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派遣報告書(大浦美弥)

派遣者氏名

大浦 美弥(おおうら みや)

所属機関・職名

東京大学医学部附属病院老年病科・専門研修医

専門分野

老年病

参加した国際学会等名称

American Geriatrics Society

学会主催団体名

American Geriatrics Society

開催地

アメリカ オーランド

開催期間

2018年5月1日から2018年5月7日まで(7日間)

発表役割

ポスター発表

発表題目

Association between urinary incontinence and other geriatric syndromes

高齢者における尿失禁と他の老年症候群との関連

発表の概要

目的

 老年症候群はしばしば一患者に複数の疾患の併存を認める。老年症候群の中でも尿失禁は有病率が高く、かつ患者のQOLを大きく低下させるにも関わらず、患者の羞恥心などの問題から十分に診断され治療されているとは言い難い。本研究は尿失禁と関連の強い老年症候群を同定することを目的として行った。

方法

 2014年4月から2017年7月までに東京大学医学部附属病院老年病科に入院した高齢患者のうち、検査目的の短期入院を除外した725人をデータベースに登録した。患者の主な入院目的は認知機能の精査、もしくは肺炎や糖尿病、心不全といった急性期疾患の加療などであった。データベースには患者の基本情報、併存疾患、長谷川式・MMSEの点数に加え、認知機能障害、歩行障害、転倒、不眠、体重減少、便秘、尿失禁などを含む18の老年症候群の有無を登録した。

結果

 患者の平均年齢は78.7歳、男性は46.0%であった。尿失禁の有病率は20.9%で、今回対象とした全18種類の老年症候群のうち5番目に高かった。老年症候群数は年齢の上昇に伴って有意に増加しており、尿失禁の有病率も年齢に伴い増加していた (p for trend <0.001)。年齢、性別、要介護度で調整した多重ロジスティック回帰分析を行ったところ、尿失禁はめまい、歩行障害、転倒、体重減少、嚥下障害と有意な関連が見られた。

考察

 本研究によって尿失禁と関連した老年症候群がいくつか見出された。めまいや歩行障害、転倒は機能性尿失禁の増悪因子と考えられるほか、体重減少や嚥下障害はフレイルを介して尿失禁と関連していると考えられる。本研究からはこれらの老年症候群が尿失禁患者に併存し、診断の手がかりとなり得ることが示唆された。

派遣先学会等の開催状況、質疑応答内容等

 各々のポスターセッションごとに活発な議論がみられた。本発表については研究の要旨についてのほか、研究における被験者や老年症候群の記録方法や、各症候群の定義などについて質問があった。

平成30年度第1期国際学会派遣事業 派遣者:大浦美弥

本発表が今後どのように長寿科学に貢献できるか

 高齢者における尿失禁は、有病率が高く、QOLを大幅に低下させるほか、尿路感染症などの一因にもなりうることから、医師による適切な介入が必要な病態にも関わらず、外来で見逃されていることがしばしばある。今回の研究では尿失禁は加齢に伴うフレイルの進行と関連して発生していることが示唆された。フレイルを有する高齢者においては、尿失禁をはじめとする各種疾患の予防・治療について、医療側が積極的に介入していく必要が示された。