健康長寿ネット

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サルコペニアの治療

運動療法

 サルコペニアは、加齢に伴う骨格筋量の低下と筋力(握力)低下、もしくは身体能力(歩行速度)の低下がみられることによって診断されます。これらは、加齢によって骨格筋の筋繊維の減少や筋繊維を支配している運動ニューロンの減少、運動を伝える神経の機能低下などにより起こり、さらに、骨格筋の成長に関わるホルモン、血流、炎症、インスリン抵抗性などが関与しています1)

 筋肉量を増やし、筋力や身体能力を改善するためにはレジスタンス運動と低強度の有酸素運動が効果的であることが言われています。レジスタンス運動とは抵抗を加えた運動であり、筋力トレーニングとして一般的に知られています。高齢者や虚弱(フレイル)であっても、コンスタントに筋力トレーニングを行うことで筋力増強や身体能力の向上はみられます2)。筋肉量の減少や筋力低下がみられる部位や程度、元々の身体能力は個人によって異なるため、個人の状態に合った筋力トレーニングを実施することが望ましいと言えるでしょう。

 また、毎日のウォーキングやサイクリング、水泳、ラジオ体操などの低強度(軽く息が弾む程度)の有酸素運動を行い、全身の筋肉を動かすことでも骨格筋が収縮し、筋肉の成長を促すたんぱく質合成が誘導されます3)。毎日の生活の中で、散歩などの身体を動かす活動と筋力トレーニングを少しずつ実施し、習慣化して継続していくことが大切です。

栄養療法

 骨格筋量、筋力、身体機能は、たんぱく質の摂取量に深く関係しており、たんぱく質の摂取の重要性が言われています。高齢者では、若年者に比べてたんぱく質合成によって筋肉を成長させる働きが弱いため、1日の骨格筋でのたんぱく質合成を維持するためには毎食、良質なたんぱく質を25~30g摂取する必要があります。

 1日量に換算すると75~90gのたんぱく質摂取が必要であるということになりますが、実際に厚生労働省の平成27 年国民健康・栄養調査結果の概要によると、70歳以上の高齢者の一人一日当たりのたんぱく質摂取量の平均値は68.5gであり、比較的十分な量のたんぱく質を摂取しているようにも思えますが、平均値であるため、摂取量が低い高齢者も多く存在すると思われます。また、年齢別でみてみると、グラフおよび表より、50歳代、60歳代に比べて70歳以上で摂取量が減少しており、高齢になるほどたんぱく質合成の働きが低下することを踏まえると、十分な量の摂取をしているとは言い難いことが伺えます。

 ただし、過度なたんぱく質摂取は腎障害のリスクを高めるため、腎機能の低下がみられる高齢者は医師や管理栄養士への相談が必要です3)

グラフ:年齢階級別、一日のたんぱく質摂取量の平均値を表したグラフ。グラフのデータは表のとおり。
グラフ :年齢階級別、たんぱく質摂取量の平均値 4)より作成
表:年齢階級別、たんぱく質摂取量の平均値 (単位g)
年齢1~6歳7~14歳15~19歳20~29歳30~39歳40~49歳50~59歳60~69歳70歳以上
タンパク質摂取量 44.6 69.9 79.9 70.4 67.5 67.4 71.1 73.3 68.5

 たんぱく質の摂取とともに身体活動・運動を行うためのエネルギーや、骨代謝や抗酸化作用を促すビタミン・ミネラルを摂取することも大切です。十分なたんぱく質とエネルギーの摂取を行い、栄養バランスのとれた食事を心がけましょう。

薬物療法

 筋肉でのたんぱく質合成を促すには、必須アミノ酸*のロイシンを補給すると効果的であることが注目されています。また、加齢によって機能が低下するホルモンの補充療法の研究も行われており、精巣から分泌される男性ホルモンのテストステロンや成長ホルモンの投与によって骨格筋量の増加が認められたという報告もあります。

 その他、交感神経ベータ受容体活性化薬の投与による骨格筋量の増加がみられたという報告など、サルコペニアに対する薬物療法の研究が行われています5)

*必須アミノ酸:体内ではつくられず、栄養素として摂取する必要のあるアミノ酸

参考文献

  1. サルコペニアの診断・病態・治療 葛谷雅文 日老医誌2015;52:343―349 3p
  2. 高齢者のサルコペニアと転倒 山田 実 日本転倒予防学会誌Vol.1:5-9 2014 4p
  3. 日本人の食事摂取基準(2015年度)」策定検討会審議会資料 参考資料1 対象特性 高齢者 2-1-3.たんぱく質代謝と筋肉 厚生労働省(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  4. 平成27年「国民健康・栄養調査」の結果 報道発表資料 結果の概要 栄養素・食品別摂取量などに関する状況 表10 栄養素など摂取量(1歳以上、男女計、年齢階級別)厚生労働省(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  5. サルコペニアに対する治療の可能性―栄養,薬物― 江頭正人 日老医誌2011;48:55―56

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