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高齢者の歩行能力と病気の関連

公開日:2016年7月25日 14時00分
更新日:2023年6月20日 14時41分

高齢者の歩行の特徴は?

 高齢者の歩行の特徴としては、運動機能の低下により以下のことがみられます。

高齢者の歩行の特徴

  • 歩行速度の低下
  • 歩幅の低下
  • 歩行率(一定時間に何歩進んだか)の低下
  • 体幹が前傾する、円背となる
  • 股関節、膝関節、足関節の運動範囲が減少する
  • 筋力が低下し、足が上がりにくくなる
  • 下肢の支持時間(床に足底が着いて身体を支える時間)の減少

加齢と歩行能力の変化

 歩行は日常生活動作において重要な機能であり、歩行能力の低下は日常生活動作(ADL)レベルの低下につながります。歩行能力の中でもとくに、歩行速度は死亡リスクとの関連性も強く、高齢者の身体機能、日常生活機能の指標となります。歩行速度が速いほど生活機能が維持しやすく余命も長いとされています1)

高齢男性が歩行中に疲れて腰に手を当て柵にもたれているイラスト。高齢者の歩行の特徴として、運動機能の低下により、歩行速度・歩幅・歩行率などの低下が見られることを示す。

 65歳以降では歩行速度は徐々に低下し、男性80歳以降、女性75歳以降になると日常生活に支障をきたすようになります。女性では男性よりも5年早く歩行能力が低下し、それに伴い生活機能の低下もみられるようになります1)

 歩行速度は加齢による筋力の低下、バランス能力の低下との関連がある他にも、高齢者での発症リスクが高くなる脳梗塞などの脳血管障害やパーキンソン病、心臓血管障害、運動器疾患などとの関連もみられます1)

歩行能力と病気の関連(フレイル・サルコペニア)

 歩行能力のうち高齢者の身体機能の指標となる歩行速度は、高齢者の生活機能低下に大きく関わるフレイル、サルコペニアの評価基準としても用いられています。

 フレイルの評価として国際的によく用いられているFriedらのCHS基準をもとに、2020年、J-CHS基準が改定されました。国立長寿医療研究センターによると、評価基準として、体重減少、疲労感、活量、握力とともに通常歩行速度1.0m/秒未満の場合という項目が挙げられています2)

 また、フレイルに影響を及ぼすサルコペニアについてもフレイルと同一の歩行速度の項目が用いられています。

 高齢者の日常生活機能の低下、健康寿命の減少につながるフレイル、サルコペニアは歩行速度の低下が大きく関与しています。フレイル、サルコペニアに加えてロコモティブシンドローム(運動器障害によって起こる移動機能の低下)も歩行速度の低下をもたらす因子のひとつです1)

日本版フレイル基準(J-CHS基準)2)

表:改訂日本版フレイル基準(J-CHS基準)2)Satake S and Arai H. Geriatr Gerontol Int. 2020; 20(10): 992-993
項目評価基準
体重減少 6か月で、2kg以上の(意図しない)体重減少
(基本チェックリスト#11)
筋力低下 握力:男性<28kg、女性<18kg
疲労感 (ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする
(基本チェックリスト#25)
歩行速度 通常歩行速度<1.0m/秒
身体活動 1.軽い運動・体操をしていますか?
2.定期的な運動・スポーツをしていますか?
上記の2つのいずれも「週に1回もしていない」と回答

※ 5つの評価基準のうち、3項目以上に該当するものをフレイル(Frail)、1項目または2項目に該当するものをプレフレイル(Prefrail)、いずれも該当しないものを健常(Robust)とする。

サルコペニア評価基準2)

 下記1)を必須項目とし、2)または3)のいずれか、またはその両方を併せて有する場合にサルコペニアありと評価する。

1)四肢骨格筋指数(インピーダンス法)

 男性7.0kg/m2未満、女性5.7kg/m2未満

2)通常歩行速度

 (測定区間の前後に1mの助走路を設け、測定区間5mの時間を計測する)1m/秒未満

3)握力

 (利き手における測定)男性26kg未満、女性18kg未満の場合

歩行能力を向上する方法

 筋力、バランス能力、手指機能の高い高齢者では加齢による歩行速度の低下率が小さいという研究報告があり3)、歩行速度の維持・向上には筋力、バランス能力、手指機能を保つための上肢活動が重要であることがわかります。筋力・バランス能力が高ければ歩行は安定し、歩行が安定していると手指機能、上肢機能も食事や更衣、家事などの日常生活活動を行う中で維持することができます。

 歩行速度の低下がみられるフレイル、サルコペニアを予防するには、立つ・座る・歩くなどの基本的な移動機能に必要な下肢や体幹の筋肉の筋力トレーニングが有効とされています。とくに姿勢を保つための抗重力筋である下腿三頭筋、大腿四頭筋、大殿筋、中殿筋、前脛骨筋、ハムストリング(腿の後ろの筋肉の総称)などの筋肉、体幹の安定に関わる腹横筋、腹斜筋群の運動が有効とされています4)。国立長寿医療研究センターが作成した「健康長寿教室テキスト 第2版」では、フレイル、サルコペニアを予防するための運動について詳しく説明されていますので、是非ご覧いただき、ご活用ください5)

参考文献

  1. 次期国民健康づくり運動に関する委員提出資料 高齢者の健康 厚生労働省(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  2. 日本版フレイル基準(J-CHS基準) 各種ダウンロード 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  3. 体力科学 1998 47 443-452 地域高齢者の歩行能力―4年間の縦断変化― 杉浦美穂等(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  4. 運動器の機能向上マニュアル(改訂版) 厚生労働省(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます) 
  5. 健康長寿教室テキスト第2版 国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究センター (外部サイト)(新しいウインドウが開きます)

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