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『Aging and Health』 100号を迎えて

 

公開月:2022年1月

栁澤 信夫(やなぎさわ のぶお)

機関誌『Aging&Health』編集委員長

長寿科学振興財団機関誌としての経過

 財団の設立は平成元年(1989年)12月であり、それから3年後の1992年12月に『Aging&Health』(A&H)第1号が発行され、10年後の2002年2月の第20号までは、夏(7~8月)と冬(12~2月)の年2号、そして2002年4月からは季刊誌として年4回発行され、内容も充実されてきました。

 内容は、初期は対談、座談会、インタビュー、報告などでしたが、20号からは、巻頭言、特集、インタビュー(いつも元気、いまも現役)、ルポ(地域の鼓動)、対談、クリッピング・ニュース、エッセイなど多岐にわたり、高齢者の介護、福祉、社会活動にかかわる学生・教育者・行政関係者・ボランティアなど広範囲の関係者に役立つ定期刊行物として約30年間にわたり発行してきました。

『A&H』の記載内容の特徴

 『A&H』の読者の方々はご存じのように、多項目の記事は各々相対的に独立した内容となっています。まず中心となる「特集」は、各号ごとに編集会議でテーマと立案責任者を決めて、5~6名の専門家に分担執筆をしていただいています。テーマは高齢〜超高齢社会における病気、医療・介護・福祉、社会活動などを、専門家の視点から現状と問題点、将来に向けての提言などを記載していただき、関係領域の事業者やスタッフの役に立つよう努めています。過去20年にわたる「特集」を読み返してみますと、テーマごとに現在でも大変有意義な内容が記載されています。

 インタビューは「いつも元気、いまも現役」の言葉通り、高齢の活動家の方々に自分史、生活方針、後進へのアドバイスを伺っています。なおこのうち38名の方々のインタビューが、「老いてこそ輝く人生!」というタイトルも加えて、平成24年(2012年)に出版されています1)

 「ルポ(地域の鼓動)」は、自治体やボランティア団体などで、高齢者を活動に参加してもらい成功している公的あるいは私的組織の活動を紹介しています。エッセイは巻頭「ものエッセイ」と巻末エッセイの2本立てで、趣味・芸術・生き方などについて、老年学の専門家で、種々な趣味で有名な方々に、お1人4号(1年)分を連続して執筆していただいています。その他折々の長寿科学振興財団の活動(長寿たすけ愛講演会、国際シンポジウム、若手研究者表彰ほか)についても適宜紹介をしております。

 このようにみると、多彩な内容を継続して100号に至った関係者の努力と財団の見識を改めて痛感いたします。

『A&H』の位置づけ─役立てる人のために

 本誌の配布先の状況、そして時折実施される読者アンケートからは、『A&H』は広い意味の教育誌として用いられてきたことがうかがえます。そして上述のような記事の内容からは、教科書・副教科書ではなく、高齢の方々を対象に仕事をする人々、およびそのような職業人を育てる教職の人々にとって「リベラルアーツ」としての役割が大きく、その意味では適切な内容で長期間刊行されてきたものと自負します。「リベラルアーツ」はギリシア時代から存在する概念ですが、教養を高める手段(アーツ)と理解されます。

 これからの日本は「人生100年時代」といわれます2)。この言葉を提言したリンダ・グラットンとアンドリュー・スコットは、「幸せな国、日本」といい、高齢者の生き方に大切な無形資産として、「多様性に富んだ人間関係」、「社会的能力」、「活力資産:健康」、「変身資産」などを挙げています。このような視点は、これから高齢者を対象に仕事をする人々にとって極めて大切でしょう。

 また最近話題となっている「持続可能な開発目標SDGs」も2030年を期限とする国連の提言であり、日本政府もその取り組みを推進しています。私たちにとっては17の国際目標のうち、第3目標"保健"の「すべての人に健康と福祉を」になります。『A&H』の目標もこれを念頭に置くべきでしょう。

これからの『A&H』に向けて

 『A&H』の編集会議は基本的に年2回開催されます。そのために事務局および制作にあたる厚生科学研究所は、日頃から上に述べた各記事の候補について、多くの有識者の意見および読者へのアンケートから情報を蒐集(しゅうしゅう)し、整理しております。

 本誌の編集委員会は、初期は国立研究機関・各大学の専門家10名、厚生労働省の関係部局の医系技官を中心とする課長補佐6名から構成されていました。国立長寿医療研究センターが設立されるまでは、設立のための基本計画検討会の活動など、厚生労働省からの情報は重要な位置を占めてきました。2004年にナショナルセンターとして国立長寿医療研究センターが設立されてからは厚生労働省の委員は減少し、2010年夏号からは7~8名の大学・研究所の出身者のみで構成されています。それも高齢化してほとんどが名誉教授・名誉院長の方々です。私自身は2001年9月に編集委員に任命され、2010年9月から編集委員長を務めています。

 『A&H』は2021年春号(97号)から印刷物としての配布は終了し、長寿科学振興財団のホームページにおいて定期的(従来と同じく、年4号発行)に公表することになりました。今後はインターネットの特徴を生かすような企画を採用し、さらに発展させるべく、若手の編集委員の起用を期待しております。

文献

  1. 長寿科学振興財団監修: いつも元気、いまも現役 ─老いてこそ輝く人生! 厚生科学研究所, 2012.
  2. リンダ・グラットン,アンドリュー・スコット 著, 池村千秋 訳: LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略.東洋経済新報社,2016.

筆者

著者:栁澤信夫
栁澤 信夫(やなぎさわ のぶお)
一般財団法人全日本労働福祉協会会長
信州大学名誉教授
長寿科学振興財団理事
略歴
1935年生まれ。1960年東京大学医学部卒業、1969年米国ハーバード大学医学部留学、1980年信州大学医学部内科学教授、1993年信州大学医学部附属病院長、1996年信州大学医学部長、1997年国立療養所中部病院・長寿医療研究センター院長、2001年労働福祉事業団関東労災病院院長、2008年東京工科大学片柳研究所長、同医療保健学部長、一般財団法人全日本労働福祉協会会長(現職)
専門分野
神経内科学、運動神経系、老化

※筆者の所属・役職は執筆当時のもの


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公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health 2022年 第30巻第4号(PDF:6.8MB)(新しいウィンドウが開きます)

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