健康長寿ネット

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人生100年時代の長寿リスクと資産寿命

公開日:2019年6月21日 09時50分
更新日:2019年9月30日 11時56分

長寿リスクとは

img1:医療費・介護費が負担になっている高齢男性のイメージ

 長寿リスクとは、長生きすることによって、定年後の生活費や医療費、介護費用などの負担により、老後の生活に備えた資金が足りなくなり生活が経済的に困窮する事態のことです。平均寿命が延び、長生きする人が多くなる一方で、経済的な側面において長生きすることが損害となる「長寿リスク」が深刻化しています。長生きすることがリスクとなる長寿リスクとはどのような事態なのでしょうか。

人生100年時代の到来

 厚生労働省の平成30年(2018年)の簡易生命表によると、男性の平均寿命は81.25年、女性の平均寿命は87.32年で、平成29年(2017年)と比べて男性0.16年、女性0.06年延びています1)

 内閣府の平成30年(2018年)高齢社会白書の平均寿命の将来推計を見ると、今後さらに平均寿命は男女ともに延び、2065年には男性84.95年、女性91.35年になると見込まれています2)(グラフ1、表1)。

 また、医療技術の進展と相まって、今後も更なる長寿化が見込まれており、「人生100年時代」と呼ばれるかつてない超高齢社会を迎えようとしています。

グラフ1:昭和25年(1950年)から令和47年(2065年)までの男女別の平均寿命の推移と将来推計を示す折れ線グラフ。令和47年(2065年)の併記寿命は推計で男性84.85年、女性91.35年であることをあらわす
グラフ1:平均寿命の推移と将来推計2)
表1:平均寿命の推移と将来推計2)
昭和25年(1950年) 58.0 61.50
昭和35年(1960年) 65.32 70.19
昭和45年(1970年) 69.31 74.66
昭和55年(1980年) 73.35 78.76
平成2年(1990年) 75.92 81.90
平成12年(2000年) 77.72 84.60
平成22年(2010年) 79.55 86.30
平成27年(2015年) 80.75 86.99
平成28年(2016年) 80.98 87.14
令和2年(2020年) 81.34 87.64
令和12年(2030年) 82.39 88.72
令和22年(2040年) 83.27 89.63
令和32年(2050年) 84.02 90.40
令和42年(2060年) 84.66 91.06
令和47年(2065年) 84.95 91.35

資料:1950年は厚生労働省「簡易生命表」、1960年から2015年までは厚生労働省「完全生命表」、2016年は厚生労働省「簡易生命表」、2020年以降は、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」の出生中位・死亡中位仮定による推計結果
(注)1970年以前は沖縄県を除く値である。0歳の平均余命が「平均寿命」である。

老後に受け取る公的年金と必要な生活費からみる長寿リスク

 現役時代を引退した後、老後の生活に必要な資金は、現役時代に得た収入からの貯蓄や退職金と公的年金から工面することになります。しかし、平均寿命が延び長生きになることで、老後の生活にかかる資金も大きくなり、蓄えていた老後の資金が足りなくなるという長寿リスクが問題視されています。

 厚生労働省の平成31年(2019年)度の年金の給付水準(夫が平均標準報酬(賞与含む月額換算)42.8万円)で40年間就業し、妻がその期間すべて専業主婦であった世帯が年金を受け取り始める場合)をみると、月額221,504 円となっています3)。 

 総務省の平成29年(2017年)の家計調査をみると、夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの高齢無職世帯の世帯の1か月の食糧費、住居費、水道光熱費などの消費支出の合計は平均235,477円です(図1)。また、各種税金や保険料の非消費支出と消費支出の合計金額は263,717円になります。非消費支出と消費支出の合計金額が公的年金などの収入額を上回ることがわかります4)

図1:2017年の家計調査における高齢夫婦無職世帯の家計収支を示す図。
図1:高齢夫婦無職世帯の家計収支-2017年-(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯)4)

 夫65歳、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯において、平成31年(2019年)の給付水準の公的年金額と消費支出の合計額との差額42,213円を毎月貯蓄から補うとすれば1年間で約51万円必要です。

 これらの収入と支出については、公的年金の給付水準は物価や賃金の変動に応じ改定されること、家計調査の消費支出額は貯蓄状況や持ち家の有無などにより影響され、調査時点での平均値であることから、あくまでも推計となります。また、高齢期の生活様式は人よってさまざまで、生活の水準、働き方、資産の状況も多様なため、一概に言えません。

 しかし、長い老後の生活の中で、病気の治療や入院、施設への入所、自宅の改修、震災などによる自然災害があれば、多額のお金が必要になる可能性があります。65歳から90歳代まで何もなく過ごせる人の方が少ないことが伺えることから、もし、老後のお金を補填できるほどの余裕ある貯蓄があったとしても、老後の生活の資金が足りなくなってしまう恐れがあります。

従来の老後資金計画の崩壊

 公的年金の給付水準については、少子高齢化という社会構造上、中長期的に低下していく見込みです。そのため、公的年金だけでは老後の満足な生活水準に届かない可能性があります5)

 また、退職金給付制度を採用している企業数が2018年で企業全体の約80%とピーク時の1992年の92%から減ってきています。さらに2018年の退職金給付額もピーク時の1997年から3割から4割程度減少しています。退職金給付制度を採用する企業数および退職金給付額の減少傾向は今後も続く可能性があります。

 そのため、退職金と公的年金の二つを軸とした老後生活を営む従来の資金計画は成り立たなくなってきています。

長寿リスクに備えた「資産寿命」を延ばす方法5)6)

 人生100年時代において、贅沢をせずに普通の暮らしを生涯営むだけでも公的年金や退職金だけで暮らすことは難しくなりました。そのため、現役時代から長寿リスクに備えた資金準備が必要となります。そこで、長寿リスクに備えて個人の「資産寿命」を延ばす自助努力が大変重要になります。

 「資産寿命」延ばす方法としては、早いうちから老後の資金のために積み立てを開始して貯蓄額を増やすことと、ライフステージに応じた働き方を計画し収入を増やすこと、老後の収支計画と管理方針を立て、実行することが大切です。

若いうちから積み立てを開始し、貯蓄額を増やす

img2:人生100年時代若いころから資産を積み立てることをあらわす写真

 「人生100年時代」においてこれまでよりも長く生きる人が多いことを前提に、老後の生活も満足できるものになるよう、若いうちから資産形成の有効性を認識する必要があります。また、将来に向けて若いうちから確実に預貯金を積み立てて貯蓄を増やしていくことで老後の資金に回せるお金も準備しやすくなります。例えば、毎月の給料からの天引きや口座引き落としで、毎月あらかじめ定額を貯蓄するような手続きをとっておくと、積み立てし忘れることや給料を使いすぎることもなく着実に積み立てることができます。

 また、貯蓄の方法としては預貯金の他にも、将来に向けた資産形成として、個人年金、金融商品への投資、信託、保険などによる方法もあります。様々な金融機関が提供する金融サービスのメリットとリスクをよく考えて長期的に取引できるサービス提供者を選択し、実行することが大切です。

ライフステージに合わせた働き方を計画し、収入を増やす

 夫婦二人で共働きをして収入を増やす選択をする場合には、子供の成長段階によって、働く環境や条件の制限が出てきます。家族のライフステージに合わせた働き方の計画を立てておくことも必要でしょう。

 人生100年時代に突入するなかで、働けるうちは働き続けたいと思っている高齢者も増加しております。また、働くことで社会とのつながりができ生きがいを得られるというメリットもあります。また、65歳から受け取れる公的年金の受け取り開始期間を66~70歳に遅らせる繰り下げ受給を行うと、受け取ることのできる公的年金の額が多くなります5)。65歳を過ぎて働き続けることも収入を増やすひとつの選択肢です。

老後の収支計画と管理方針を立てる

 現役時代の収入がある時期と同じようなお金の使い方をしていると、老後に破産してしまうケースもあります。生活資金を貯蓄しておいても突然のアクシデントにより、資金が足りなくなるケースもあります。また、自分の心身の衰え、認知・判断能力の低下・喪失に備え、何か不測の事態が起こった場合でも対応できるように備えておきたいものです。

 そのため対策として、老後に自分の世帯はどれくらいの収入があるのかを知り、収入に見合った家計の管理と生活プランを立てて実行していくことが求められます。現役時代から自分の老後の生活資金にも目を向けて、早いうちから情報収集を行い、老後の収支計画を立てて備えておきましょう。

 また、認知・判断能力の低下・喪失に備え、資産の管理方針(運用・取崩し、財産の使用目的、遺産相続方針等)を決めておくことも大事です。可能であれば、資産情報(財産目録、通帳等の保管、金融資産の管理方針等)を、信頼できる者と共有しておくことも考えておくとよいでしょう。

img3:高齢男性が専門家に資産管理について相談している写真

参考文献

  1. 厚生労働省 平成30年簡易生命表の概況(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  2. 内閣府 平成30年版高齢社会白書(全体版) 第1章 高齢化の状況 第1節1 (外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  3. 厚生労働省 平成31年度の年金額改定について(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  4. 総務省統計局 家計調査年報(家計収支編)平成29年(2017年) 世帯属性別の家計収支(二人以上の世帯)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  5. 金融審議会市場ワーキング・グループ  事務局説明資料「高齢社会における資産形成・管理」 報告書(案) 金融審議会「市場ワーキング・グループ」(第23回)令和元年5月22日(水)9時30分~12時00分 金融庁(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  6. 日本年金機構年金の繰り上げ・繰り下げ受給(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)

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