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派遣報告書(服部ゆかり)

派遣者氏名

服部 ゆかり(はっとり ゆかり)

所属機関・職名

東京大学大学院医学系研究科加齢医学・博士課2年

専門分野

老年病科

参加した国際学会等名称

The Alzheimer's Association International Conference 2019

学会主催団体名

The Alzheimer's Association

開催地

アメリカ ロサンゼルス

開催期間

2019年7月14日から2019年7月18日まで(5日間)

発表役割

ポスター発表

発表題目

Polypharmacy in Patients with Dementia: How Involvement of Geriatricians improves medication management

老年病科医による認知症入院患者の服薬調整

目的

 認知症患者において、入院により薬剤数が増加することは知られている。一方、老年病科医は、患者の医学的状況のみならず、認知機能や社会的状況を考慮し、服薬アドヒアランスを保つために、薬剤数を減らす、処方の複雑性を低減するといった服薬管理を行う事が多いが、実際の医療現場では十分に調査されていない。本研究の目的として、認知症患者の服薬状況が、老年病科の入院を契機にどのように変化したか実態を明らかにする。

方法

 2017年4月1日から2018年3月31日までの間に2施設の老年病科に入院した認知症患者275例を対象とした。入院前後の薬剤数の変化をpaired t検定で解析し、その後、薬剤数の差を従属変数とし重回帰分析を行った。

結果

 入院時と比較し、退院時の薬剤数は有意に減少した。(入院時:5.5±3.4、退院時:5.0±3.4  p<0.001)薬剤数の差を従属変数とした重回帰分析(forced entry model , R2=0.33 p<0.0001)では、入院時の薬剤数(beta=0.545)および患者の性別(beta=0.145)の2要因が有意に薬剤数の減少に関連していた。入院中に中止された薬剤では、緩下剤が最も多く、降圧剤、プロトンポンプインヒビター等が多かった。

考察

 当院では、老年病科医と病棟薬剤師が入院時の多剤併用のスクリーニングを行い、薬剤調整を行っている。認知症患者においても、入院を契機に薬物療法の見直しが行われたことが示唆された。

派遣先学会等の開催状況、質疑応答内容等

 The Alzheimer's Association International conferenceはアルツハイマー病の分野で最も大きい学会であり、60か国からの参加者が参加し、臨床医、基礎研究者、神経心理士等の多職種が集まり、アルツハイマー病を様々な視点から学ぶことができた。ポリファーマシーの分野での発表だったが、発表時には、米国、中国、韓国の参加者から質問があり、認知症患者における薬物療法の実態の報告が少ないので、具体的に薬剤調整をどう行っているか、また、一方で開始された薬剤は何だったか等の質問を受けた。

写真1:平成31年度第1期国際学会派遣事業派遣者:服部ゆかり氏が発表ポスターの横に立って写った写真写真1:学会会場内1
写真2:学会が開催されている施設の外観の写真写真2:学会会場内2

本発表が今後どのように長寿科学に貢献できるか

 認知症患者は併存疾患も多くポリファーマシーになりやすいが、認知症患者における薬物療法の実態の報告は少なく、実際の臨床現場で、薬剤調整をするのに苦慮している医師は多い。今回の研究で、入退院時の服用薬剤や変更理由について調査を行い、入院を契機に薬物療法の見直しを行うことの重要性を示せたと考える。今後は、潜在的に不適切な薬剤(PIM)も調査し、引き続きポリファーマシーの改善や薬物有害事象のリスクを減らすことに繋がる研究を行っていきたい。