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第5章 認知症のケア 6.地域包括ケアの視点から

 

公開月:2019年10月

国立長寿医療研究センター 医療安全推進部長
もの忘れセンター 副センター長
武田 章敬

1.地域包括ケアシステムとは

 地域包括ケアシステムとは、平成25年臨時国会において成立した「持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律」1)によれば、「地域の実情に応じて、高齢者が、可能な限り、住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、医療、介護、介護予防(要介護状態若しくは要支援状態となることの予防又は要介護状態若しくは要支援状態の軽減若しくは悪化の防止をいう)、住まい及び自立した日常生活の支援が包括的に確保される体制」と定義されている。本稿では地域包括ケアシステムの構築が必要となった背景、その経緯、認知症施策との関係につき述べる。

2.地域包括ケアシステムの経緯

1.医療からの視点

 社会保障制度改革国民会議報告書2)にも述べられているように、日本が直面している急速な高齢化の進展は、疾病構造の変化を通じて、必要とされる医療の内容に変化をもたらしてきた。平均寿命60歳代の社会で、主に青壮年期の患者を対象とした医療は、救命・延命、治癒、社会復帰を前提とした「病院完結型」の医療であった。しかしながら、平均寿命が男性でも80歳近くとなり、女性では86歳を超えている社会では、慢性疾患による受療が多い、複数の疾病を抱えるなどの特徴を持つ老齢期の患者が中心となる。そうした時代の医療は、病気と共存しながらQOL(Quality of Life)の維持・向上を目指す医療となる。すなわち、医療はかつての「病院完結型」から、患者の住み慣れた地域や自宅での生活のための医療、地域全体で治し、支える「地域完結型」の医療、実のところ医療と介護、さらには住まいや自立した生活の支援までもが切れ目なくつながる医療に変わらざるを得ない。このような疾病構造の変化が地域包括ケアシステムの構築を必要とする背景となっている。

 「地域包括ケアシステム」という言葉は広島県の公立みつぎ総合病院(当時御調国民保険病院)の山口昇院長が始めた取り組みから始まった。1974年(昭和49年)から「寝たきりゼロ作戦」として「医療の出前」(訪問看護、訪問リハビリテーション)を始め、町役場の保健・福祉部門を病院に統合して、ホームヘルパーの派遣や地域住民の疾病予防のための健康づくりや介護予防に取り組み、更には介護老人保健施設、ケアハウス、グループホーム等を開設し総合保健福祉施設群を併設した3~5)

 「尾道方式」は尾道市医師会の片山壽医師が中心となって1991年に急性期病院と診療所の病診連携および開業医同士の連携・互助システムによる救急蘇生委員会を立ち上げたことから始まり、主治医機能の拡充による在宅医療のシステム化と高齢化に備えた包括的ケアシステムからなる高齢者医療ケアシステムを整備していった。尾道市医師会が提唱する主治医機能は、在宅医療、連携機能、長期マネジメント機能、認知症早期診断・治療・ケアの総合化といったmultiple functions(多機能をもつこと)、利用者や家族の状況の理解、的確にしてタイムリーなサービス選択とアクセス、利用者本位のサービス提供といったflexibility(柔軟な対応を行うこと)、利用者への適切な説明やカンファレンスを通じた関係多職種との共通認識といったaccountability(説明責任)を3原則としている。主治医機能を最大限に発揮することを支援する医師会事業として、訪問看護ステーションや介護老人保健施設、24時間ヘルパーステーション、ケアマネジメントセンターなどが設立された。1999年から高齢者総合機能評価(CGA:Comprehensive Geriatric Assessment)をベースとした多職種協働ケアカンファレンスが開始された。このケアカンファレンスは在宅主治医(開業医)を中核とした、利用者(患者)の在宅療養を支援するプログラムであり、高齢者医療・介護の長期継続ケアにおける実践手法であり、急性期・回復期・生活期それぞれのケア分担を多職種協働によって可能にする手法でもある。「尾道方式」においては医師の研鑽のみならず協働する人材の育成も重視し、講演や研修、ケアカンファレンス等によるスタッフの育成と継続研修によってサービスの質を担保している。尾道市においては開業医と急性期病院が密接に連携し、退院前カンファレンスを通じて退院後の患者の療養生活を切れ目なく支援し、社会福祉協議会、民生委員、保健推進委員を統括する公衆衛生推進協議会とも連携し、高齢者の生活を支える体制を構築している。更には高齢者のみにとどまらず、生活習慣病、子育て支援、STD・AIDSの予防等まで対象を拡大している4、6、7)

 平成28年度地域包括ケア研究会報告書8)において『連携・統合のレベルは、その結び付きの度合いから「連携(Linkage)」、「協調(Coordination)」、「統合(Full integration)」といった3つのレベルが想定される。「連携(Linkage)」とは、医療機関同士における紹介状のように、必要な時に、必要なサービスにつなぐといったつながりであり、全体の調整機能には至らない個別の仕組みを言う。「協調(Coordination)」は、組織間の連携がより強く、また構造化されている状態であり、多様な職種が統一したケアの考え方を共有し、退院支援のためのルールなどが定められている状態が該当する。そして、「統合(Full integration)」は、必要なサービス資源が統合されている状態であり、特定のニーズをもった利用者を対象とした一体的・包括的なサービス提供体制などが該当する。利用者からみて多様なサービス一体的に提供されているように見えるのが特徴といえるだろう。』と述べられているが、公立みつぎ総合病院は「統合(Full integration)」に、「尾道方式」は「協調(Coordination)」に相当すると考えられる。

2.介護からの視点

1)介護保険制度発足前

 介護保険発足前に高齢者介護に関する公的制度として中心的な役割を担っていたのは「措置制度」を基本とする老人福祉制度であった。老人福祉に係る措置制度は、特別養護老人ホーム入所やホームヘルパー利用などのサービスの実施に関して、行政機関である市町村が各人の必要性を判断し、サービス提供を決定する仕組みであった。その本質は行政処分であり、その費用は公費によって賄われるほか、利用者については所得に応じた費用徴収が行われていた。利用者にとっては、自らの意思によってサービスを選択できないほか、所得審査や家族関係などの調査を伴うといった問題があった。さらに、その財源は基本的に租税を財源とする一般財源に依存しているため、財政的なコントロールが強くなりがちで、結果として予算の伸びは抑制される傾向が強かった9)

 福祉サービスの整備が相対的に立ち遅れてきた状況において、高齢者介護の役割を担っていたのがいわゆる「老人病院」であった。老人医療費は無料であったため、医学的な治療が必要のない状態であっても長期間の「社会的入院」が継続され、付添婦が身の回りの世話をしていた(1996年(平成8年)に廃止)。多くの老人病院において認知症の人に対する身体拘束が日常的に行われていた10)

2)介護保険制度発足

 2000年(平成12年)介護保険制度が始まった。これまでの「家族による介護」や「社会的入院」から「介護の社会化」への転換がスローガンとして唱えられた。介護保険法11)の第一条には「この法律は、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者がその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため、国民の共同連帯の理念に基づき介護保険制度を設け、その行う保険給付等に関して必要な事項を定め、もって国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的とする。」又、第二条4項において「保険給付の内容及び水準は、被保険者が要介護状態となった場合においても、可能な限り、その居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように配慮されなければならない。」とされ、本制度が要介護高齢者の日常生活の自立を支え、在宅生活の継続を目的とするものであることが示された。

3)2015年の高齢者介護

 2003年(平成15年)に厚生労働省老健局長の私的研究会である高齢者介護研究会において取りまとめられた報告書「2015年の高齢者介護~高齢者の尊厳を支えるケアの確立に向けて~」12)では介護保険制度の実施状況を踏まえ、課題を整理し、今後求められる高齢者介護の姿が描かれた。

 介護保険制度発足時の目的は「日常生活の自立」であったが、「尊厳の保持」がその上位の目的とされ、平成17年介護保険法の改正によって第一条に「尊厳を保持し」の文言が追加されることとなった。

 本報告書12)において課題として在宅生活を希望する高齢者が在宅生活を続けられない状況であることが示され、その背景は、在宅では365日・24時間の介護の安心を得ることが極めて困難であることとされ、「この課題を解決するためには、在宅に365日・24時間の安心を届けることのできる新しい在宅介護の仕組みが必要である。本人(や家族)の状態の変化に応じて、様々な介護サービスが、切れ目なく、適時適切に在宅に届けられることが必要である。すなわち、日中の通い、一時的な宿泊、緊急時や夜間の訪問サービス、さらには居住するといったサービスが、要介護高齢者(や家族)の必要に応じて提供されることが必要であり、さらに、これらのサービスの提供については本人の継続的な心身の状態の変化をよく把握している同じスタッフにより行われることが望ましい。このためには、切れ目のないサービスを一体的・複合的に提供できる拠点(小規模・多機能サービス拠点)が必要となる」、「こうした一連のサービスは、安心をいつも身近に感じられ、また、即時対応が可能となるよう、利用者の生活圏域(例えば中学校区あるいは小学校区ごと)の中で完結する形で提供されることが必要である」、「高齢者の生活圏域で必要なサービスを完結させるという観点は非常に重要であり、地域ケアの確立を考える上でも、地域の様々なサービス資源を高齢者の生活圏域を単位に整備し、結び付け、その中で(施設サービスまで視野に入れて)必要なサービスが切れ目なく提供できる体制を実現していくという視点が必要である。市町村の策定する介護保険事業計画においても、単にサービスの数量的整備目標を掲げるだけでなく、「サービス圏域」という概念を導入し、それぞれの圏域単位で必要なサービスの提供が完結するようなきめの細かい取組を進めることが望ましい」とされた。

 このような議論を踏まえ、平成18年度制度改定で市区町村が地域事情に応じて整備や基準設定が可能な「地域密着型サービス」が導入された。また、高齢者の在宅生活を継続的に支えるために「小規模多機能型居宅介護」が地域密着型サービスのひとつとして導入された。

 また、介護保険の介護サービスやケアマネジメントのみでは、高齢者の生活全てを支えきれるものではないという視点から、「介護以外の問題にも対処しながら、介護サービスを提供するには、保健・福祉・医療の専門職やボランティアなど地域の様々な資源を統合した包括的なケア(地域包括ケア)が提供されることが必要。地域包括ケアにより、医療サービスと介護サービスが適切に組み合わされて提供されれば、ターミナルケアが必要な状態に至るまで、高齢者の在宅での生活を支えることが可能になる」12)とされ、平成18年度から、関係者の連絡調整を行い、サービスのコーディネートを行う機関として、地域包括支援センターが創設された。

 更に「痴呆性高齢者ケアが未確立である」という課題を踏まえ、「尊厳の保持」をケアの基本とし、『痴呆性高齢者グループホームにおける「小規模な居住空間、なじみの人間関係、家庭的な雰囲気の中で、住み慣れた地域での生活を継続しながら、ひとりひとりの生活のあり方を支援していく」という方法論は、痴呆性高齢者グループホーム以外でも展開されるべき』であり、『「小規模・多機能サービス拠点」、「施設機能の地域展開」、「ユニットケアの普及」、は、痴呆性高齢者に対応したケアを求める観点から産み出されてきたものであり、これらの方策の前進がさらに求められる』とされた12)

 本報告書において介護分野において「地域包括ケアシステム」の概念が初めて明確に示され、介護保険制度創設時の「介護の社会化」から「地域による介護」への転換が示された13)。また、地域包括ケアシステムが認知症ケアを念頭においた理念であることも示された。

 平成16年には「痴呆」が「認知症」に改められ、平成17年度から認知症サポーター100万人キャラバン、認知症サポート医養成研修が始まり、平成18年度からかかりつけ医認知症対応力向上研修が開始された。

3.地域包括ケア研究会と施策

 平成20年度に有識者をメンバーとする地域包括ケア研究会14)が開催され、「地域包括ケアシステム」について「ニーズに応じた住宅が提供されることを基本とした上で、生活上の安全・安心・健康を確保するために、医療や介護のみならず、福祉サービスを含めた様々な生活支援サービスが日常生活の場(日常生活圏域)で適切に提供できるような地域での体制」と定義し、「おおむね30分以内」に必要なサービスが提供される圏域として、具体的には中学校区を基本とするとした。また、「地域には、介護保険サービス(共助)だけでなく、医療保険サービス(共助)、住民主体のサービスやボランティア活動(互助)、セルフケアの取組み(自助)等数多くの資源が存在するが、これらの資源は未だ断片化している。今後、それぞれの地域が持つ「自助、互助、共助、公助」の役割分担を踏まえながら、有機的に連動して提供されるようなシステム構築が検討されなければならない」とされた。

 平成21年度地域包括ケア研究会報告書15)において2025年の地域包括ケアシステムの姿として、医療と介護の連携について以下のように述べられている。「医療と介護の機能分化と連携が進み、入院医療において高齢者は急性期から回復期での十分な治療・リハビリテーションを受けることができる。退院後の在宅復帰に支援が必要なケースについては、病院の医療連携室から利用者の担当の介護支援専門員に連絡が入り、退院時カンファレンスが開催され、情報共有が徹底している。在宅生活支援が困難なケースについては、管轄の地域包括支援センターが地域ケア会議において、訪問診療、訪問看護、訪問介護等の専門職、民生委員及び後見人など地域の支援者に本人、家族なども加えてチームケアを編成し、支援メニューが検討され、ケアプランに反映される。これにより、退院後の在宅生活を本人も家族も安心してスタートできるようになっている。」とされた。さらに、より具体的な姿として、下記の様な認知症のケースが例示されている。

 「認知症を有する者については、市町村におけるスクリーニングが普及して早期発見・早期診断が可能となり、早期より適切な対応が行われる結果、BPSDの現れる頻度も少なくなっている。たとえBPSDが出現しても、在宅あるいは施設において適切なケアと治療が提供され、短期間で改善する。自傷他害等のBPSDに対しては入院治療を行い、改善後すみやかに退院する。したがって、精神病院への長期入院の問題は解消されている。また、退院前後に様々な調整が必要なケースには、医療関係者のケアカンファレンスと介護関係者のサービス担当者会議の連携支援を行う場としての地域包括支援センター主催の地域ケア会議が開催され、在宅復帰へのサービスメニューが本人や家族も参加して検討される。

 地域にはグループホームや小規模多機能サービスが十分整備されており、これらの保険サービスを利用しながら安心して地域での生活を継続できる。また、地域には認知症サポーターが普及し、認知症への偏見も解消しており、サポーターを中心とした自治会やNPOが実施する見守り、食事、家族支援などの日常生活上の支援も受けている。認知症があることを理由にサービスの利用が拒否されたり、住居内外での行動を抑制・制限するようなこともなくなっている。身体合併症に対しても一般病院における認知症への対応能力が向上しており、必要十分な治療が受けられる。早期診断が普及した結果、早期からの成年後見制度の活用が図られ、高齢者の尊厳が保たれる。」

 平成24年度の介護報酬改定において定期巡回・随時対応型訪問介護看護と複合型サービス(小規模多機能型居宅介護+訪問看護)が創設された。

 平成24年度には認知症初期集中支援チームがモデル事業として開始され、平成25年には病院勤務の医療従事者向け認知症対応力向上研修が開始となった。(平成28年度診療報酬改定において「認知症ケア加算」の新設等、認知症の人が身体合併症を来たして一般病院で入院治療を受ける場合に報酬上の評価がされることとなった。)

 平成24年度の地域包括ケア研究会16)においては、地域包括ケアシステムを構成する要素として掲げられてきた「介護」、「医療」、「予防」、「生活支援サービス」、「住まい」が、「介護・リハビリテーション」、「医療・看護」、「保健・予防」、「福祉・生活支援」、「住まいと住まい方」に整理され、更に「本人と家族の選択と心構え」が示された。(図1)。『「住まいと住まい方」を地域での生活の基盤をなす「植木鉢」に例えると、それぞれの「住まい」で生活を構築するための「生活支援・福祉サービス」は植木鉢に満たされる養分を含んだ「土」と考えることができるだろう。「生活(生活支援・福祉サービス)」という「土」がないところに、専門職の提供する「介護」や「医療」、「予防」を植えても、それらは十分な力を発揮することなく、枯れてしまうだろう。従来は並列関係で5要素が理解されてきたが、このように捉え直すことにより、地域包括ケアシステムにおいては、「介護」、「医療」、「予防」という専門的なサービスの前提として「住まい」と「生活支援・福祉サービス」の整備があることが理解できる。』とされた。

地域包括ケアシステムの模式図
図1 地域包括ケアシステムとは
(三菱UFJリサーチ&コンサルティング16)より引用)

 平成25年度の地域包括ケア研究会17)においては、「本人・家族の選択と心構え」が「養生」という言葉で説明された。『「養生」の考え方には、食事や生活習慣だけでなく、医師との関わり方や薬の用法も含まれる。地域包括ケアシステムに置き換えて考えれば、必要な支援・サービスを選択し利用しながら、自らの機能を維持向上する努力であり、「養生」のための支援は、まさに「自己決定に対する支援」ということができる。』と述べられている。

 平成27年度の地域包括ケア研究会18)では「植木鉢の絵」を現状の施策に合わせて進化させた(図2)。要支援者に対する介護予防が2015年度より介護予防・日常生活支援総合事業として実施され、住民自身や専門職以外の担い手を含めた多様な主体による提供体制へ移行していくとされ、土として表現され、貧困や社会的孤立等の課題に対応する福祉サービスの専門性を踏まえ、福祉サービスが専門職(葉)が関わる分野として整理された。また、「自助・互助・共助・公助」についても明快に図示した(図3)。更に、地域包括ケアシステムの構築を進めるために求められる自治体の大きな役割を、「地域マネジメント」の実践として整理した。

地域包括ケアシステムの進化した模式図
図2 進化する地域包括ケアシステムの「植木鉢」
(三菱UFJリサーチ&コンサルティング18)より引用)
図3:地域包括ケアシステムを支える「自助・互助・共助・公助」
図3 地域包括ケアシステムを支える「自助・互助・共助・公助」
(三菱UFJリサーチ&コンサルティング18)より引用)

 平成28年度の地域包括ケア研究会8)では対象を高齢者だけではなく、障害者や子育ての支援なども含めた「地域共生社会の実現」がキャッチフレーズとして示され、予防が重視された。予防の中でも「地域づくり」がゼロ次予防として位置付けられた。

 平成29年介護保険法の改正において高齢者と障害児者が同一事業所でサービスを受けやすくするために共生型サービスが新たに位置付けられた。

3.認知症初期集中支援チーム

 認知症ケアと地域包括ケアシステムの関係について、筒井は「認知症患者へのケア提供の仕組みを地域で考えることそのものが、地域包括ケアの構築といえる。なぜなら、提供機関相互がサービス提供の実態を理解する過程で地域連携パスの構築や、ICTを活用した連携のための環境の整備などの推進がなされることは、これらがすべて地域包括ケアシステム構築へのプロセスといえるからである」と述べている19)

 「認知症初期集中支援チーム」は、チーム員医師(認知症専門医・認知症サポート医)が協働して、看護師、作業療法士等複数の専門職が認知症の疑いのある人又は認知症の人やその家族を訪問し、観察・評価を行った上で家族支援などの初期の支援を包括的・集中的に行い、専門医療機関やかかりつけ医と連携しながら認知症に対する適切な治療やサービスに繋げ、自立生活のサポートを行うものである。認知症初期集中支援チームは平成24年度(2012年度)からモデル事業として開始され、平成27年度(2015年度)からは地域支援事業に位置付けられ、認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)20)においては平成29年度(2017年度)末までに全ての市町村に整備されることとなっている。本事業の主体は市区町村であり、市区町村、地域包括支援センター、かかりつけ医、認知症サポート医、認知症専門医、ケアマネジャー等がDASC21)等の共通のアセスメントツールによる多くの領域にわたる包括的な情報を共有し、連携しつつ、効率的な支援を行う。認知症初期集中支援チームは、市町村が中核となり、医療・保健・介護・福祉等の専門職が協働で認知症の人や家族を支援する、地域包括ケアシステムの一部を形成する。また、認知症の人を早期に診断し、支援を行うことで、BPSDの発症を予防し、認知症の人の意思決定を支援することにつながることが期待される。

4.情報共有ツール

 平成27年度老人保健健康増進等事業「認知症の医療介護連携、情報共有ツールの開発に関する調査研究事業」22)において情報共有ツールに関する検討が行われ、母子健康手帳の様に「本人目線のツール、持つことで安心できるツール」のあり方として以下の点が示された。①情報は本人のものという視点、支援が長期にわたり関係者も変わっていくこという観点からは手帳形式が望ましい。②自分が今、どんな病気でどんな治療・支援を受けているかを把握し、必要時に支援者と共有できるツール。③救急時、災害時、老老介護であっても診療情報提供書がなくても状況をある程度説明できるツールを自分が持っていることは安心につながると考える。このような情報共有ツールが地域で運用されることで、認知症の人が切れ目なく、重複なく、効率的で適切な支援が受けられると同時に、認知症の人や家族が「自助」の視点を持ち、自分で選んだ必要な支援を受けられるようになることが期待される。

5.おわりに

 本稿では地域包括ケアシステムの構築が必要とされた背景、医療からの視点と介護からの視点からみた地域包括ケアシステムの経緯、地域包括ケア研究会での検討の経過と施策への反映、認知症施策との関係等について述べた。「地域包括ケアシステムを創る際に、全ての市町村、あるいは、全ての組織にあてはまる唯一のモデルというものは存在しない」13)ことに留意しつつ、地域の社会資源等に応じたシステムの構築を試みる必要がある。

文献

プロフィール

著者:武田 章敬
武田 章敬(たけだ あきのり)
国立長寿医療研究センター 医療安全推進部長 もの忘れセンター 副センター長
最終学歴
1989年 名古屋大学医学部卒
主な職歴
2004年 国立長寿医療センターアルツハイマー型認知症科医長 2008年 厚生労働省認知症対策専門官 2010年 国立長寿医療研究センター脳機能診療科医長 2016年 国立長寿医療研究センター医療安全推進部長、もの忘れセンター副センター長 現在に至る
専門分野
認知症、神経疾患

※筆者の所属・役職は執筆当時のもの

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