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第4回 明るく振舞ってみる

 

公開月:2023年1月

石川 恭三
杏林大学名誉教授


 冬の庭は殺風景だが、ところどころにある濃い緑の葉を携えた松、樫、楠、椿、金木犀、さざんかなどの常緑樹が寒気の中で毅然として屹立(きつりつ)している姿を見ていると、自然の生命力のたくましさが伝わってくるように感じられる。

 長寿遺伝子を働かせるためには、快適とはいえない温度に一定時間身をさらすことが有効な手段とされている。そこで冬の寒い時期には暖房のきいた心地よい部屋に閉じこもってばかりいないで、一日に一度は家の近くを一回りか二回りするくらいの散歩に出ることにしている。寒気に触れて、ぶるっと震える感覚が全身に伝わると、体のあちこちで何かがはじけるようにして力がみなぎってくる。そんなときには、この分だとまだ当分の間は何とか元気でいられそうな気になるから不思議である。

 高齢者は若い世代の人から見れば暗い存在であり、特別なことでもなければ、進んで近づきたいとは思わないのではないだろうか。まして地獄に引き込まれそうになる暗い顔をした高齢者となれば、その場から逃げ出したくなるかもしれない。そのような高齢者には暗くなるさまざまな事情があるに違いない。先々のことを考えれば、不安になることがいくらもあるだろうし、体のあちこちに不具合もあるかもしれないので、どうしても暗い雰囲気を醸し出してしまう。そんなことにならないためには、内心はどうあろうとも、あえて明るく振舞ってみせることである。

 悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しいのだとする考え方(ジェームズ=ランゲ説)があるが、わかる気がする。そうなると、面白いから笑うのではなく、笑うから面白いのだとも言えそうだ。はじめのうちはわざと面白がって明るく振舞っていると、そのうちに本当に面白くなって自然に明るく振舞っているということがある。

明るく振舞っている人の周りには人が集まってきて賑やかになるが、暗い感じのする人のところには人は寄ってこない。高齢になり仕事から遠ざかると、それまでの仕事と直接的、間接的に関係して付き合っていた人たちとの交流は疎遠になり、次第に孤立感を抱くようになる。そんなことにならないためには、今も親交を続けている人との交流をより一層大切にし、身近に新しい交流の場を広げることである。それにはこれまで以上に明るく振舞うことである。

著者

石川 恭三(いしかわ きょうぞう)
 1936年生まれ。慶應義塾大学医学部大学院修了。ジョージタウン大学留学を経て、杏林大学医学部内科学主任教授。現在、同大学内科学名誉教授。臨床循環器病学の権威。執筆活動も盛んで、著書多数。近著に『老いて今日も上機嫌!』『老いの孤独は冒険の時間』『老いのたしなみ』(以上、河出書房新社)など

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公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health 2023年 第31巻第4号(PDF:6.3MB)(新しいウィンドウが開きます)

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