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高齢者の膝痛体操の効果と方法

公開日:2016年7月24日 01時00分
更新日:2023年6月 8日 10時33分

高齢者の膝痛の現状

 厚生労働省の平成28年国民生活基礎調査の男女別の有訴者率の上位5症状を見てみると、「手足の関節が痛む」という自覚症状がある人の人口千人当たりの割合(有訴者率)は、男性40.7、女性は70.2で男女ともに有訴者率の上位5位以内に入っています1)(グラフ1、表1)。

グラフ1:性別にみた有訴者率の上位5症状を示す棒グラフ。男性の1位は腰痛、2位は肩こり。女性の1位は肩こり、2位は腰痛となっている。
グラフ1:性別にみた有訴者率の上位5症状(複数回答)1)

注:

  1. 有訴者には入院者は含まないが、分母となる世帯人員には入院者を含む。
  2. 平成28年の数値は、熊本県を除いたものである。
表1:性別にみた有訴者率の上位5症状(複数回答)1)
順位男性女性
1位 腰痛 肩こり
2位 肩こり 腰痛
3位 せきやたんが出る 手足の関節が痛む
4位 鼻がつまる・鼻汁が出る 体がだるい
5位 手足の関節が痛む 頭痛

 平成28年の「手足の関節が痛む」と回答した有訴者率を年齢別でみてみると、男女ともに50代以上で多く、高齢になるほど有訴者率が高くなることがわかります2)(グラフ2、表2)。

手足の関節が痛むと回答した有訴者率を年齢別でみてみると、男女ともに50代以上で多く、高齢になるほど有訴者率が高くなるを示す棒グラフ。
グラフ2:手足の関節が痛むと回答した有訴者率(年齢別)平成28年2)
表2:手足の関節が痛むと回答した有訴者率(年齢別)平成28年2)
年齢男性女性
総数 40.7 70.2
9歳以下 1.8 1.6
10代 11.5 10.3
20代 7.9 12.5
30代 16.9 22.2
40代 27.3 42.2
50代 45.4 84.2
60代 63 98.8
70代 87.1 139.4
80歳以上 109.9 173
65歳以上 85.2 138.8
75歳以上 103.1 163.8

 平成20年の厚生労働省の「介護予防の推進に向けた運動器疾患対策について」によると、高齢者の膝痛がみられる主な疾患としては変形性膝関節症が挙げられ、変形性膝関節症の患者数は自覚症状を有するものは1,000万人、レントゲン診断による患者数は約3,000万人と推定されています3)

膝痛の問題

 膝痛の原因となり、患者数も多い変形性膝関節症は、高齢になるほど発症しやすくなります。膝の関節軟骨のすり減りが進むと、じっとしていても痛むようになり、関節の動きが制限され、歩くことや日常生活動作が困難となります。

 膝痛がみられる疾患には変形性膝関節症のほかに、関節リウマチ、大腿骨内顆骨壊死(だいたいこつないかこつえし)、半月板・靭帯損傷、痛風・偽痛風などがあり、大腿骨内顆骨壊死は変形性膝関節症と合併しやすく、半月板損傷があると将来的に変形性膝関節症を発症しやすくなります。

 膝痛がみられると痛みのために歩くことや動くことが障害され、身体活動量が低下します。身体活動量が低下し、外出機会が減って家の中でも動くことが少なくなると、筋肉量や筋力の低下、体力・持久力の低下、体重の増加をもたらし、ますます動けなくなっていきます。閉じこもりや精神的な落ち込みなどにもつながり、生活機能が低下してやがては介護が必要な状態となります。

 平成28年の要介護度別にみた介護が必要となった主な原因をみてみると、要支援となる原因の1位に関節疾患が入っています(表3)4)。関節疾患をはじめとする運動器の障害が生じて歩行機能が低下し、生活機能の低下や社会参加の機会の減少、要介護が必要となる状態はロコモティブシンドロームと呼ばれ、健康寿命が縮む要因となることが知られています。

表3:要介護度別にみた介護が必要となった主な原因(上位3位)(平成28年) (単位:%)4)
要介護度第1位第2位第3位
総数 認知症 (18.0) 脳血管疾患(脳卒中) (16.6) 高齢による衰弱 (13.3)
要支援者 関節疾患 (17.2) 高齢による衰弱 (16.2) 骨折・転倒 (15.2)
要支援1 関節疾患 (20.0) 高齢による衰弱 (18.4) 脳血管疾患(脳卒中) (11.5)
要支援2 骨折・転倒 (18.4) 関節疾患 (14.7) 脳血管疾患(脳卒中) (14.6)
要介護者 認知症 (24.8) 脳血管疾患(脳卒中) (18.4) 高齢による衰弱 (12.1)
要介護1 認知症 (24.8) 高齢による衰弱 (13.6) 脳血管疾患(脳卒中)(11.9)
要介護2 認知症 (22.8) 脳血管疾患(脳卒中) (17.9) 高齢による衰弱 (13.3)
要介護3 認知症 (30.3) 脳血管疾患(脳卒中) (19.8) 高齢による衰弱 (12.8)
要介護4 認知症 (25.4) 脳血管疾患(脳卒中) (23.1) 骨折・転倒 (12.0)
要介護5 脳血管疾患(脳卒中) (30.8) 認知症 (20.4) 骨折・転倒 (10.2)

注:熊本県を除いたものである。

 膝痛が生じ、膝痛がひどくなる要因には加齢や肥満、過度の痩せ、運動不足、活動量の低下、重労働、膝痛の放置などがあげられます。健康なうちから活動的に過ごして運動を行う習慣をつけ、筋力・筋肉量を維持することと、膝の不調が見られたら早めに受診し、適切な治療や対策をとることが大切です。

膝痛体操の方法と効果

 膝痛があるからといって安静にしてばかりでは筋力が低下して、関節も硬くなり、さらに膝への負担が増して痛みの悪化にもつながります。痛みの出ない範囲で無理なく体操を行うことで、筋力アップを図り、柔軟性を促して膝への負担を軽くしましょう。運動を行うことで血流もよくなり、痛みの緩和も期待できます。

 体操はウォーミングアップで全身の血流、関節の循環をよくしてから筋肉の柔軟性を促すストレッチと、筋力アップを図る筋力トレーニングを合わせて行いましょう。それぞれ2セットから3セットずつ、朝・夕の2回行うのが理想的です。痛みの出ない範囲で行いましょう。

ウォーミングアップ

 椅子に座って両腕を前後に大きく振りながら20回足踏みをします(図1)。

図1:椅子に座って両腕を前後に大きく振るウォーミングアップを示すイラスト
図1:ウォーミングアップ

ストレッチ

  1. 椅子にやや浅めに座り、足首をそらして片足の膝を伸ばします。背中は伸ばしたまま、膝のお皿のやや上部分をゆっくりと押して太ももの裏とふくらはぎを伸ばしましょう。ゆっくり10秒間伸ばします。左右の足を入れ替えて5回ずつ行いましょう(図2)。
  2. 床に膝を伸ばして座り、両手を足首に添えて足の裏を床に沿わせながらゆっくりと引き寄せるように膝を曲げていきます。左右の足10回ずつ行いましょう(図2)。
図2:ふくらはぎのストレッチと膝を曲げる運動を示すイラスト
図2:ストレッチ

筋力トレーニング

  1. 椅子にやや浅めに座って片足の膝を伸ばした状態から上に上げます。そのままゆっくり5秒間キープしてから下におろします。左右の足10回ずつ行います。仰向けに寝て行う場合は、片膝を立てて、もう一方の足は膝を伸ばした状態で床から上げます(図3)。
  2. 足を持ち上げることが難しい方は、床に足を伸ばして座り、片膝を立て、もう一方の膝の裏に丸めたタオルを入れ、タオルをつぶすように膝を伸ばしながら力を入れます。5秒間膝に力を入れてキープして力を抜きましょう。左右の足10回ずつ行います(図3)。
図3:椅子に座ってもも上げの筋力トレーニングと、床に座って行う筋力トレーニングを示すイラスト
図3:筋力トレーニング

 膝痛体操を行うとともに、生活の中で手すりや杖、歩行器などを活用して膝への負担を減らしながら動くように心がけましょう。痛みが続く場合は無理をせずに早めに受診しましょう。

参考文献

  1. 平成28年国民生活基礎調査の概況 Ⅲ世帯員の健康状況 厚生労働省(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  2. 平成28年国民生活基礎調査 統計表 第10表 性・年齢階級・症状(複数回答)別にみた有訴者率(人口千対) 厚生労働省(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  3. 介護予防の推進に向けた運動器疾患対策について 報告書 厚生労働省(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  4. 平成28年国民基礎調査 表20 要介護度別にみた介護が必要となった主な原因(上位3位) 厚生労働省(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)

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