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派遣報告書(小山史穂子)

派遣者氏名

小山 史穂子(こやま しほこ)

所属機関・職名

大阪国際がんセンターがん対策センター疫学統計部・医員

専門分野

歯学

参加した国際学会等名称

96th General Session & Exhibition of IADR

学会主催団体名

The International Association for Dental Research

開催地

イギリス ロンドン

開催期間

2018年7月25日から2018年7月28日まで(4日間)

発表役割

口頭発表

発表題目

Sleep duration and oral status in older English adults

英国高齢者における現在歯数と睡眠時間の関連

発表の概要

目的

 これまでの疫学研究において、睡眠時間が短いことや長いことは死亡率上昇に関連があることが示されている。睡眠時の呼吸は睡眠障害になり、睡眠時間に関連が深い。またこれまでに歯周病と長時間睡眠との報告が存在する。歯は上下の咬合関係を保つ役割があり、日本人高齢者における先行研究では歯が少ない人は短時間睡眠、および長時間睡眠のオッズが有意に高かった。一般住民を対象にした同様な関連が韓国からも報告されており、アジア圏での研究は行われているものの、欧米での検証は我々の知る限り存在しない。本研究では同様の関連が顔面骨格や生活習慣の異なる英国の高齢者においても認められるのか検証を行った。

方法

 ELSA(English Longitudinal Study of Ageing)に基づき、2015年に50歳以上を対象に行った調査データ(wave7:N=9,996)の中で睡眠障害や、歯の喪失が発生している可能性が高い65歳以上の高齢者(N=5,591)を対象にして解析を行った。目的変数には睡眠時間(<5h、5-6h、7-8h、≥9h)を用いて、説明変数は現在歯数(20本以上、10-19本、1-9本、0本)とした。共変量には性別、年齢、教育歴、所得、精神的な健康状態(CES-D)、糖尿病の有無、日常生活動作(ADL)、喫煙歴を設定し、多項ロジスティック回帰分析を行った。

結果

 4,129名(男性1,828名、女性2,301名)が解析に必要な項目に完全回答であった。睡眠時間が7-8時間の者は52.3%、5時間未満の短時間睡眠が3.5%、9時間以上の長時間睡眠が26.0%であった。歯が0本である者は13.8%、20本以上を有する者は55.0%と半数を超えていた。共変量を調整した多項ロジスティック回帰分析では、睡眠時間7時間を基準にした際、現在歯が20本以上の群に比較して、0本の群は長時間睡眠(睡眠時間が9時間以上)であるオッズが有意に高かった(オッズ比:1.37,95%信頼区間1.07-1.75)。

考察

 本研究により現在歯数と睡眠時間との有意な関連を認められた。日本人高齢者とは異なり、英国高齢者では、長時間睡眠のみとの関連が認められ、集団ごとの差異があることが考えられる。アジア人と欧米人では顔面の骨格的な差異により、顎位よりも肥満による影響が考えられ、今後の研究で検証が必要である。

派遣先学会等の開催状況、質疑応答内容等

 フロアーからの質問:「Body Mass Index(BMI)や全身の健康状態との関連について言及してみてはどうか。」

 回答:「本解析ではデータの特性上BMIの調整は難しい点、全身疾患の既往については口腔との関連が深い糖尿病を解析に投入していること説明した。(写真1:口頭発表時の様子)」

 韓国・Yonsei大学のEun-Sil Choi先生のポスター発表で口腔と睡眠について言及している研究があり、その関連について議論を行った。

平成30年度第1期国際学会派遣事業 派遣者:小山史穂子1
写真1:口頭発表時の様子
平成30年度第1期国際学会派遣事業 派遣者:小山史穂子2
写真2:ポスター発表会場の様子

本発表が今後どのように長寿科学に貢献できるか

 WHOは2050年に60歳以上の高齢者の睡眠障害が20億人に達すると提言しており、高齢者における睡眠の問題は深刻である。推奨睡眠時間に対して短時間睡眠、長時間睡眠のいずれにおいても全身疾患や死亡に影響があることがこれまで報告されており、その要因を明らかにする研究は少ない。 今回英国の高齢者における歯の本数と睡眠時間について関連を明らかにし、歯を失ってしまうことが長時間睡眠へ影響がある可能性があることを提言した。この内容は我々の知る限り世界で初めての検証であり、高齢者の睡眠問題に対する口腔衛生からのアプローチの可能性を示している。