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前立腺肥大症の治療

公開日:2016年7月25日 11時00分
更新日:2019年8月 6日 16時06分

前立腺肥大症になったらどうする?

 前立腺肥大症の治療は、前立腺の大きさだけでなく、症状の進行具合や日常生活における困難度、尿の勢い、残尿量など、さまざまな側面から検討されます。

 ごく初期で前立腺肥大症の自覚症状がない、もしくは軽い場合は、特別な治療はせずに経過観察となります。頻尿など、日常生活に少し不自由を感じるようになると、薬を使った治療を始めます。さらに症状が悪化し、尿意はあるのに自力で排出できなくなるような重症になる、あるいは前立腺肥大症の合併症がみられるような場合には、手術を行います。

経過観察とは

 前立腺肥大症の治療は、前立腺の大きさだけでなく患者さんが症状によってどのくらい困っているかによって、決まってきます。そのため、残尿感もなく特に自覚症状のない人には特別な治療は行いません。

 しかし、定期的に受診して、経過が分かるように医師に報告していく必要があります。排尿日記※1をつけるなどして排尿の状態を記録し、日常生活への影響を医師に伝えやすいようにしておきましょう。

※1 排尿日記:
排尿日記とは、排尿した時間と量を記録するものです。1日の排尿の回数や1回の排尿量を記録しておくことで、日常生活の状況を医師に伝えやすくします。また、昼と夜との違いを比較することができ、頻尿の原因を探ることにも有効な方法です。

前立腺肥大症の薬物治療

 前立腺肥大症の薬物治療には、表に示すとおり、古典的な薬剤として、抗男性ホルモン薬、漢方薬、植物製剤などがあります。

表 前立腺肥大症に対する薬物療法
薬剤の種類内容
5a還元酵素阻害薬 前立腺肥大症の発症と進行に関わっている男性ホルモンを減らして、肥大した前立腺を小さくするお薬です。
(性機能系に与える副作用は少ないといわれています)
a1受容体遮断薬
(a1ブロッカー)
「前立腺と尿道の筋肉の緊張」をゆるめて、尿を出しやすくするお薬です。
抗男性ホルモン薬 男性ホルモンの作用を抑えて、肥大した前立腺を小さくするお薬です。
漢方薬(植物エキス製剤など) 前立腺の炎症をおさえたりして、前立腺肥大症の症状を和らげるお薬です。
抗コリン薬 「膀胱の筋肉の緊張」をゆるめて、頻尿を抑えるお薬です。適応症は「過活動膀胱におけるに尿意切迫感、頻尿および切迫性尿失禁」です。

(表引用)神楽岡泌尿器科 HPより

 お薬はどんどん進化しており、現在のところ最も一般的に使用されているのが、「α1ブロッカー(遮断薬)」といわれるお薬です。この薬を服用することで、今まで過剰に緊張していた前立腺の筋肉を緩めて、尿道への圧迫をやわらげます。そうすることで排尿を楽にすることができるようになります(図)。

図:前立腺肥大症のお薬による効果の違いを示す図。5a還元酵素阻害薬は肥大した前立腺を小さくして、尿を通りやすくする。a1ブロッカーは交感神経の働きをブロックし、前立腺の緊張を和らげることで尿を通りやすくする。

図 お薬による効果の違い

 また、この薬は前立腺だけではなく膀胱にも作用するため、昼間頻尿や夜間頻尿など膀胱に関係する症状にも効果があります。薬の副作用としては、めまいや血圧低下、ふらつきなどを引き起こすこともあります。

 しかし、いずれのお薬でも、症状を緩和する効果はありますが、前立腺肥大症のそのものを治す効果はありません。そのため、服薬するのをやめてしまうとすぐに薬を飲む前の症状に戻ってしまうので、注意が必要です。

 さらに比較的新しいお薬として、前立腺肥大を縮小させる作用を持つ「5α還元酵素阻害薬」というものがあります。「PDE5阻害薬」は、これまでの前立腺治療薬とは少し違い、前立腺そのものを小さくする効果が期待でき、α1ブロッカーとともに、治療の第一選択薬(最初に服用するお薬)として推奨されています。現在では、α1ブロッカー、5α還元酵素阻害薬、PDE5阻害薬などを、1剤あるいは複数を併用で服用していく治療法が、主流になってきています。

前立腺肥大症の手術治療

 薬を服用しても効果が表れないときや、残尿が多くなって著しく日常生活に支障をきたすときには、手術治療が適応となります。薬物治療を始める前でも、尿意があるのに尿が出なくなったり(尿閉)、血尿を繰り返す、腎臓の機能が低下する、膀胱に結石ができる、という時は、薬物治療を飛び越えて手術治療が行われることもあります。

 手術の方法としては、体にメスを入れない「内視鏡を用いた方法」が一般的です。腰椎麻酔(腰から下だけに効く麻酔)をして、尿道から内視鏡を挿入し、専用の電気メスで前立腺の肥大した部分を削り取ります。これは「経尿道的前立腺切除術」という標準的な手術です。手術時間は、患部の大きさにもよって変わりますが、およそ60分程度です。入院期間は、特に合併症や他の病気による経過観察が必要にならない場合は、1週間前後です。

前立腺肥大症に対する手術の例

 麻酔や手術に対する体力が低下した高齢者や、持病により手術が難しい場合には、尿道の中にステント(金属の筒)を入れて尿道を保護する処置をします。

 いずれの方法でも、体にはそれなりに負担がかかりますので、普段から軽い運動をする、バランスの取れた食事をするなど、排尿以外の体調管理には十分気を付けましょう。

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