CGAを用いた老年疾患・老年症候群の管理(第2章の解説)
公開日:2026年1月16日 10時00分
更新日:2026年1月16日 13時54分
梅垣 宏行(うめがき ひろゆき)
名古屋大学大学院医学系研究科地域在宅医療学・老年科学教授
こちらの記事は下記より転載しました。
はじめに
このたび、『高齢者総合機能評価(CGA)に基づく診療・ケアガイドライン』1)が新たに発表された。このガイドラインの第2章では、「CGAを用いた老年疾患と老年症候群の管理」について、システマティックレビューが実施されエビデンスが収集されたうえで、推奨度が決定された。対象となったのは、フレイル/低栄養、認知症、ポリファーマシー、Multimorbidity(多疾患併存)、糖尿病、高血圧・心疾患、(誤嚥性)肺炎、骨折、外科手術(周術期)、悪性腫瘍である。
認知症、Multimorbidity、骨折、外科手術(周術期)、悪性腫瘍については、CGAの実施が推奨(推奨度1)、フレイル、糖尿病、高血圧・心疾患については提案(推奨度2)とされた。低栄養については文献がなく検討ができなかった。また、(誤嚥性)肺炎については、直接的なエビデンスがなくフューチャーリサーチクエスション※1となった。悪性腫瘍については、CGAの実施により、有害事象減少、QOL向上、入院の減少の効果が得られるとのエビデンスが存在しており、「薬物療法を予定する高齢者悪性腫瘍患者の管理にCGAを実施することを推奨する」と記載された。
以下に個別の症候・疾患に対する記載の概略を示す。以下の囲み枠は、『高齢者総合機能評価(CGA)に基づく診療・ケアガイドライン』1)からの引用である。
※1 フューチャーリサーチクエスション(Future Research Question;FRQ)は、今後の研究において回答が得られるであろう問い。
老年症候群へのCGA適用
1.フレイル
CQ※2:フレイル高齢者においてCGAは有用か?
ステートメント:フレイル高齢者に対してCGAを行うことを提案する。
フレイル高齢者においては自立機能の改善、緊急入院の発生率低下、死亡率の低下などアウトカムに対してRCTが存在し、有用性を示す報告もあったが、必ずしも一貫した改善効果が示されているとはいえず、CGAの効果が明確に示されたとは言えなかった。しかし、CGAを実施することは患者に対するリスクは低く、QOLや生活機能を支援するという観点から臨床的意義は高いと考えられ、「行うこと」を提案するとされた。
※2 CQ(Clinical Question;クリニカルクエスチョン)は、臨床の中で生じる問い。
2.認知症
CQ:認知症高齢者に対するCGAの中の認知機能、行動・心理症状評価ツールによる評価は有用か?
ステートメント:認知症高齢者においてCGAを行う場合に、認知機能もしくは行動・心理症状評価ツールによる評価を行うことを推奨する。
認知症高齢者に対して、CGAにおいて認知機能・行動心理症状評価を行うことに対する介入研究では、2件の報告のうち、1件では有益な結果が得られたが、もう1件では、明確な効果が証明されなかった。一方で4件の観察研究では、CGAの結果が予後と関連している、もしくはCGAの結果から予後予測が可能であることを示していた。エビデンスとしては限定的であるが、認知症高齢者において認知機能の推移もしくは行動・心理症状の程度を評価する臨床的な必要性は高く、一方でこうした評価が有害事象につながる蓋然性が低いことを考慮して、認知症高齢者におけるCGAに認知機能もしくは行動・心理症状評価ツールを含めることを推奨するとされた。
3.ポリファーマシー
CQ:高齢者のポリファーマシーに対し、CGAの実施は有用か?
ステートメント:高齢者のポリファーマシーに対してCGAを行うことを提案する。
特定の疾患の有無に関わらずポリファーマシー患者に対しCGAによる薬剤数減少や予後の改善を評価した研究は少なく、介入研究が1件であった。この研究においては、CGAの実践により、ポリファーマシー患者においてQOLの低下抑制効果が認められ、薬剤見直しの有用性が示された。エビデンスの強さは弱いながら、CGAの実践を提案するとされた。
4.Multimorbidity(多疾患併存)
CQ:Multimorbidityの高齢者に対し、CGAの実施は有用か?
ステートメント:Multimorbidityの高齢者に対してCGAを行うことを推奨する。
複数の慢性疾患を有する高齢者にCGAを適用する介入研究が2件あった。1件目の研究では、生存日数の延長、入院回数・入院日数の減少などの効果が認められ、2件目の研究でも、フレイルと死亡の合算の頻度が減少した。介入による有害事象のリスクは低く、介入コストの増大も明確には認められていない。研究の数は少ないものの、アウトカム改善が一貫して報告されているため、「推奨」とされた。
5.糖尿病
CQ:高齢糖尿病患者の管理にCGAを用いることは有用か?
ステートメント:高齢糖尿病患者の管理にCGAを用いることを提案する。
糖尿病に特化したCGAの介入研究は限られているが、主に骨折後の糖尿病患者においてCGAの実施がADLの改善やQOLの維持に関連することが示唆された。大規模なRCTや比較試験は少ないものの、高齢者糖尿病診療ガイドラインにおいても、高齢糖尿病患者では老年症候群の合併が多いためCGAの実施が望ましいとされており、本ガイドラインでもCGAの実施を提案するとした。
6.高血圧・心疾患
CQ:高齢者の高血圧、心疾患の治療方針を決定するにあたって、CGAを用いて評価することは有用か?
ステートメント:高齢者の高血圧、心疾患の治療方針を決定するにあたって、CGAを用いて評価することを提案する。
高齢の心血管疾患患者に対するCGAの有用性については、3件の報告があった。いずれも観察研究であったが、CGAの有効性が示された。リスク層別化や予後予測、治療方針の調整に有用であると考えられ、介入研究の報告はないが、アウトカム改善に対する方向性は一致していたため、本CQに対してCGAを用いて評価することを提案するとされた。
7.(誤嚥性)肺炎
CQ:CGAに基づく多職種連携のチームアプローチは、高齢者肺炎の改善に有用か?
ステートメント:高齢肺炎患者に対するCGAを基にした多職種連携のチームアプローチの有用性について、直接的な効果を示すエビデンスはなかったが、高齢肺炎患者のCGAによる高齢者特有の特性を理解した多職種によるチームアプローチは重要であり、今後の研究に期待する。
肺炎を対象としたCGAの介入研究は確認されなかったが、誤嚥性肺炎における栄養、嚥下機能、口腔機能、ADLなど多面的評価の重要性は広く認識されている。チーム医療による包括的管理にCGAが寄与し得ると考えられるものの、現時点ではエビデンスは乏しく今後の研究が期待される。
8.骨折
CQ:CGAによるスクリーニングは高齢者の骨折の管理に有用か?
ステートメント:高齢者の骨折後の管理にCGAを行うことを推奨する。
後ろ向きのコホート研究では、大腿骨近位部骨折によって入院した患者にCGAを実施したほうが死亡率が低かったと報告され、RCTでは、CGA実施群で骨折手術後の運動機能が良好であったと報告されており、骨折後の管理にCGAは有用であると考えられた。
9.外科手術(周術期)
CQ:高齢者の消化器がん、大動脈疾患、心疾患に対する外科手術にあたって、術前にCGAを用いて評価することは有用か?
ステートメント:高齢者の消化器がん、大動脈疾患、心疾患に対する外科手術にあたって、術前にCGAを用いて評価することを推奨する。
がん手術、大動脈手術、心臓手術などの術前にCGAを導入することで、生命予後改善、術後合併症・せん妄の減少が報告されている。観察研究が中心であるが、臨床的意義が高く、「強い推奨」とされた。
10.悪性腫瘍
CQ:高齢者の悪性腫瘍(薬物療法)の管理にCGAは有用か?
ステートメント:薬物療法を予定する高齢悪性腫瘍患者の管理にCGAを実施することを推奨する。
悪性腫瘍については、CGAの実施により、生存期間の延長効果はないものの、薬物療法による有害事象減少、QOL向上が得られるとのエビデンスが存在しており、「薬物療法を予定する高齢者悪性腫瘍患者の管理にCGAを実施することを推奨する」と記載された。
まとめ
総じて、本ガイドラインは、高齢者医療におけるCGA(高齢者総合機能評価)の臨床的有用性を支持するエビデンスが存在することを明らかにした。特に一部の疾患領域では、CGAの実施により転帰改善や医療資源の適正化に寄与する可能性が示されている。一方で、多くの疾患・病態においては、CGAの介入効果を検証する質の高い研究は不足しており、明確な推奨を行うには限界があるCQも多かった。
CGAが高齢者医療において重要な役割を担い得ると考えられる一方で、今後さらに検討と実証が必要であることが示唆される。また、アウトカム指標の標準化や、医療・介護現場での実装可能性、チーム医療との連携体制の整備といった、実践的課題にも取り組む必要がある。
今後は、多様な高齢者集団におけるCGAの効果を前向きに検証する介入研究や、日常診療におけるリアルワールドデータの活用を通じた実用的エビデンスの構築が求められる。CGAの実践とその評価を継続的に積み重ねていくことで、より科学的根拠に基づいた、高齢者一人ひとりのニーズに即した診療の質向上につながることが期待される。
文献
- 長寿医療研究開発費「高齢者総合機能評価(CGA)ガイドラインの作成研究」研究班, 日本老年医学会, 国立長寿医療研究センター編. 南山堂, 2024(2025年12月23日閲覧)
筆者

- 梅垣 宏行(うめがき ひろゆき)
- 名古屋大学大学院医学系研究科地域在宅医療学・老年科学教授
- 略歴
- 1990年:名古屋大学医学部卒業、市立四日市病院研修医、1995年:米国National Institute on Aging, National Institutes of Health Researcher、1997年:東京都老人総合研究所客員研究員、1998年:名古屋大学医学部大学院卒業、医学博士取得、名古屋大学医学部老年科医員、2002年:同助手、2007年:同老年内科助教、2012年:名古屋大学大学院医学系研究科地域在宅医療学・老年科学講師、2017年:同准教授、2021年:名古屋大学未来社会創造機構 ナノライフシステム研究所准教授(兼務)、2023年より名古屋大学大学院医学系研究科地域在宅医療学・老年科学教授、名古屋大学未来社会創造機構ナノライフシステム研究所教授(兼務)
- 専門分野
- 老年医学、認知症、高齢者糖尿病
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