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多剤耐性菌への対応

公開日:2016年7月25日 03時00分
更新日:2019年8月 6日 10時31分

多剤耐性菌とは

 多剤耐性菌とは、多くの抗生剤(こうせいざい:抗菌薬、抗生物質ともいう)に対して、耐性を獲得してしまった細菌のことをいいます。通常は、病原菌による感染症にかかってしまっても、抗生剤を使用して、その菌を死滅させることで、完治へと向かいます。しかし、多剤耐性の菌に感染してしまった場合、有効性のある抗生剤の種類がかなり限られてしまうため、耐性でない菌に感染した時と比べると、治療が困難になります。

 多剤耐性菌は、菌を保菌したからと言って、すぐに症状が出るわけではありません。中には、菌を保菌しているにもかかわらず、症状が全く出現せずに経過する人もいます。多剤耐性菌は、抵抗力が弱い人が保菌すると、感染を起こしやすい傾向があります。つまり、高齢者は、健康な成人と比較すると、多剤耐性菌による感染症に罹患(りかん)しやすい傾向にあるのです。

 感染経路は、飛沫感染や接触感染とされており、ドアノブやつり革などを介して感染します。多剤耐性菌を保菌している人が、鼻をぬぐったり、咳などで口を覆った後には、その人の手に多剤耐性菌が存在しています。その手で、ドアノブやつり革などに触れると、菌が移動します。気付かぬうちに、菌が付着したドアノブやつり革に、自分が触れてしまうことで、今度は自分の手に、多剤耐性菌が付着します。それを口元へもっていってしまうことで、口腔を経て体内に多剤耐性菌が侵入し、やがて感染することになります。

 多剤耐性菌は、非常に多くの種類があります。腸内細菌科に属する大腸菌や肺炎桿菌(かんきん)、緑膿菌、アシネトバクターなどの菌、さらに黄色ブドウ球菌や腸球菌などが、代表的な多剤耐性菌となります(表)。

表:主な多剤耐性菌とその歴史
耐性菌名耐性のある抗生剤菌種いつ頃から
MRSA メチシリンなど 黄色ブドウ球菌 1960年代
PRSP ペニシリン 肺炎球菌 1960年代
ESBL産生菌 第3セフェム系薬剤 大腸菌、肺炎桿菌 1980年代
VRE バンコマイシンなど 腸球菌 1980年代
MBL産生菌 カルバペネム 緑膿菌 1980年代
MDRA 一部を除く全般 アシネトバクター 1990年代
VRSA バンコマイシン 黄色ブドウ球菌 2002年~

 特に、医療機関内や高齢者介護施設などの閉鎖的な空間では、一定の抗生剤への耐性を獲得した多剤耐性菌による集団感染が問題となることがあります。かつては、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が問題となった時期がありましたが、その後も抗生剤が臨床などで使われていることにより、様々なタイプの多剤耐性菌が存在するようになりました。

多剤耐性菌の感染予防とは

 多剤耐性菌に対し、有用な感染対策はまだ明確にはなっていませんが、手指の手洗いなどの基本的な感染対策をしていくことが、現在のところもっとも有用であると考えられています。

 手洗いは、外出から帰宅した際だけでなく、排せつの後や食事の前後にも行うようにしましょう。また、外出時はマスクを着用するようにして、可能であれば体調が悪い時は人込みを避けるようにして生活することも効果的です。嘔吐や下痢の原因となる菌は、アルコール消毒が効かない場合もあるので、まずは流水と石けんを使用した手洗いをしっかりと行うことが、望ましいとされています。

 抵抗力が弱くなると、多剤耐性菌に感染しやすくなることから、日ごろから体調に留意し、健康的な生活を心掛けます。体調不良時は医療機関を受診し、早期に適切な処置をしてもらうことも感染予防に必要です。

 さらに、海外の国では、現在も多剤耐性菌が蔓延している国が多くあります。海外から帰国して体調が思わしくない場合は、まず医療機関を受診してください。多剤耐性菌は、接触による感染であるため、1日1回は、手すりやドアノブなど、多くの人が触れる機会のあるところを、消毒液をしみこませた布巾で清掃します。

 多剤耐性菌に対して効果を発揮する消毒液は、その菌によって違いますが、次亜塩素酸ナトリウムは、多くの多剤耐性菌に対して効果を発揮するといわれていますので、0.02%に希釈した次亜塩素酸ナトリウムを使用しての清掃が、推奨されています。

 もしも、家族が多剤耐性菌に罹患していると診断された場合、他の家族が健康であれば特に隔離をするなどの処置をする必要はないといわれています。しかし、家族の中で抵抗力が弱っている人や、高齢の方がいるなら、極力、接触を避けることで、感染を防ぐことができる可能性があります。また、感染が確認された方の入浴は1番最後に行うことなども、有用であるとされています。

集団生活における多剤耐性菌への対応

 高齢者介護施設や医療機関など、多くの人が集団で過ごす可能性がある場所では、感染者が1人いれば、あっという間に感染が拡大する可能性があります。特に多くの高齢者が生活する環境では、多剤耐性菌に感染していても症状がみられない人もいますので、基本的な感染予防策が重要となります。

 直接体に触れる処置の前と後、排泄物や嘔吐物を処理した後、食事介助や配膳の前など、充分な手洗い、使い捨てマスクや手袋の着用など、感染予防対策をしっかりと取ることが必要です。

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