健康長寿ネット

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地域との関わりが高齢者の健康保持につながる(近藤 克則)

公開日:2018年11月13日 11時02分
更新日:2021年6月30日 11時14分

第7回対談風景写真。祖父江理事長と近藤克則氏

シリーズ第7回 生き生きとした心豊かな長寿社会の構築をめざして

 わが国がこれから超長寿社会を迎えるに当たり、長寿科学ではどのような視点で進んでいくことが重要であるかについて考える、シリーズ「生き生きとした心豊かな長寿社会の構築をめざして」と題した各界のキーパーソンと祖父江逸郎・公益財団法人長寿科学振興財団理事長との対談の第7回は、近藤克則・千葉大学予防医学センター環境健康学研究部門教授をお招きしました。

地域に関わる高齢者が多いところは転倒・認知症が少ない

祖父江:近藤先生はこの超高齢社会において豊かな高齢者の生活をどのように実現していくか、高齢者を対象に膨大な数の研究をされています。今、取り組んでおられる研究についての概要をお話しいただけたらと思います。

近藤:私たちが多くの研究者とチームを組んで進めているプロジェクトがあります。JAGES(日本老年学的評価研究)というプロジェクトで、日本全国高齢者の約20万人を対象とした社会疫学的大規模研究です。日本の高齢者の実態を多面的に描き出し検証し、well-being(幸福・健康)の水準の高い、健康格差の小さい超高齢社会の実現に寄与することを目的としています。

 2010~2011年度には31市町村の11万人の65歳以上の方に、2013年秋には30市町村の14万人の65歳以上の方にご協力いただけました。これによりさまざまな実情が見えてきて、今後の政策立案の参考になるものを、昨年の社会保障審議会介護保険部会で報告させていただきました。

祖父江:だいぶ解析が進んでいるようですが、その中で注目すべき研究成果を挙げていただけますか。

近藤:高齢者の健康や幸福の面からみると、地域社会との関連がみえてきました。高齢期は働き盛りの方と比べ地域で過ごす時間が長くなり、地域との関わりが増えてくるからだと思います。

 前期高齢者に「1年間に転んだことがありますか」とたずねますと、前期高齢者に限っても小学校区によって3倍も転びやすい小学校区があります(図1)。また認知症(図2)についてもリスクが3倍高い小学校区があり、こんなにも地域差があるのかと驚いています。

図1:65歳から74歳の者を対象とした小学校区別転倒率とスポーツ組織参加率の関連を示す散布図。スポーツ組織参加率が高い小学校区では転倒者の割合が少ないことを示す。
図1:小学校区別転倒率とスポーツ組織参加率
出典:第47回社会保障審議会介護保険部会配布資料 厚生労働科学研究班(研究代表者:近藤克則)
図2:10道県24自治体175小学校区を対象とした認知症リスク者割合と地域組織への参加率の関連を示す図。参加率が高い地域で認知症リスク者割合が低いことを表す。
図2:認知症リスク者割合と地域組織への参加率
出典:日本老年学的評価研究JAGES 近藤克則

 その背景にある要因を分析しますと、「転倒」ではコミュニティとのつながりの有無が関係していることがみえてきました。具体的には、高齢者の方に「スポーツ組織に週1回以上参加していますか」という質問をしますと、少ないところでは数%、多いところでは約40%の方が参加と、やはり3倍以上の差がみられました。「転倒」と「スポーツ組織への参加」の関連性をみますと、相関係数−0.66というやや強い相関がありました。つまり地域に関わっている高齢者が多いところでは、転倒も少ないし、認知症のリスクも少ない(図2)ということです。

祖父江:これは重要なデータですね。これまでは高齢者の健康維持に関しては、「栄養」「運動」「休養」の取り方の3要素が大切と実証されてきました。これらの要素に「地域との関わり」がもう1つの要素として深く関係してくるということですね。

近藤:とても興味深いデータがあります。「スポーツ組織に参加している人に転倒や認知症のリスクが少ないのは、運動の効果なのではないか」という質問を受け、一人で運動している人とスポーツの会に参加している人で比較する追跡調査をしました。

 その結果、同じスポーツ頻度でも、一人でスポーツをしている人の方が、組織に参加している人より要介護認定を受けやすいということがわかりました。いわゆる運動生理学の効果だけでなく、人と一緒に行うことの心理・社会的効果があるのではないかと考えています。

地域組織参加の心理社会的な波及効果

祖父江理事長の対談風景写真

祖父江:地域組織といいますと、俳句や短歌など知的能力を発揮するようなグループとスポーツなどの身体的なグループがありますが、高齢者の健康保持の観点からみて、効果に違いはあるのでしょうか。

近藤:数千人を対象とした追跡調査で、趣味の会、スポーツの会、ボランティアの会、町内会など地域によくある組織を挙げ、その後、要介護認定を受けているかを調べました。

 その結果、健康保持に一番よい結果が出たのはスポーツ系でした。趣味の中にも、認知症予防に効果のある趣味と、残念ながらそうでない趣味がありそうなことがわかってきました。旅行や園芸は男女問わず認知症の方が少なく、意外だったのが、手先を使う手工芸などは認知症に対する予防効果は明らかではありませんでした。

 これは数千人規模の調査なので、今回の10万人規模の追跡調査でどのような結果が出るか、また違う機会にご紹介できればと思います。

祖父江:これから地域組織に参加する方にとっても、また組織をつくる側にも参考にしていただきたい有用なデータなので、ぜひお願いしたいと思います。

近藤:また環境の要因に目を向けますと、公園から250メートル以内に暮らしている方と、それよりも遠くに暮らしている方を比べると、近くに住んでいる方のほうがスポーツ組織に参加している割合が高いという結果が出ました。

 運動の頻度に関しては、公園や運動に適した緑地が1キロメートル以内にある方では、運動頻度が2割ほど高いのです。都市計画やまちづくりが運動をする人を増やすという、環境整備の重要性がみえてきました。

祖父江:近隣の環境が整っているかによって、コミュニティに入り込みやすく運動頻度も高い、さらには健康保持につながっていく。環境整備がこれからのコミュニティづくりの大切な視点となりますね。

近藤:歩いていける範囲を生活圏とし、公共手続きや買い物などすべて小さなコミュニティでできるコンパクトシティをつくる動きがありますが、その重要性も指摘できると思います。

 誰かと一緒にウォーキングしようとしても、その人に会うのに車で15分かかるのでは現実的ではありません。近くに公園があり、例えば毎週水曜日に集まり皆で歩こうということであれば、参加しやすいし継続しやすい。一人だと「今日は暑い」とか、サボる理由はたくさんありますが、毎週水曜日に集まるという約束があると、少しくらい暑くても頑張って行こうということになります。また、「いつも来るあの人が来ないから、帰りに寄ってみよう」と見守りにもつながる。そういった波及効果があるのではないかと思います。

祖父江:集団の効果は確かにあると思います。ただ、ひとつ気を付けなければならないのは、年齢や能力に個人差があるということです。無理をすると「年寄りの冷水」となり、かえって健康阻害につながることを肝に銘じなくてはなりません。高齢者は一度、健康阻害を起こすと改善するのがなかなか大変ですから、集団においては、個々の身体能力を見極めることが重要になってきますね。

近藤:自分の能力に応じた社会参加という観点では、新潟市の「歩く」取り組みが参考になると思います。正しい歩き方など「入門講座」で初心者向けの講習をしつつ、上級者向けの「リーダー養成講座」を設け、参加者は自分の能力に応じて講座を選択できます。リーダーは参加者を増やすためにウォーキングマップを作り、新潟市8区全体でのウォーキング大会を計画して、それぞれの区で誘い合って大きなイベントにまで広がっているようです。

 実行委員は会議のために集まり、身体を動かし知恵も発揮します。イベント後は打ち上げをし、知り合いもたくさんできる。そのような心理社会的な波及効果があり、運動や栄養といった生物学的要素以外の効果があるということがみえてきました。

元気な高齢者が多いということは社会資源が多いということ

祖父江:今までの高齢社会の議論では心理社会的なファクターが欠けていたように思います。アメリカの老年学の権威であるバトラー(Butler,R.N)が長寿社会においてのプロダクティブ・エイジング(生産的高齢者)を提唱しています。ひと昔前の高齢でケアが必要という弱いイメージでなく、これからは社会に何らかの形で寄与する能力を備えた、元気で健康な高齢者を増やしていくことが豊かな高齢社会につながるのではないかと思います。

近藤克則氏の対談風景写真

近藤:地域組織の中で運営委員など役割を持っている人と持っていない人では、役割のある方のほうがうつになりにくいという分析結果もあります。「周りの役に立つ」ことが、その方の"誇り"や"ふんばり"となり、そのような心理効果が健康保持につながっているのではないでしょうか。

 こんなエピソードもあります。ある町で介護予防の対象者になった方がいました。「要介護認定を受けやすいハイリスク者なので介護予防教室に来るように」と言われ、介護予防教室を訪れたら、首から名札をぶら下げられました。これがショックで教室に来なくなりました。ところが、保健師さんが「介護予防教室で人手が足りないので、ボランティアとして来てくれませんか」とお願いすると、「ボランティアなら行ってもいい」と足繁く通うようになり、その結果すっかりお元気になられたそうです。

 たとえ虚弱であっても、「あなたにはまだまだ出番があります」という接し方が、高齢者にいい影響を与えるということです。元気な高齢者にご活躍いただきますと、長寿社会では高齢者が資産となり社会資源となります。

祖父江:確かに今までは一面ばかりを見て、高齢者はフレイル(虚弱)とする考え方が多くありました。高齢者に対する接し方を変えるだけで、高齢者が社会資源になり得るということをしっかり理解しなくてはなりませんね。

後期高齢者のコミュニティ若い世代からのつながりが重要

祖父江:高齢者のグループコミュニティは、75歳以上の後期高齢者が中心のプランが多いですが、65〜75歳未満の前期高齢者、さらには高齢期に突入する前の若い人たちも一緒に活動していくことが大切なのではないかと思います。

 日野原重明先生が立ち上げた「新老人の会」では、高齢者を65歳以上ではなく75歳以上とし、自立して生きる新しい高齢者の姿を「新老人」と名付けました。ここでは、75歳以上を「シニア会員」、60~75歳未満を「ジュニア会員」60歳未満を「サポート会員」としています。地域のコミュニティでもこのような世代を超えた活動がこれから必要になってくるのではないでしょうか。

近藤:今回の10万人の調査で興味深いデータがありました。小学校区単位で高齢者の地域組織への参加率を調査したところ、2、3割のところもあれば7割参加しているところがあり、その差が2~3倍あるのです。

 参加率の高い地域を分析してみますと、前期高齢者の頃につながっているコミュニティは後期高齢者になってもつながりが強いのです(図3)。退職してから急に地域に溶け込むのはむずかしいでしょうから、その前の時期から地域社会に参加することが重要になると思います。

祖父江:若い世代から地域社会とつながることが、豊かな老後を過ごす準備となるのですね。

図3:前期高齢者と後期高齢者別の地域組織参加率の関連を示す図。高齢者の地域組織への参加率が都市度(可住地人口密度)に関わらず、前期高齢者の参加率が高い地域で後期高齢者の参加率も高いことを表す。
図3:前期・後期高齢者別の地域組織参加率
出典:日本老年学的評価研究JAGES 近藤克則

高齢者それぞれの時代背景、環境をどう捉えるか

祖父江:高齢者というとひとくくりにしがちですが、それぞれの高齢者の歩んできた時代背景は違っています。今の後期高齢者が育ってきた時代は戦時中の激動の時代であり、団塊の世代の人たちとは環境がだいぶ違っています。それぞれがどんな環境で育ってきたのか、どのように性格形成されてきたのかを考えて、高齢社会の構築の要素として捉えることも必要なのではないでしょうか。

近藤:戦時中、食糧事情の悪い頃に幼少期を過ごした人たちにおいては、栄養状態がよかったと思われる身長が高い人ほど要介護認定を受けにくいという分析結果があります。戦後60年以上も経っても、まだこのような影響が残っているのです。

 あるいは、最も長く携わっていた職業をたずねて分析してみますと、残っている歯の数が最長職によって違うのです。うつになる率も違う。職業で身に付けた生活習慣やストレスなど、さまざまな要素が蓄積され、高齢期になりその人のメンタルヘルスや健康に足跡を残し、健康格差につながるというのが印象的でした。

祖父江:幼少期の環境が高齢期にまで影響を及ぼすとは、驚きのデータですね。たとえば今の40、50歳代の人が今後、高齢者となり長寿社会の構成員となった時に、今の高齢社会の考え方が通用するのでしょうか。それぞれの時代背景を考慮すべきですが、今まであまり重視されていなかったように感じます。

近藤:そのような胎児期、小児期から成人期にわたって縦断で追いかけ、健康と関連する要因を解明する研究をライフコース疫学といいます。その縦断研究では、出生時の体重と64歳時の糖尿病の罹患率とが関連するということがわかっています。母親の胎内で低栄養にさらされた人、出生時の体重が低い人では、インシュリン抵抗性がセットされるレベルが高くなってしまう。糖尿病になるリスクが5倍以上高かったというエビデンスもあります。

 そういった実証データの蓄積があるイギリスでは、成人病対策として貧困児童対策に踏み出しました。またアメリカも長期縦断研究に基づいて、子どもに対する投資を増やそうといわれ始めています。日本ではこのような研究は今まであまり実施されていません。今後、長期にわたって丁寧に研究していけば、いろいろなエビデンスがみえてくるでしょう。

祖父江:日本でも長期縦断研究でデータを蓄積していく必要がありますね。胎児期と出生時、さらに自我形成に重要な3歳頃までの時期の栄養状態、食生活、習慣がその後の発育に大きく影響する可能性が高いとなると、出生後かなり早い時期にはすでに大きなハンディキャップを背負うわけですから。

近藤:気を付けなければいけないのは、運命論で諦めてしまうことです。変えられない側面もありますが、その一方で変えられる面もあるのです。OECD(経済協力開発機構)が進めているPISAという国際的な学習到達度に関する調査では、貧しい家庭に生まれた子どもより豊かな家庭に生まれた子どもの方が読み書きの能力が高いという結果が出ています。しかし、貧しい家庭に生まれた子どもでも、親がしっかり読み聞かせをした家庭の子の能力は高い。一方、豊かな家庭に生まれた子どもでも、あまり読み聞かせをしなかった家庭の子は読み書きの能力は低い。両者を比べると、貧しい家庭でも読み聞かせをしてもらった子たちの能力の方が上でした。どのような経済環境に生まれたかも大事ですが、どういう生育環境を保障されたかということも大事なのです。

 家庭だけに任せず社会でもサポートすることによって、子どもが持っている能力を引き出していく。日本の長寿社会を乗り切るためにも、このような子どもの能力を伸ばすような社会政策が必要です。それが回り回って高齢期のwell-beingにつながりますから。そういう政策をつくるためのエビデンスをしっかりつくり、それを為政者に届けていきたいと考えています。

祖父江:国策の1つとして長寿社会の構築を掲げて、アジア地区の先進国として長寿時代をリード、ひいては世界の長寿時代をリードしてほしい。そのために先生の研究成果をぜひ活かしていただきたいと思います。

 最後に先生の考える理想的な長寿社会の姿を聞かせていただきたいと思います。

近藤:高齢者個々の潜在能力を含め能力に応じて参加できる社会、そして選択肢が豊かである社会。それぞれが得意な形で社会貢献できる形であれば、社会にとってもありがたいし、高齢者にとっても健康保持につながり、ひいては社会保障費の抑制に、すべての人々の幸せにつながります。

 虚弱だからと排除する社会ではなく、そういう人をどのようにインクルージョン(包摂)していくか、そのような方たちの活躍の場をどのように増やしていくかを考え、実現していくことが大切だと思います。

祖父江:これからの長寿社会にはバトラーの提唱するプロダクティブ・エイジングの考え方が底流に必要ですね。それぞれが生きがいを持ち、社会貢献をする。そのような機会が持てるように社会環境を変えていかなければなりません。

近藤:2013年から始まった「健康日本21」(第2次)の中では、今まで生活習慣の改善に偏っていた方針を反省し、今後は健康格差の縮小を図るため社会環境の質の向上を図るという考えが加わっています(図4)。

 その中には社会参加の機会を増やすことも書かれています。考え方は変わりつつありますが、残念ながらまだあまり周知されていないのが現状です。その有効性を裏付けるエビデンスをつくり、具体的な施策やモデル事業を実施し、その中の優れた取り組みを他の地域に普及するようなしくみをつくるのが、私たちのプロジェクトの大きな狙いです。

祖父江:先生の長年の壮大な研究を、今後の長寿社会の構築に活かしていただきたいです。本日は貴重なお話、ありがとうございました。

(2014年7月発行エイジングアンドヘルスNo.70より転載)

対談者

対談者_近藤克則先生
近藤 克則(こんどう かつのり)
1983年千葉大学医学部卒業。東京大学医学部付属病院リハビリテーション部医員、船橋二和(ふたわ)病院リハビリテーション科科長などを経て、1997年日本福祉大学助教授。2000年~2001年University of Kent at Canterbury(イギリス)客員研究員を経て、2003年日本福祉大学社会福祉学部教授。2014年4月から千葉大学予防医学センター環境健康学研究部門教授、日本福祉大学健康社会研究センター長・客員教授。JAGES(日本老年学的評価研究)代表。「健康格差社会―何が心と健康を蝕むのか」(医学書院、2005)で社会政策学会賞(奨励賞)受賞。

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.70

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