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第1回 春の養生

 

公開月:2021年4月

杉山 卓也
薬剤師、漢方アドバイザー、神奈川中医薬研究会会長


 芽吹きの季節である春は気候も穏やかで過ごしやすく感じますが、進学、入社、引っ越しなど新しい環境が増える時期でもあります。そのため、人は環境変化のストレスを受けることが多くなります。

 こうした環境の変化により感じるストレスにより体内を流れる「気」は停滞しやすくなります。それによって気分の落ち込みやイライラ、おなかの張り、肩こりが起きやすくなります。

 また、春は中医学的な内臓分類である「五臓」の一つ、「肝」に負担がかかりやすい季節であると考えられています(図)。

図:五臓別こころの不調と治し方を表す図。
図 五臓別こころの不調と治し方

 肝には気や血(体内を流れるエネルギーや血液)を巡らせるという働きがあるため、「環境変化によるストレス」と「肝の働きの低下」という二つの要因により前述の症状に加え、春特有の失調として目の不調(ぼやけ、かすみ、眼精疲労)や筋肉のこわばりなどが出る、と中医学では考えます。また、肝は「怒」の感情を支配すると中医学では考えており、肝の失調により怒りやすくなったり、怒りが溜まりやすくなったりすることにも注意が必要です。

 こうした失調を改善する方法としてはまず春の旬の食べ物(春菊やたけのこ、さくらんぼ、セロリ、菜の花、ごぼう、アスパラガス、小松菜など)を積極的に食べるというのがお勧めです。春の旬の食べ物には肝の働きを改善させ、滞りやすい気血を巡らせる力のあるものが多いのがその理由です。また、肝の働きを整えるには「酸味」も有効です。酢や柑橘系の果物、梅干しなども合わせて摂るとより有効です。

 春の失調によく使われる漢方薬として、負荷がかかり機能が低下しやすい「肝」の働きを正すためのものが多く見られます。代表的なものとしては「加味逍遥散(かみしょうようさん)」、「抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)」、「四逆散(しぎゃくさん)」などがあります。いずれの漢方薬もお悩みの症状や体質に合わせて服用することで春の失調を乗り切るために有効に使うことができます。

 また、春に多い花粉症のお悩みについても鼻水やくしゃみ、目のかゆみなどの症状を抑えることができる漢方薬として「小青竜湯(しょうせいりゅうとう)」や「苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう」なども有効です。また、花粉による粘膜の炎症などを起きにくくする「玉屏風散(ぎょくへいふうさん)」さんなどという漢方薬も存在します。お悩みに応じてさまざまな漢方薬がありますので活用していただければと思います。

 春は冬の間にこもっていた大気中のエネルギーが開放される季節です。中医学の古典である「黄帝内経(こうていだいけい)」にも「春はできるだけ早起きして活動を行うように」と書かれています。日の出とともに大気中に自然の「陽気」(体を活発に動かすためのエネルギーのようなもの)が増えるため、これを体内に取り入れることが春を元気に過ごすための秘訣である、というわけですね。

 実際、日照時間の短い冬と比べると元気に活動がしやすくなる春はさまざまなチャレンジを行うのに適した季節です。冬の間にしっかりと蓄えていたエネルギーを開放し、有効に使っていきましょう。


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公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health 2021年 第30巻第1号(PDF:5.6MB)(新しいウィンドウが開きます)

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