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「オンライン通いの場」アプリで楽しく健康づくり!(愛知県大府市 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター)

 

公開月:2022年4月

コロナ禍において高齢者の活動増進のアプリを発表

 2019年末に発生した新型コロナウイルス感染症は、今もなお世界的な流行を見せている。日本では2020年4月に第1回目の緊急事態宣言が全国に発出され、その後も度重なる緊急事態宣言により、多くの人が長期間にわたって活動自粛を余儀なくされている。特に高齢者においては、多くの通いの場が活動休止となり、外出自粛から生活不活発の状態になりやすく、要介護や認知機能低下のリスクが高まっていた。

 そんな中、国立長寿医療研究センターでは、コロナ禍における高齢者の活動増進をめざし、いち早く対策を講じた。2020年5月には自宅にいながら専門家のアドバイスに基づく運動や活動を実施できるガイド「在宅活動ガイド2020(NCGG-HEPOP 2020)」(外部サイト)(新しいウィンドウが開きます)を発表。さらに同年6月には、活動自粛が続く通いの場を補完する機能として、スマートフォン専用アプリケーション「オンライン通いの場」アプリ(図1)の公開を始めた。

図1、「オンライン通いの場」アプリのホーム画面。右のQRコードからアプリをインストールできる。
図1 「オンライン通いの場」アプリのホーム画面。QRコードからアプリをインストールできる

 今回は、コロナ禍でもオンラインで自己管理をしながら運動や健康づくりを行える「オンライン通いの場」アプリを取り上げる。

「身体活動」「知的活動」「社会活動」の3要素を備えたアプリ

 「オンライン通いの場」アプリは2020年6月に公開を始めたが、国立長寿医療研究センターではその3年ほど前から開発を進めていた。開発を進める中、新型コロナウイルス感染拡大による高齢者の閉じこもりや生活不活発の問題が大きくなり、厚生労働省(厚労省)の新型コロナウイルス対策の第一次補正予算の補助金を得て、「オンライン通いの場」アプリの無償公開に至った。

 「開発を進めていた『オンライン通いの場』アプリを、厚労省が主導して全国で使用できるように流れをつくっていただきました。具体的なコンテンツには、今まであった知見とコロナ禍における新しい知見を取り入れました」と同センター老年学・社会科学研究センターセンター長でアプリ開発担当の島田裕之先生(写真1)は話す。

写真1、国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究センターセンター長のしまだひろゆき先生。
写真1 国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究センターセンター長の島田裕之先生

 アプリ開発で重視したのは、高齢者が直感的に理解できること。さらに、介護予防に重要な3つの要素を取り入れること。この3要素とは、体操や運動などの「身体活動」、脳を活性化させる「知的活動」、コミュニケーションを取る「社会活動」である。多くの高齢者向けアプリがある中、「からだ」「あたま」「コミュニケーション」の3要素を備えたアプリは「オンライン通いの場」アプリが初めてだという。

 島田先生は、「これからの介護予防では、機能回復訓練だけでなく、『活動』や『参加』にも目を向けることが大切です。通いの場は年々増えていますが、月1回などでは頻度が十分とは言えません。通いの場に複数通うこともいいですし、強化すべき点は、通いの場以外の時間の『生活全般の活性化促進』です。歩数計などを用いることで目標が明確になり、活動量が増えることもわかっています。そういった意味で、このアプリは活動的なライフスタイルの保持に資する要素を備えています」と強調する。

 デバイスとしてスマートフォン(スマホ)を選んだのは、音声や文字、画像のやり取りができ、センサー付きの計測機器としても万能な機器だからだ。2021年調査※1では、高齢者のスマホ使用率は60代が8割、70代が6割と高い割合で、スマホが高齢者になじみのあるデバイスであることも理由の1つだ。「せっかくいい取り組みでも途中でやめてしまっては意味がありません。今までの研究から、1人で行うような一方向的な取り組みは継続につながらないことがわかっています。やはり何らかのやり取りやフィードバックが必要です。双方向のコミュニケーションのツールとしてもスマホは適しています」と島田先生は指摘する。

 次の項で、「オンライン通いの場」アプリの機能を見ていこう。

「オンライン通いの場」アプリの主なコンテンツ

コミュニケーション

 利用者がニックネームで身近な出来事のコメントや写真を投稿。投稿に対しコメントを返すことで、利用者同士の適度な交流が生まれる。

自宅でできる体操

 「自宅でできる体操」では、自治体が作成した体操動画を閲覧できる。

 「コグニサイズ」では、国立長寿医療研究センターが開発した認知症予防に役立つ運動プログラムにアクセスできる。有酸素運動をしながら計算やじゃんけんをするなど、「からだ」と「あたま」の体操を同時に行い、脳を活性化させる。島田先生が考案した40種類の体操が掲載されている。「からだ」と「あたま」の二重課題の体操は意外に難易度が高く、最初からスムーズにできる人は少ない。島田先生からのアドバイスは、「間違えているときほど、脳が活性化します。どんどん間違えてください」

食事管理

 毎日、3食の食事記録を付けることで、栄養管理につながる。

健康チェック

 定期的な健康チェックで機能低下を早期発見できる。「基本チェックリスト」では体調管理、「疾患情報の管理」では現病や既往症の履歴を入力できる。「在宅活動ガイド2020(NCGG-HEPOP 2020)」では、専門家のアドバイスに基づく運動や活動を自宅で実施できる。7つの運動・活動パックから、フローチャートで自分に合ったパックを見つけることができる。

脳を鍛えるゲーム

 脳を鍛える認知機能トレーニングのゲームが4種類ある。

通いの場情報

 自宅近くの通いの場情報が簡単に見つけられる。通いの場の出席確認もできる。

おさんぽ

 現在地を起点に、アプリがおさんぽコースを自動作成し提案してくれる。コースのとおりに歩くとGOポイントが貯まり、歩数もカウントされる。

ランキング

 GOポイント獲得ランキング、平均歩数ランキング、自治体の体操動画の再生ランキングを掲載し、利用者の活動のモチベーションにつなげている。島田先生からのアドバイスは、「活動の成果が目に見えるので励みになりますが、張り切りすぎは禁物です。1日8,000歩程度を目安としてください」。現在は歩数の上限を2万歩に設定して、それ以上は一律としている。

 「オンライン通いの場」アプリのパンフレット(図2)は、以下のページから閲覧できる。

通いの場 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)

図2、「オンライン通いの場」アプリの紹介パンフレット。インストールの手順やアプリ登録・ログイン手順が詳しく紹介されている。
図2 「オンライン通いの場」アプリの紹介パンフレット。インストールの手順やアプリ登録・ログイン手順が詳しく紹介されている

アプリ使用の効果をSMAFO研究で検証

 アプリを使用して活動的な生活を送ることによってどのような効果があるのか、現在SMAFO研究(The Self-Management Activity Programme For the Older)で検証を進めている。「専門家から健康に関する講座を受講するプログラム」と「アプリ使用とウォーキングを実施する複合的なプログラム」と2つのグループに分けている。

 ウォーキングなどの運動教室は、国立長寿医療研究センターの近くにある愛知県大府市と東浦町の公園を拠点に、週2回60分実施している(写真2、3、4)。このプログラムは30か月、計200回実施し、介入群と非介入群に分かれて、要介護のリスクや認知症の発症に差が出るかを検証する(研究期間:2020年度から5年)。

写真2、3、4、公園での運動教室の様子。アプリの使用方法を教わる風景も見られる(国立長寿医療研究センターより提供)。
写真2、3、4 公園での運動教室の様子。アプリの使用方法を教わる風景も(国立長寿医療研究センターより提供)

 「運動教室のようなリアルなお付き合いがあることで、アプリの使用をやめる人が少なくなります。教室には指導者が1~2名待機していますので、世間話をしたり、アプリに対する質問をしたりなど、コミュニケーションが取れています。1グループ15~20人でSNSでやり取りを行うことで、コミュニケーションの輪が自然にできています」

 高齢者のスマホ使用率は60代が8割、70代が6割との調査があるが、プログラムに参加している高齢者の約半数がスマホを使用していない高齢者だった。しかし、スマホ初心者でも約1時間のスマホ教室に3回参加することで、基本的な操作は覚えられるそうだ。すでにアプリを使いこなしている人が初心者に使い方を教えるという人材育成プログラムも用意されている。

アプリ利用で一歩進んだ介護予防に発展する可能性

 アプリ発表当初は、補正予算の中での開発で時間が限られていたこともあり、アプリを使ってもらい開発・検証を行いながら進めていたが、コンテンツの確定は概ね2021年度で終了し、2022年度は機能を拡充して更新する予定だと島田先生は言う。すでに厚労省や国立長寿医療研究センターから自治体などへアプリ利用の周知はなされているが、2022年度は機能が拡充することもあり、今後はさらに広い地域で多くの利用が期待される。

 「介護予防は対面で行うのが本来の姿で、アプリは代替手段、補完的な方法であると思っています。しかし、今はコロナ禍ということもあり通いの場の頻度も少ないですから、こんなときこそアプリを使いながらご自身の活動を見直し、できるだけいつもの活動量を保持していただきたいです。自治体の皆様におかれましても、介護予防事業では対面での事業のほか、アプリ導入をぜひ進めていただきたいです。自治体単位での管理画面を導入しますので、利用者の同意を得たうえで、誰がどういう活動をしているのか、活動量が低下しているかなど情報を一元管理できます。こういったデータを保健事業で活用することで、今までリーチできなかった方にリーチできる可能性が出てくると思います」

 「オンライン通いの場」アプリは、コロナ禍においての活動的なライフスタイルの保持に寄与するだけでなく、対面とオンラインでの介護予防を組み合わせることで、一歩進んだ新しい介護予防に発展する可能性も期待できる。「オンライン通いの場」アプリは、高齢者のオンライン活用の取り組みの第一歩としても最適であろう。


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公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health 2022年 第31巻第1号(PDF:27.5MB)(新しいウィンドウが開きます)

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