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派遣報告書(船曳茜)

派遣者氏名

船曳 茜(ふなびき あかね)

所属機関・職名

杏林大学医学部・医員

専門分野

老年医学

参加した国際学会等名称

AMERICAN GERIATRICS SOCIETY 2018 Annual Scientific Meeting

学会主催団体名

American Geriatrics Society

開催地

アメリカ オーランド

開催期間

2018年5月3日から2018年5月5日まで(3日間)

発表役割

ポスター発表

発表題目

Investigation of Catheter-related bloodstream infection in elderly inpatients

高齢入院患者における中心静脈カテーテル関連血流感染症の検討

発表の概要

目的

 中心静脈カテーテルは急性期の治療において薬剤投与や血行動態モニタリングなど必要不可欠なデバイスであるが、高齢者診療においては急性期のみならず、末梢血管の脆弱性や栄養管理の観点から留置を要する例をしばしば経験する。中心静脈カテーテルの最も重篤な合併症の一つである中心静脈カテーテル関連血流感染は、死亡のリスクを高め、入院期間の長期化や医療費の増加に継がる感染症であり予防が重要である。これまで高齢入院患者における中心静脈カテーテル関連血流感染における報告は少なく、その特徴について検討する。

方法

 2014年4月から2016年3月までに杏林大学医学部付属病院高齢診療科に入院した701名のうち中心静脈カテーテルを留置した216名を対象とした。米国感染症学会ガイドライン2009年度版に基づいて、中心静脈カテーテル留置中に発熱した症例のうち、少なくとも1セットの血液培養とカテーテル先端培養から同じ微生物が検出された症例もしくは2つの血液培養検体でカテーテル関連血流感染症の基準を満たした症例を中心静脈カテーテル関連血流感染発症群とし、患者背景や血液検査、使用カテーテル、死亡率、入退院時の居住場所、生活自立度(JABCランク)について後ろ向きに検討した。

結果

 216名中、中心静脈カテーテル関連血流感染発症群は29名、非発症群は187名であった。両群間で年齢、性別、カテーテル挿入部位、留置期間、死亡率には有意差は認めず、入院期間(82.8日 vs 58.8日)、高カロリー輸液の使用(79% vs 50%)、2段階以上のADL低下(70% vs 46%)に有意差を認めた。退院先については自宅から入院した患者の自宅への退院率には差を認めなかったが、施設から入院した例が同じ施設に退院できる割合は感染発症群において有意に低く、より介護度を要する施設もしくは療養病床に転院する割合が有意に高かった(12.5% vs 66.7%, p<0.05)。起因菌はCandida albicansが34.5%と最も多かった。

考察

 今回の検討で中心静脈カテーテル関連血流感染は要介護高齢者において介護度を増す重要な責任要因の一つであることが示唆された。

派遣先学会等の開催状況、質疑応答内容等

5月3日にポスター発表を行い、下記2点の質疑があった。

  1. 中心静脈カテーテル関連血流感染率の高さについて
    • 先行研究では全体のカテーテル挿入日数が10日前後であったのに対し、今回の研究ではカテーテル留置の目的の半数がTPNであり全体のカテーテル挿入日数が平均25日と長いこと、平均年齢が87歳と超高齢であり要介護者が8割を占め、感染しやすい状態にあったことが原因として考えられる。
  2. カンジダ属が起因菌として最も多かった理由は何が考えられるか
    • 1か月以内の抗菌薬使用率が90%と高いこと、大腿静脈へのカテーテル留置率が90%と高いこと、先行研究で中心静脈カテーテル関連血流感染における真菌感染のリスクと報告されているTPNを半数で行っていること、要介護の超高齢者を対象としておりカンジダの保菌率が高いことが要因として挙げられる。

本発表が今後どのように長寿科学に貢献できるか

 今回の研究で中心静脈カテーテル関連血流感染発症はADLの低下、退院後の療養場所に関連する可能性が示唆された。中心静脈カテーテル関連血流感染発症による医療費の増大は既知の課題であるが、加えて高齢入院患者においてはADLが低下することにより介護必要度が増し国家の社会保険に関わる人及び財政への負担の増大に繋がる。高齢入院患者における中心静脈カテーテル関連血流感染の発症要因に関するさらなる研究を重ねることで発症抑制に繋げることができれば社会保障費の軽減が期待できる。