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医療介護現場、関係職種によるCGAの利用(第3章の解説)

公開日:2026年1月16日 10時00分
更新日:2026年1月16日 10時00分

竹屋 泰(たけや やすし)

大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻老年看護学教授


はじめに

 高齢者医療においては、疾患の治療にとどまらず、その人らしい生活を尊重した包括的な支援が求められる。高齢者は、複数の疾患や加齢に伴う身体的・精神的機能の低下を抱えることが多く、医療と介護の双方における多職種の視点が不可欠である。CGA(高齢者総合機能評価)は、高齢者の身体的・精神的・社会的側面から生活機能を多面的に評価し、適切な介入方針を個別に導くための体系的手法である。多職種がそれぞれの専門性を発揮しつつ協働することで、患者の生活機能を最大限維持・回復するとともに、本人および家族の意思を尊重した個別化された医療とケアの提供を目指すことが重視される。本稿では、『高齢者総合機能評価(CGA)に基づく診療・ケアガイドライン2024』1)を踏まえ、医療・介護現場、関係職種によるCGAの利用について概説する。

CGAは「誰が」行うのか?

高齢者診療とケアの現場で活用されているCGAの有用性は、ランダム化比較試験(RCT)や大規模な系統的レビュー、およびメタアナリシスの結果から、医療現場や職種の違いによって異なることが示唆されている2)3)。すなわち、CGAを「誰が」行うのかによって、CGAの有用性が異なる可能性があり、さまざまな医療介護現場および関係職種によるCGAの有用性を評価するために、本ガイドラインでは各論の第3章として「医療介護現場、関係職種によるCGAの利用」というテーマが設定され、下位領域として(1)看護(看護師)、(2)介護(ケアマネジャー、介護福祉士等の役割)、(3)薬剤師、(4)リハビリテーション、(5)アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の5つの領域が設定された。

看護(看護師)

 看護領域において、抽出された論文は14件あり、5領域のうち最も多くの報告がみられた。高齢者看護においてCGAは、死亡率の低下、ADLおよびQOLの維持、さらに医療費の削減に対して有用であることが示されている。とくに死亡率の低下およびADLの維持に関しては、メタ解析によってもその有効性が明らかにされ(図)、エビデンスの強さA、推奨度1、合意率100%と、本ガイドライン全体の中で最も高い推奨が得られた。

図、看護師が行うCGAの有用性を表す図。
図 看護師が行うCGAの有用性
(出典: 長寿医療研究開発費「高齢者総合機能評価(CGA)ガイドラインの作成研究」研究班, 日本老年医学会, 国立長寿医療研究センター編. 高齢者総合機能評価(CGA)に基づく診療・ケアガイドライン2024.(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)南山堂, 20241),P87)

 看護領域は他領域と比較して報告数が多く、RCTやサブ解析の結果が蓄積されていることも特徴である。これらの研究の集積から、CGAの有効性は、より長期の追跡研究において明確に示されやすいこと、身体的フレイルの程度が強い集団で死亡率や医療費削減への効果が高まること、認知機能が低下した高齢者集団でADLの維持に有用性が確認されていることが報告されていた。これらの知見から、CGAの効果は、脆弱な高齢者の長期予後に反映されやすい可能性があると考えられる。

 看護師は、疾患に加えて生活機能を評価し、介入を行うことを得意とする職種である。CGAを活用することで、ADL、認知機能、気分、栄養状態、社会的支援体制などを多面的に評価でき、疾患のみならず生活全体を見据えた支援が可能となる。これにより、リスクの早期発見や予防的介入、退院支援、在宅移行などの場面で、より質の高い看護ケアを提供できる。また、看護師は多職種と最も関わる機会の多い職種であり、CGAは医師、薬剤師、リハビリ専門職、介護職、ケアマネジャーなどと情報を共有するための共通言語として機能する。看護師がCGAにより得た生活情報や観察所見を多職種と共有することで、チーム全体で統一した目標設定やケア方針の調整が可能となり、包括的かつ継続的な高齢者ケアの実現に寄与することができる。

介護(ケアマネジャー、介護福祉士等の役割)

 介護領域において、抽出された論文は0件であった。これは、介護領域における研究報告自体が少ないことに加え、国や地域によって介護システムが大きく異なり、わが国におけるケアマネジャーや介護福祉士に相当する職種が海外には存在しないことが一因と考えられた。

 介護職は患者の日常生活に最も近い立場にあり、CGAを通じて得られた情報を活用し、わずかな変化を早期に発見して医療職へ共有できる。また、客観的な評価法では捉えきれない重要な情報を把握しており、CGAの点数化による定量的評価をナラティブな側面から補完することで、利用者のニーズに即した介入を可能にする。CGAを医療介護連携における共通言語として活用することで、医療職との情報共有や意思決定の橋渡しを、より円滑に行うことができると考えられる。

薬剤師

 薬剤師領域において抽出された論文は2件あり、CGAを通じて処方の最適化に寄与する可能性が示された。一方で、アウトカムとして設定された入院リスク、医療費、薬物関連問題については、期待される効果は確認されなかった。そのため、本ガイドラインのステートメントにおいては、薬剤師によるCGAの活用は「提案する」にとどまる弱い推奨とされた。

 薬剤師にとってCGAは、単なる薬学的管理にとどまらず、高齢者の生活機能や認知機能、栄養状態、社会的背景を踏まえた包括的な薬物療法を実践するうえで有用である。薬剤師はCGAにより得られた情報を集約し、服薬アドヒアランスの低下や副作用リスク、ポリファーマシーの影響を多面的に把握したうえで、適正な処方調整や服薬支援へとつなげることが求められる。また、CGAは多職種間の情報共有を促進し、共通の評価指標として薬物治療の方針を検討する基盤となる。薬剤師がCGAを活用することは、医療と生活の両面から高齢者のQOL向上に寄与することが期待される。

リハビリテーション

 リハビリテーション領域において、抽出された論文は高齢大腿骨近位部骨折患者を対象とした2件であった。各研究においてアウトカムに対する有用性にばらつきがみられたが、メタ解析の結果、死亡率、再入院率、ADL、身体機能、医療費のいずれにおいても、CGA施行群と非施行群との間に有意差は認められなかった。また、今回抽出された文献の対象疾患は大腿骨近位部骨折に限られており、エビデンスは限定的であった。今後は、より多様な疾患を対象とした研究の蓄積が望まれる。

 リハビリテーション領域においてCGAは、単なる運動機能の改善にとどまらず、生活機能の再獲得や再入院予防を目的とした個別性の高い介入計画の立案に有用である。患者と1対1で関わる機会の多い療法士は、日常の何気ない会話や観察の中でCGAのスクリーニングを行い、その結果を多職種間で共有することで、情報共有や目標設定を円滑にし、より包括的で持続可能なリハビリテーションの実現に寄与することができる。

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)

 ACPとは、人生の最終段階における医療やケアを見据えて、医師などの医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされ、それに基づいて患者本人と家族が多専門職種の医療・介護従事者から構成される医療・ケアチームと十分な話し合いを行い、本人による意思決定を行う過程を指す4)。本ガイドラインにおいては、悪性腫瘍の併存・既往がある高齢者を対象としたACPに関する文献検討を行ったが、該当する論文は見当たらず、今後の研究課題である。

 ACPにおいてCGAは、本人の価値観や希望を踏まえた意思決定を支援するうえで重要な役割を担う。CGAによって患者の生活目標や支援ニーズが明確になり、本人の希望に即した医療・ケア方針を具体的に検討できる。ACPを行う職種は症例によって異なるが、いずれの職種が行った場合でもCGAは多職種が共有できる共通言語となり、情報共有や合意形成を円滑にすることができる。

関係職種に関するCGAの課題

 関係職種によるCGAの有用性については、依然報告が少なく、看護領域を除いて抽出された論文は極めて少なかった。また、CGAにおけるアウトカムは、死亡率や入所率に加えADLやQOLが重視されるが、研究ごとに評価尺度が異なっており、メタ解析が困難であった。今後は、国際的に統一された評価尺度の導入が望まれるとともに、単純に「エビデンスが乏しい領域」と捉えるのではなく「メタ解析が困難な領域」と捉える視点が必要である。

 また、CGAは「評価→ケアプランの作成→ケアプランの実践」の三段階から成るが5)、適切なケアプランの作成や実践が伴わなければCGAの有用性は発揮されない。本ガイドラインに含まれた文献には、評価後の介入を詳細に規定したものは少なく、現状では現場の裁量に委ねられている。この不均一性が有用性のばらつきにつながっていると考えられる。今後はCGA評価後の標準化と臨床現場への実装が不可欠である。さらに、そもそもCGAは多職種で行うことが原則であり、「関係職種におけるCGAの有用性」という問いは「各職種が単独で実施するCGA」の有用性ではなく、「各職種が多職種の中で中心的な役割を果たすCGA」の有用性を意味する。実際、看護領域における報告では、看護師が多職種協働の中でCGAを主導し、共通言語として利用しながらファシリテータ機能を果たしていた。しかし多職種連携は有用性が理論的に認識されながらも、多忙な臨床現場では直接的な情報共有の機会が時間的にも物理的にも制約され、現場での調整は容易ではない。今後は「誰が」CGAを実施するかに加え、効率的に関係職種が連携できるシステムを構築し介入すること、すなわち「どのように」CGAを行うかが課題となる。

今後の展望

 今後の研究課題として、第一に、各職種におけるCGAの活用と効果を検証する研究を推進していくこと、第二に、臨床現場でCGAを効率的に運用するためにICTやAIなどのテクノロジーを活用することが期待される。さらに、CGAは単なる評価手法にとどまらず、適切な介入を通じて高齢者医療・介護の質保証に寄与する重要な枠組みである。CGAに基づくデータの蓄積と解析は、医療政策立案や医療資源配分の合理化にも資する可能性があり、研究者・臨床家・政策担当者が連携し、臨床実装と学術研究の双方の視点からCGAを発展させていくことが望まれる。ガイドラインの名称が『高齢者総合的機能評価ガイドライン』から『高齢者総合機能評価に基づく診療・ケアガイドライン2024』へ刷新されたのは、このような観点から、CGA評価後のケアの標準化を通じて、未来の高齢者医療を見据えたものだからである。

文献

  1. 長寿医療研究開発費「高齢者総合機能評価(CGA)ガイドラインの作成研究」研究班, 日本老年医学会, 国立長寿医療研究センター編. 高齢者総合機能評価(CGA)に基づく診療・ケアガイドライン2024.(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)南山堂, 2024(2025年12月23日閲覧)
  2. Pilotto A, Cella A, Pilotto A, et al.:Three Decades of Comprehensive Geriatric Assessment:Evidence Coming From Different Healthcare Settings and Specific Clinical Conditions. J Am Med Dir Assoc. 2017;18(2):192.e1-192.e11.

  3. Vetrano DL, Palmer K, Marengoni A, et al.:Frailty and Multimorbidity:A Systematic Review and Meta-analysis. J Gernontol A Biol Sci Med Biol Sci. 2019;74(5):659-666.

  4. 厚生労働省:人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン, 2018.

  5. Parker SG, McCue P, Phelps K, et al.:What is Comprehensive Geriatric Assessment (CGA)? An umbrella review. Age and Aging. 2018;47(1):149-155.

筆者

たけややすし氏の写真。
竹屋 泰(たけや やすし)
大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻老年看護学教授
略歴
1997年:大阪大学医学部卒業、1998年:国立大阪南病院循環器内科、2008年:大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了、2011年:大阪大学大学院医学研究科老年・腎臓内科学助教、2019年:大阪大学大学院医学系研究科老年・総合内科学講師、2020年より現職
専門分野
老年医学、老年看護学

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health 2026年 第34巻第4号(PDF:9.1MB)(新しいウィンドウが開きます)

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