健康長寿ネット

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薬物血中濃度測定

公開日:2016年7月25日 11時00分
更新日:2019年2月 1日 22時08分

後期高齢者の薬の使い方の注意点

 からだに取り込まれた薬は、そのままの形で排泄されるものもありますが、大部分は肝臓で分解(代謝)され、一部は胆汁とともに糞便中に、残りのほとんどは腎臓を通り尿としてからだから出て行きます。

 高齢者といっても、75歳くらいまでの前期高齢者では、成人と同じ量の薬を使用しても問題はありません。しかし、肝臓や腎臓の機能は75歳くらいから急激に衰えますので、この頃より、薬の使い方を注意しなければなりません。

肝臓

 高齢者では、肝血流量が成人に比べて40%くらい低下しているといわれています。また、薬物代謝(分解)酵素の働きも悪くなっています。したがって、薬の作用が強く現れ、副作用が出てしまう危険性があります(図1)。

 アルコール類も肝臓で代謝されますので、薬物治療中にアルコールを摂ると、肝臓に負担をかけてしまいます。

図1:加齢に伴う薬物代謝(分解)酵素の減少を示す図。加齢に伴い、肝臓の重量(細胞量)の減少、薬を肝臓へ運ぶ肝血流量の減少、薬を分解する酸素活性の低下、薬を排泄する胆汁流量の減少が見られる。

図1:加齢に伴う薬物代謝(分解)酵素の減少

腎臓

 薬の排泄能力の指標として、クレアチニンクリアランスという検査があります。この値は、80歳の高齢者では30歳の成人に比較して約50%になります。したがって、腎臓の機能が正常でも、高齢者では薬の排泄能力は低下していると考える必要があります(図2)。

 腎機能が悪い場合には、より注意して薬の使い方を考える必要があります。

図2:加齢に伴う薬の排泄能力の低下を示す図。加齢に伴い、尿を作る能力が低下するとともに、薬を腎臓へ運ぶ腎血流量が減少する。

図2:加齢に伴う薬の排泄能力の低下

薬物血中濃度の測定と解析の一例

 MRSA感染症(抗生物質が効きにくい細菌による感染症)では、塩酸バンコマイシンという抗生物質を使用します。

 この薬は、高齢者や腎機能障害者では血液中の薬の濃度が高くなりやすく、腎機能障害などの副作用が心配されます。一方、ある程度、薬の血液中の濃度を上げないと効果が現れないため、慎重に薬の使い方を検討しなければなりません。実際の症例を以下に示します。

 塩酸バンコマイシンは、点滴直前の血中濃度がいちばん低いところ(トラフ値)が 10μg/ml、点滴終了後1~2時間の血中濃度がいちばん高いところ(ピーク値)が25~40μg/mlになるように、薬の量や点滴を行う間隔を調節して使用します。

症例

MRSA肺炎80歳男性 血清クレアチニン 0.9 mg/dl 体重 55 kg

1.初期投与設計

 患者様の年齢、性別、体重、血清クレアチニン値をもとに、ノモグラムという計算尺により、1日に使用する塩酸バンコマイシンの量を求めたところ、790mg/日となりました。高齢であるため、朝1回、750mgを1時間かけて点滴することにしました。

2.血中薬物濃度の測定・解析

 塩酸バンコマイシン開始3日目に血液中の薬物濃度を測定したところ、トラフ値が 5.4μg/ml、ピーク値が 22.3μg/mlでした。これをもとに解析し、1回の使用量を1,000mgに増量することにしました。その結果、トラフ値が 8.2μg/ml、ピーク値が30.8μg/mlと適切になり、副作用もなく症状は改善しました。

写真:血中薬物濃度の測定・解析作業風景

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