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アルツハイマー型痴呆早期診断研究事業(終了)

軽度の認識障害(MCI)を対象としたアルツハイマー型痴呆*の早期診断に関する研究(J−COSMIC)事業
Japan Cooperative SPECT Study on Assessment of Mild Impairment of Cognitive Function

(研究期間:平成15年度〜平成21年度)

J-COSMICの概要  ―研究の目的―

 高齢社会の進展にともなって認知症の増加が深刻な社会問題となり、早期治療のための早期診断の役割がきわめて重要となっている。軽度認知障害(MCI)からアルツハイマー型認知症(AD)に移行する例では、早期から後部帯状回や頭頂側頭連合野における脳血流やブドウ糖代謝の低下が報告され,ADを早期に診断できる可能性が示唆された。中でも脳血流SPECTは認知症疾患の日常臨床に広く用いられている。そこで、幅広い施設から客観的なSPECT画像データおよび神経心理検査を含めた臨床データを集めることにより、MCIを対象としたADの早期診断における脳血流SPECT検査・神経心理検査の役割を明らかにする目的で,多施設共同研究「MCIを対象としてアルツハイマー型痴呆の早期診断に関する研究(J-COSMIC)」を実施した。

研究の実施  ―財団指定研究として―

 平成15年3月に財団の指定研究として承認し、J-COSMIC事務局を発足させた。また、研究代表者(米倉義晴)の下に実行委員会として5つの委員会(登録・臨床診断委員会、臨床診断解析委員会、SPECT画像診断委員会、SPECT画像診断解析委員会、患者保護委員会)を組織した。

 平成15年7月に実施説明会を開催し、全国の施設に共同研究への参加を募った。その後、各施設における倫理委員会の承認を得て、平成15年10月より財団との受託研究契約を順次締結し、全国41施設において登録された、MCIで脳血流SPECT検査を実施した319症例を対象として、3年間の追跡調査を行った。

研究の評価  ―審査・評価委員会から―

1 臨床データ

 MCIから認知症への進展は、3年間で47.7%であり、そのほとんどはAD(45.8%)であった。この数値は、症例の登録が厳密な基準に沿って行われたことを示しており、研究の質が高いことを示している。従って臨床経過の下位項目の分析もADについてのものと理解して差しつかえない。その主なものは以下の通りである。

 ADへの進展に関する臨床的予測因子として、

  1. 神経心理検査では、MMSEおよびADAS、
  2. 検査項目では、記憶再生と見当識
  3. 患者属性では、年齢(高齢)と性(女性)が有意であった。このうち(3)は既に確立されている知見であるが、(1)および(2)は我が国の信頼性の高いデータとして、臨床現場で有用な成果となった。

2 SPECT画像データ

 異なる施設で撮像されたデータを標準化する作業は困難である。本研究では3D-SSPという標準化方式に加えて、種々な工夫を行い読影方法を改良して中央読影を行った。

 各種の変性性認知症について大脳全体の血流異常の分布から、AD型47.8%、DLB(汎性レヴィ小体型認知症)18.7%、FTD(前頭側頭型認知症)8.5%他全体の76.6%の症例でSPECTの明らかな変化がみられた。

 これらをもとにADの予測診断能を算出したところ、感度76%、特異度39%、陽性的中率52%、陰性的中率65%であった。この結果は臨床的な認知症患者にSPECT検査を行えば80%近い確率でADが診断されるとともに、AD様所見を呈するSPECT像が認められてもADではない症例が60%以上存在することが示された。

 これはSPECTがADの診断上有用でないことを意味する結果ではない。感度が高いことは、それ自体ADの早期診断に有用であることを示す。さらに特異度の低下は、AD型の大脳活動変化があっても臨床的に認知機能低下が認知症に至らないMCIが相当数存在することを推測させる。ADは変性性の脳病変が臨床症状を如何に出現させるかには、学歴、生活習慣、職業などが関与するという従来のデータに合致するものであり、本研究において脳画像所見と認知機能に乖離がみられる症例についてその臨床的特徴を明らかにすることは有意義であり、今後の課題である。

―柳澤信夫審査・評価委員長―

痴呆* : 現在では、「認知症」とするのが一般的ではありますが、研究開始時は「痴呆」とされていました。そのため、当該調査研究の正式名称に関してのみ「痴呆」のままで表記しています。