健康長寿ネット

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言語能力の加齢変化

公開日:2019年8月 9日 10時00分
更新日:2019年7月26日 14時57分

 人は誰かとコミュニケーションを取るとき、相手の言葉を理解し、自分の意思を言葉で伝えようとします。この能力を「言語能力」といいますが、言語能力には加齢による変化があります。

言語能力を司る脳

 私たちの言語能力には、3つの役割があると考えられています1)

  1. 何かを創造すること、何かを理論立てて考えること
  2. 感情や気持ちを表すこと
  3. 自分の創造や考え、感情や気持ちを誰かに伝えること(コミュニケーション)

 言語能力は、生まれたばかりの赤ちゃんには十分に備わっていません。言葉を話せるようになるまでには、不快な気分を誰かに伝えるために「泣く」という行動を取ります。幼児になってある程度言葉が出るようになっても、はっきりと聞き取れるようになり、自分の考えを相手にしっかり伝えるようになるまでには、さらに数年かかります。

 子供は、身近な人との会話や、生活する上で耳にする言葉から言語を獲得します。だんだんと使える言語が増えてくると、新しいことを知り、表現の仕方が複雑になり、考えながら会話をしたりするようになります。

 これらを司っているのは、脳にある言語中枢と呼ばれる部位です。言語中枢は二つあり、一つは「ブローカー野」、もう一つは「ウェルニッケ野」と呼ばれています(図1)2)

図1:脳の言語中枢のブローカー野とウェルニッケ野をしめす図
図1:脳内の言語中枢

高齢による言語能力の変化

写真1:加齢による言語障害をあらわすイラスト

 言語能力は、記憶、見当識、遂行機能などと合わせ、「認知機能」とされています。高齢になると、こうした各機能は徐々に衰えてきます。特に記憶については、少し前のこと(短期記憶)が記憶できなくなってきます。また、遂行機能が衰えてくると、行動の目標を立てて実行することや、状況に応じて行動を調節することが難しくなってきます。しかし言語能力については、状況に応じて変わってきます2)

 例えば、脳疾患を経験し言語中枢に障害を受けた場合は、年齢に関わらず「失語」の状態になります。また、何らかの疾患などにより構音器官に障害を受けた場合にも、上手く言葉を発することができなくなります。

 しかし、こうした既往がなく、軽度認知障害や認知症が無い場合は、言語能力は比較的保たれているといわれています。過去に行われた研究などからは、言語能力は70歳前後までは保たれているといわれていますが、その後は言語に対する理解力が徐々に低下します。しかし、記憶力や物事の処理速度が低下することと比べると、言語能力は保たれていることが分かっています3)4)

失語2)

 言語能力を失い、言葉が出なくなる、会話が成り立たなくなることを「失語」といいます。失語には、運動性失語と感覚性失語、その他の失語があります。

運動性失語

 脳内の「ブローカー野」が障害を受けたときにみられる失語です。言葉を理解している、言いたいことも考えられているにも関わらず、上手く「言葉」として表現できない状態です。例えば、りんごを見た時に、それが「りんごである」と理解はしていますが、「りんご」という発語ができません。

感覚性失語

 脳内の「ウェルニッケ野」が障害を受けたときにみられる失語です。流暢な言葉を発することはできますが、言葉の意味を理解できない状態です。例えばりんごを見た時に、それが「りんごである」ことが分かりません。しかし流暢に言葉を発することはできるため「これは何ですか?」と聞かれると「今日は雨が降りそうですね」など、まったく違うことを返したりします。

その他の失語

 失語症にはその他にも、いくつかのタイプがあります。

  • 全失語:運動性失語と感覚性失語が合併した状態です。
  • 伝導失語:言葉を理解できていても、復唱することが難しい状態です。
  • 健忘失語:物の名前などが思い出せない状態です。

構音障害5)

写真2:構音障害をあらわすイラスト

 失語症とは区別される障害として、構音障害があります。これは、言葉を発するための器官(構音器官)が障害されることによって起こります。

 構音器官とは、口から喉までの器官です。喉の奥にある「声帯」を、呼吸によって震わせることで、音を出します。音は、喉から鼻や口までにある「腔」で共鳴して大きな声となり、下や口唇の動きによって特徴的な「声」になります。

 この過程のどこかが障害されると、はっきりとした声になりません。例えば声帯が上手く動かなくなればかすれた声(嗄声:させい)になりますし、口唇が上手く動かなければ声は出ていても「言葉」として相手に伝えることができません。

 構音障害は、失語のうちの「運動性失語」と似ていますが、脳の障害なのか構音器官の障害なのかによって、区別されています。構音障害は、言葉を上手く発することが難しくなっても、言葉の理解はできているため、筆談でコミュニケーションを取ることはできます。

参考文献

  1. 文部科学省 資料5 言語能力について(整理メモ)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  2. 一般社団法人 日本老年医学会(編):老年医学系統講義テキスト.初版,西村書店,東京都,2013年, P104
  3. 西田裕紀子 中高年の知能の加齢変化 老年期認知症研究会誌第21巻:老年期認知症研究会(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  4. 中川 佳子, 小山 高正 高齢者の文法障害:加齢と知的機能障害による言語性能力への影響 高次脳機能研究 (旧 失語症研究)25巻2号(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  5. 坂井建雄ら(編):カラー図解 人体の正常構造と機能.第2版,日本医事新報社,東京都,2014年,P12

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