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高齢者糖尿病の治療

公開日:2016年7月25日 16時00分
更新日:2019年8月 6日 09時46分

糖尿病の種類と基本的な治療方針

 糖尿病には、生活習慣によって発症しやすい「2型糖尿病」と、習慣は関係ない「1型糖尿病」の大きくわけて2種類にわけられます。

 そのうち、日本人の約95%を占める「2型糖尿病」では、診断された後まず積極的に行われるのは「運動療法」と「食事療法」となります。

 この二つの療法を行ってもなお血糖値が高い値のまま維持しているようならば、「薬物療法」を取り入れ、血糖値を正常値に近づける治療を行います。

糖尿病学会の「熊本宣言」

 平成25年、糖尿病学会において一つの指針が打ち出されました。それが、「HbA1c※1は7%未満を目標とする」という「熊本宣言」です。

 糖尿病の怖いところは、血糖値が高いまま持続することで体中の様々な臓器に合併症を引き起こすところです。その合併症を予防するために提言されたのが、「HbA1cは7%未満」という数値でした。

 HbA1cは過去一か月における血糖値の変動を示す値となっています。正常値は6.5%以下ですが、日本糖尿病学会において、糖尿病となった方が健康で幸福な寿命を全うするためには、早期から良好な血糖値を維持することが重要」として、7%未満という指針を打ち出しました。

 この指針は、当時学会が熊本で開催されたことから「熊本宣言」とされ、くまモンのイラストとともに、糖尿病を扱っている病院やクリニックなどでも掲示されるようになりました。

※1 HbA1c(ヘモグロビン・エイワンシー):
HbA1c(ヘモグロビン・エイワンシー)とは、血管内の余分なブドウ糖と赤血球の蛋白であるヘモグロビンとが結合した、糖尿病と密接なグリコヘモグロビンのことをいいます。

高齢者糖尿病の治療指針

 平成28年、65歳以上の高齢者に対応した「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標値」が日本糖尿病学会より発表されました。

 高齢者は身体状態などに個人差が大きく、また血糖コントロールが成人に比べて困難になりやすいという特徴があります。そこで、高齢者に対しては「熊本宣言」での「HbA1cを7%未満」という指針ではなく、個別の状態や健康状態、そして現在行われている治療内容によってより細かな目標値が設定されました。

 また、高齢者糖尿病の特徴として挙げられている「低血糖を起こしやすい」ということも考慮し、HbA1cの上限とともに、状態に応じて「下限」が提示されていることも、特徴の一つといえます。

 具体的な数値としては、まず高齢者を「認知機能」と「運動機能」によって3つのカテゴリーに分類します。

 運動機能については、着衣や入浴、食事など生きていく上で基本的なことができる「基本的ADL」と、買い物や食事の準備などの「手段的ADL」に分類しています。

 年を重ねるに従い、個人差はあるものの物事を認知する能力や運動機能は低下していくとされています。そのため、高齢者の多様性に応じた基準値を設定することで、個々の認知機能や運動機能に沿えるようするため、今回の指標が設定されました。

カテゴリー1:
認知機能正常、かつADL自立
カテゴリー2:
軽度認知障害~軽度認知症、または手段的ADL低下、基本的ADL自立
カテゴリー3:
中等度以上の認知症、または基本的ADL低下、または多くの依存疾患や機能障害

 これら3つのカテゴリーに加えて、さらに重度の低血糖が危惧される薬(インスリン製剤・SU薬・グリニド薬など)の使用の有無により、おおまかに6段階の分類がされます。

 それぞれの分類に対する目標値は、表の通りとなります。

表:高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)
薬の有無カテゴリー1カテゴリー2カテゴリー3
なし 7.0%未満 7.0%未満 8.0%未満
あり 65歳以上75歳未満...7.5%未満(下限6.5%) 8.0%未満(下限7.0%) 8.5%未満(下限7.5%)
あり 75歳以上...8.0%未満(下限7.0%) 8.0%未満(下限7.0%) 8.5%未満(下限7.5%)

高血糖ではなく「低血糖防止」を重視する理由

 糖尿病の治療に当たって、TVなどでよく特集されるのは「高血糖」についてであり、低血糖について特集されることはほとんどありません。

 ではなぜ、高齢者糖尿病の場合は低血糖防止が重視されているのでしょうか? 

 その理由として挙げられるのは、「加齢に伴う腎臓・肝臓の機能低下によって薬の代謝が遅くなってしまうから」そして「自覚症状を感じにくく、合併症による神経障害によって重篤な状態であっても症状として出にくい」からです。

 糖尿病の薬の中でも、特に強い血糖降下作用を持つ薬を使用している場合、注意が必要です。

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