血管性認知症に大別されるが、これまでの疫学研究により、脳血管性認知症には、高血圧、糖尿病、喫煙などの脳卒中の危険因子を有することが関連すると報告されている。したがって、認知症の危険因子である糖尿病、高血圧と笑いとの関連がみられれば、笑うことが認知症予防につながる可能性がより高くなる。

 糖尿病患者19人を対象として行われた研究では、最初の日は参加者に昼食の後に糖尿病の講義を40分間聴いてもらい、翌日は昼食の後にお笑いコンビ「B&B」の漫才を40分間鑑賞してもらった。両日ともに昼食前と昼食後2時間の血糖値を測定し比較した結果、講義の日においては血糖値が151mg/dLから274mg/dLに急上昇したのに対し、漫才の日では178mg/dLから255mg/dLにとどまり、その差が46mg/dLであった3)。したがって、笑いは糖尿病患者の血糖値上昇を抑制する可能性がある。

 一方、この研究は短時間の効果をみたものであったため、筆者らは地域住民を対象として、笑いの頻度と糖尿病との関連をみた。秋田県I町および大阪府Y市M地区住民のうち、2007~2008年に健康診断を受診した4,780人(男性1,786人、女性2,994人;平均年齢59歳)を対象として、日常生活における声を出して笑う頻度と糖尿病の有病率との関連を検討した。その結果、毎日声を出して笑っている人に比べて、週に1~5日程度笑っている人は1.26倍(95%信頼区間:0.97-1.65、p=0.09)、月に1~3日もしくはほとんど笑っていない人は1.51倍(95%信頼区間:1.08-2.11、p=0.02)糖尿病の有病率が高いことが明らかになった。

 さらに、この集団を3年間追跡調査した結果、特に女性においては、笑いの頻度が月に1~3日もしくはほとんど笑っていない人は、ほぼ毎日笑っている人に比べて2倍以上糖尿病発症の危険度が高いことが明らかになった。一方、今回の検討では高血圧との関連は明らかではなかったが、笑うことが動脈硬化の危険因子である血管内皮機能を改善させることが報告されている。したがって、日常生活において笑いの頻度を増やすことは脳卒中の危険因子を介して認知症予防につながる可能性が考えられた。

笑いを増やせば認知症は予防できるか

 これまでの知見では、笑いの頻度を増やすことが、認知症の予防や改善につながるかはいまだに明らかになっていなかった。そこで筆者らは、地域住民を対象として「認知症予防を目的とした、笑って健康教室」(以下、健康教室)を開催し、笑い・ユーモアを用いた健康教室が認知症予防につながる可能性を検討した。

 対象は、大阪府Y市M地区の地域在住高齢者のうち、広報および各戸に案内を回覧し、参加申し込みのあった男女46名(平均年齢66歳)であった。対象者を4週間に1度落語を聴いてもらう「通常介入群(ぼちぼちコース)」と、通常介入に加えて2週間に1度、笑いを取り入れた健康体操、笑いヨガ、ユーモア講座等の体験型学習を行い、さらに笑いに関するイベント、映像、本などを紹介することにより日常生活上の笑いの頻度を増やすための支援を行う「強力介入群(はりきりコース)」の2群に分けて6か月間の介入を実施した。

 介入効果の検討のために、初回と最終回の落語鑑賞前後に、これまで認知症との関連が報告されている血圧・心拍数の測定を行った。また、介入期間前後において、Mini-Mental State Examination(MMSE)による認知機能検査、Geriatric Depression Scale(GDS-15)日本語版を用いたうつの評価、およびSF8(MOS Short Form 8-item Health Survey)日本語版による健康関連Quality of Life(QOL)の評価を行なった。

 実験の結果、心拍数は両群ともに低下し、笑いの頻度、うつ症状の得点は、強力介入群の方がより改善する傾向がみられた。強力介入群では、GDSの得点が3.4点から2.7点に低下(軽快)していたのに対し、通常介入群では3.1点から3.4点にやや上昇(悪化)傾向がみられた。また、QOLの得点については、強力介入群では、特に心の健康が有意に改善していた(p<0.05)。一方、MMSEの得点は、強力介入群、通常介入群ともに変化はみられなかった。

 本研究では、参加者のMMSEの平均得点は高く(30点満点中28.1点)、認知機能の得点の改善にはつながらなかった可能性が考えられる。しかしその一方で、心拍数と主観的健康感はともに循環器疾患の危険因子であり、それらの指標について一定の改善を認めた健康教室による介入は脳血管性認知症の予防につながる可能性を示した。

次第に明らかとなる笑いの認知症予防効果

 1,203人の高齢者を対象に社会的ネットワークと認知症との関連を検討した研究では、社会的ネットワークが多いほど将来的に認知症になりにくいことが報告されている4)。また、75歳以上の高齢者469人を平均5.1年間経過観察した前向き疫学研究では、ボードゲーム、音楽活動、ダンスなどの余暇の過ごし方が、将来の認知症に対して予防的に働くことが報告されている5)。これらの結果は、人とのコニュニケーションを増やすことが認知症予防につながる可能性を示唆している。さらに、笑いの頻度が多いことは社会的ネットワークが多いことを反映している可能性もある。

 ほかにも、週に1回の笑い療法が高齢者のうつ症状、睡眠障害、および睡眠の質の改善に有効であることが報告されている6)。高齢者のうつ症状や睡眠障害は認知症の危険因子であり、認知症の周辺症状でもある。

 したがって、こうした介入研究が多く行われることによって、今後、認知症に対する笑いの予防効果がより明らかになることが期待される。

おわりに

 笑いと認知症発症との関連、そして笑いが認知症を予防できる可能性についてはいまだに明らかでない部分が多い。しかしながら、近年、笑いが認知症に対する代替療法になり得る可能性が指摘されるようになり7)、実際に笑いと認知症に関する大規模無作為研究が開始されている8)

 笑いは日常生活において費用もそれほどかけずに増やすことができるものであり、笑いと認知症との研究が進めば、費用対効果が大きいと考えられる笑いの介入は、わが国の保健事業に大きく貢献できる可能性がある。

参考文献

  1. 清原 裕 ほか:一般住民における痴呆の実態.臨牀と研究. 82(3), 393-397, 2005.
  2. 大平哲也 ほか:笑い・ユーモア療法による認知症の予防と改善.老年精神医学. 22(1), 32-38, 2011.
  3. Hayashi K et al.:Laughter Lowered the Increase in Postprandial Blood Glucose. Diabetes Care. 26(5), 1651-1652, 2003.
  4. Fratiglioni L et al.: Influence of social network on occurrence of dementia: a community-based longitudinal study. Lancet. 355(9212), 1315-1319, 2000.
  5. Verghese J et al.:Leisure activities and the risk of dementia in the elderly. N Engl J Med. 348, 2508-2516, 2003.
  6. Ko HJ et al.:The effects of laughter therapy on depression,cognition, and sleep among the community-dwelling elderly. Geriatr Gerontol Int. 11, 267-274, 2012.
  7. Takeda M et al. : Laughter and humor as complementary and alternative medicines for dementia patients. BMC Complement Altern Med. 10:28, 2010.
  8. Goodenough B et al.: Study protocol for a randomized controlled trial of humor therapy in residential care: the Sydney Multisite Intervention of LaughterBosses and ElderClowns (SMILE). Int Psychogeriatr. 24(12), 2037-2044, 2012.

筆者

筆者_大平哲也先生
大平 哲也(おおひら てつや)
福島県立医科大学医学部疫学講座教授
略歴:
1999年:筑波大学大学院医学研究科博士課程修了。2000年:大阪府立成人病センター集団健診第1部診療主任、2001年:大阪府立健康科学センター健康開発部医長、2005年:ミネソタ大学疫学・社会健康学部門客員研究員、2006年:大阪大学大学院医学系研究科公衆衛生学助手兼医学部講師、2008年:大阪大学大学院医学系研究科公衆衛生学准教授、2013年:現職および福島県立医科大学放射線医学県民健康管理センター疫学部門教授
専門分野:
疫学、公衆衛生学、心身医学。医学博士

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.68

Aging&Health(エイジングアンドヘルス)No.68(新しいウィンドウが開きます)

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