健康長寿ネット

健康長寿ネットは高齢期を前向きに生活するための情報を提供し、健康長寿社会の発展を目的に作られた公益財団法人長寿科学振興財団が運営しているウェブサイトです。

健康格差の実態と対策―JAGES における概要

近藤 克則(こんどう かつのり)

千葉大学予防医学センター社会予防医学研究部門教授
国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究センター老年学評価研究部長


 日本も「健康格差社会」1)である。「健康格差は放置すべきでない」と、WHOが2009年総会で決議をあげた。日本でも「健康日本21(第二次)」(2013~22)で、「健康格差の縮小」が「健康寿命の延伸」と並んで基本的方向として示された。しかし、健康寿命の延伸に比べると、健康格差の縮小に向けた論議の深まりや対策の広がりが出てきているようにはみえない。その理由には、健康格差の実態や持つ意味の大きさ、生成メカニズム、そしてその対策などが、関係者の間で共有されていないことにある。

 日本において、この問題に1999年から取り組んできたのがJAGES(Japan Gerontological Evaluation Study、日本老年学的評価研究)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)である。3~4年ごとに調査を繰り返し、2016~17年度には、全国41市町村と共同し約20万人の高齢者が回答した大規模調査を実施した。これらのデータを用いて「健康格差社会への処方箋」2)を模索し続けてきた。本特集では、その一端を紹介しよう。

 まず高血圧や糖尿病、認知症など多くの健康指標においても、地域間の健康格差がみられることを紹介し、次に、そのことが持つ意味を考える。その後、生成メカニズムを概観し、対策のために開発してきた地域マネジメント支援のための「見える化」システムを紹介する。

健康格差の実態─認知症になりやすいまちがある

 JAGESでは、要介護認定を受けていない高齢者約3万人あまりを対象にした2003年調査で、低所得層や低学歴層で、高所得・学歴層に比べ、要介護リスク割合が高いことを報告した3)。うつ状態では6.9倍の健康格差があった。いくつかの市町から特定健診データのご提供をいただけた(図1)。高血圧や糖尿病など健診指標でも指標によって2倍以上の市町村間・市町村内格差があった。

図1:65~74歳の特定健診受診者を対象としたA市内の健診指標の格差を表す図。
図1:A市内の健診指標の格差 65-74歳の特定健診受診者

 10年を超える縦断データでは、認知症発症などの地域間格差も検討が可能になった(図2)。小学校区間に15倍もの格差が認められた。つまり「認知症になりやすいまち」があるのだ。

図2:10市町村44小学校区による認知症発症の地域格差を示す図。
図2:認知症になりやすいまち(前期高齢者)
AGES2003-13追跡データが得られた44小学校区(10市町村)

 いずれも前期高齢者に限定したので、高齢化の違いでは説明できない差である。

健康格差が持つ意味─見落とされていた環境要因の影響

 今まで、ほとんどの長寿科学や医学研究は、個人レベルの要因に焦点を当ててきた。しかし、これほどの地域間格差は、ある遺伝子や生活習慣を好む個人、あるいは心理・社会特性を持つ個人が、たまたまその地域に集積したと考えられるだろうか。ひょっとしたら、地域ごとに環境条件が違っていることによって地域間格差が生まれている可能性はないか。言い換えれば、環境要因の影響が見落とされていたのではないか。

 IADL低下者の割合を53市区町村間で比較した(図3)。IADLとは、電車やバスでの外出、買い物ができるなど高次生活機能のことで、これが低下している人は、認知症を発症しやすく、要介護認定を受けやすいハイリスク者である。IADL5項目のうち、1項目でも「できない」とした者の割合を、53市区町村間で比べると、7.9~23.2%まで実に約3倍もの格差がみられた。53市区町村を、政令市の行政区と、それ以外の市町を人口密度で2群の計3群に分けたところ、左半分のほとんどを区が占めていた(図3)。

図3:53の市町村別にIADL低下者の割合を示す図。
図3:市区町村別にみたIADL低下者割合(前期高齢者)
老研式活動能力指標5項目(外出、買物、食事の準備、請求書支払い、貯金の出入)

 政令市には、暮らしているだけで、認知症になりにくくするような要因がある可能性を示唆する。歩くことは認知症予防によいとわかってきた。そこで1日の歩行時間が30分以上の人の割合をみると人口密度が高い地域で高かった。公共交通機関が乏しい農村的な地域では、車で移動する人が多いからだろう。また健康によいスポーツの実施頻度は、公園の近くに暮らしている人で2割高く4)、公園は都市的な地域ほど多い傾向がある。このような公共交通機関や公園など人工的につくられた建造環境(built environment)と健康の関連を示す報告は増えている。

 スポーツや趣味の会などへの参加者ほど、要介護リスク5)や要介護認定6)、認知症を伴う要介護認定を受ける確率が低い7)。社会参加の有無は個人特性としてみることもできるが、同時に暮らしている地域環境特性でもできる。なぜなら、その地域になければ、遠くまで行かない限り参加できないからである。さらに会が多い環境ほど、参加者が多いことを差し引いても、スポーツの会参加者が多いまちでは、非参加者も含め、うつは少ない8)

 以上、地域環境要因は見落とされがちだが、その影響はかなり大きい。

健康格差が生まれるメカニズム─「原因の原因」の重要性

 地域環境要因からどのようなメカニズムで健康格差が生まれるのか(図4)。右に、健康状態、その左に、口腔機能・内分泌・代謝などの生物的因子がある。それらは、歯磨きや食べ過ぎ、運動不足などの生活習慣の影響を受ける。従来の「生活習慣が生活習慣病の主因」という人が視野に入れていたのはここまでであった。しかし、運動をしない人には、うつ状態が多いなど心理的な背景要因がある。同様に運動量が少ない人には、趣味がなく、外出頻度が少ない閉じこもりの人が多いなど、心理社会的背景がある。またうつや閉じこもりは、社会的サポート・ネットワークが乏しい人に多い。さらに、社会的サポート・ネットワークは、低学歴・低所得の人ほど乏しい。そして、どのような地域かによって、高学歴・高所得の人の多さ、公園の多さが異なる(本特集の斉藤論文と相田論文を参照)。

図4:地域環境要因により健康格差が生まれるメカニズムを表す図。
図4:健康格差の生成メカニズム

 個人の生活習慣や行動は健康を規定する一因だが主因といえるのか。効果的な予防策は、見えやすい「原因」だけでなく、その背景にある「原因の原因」にまで考えるべきだ。健康(行動)は個人の選択で規定されるという個人主義的な健康観を超え、地域・社会環境も行動の選択(肢)を規定するという生態学的な健康観が必要である。

地域マネジメント支援ための「見える化」システム

 地域間格差は、地域によって健康課題が異なること、それをもたらす要因の一部が地域環境にあることを示唆する。健康格差の縮小のためには、まず地域ごとの住民の健康状態や、どの健康指標にどれくらいの格差があるのかを明らかにする。さらに対策を練るために、それをもたらしている地域環境要因も知りたい。これらが地域診断の目的である。

 地域診断には、量的・質的情報の両方が使われる。初期には、地域を歩いて収集するような質的な情報しかない場合が多い。何が重要かがわかるにつれ、その量的測定データを集め、指標化すると量的な指標による地域診断が可能となる。

 JAGESでは、介護保険者(市町村か広域連合)が3年に1度実施する、介護保険事業計画を立てる基礎資料を得るための介護予防・日常生活圏域ニーズ調査を、保険者と共同実施している。2010年には30市町村の約10万人の高齢者データから量的指標をつくり、地域診断指標としての妥当性(目的にかなう度合い)を検証してきた。

 個人レベルで分析すると、地域にあるグループに参加している人ほど要介護リスクが少ない。しかし、地域レベルでみると逆に、政治関係や宗教関係の会への参加率が高い地域ほどかえって要介護リスク者が多いという相関もみられた。介護予防を進めるための地域診断指標としては、参加率が高い地域ほど健康がよい相関を示す指標のみがふさわしく、その条件を満たすのは4割の指標に留まっていた。それはスポーツや趣味、ボランティアの会や就労、社会的サポート授受の割合などであった5)

 地域診断は、みんなが健康(格差が小さい)長寿な社会を実現するためのものである。そのために、効果的な対策を立案(Plan)し、実践(Do)して、その効果を検証(Check)し、成果が乏しければやり方を見直し(Action)する地域マネジメントが必要となる。地域づくりは、専門職だけではできない。住民に担ってもらうためには、情報の共有が必要である。そこで、地域マネジメントを支援するための「見える化」システム JAGES HEART(Health Equity Assessment and Response Tool健康の公平性評価・対応ツール)を開発した(詳しくは尾島論文参照)。

 JAGES HEART(図5)の活用事例を紹介しよう。図5Aは、同じ指標を市町村間や市町村内の小地域で比べた棒グラフである。たとえば、後期高齢者のボランティア参加者割合を市町村間で比べると、5.1~21.3%まで4倍の開きがあった。その右端に位置するA市も昔からボランティアが多かったわけではないことが図5Bでわかる。2010年の7.9%から何があって21.3%にまで増えたのか、後期高齢者の2割を超える人がやっているボランティアとは何か。A市内でも、図5Cのように小地域に分けてみると、市内でも、特にボランティアが盛んな地域が明らかになる。そこにヒヤリングやフィールド調査に行けば、参考になる手がかりが得られる。

図5:地域マネジメントを支援するための見える化システムJAGESHEARTの活用事例を表す図。
図5:ボランティアを増やしたA市

 たとえば、月に1回以上スポーツの会に参加する後期高齢者を調べると6割以上という小学校区が実在する。担当職員にヒヤリングすると、運動しやすい施設があること、スポーツリーダーの養成を毎月していること、スポーツ大会が20種類もあって高齢者たちが練習に励んでいることなどがわかった。

 このようにして、JAGES HEARTで地域の健康課題や手がかりを把握し、実践した後の変化を捉えることができる。

地域での実践と効果評価

 手がかりとは仮説である。本当に関連要因や原因かどうかを確かめるためには縦断追跡研究が必要である(斉藤、相田論文参照)。また原因とわかっても、たとえば加齢や性別のように変えられないものも多い。変えられるものを見つけ、実際に地域環境に働きかけ、期待したように変えられるのか、それによって効果があがるのかを評価する必要がある。

 今までに、「憩いのサロン」などの通いの場を、徒歩圏内につくることで、社会参加しやすい環境づくりを進め、その介護予防効果の評価にも取り組んできた。2003年からJAGESに参加してきた愛知県武豊町、常滑市、東海市などをはじめ、今後、高齢者が増える都市部の事例として、神戸市や名古屋市、千葉県松戸市なども加え、10以上の市町村で取り組みを進めている。先行する武豊町での結果では、サロンに参加するようになった人たちで要介護認定率は半減し、認知症を伴う要介護認定も3割程度少ないことを確認できた2)(近藤尚己論文参照)。

おわりに

 JAGESでは、健康格差の実態把握や生成メカニズムの解明、地域マネジメント支援システムJAGES HEARTによる「見える化」と、それを活用した健康長寿社会づくりや健康格差の縮小をめざした実践とその効果評価に取り組んできた。今後、より多くの市町村に活用していただき、実践と効果評価を重ね、より効果的で効率的な取り組み事例の蓄積が必要である。

 また、健康格差の生成メカニズムを踏まえると、多くの要因が複雑に絡んでいるがゆえに、健康格差対策(処方箋)は、地域づくりに留まらない総合的なものである。子どもの貧困対策や教育支援、ソーシャル・キャピタルや建造環境などに着目した地域・職域・学校における対策、非正規雇用対策、社会(保障)政策による社会経済格差の縮小など、多様で広範な対策などについては、拙著『健康格差社会への処方箋』2)(医学書院、2017)を、ぜひお読みいただきたい。

参考文献

  1. 近藤克則: 健康格差社会-何が心と健康を蝕むのか. 医学書院,2005
  2. 近藤克則: 健康格差社会への処方箋. 医学書院, 2017
  3. 近藤克則: 検証『健康格差社会』-介護予防に向けた社会疫学的大規模調査. 医学書院, 2007
  4. Hanibuchi T, et al.: Neighborhood built environment and physical activity of Japanese older adults: results from the Aichi Gerontological Evaluation Study (AGES). BMC Public Health 11:657, 2011
  5. 井手一茂, ほか: 個人および地域レベルにおける要介護リスク指標とソーシャルキャピタル指標の関連の違い. 厚生の指標 65: 31-38,2018
  6. Kanamori S, et al.: Social participation and the prevention of functional disability in older Japanese: the JAGES cohort study.PloS one 9: e99638, 2014
  7. Saito T, et al.: Influence of social relationship domains and their combinations on incident dementia: a prospective cohort study. JEpidemiol Community Health 72: 7-12, 2018
  8. Tsuji T, et al.: Community-Level Sports Group Participation and Older Individuals' Depressive Symptoms. Med Sci Sports Exerc 2018

筆者

筆者_近藤克則先生
近藤 克則(こんどう かつのり)
千葉大学予防医学センター社会予防医学研究部門教授
国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究センター老年学評価研究部長部長
略歴:
1983年:千葉大学医学部卒業。東京大学医学部付属病院リハビリテーション部医員、船橋二和病院リハビリテーション科科長などを経て、1997年:日本福祉大学助教授、University of Kent at Canterbury(イギリス)客員研究員、日本福祉大学社会福祉学部教授を経て、2014年より千葉大学予防医学センター教授、2016年より国立長寿医療研究センター老年学評価研究部長(併任)
専門分野:
社会疫学、医療と介護の政策科学、医療・福祉マネジメント。博士(医学)、博士(社会福祉学)

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団 機関誌 Aging&Health No.86 2018年7月発行

Aging&Health(エイジングアンドヘルス)No.86(新しいウィンドウが開きます)

このページについてご意見をお聞かせください