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派遣報告書(荒井信彦)

派遣者氏名

荒井 信彦(あらい のぶひこ)

所属機関・職名

慶應義塾大学医学部脳神経外科・助教

専門分野

血管障害、遺伝子

参加した国際学会等名称

13th HHT international scientific conference

学会主催団体名

Cure HHT

開催地

アメリカ領プエルトリコ サンファン

開催期間

2019年6月12日から2019年6月16日まで(5日間)

発表役割

口頭発表

発表題目

Evaluation of cerebral arteriovenous malformations (AVMs) and detection of micro AVMs in HHT with silent MRA; arterial spin labeling magnetic resonant angiography with ultra-short time echo comparing with TOF MRA

sporadic AVMの各componentsの評価及びHHTに頻発するmicro AVM検出に関してarterial spin labelingと極短エコー時間を組み合わせたMRI softwareであるsilent MRAの有用性を検討した研究

目的

 Silent MRAultra-short TEarterial spin labeling (ASL) 法を併用して血管を描出するMRAの撮影技術である。TEが短いため、乱流や磁化率アーチファクトの影響を最小限とすることが可能で、ASLによる撮影であるので、TOFと異なる点として、血流方向によらず正常静脈は描出されない。よってAVシャントの描出がTOFと比較し、より明瞭化することが想定される。今回、我々は硬膜動静脈奇形の症例において従来のTOF画像と比較し、その有用性を検討した。

方法

 2015年8月から2018年7月までの3年間で当院にて血管撮影もしくはCT-DSAで脳動静脈奇形と診断された症例のうち未治療もしくは治療後残存及び再発によりシャントを有する動静脈奇形の27症例(micro AVM 10例含)に対しsilent MRAとTOF MRA検査を施行した。装置はGE社 3T MRI "SIGNA Pioneer"を使用した。同一症例で複数回撮影がある場合は血管撮影またはCT-DSAと直近の撮影を採用した。また同一症例において、術前後で撮影がある場合はそれぞれを別の観察対象とした。評価項目といては1.病変の検出(感度)、2.動静脈奇形のcomponentsの見えやすさ; feeder・nidus・drainer、それぞれの描出程度をDSAもしくはCT-DSAと比較することで点数化 (1点; 指摘できない、2点; わずかに同定できる、3点; 同定できるが臨床的にはあまり有用でない、4点; よく描出されており、臨床的に有用、5点; かなりはっきりと描出されている、ほぼDSAのように見える)し、silent MRAとTOF MRAで比較検討した。それぞれの項目の評価は血管内治療医2人が独立して行った。評点に関して、rater間で平均化し、その症例における点数とした。また27症例をそれぞれのcomponentごとに平均し、そのcomponentにおける最終点数とした。統計検定はsoftware Rで行った。カテゴリーデータはΧ2乗検定、連続データはwillicoxnの順位和検定を実施した。

結果

 脳動静脈奇形の検出率はTOFで79%, silentで100%であった。検出できなかった症例は6例で、2rater間で同じものであった。10mm以下のnidusを有するMicro AVMに対象を絞って検出率を計算するとTOFは40%に過ぎず、両sequence間で有意な差があった。(p<0.01)AVM各componentsの見えやすさについ、feederはTOF; mean±confidential interval(CI) 3.84±1.00とsilent; 3.93±0.91 p=0.07と有意差はなく、nidusに関してはTOF; mean±CI 2.07±0.84とsilent; 4.24±0.72 p<0.001、drainerに関してはTOF; mean±CI 1.86±1.06とsilent; 3.17±1.47 p<0.001であった。

考察

 今回の研究によりSilent MRAは従来のTOF画像と比較して、AVMの存在診断、特にmicro AVMの検出においては有効であった。また、血管描出能において有意差をもって優れていることが示された。シャント疾患のscreening検査として有用であると同時に、治療適応を判断するのに重要な要素であるnidusdrainer側のcomponentsをTOFよりも明瞭に描出できたことでfollow upにも有用である。治療の前提となる脳血管造影検査の必要性を判断しなければならない外来診療において特に有効であると考える。

派遣先学会等の開催状況、質疑応答内容等

造影MRIがgoldenstadardであるのに、どうやってすべての病変を検出しているのか?
今回は造影CT, angiographyのみである。実際angiographyは侵襲性の問題からgoldstadardとは考えられていないが、検出率に関しては造影MRIより高いと考える。また、一部CT-DSAしか実施していない症例はlimitationで述べた通り、今回のstudyの限界と考える。
写真1:平成31年度第1期国際学会派遣事業 派遣者:荒井信彦2写真1:学会会場内1
写真2:平成31年度第1期国際学会派遣事業 派遣者:荒井信彦3写真2:学会会場内2

本発表が今後どのように長寿科学に貢献できるか

 今後は脳動静脈奇形にのHHT診療におけるgoldstandardの検査方法である造影MRIとsilent MRAの比較を実施し、検出率に関して少なくとも非劣性であることを証明することで、silent MRAが標準的検査方法となることが望まれる。更に、諸外国では造影MRIを何年ごとに撮影すべきかの明確な根拠がなく、侵襲性の比較的高い検査方法であることからなかなかデータの蓄積が難しい。その状況下において、単純MRAである当検査は当院において基本的に毎年実施しており、より妥当な撮影cycleのevidenceを示すことが出来る可能性がある。これはひいてはHHTにおいて、重度障害をきたす可能性のある脳動静脈奇形の破裂を未然に防ぎ、治療を可能とするものであり、大いに長寿科学に貢献すると想定される。