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認知症サポーター養成2万人チャレンジ達成!~認知症不安ゼロのまちづくり~(愛知県大府市)

 

公開月:2024年5月

全国初の認知症条例~認知症の人の鉄道事故がきっかけに

 「認知症基本法」が2024年1月1日に施行され、認知症施策の転換の年を迎えている。認知症の有無により線引きすることなく、認知症の人を含めた国民全体が支え合う社会をどのようにつくるのか。これには一人ひとりの認知症に対する正しい知識と理解がカギとなる。

 愛知県大府市では2017年制定の全国初の認知症条例のもと、「認知症不安ゼロのまちづくり」を進めている(写真1)。条例制定のきっかけとなったのは、2007年に市内で起きた認知症の男性が亡くなるという鉄道事故。事故後は鉄道会社から高額な損害賠償を請求され、一審・二審では遺族に損害賠償責任、最高裁で遺族が逆転勝訴となり、社会的関心を呼んだ。鉄道事故から10年の節目となる2017年に条例が制定され、市では様々な認知症施策に取り組んでいる。

写真1、JRおおぶ駅前のモニュメントの写真。「認知症不安ゼロのまち・おおぶ」
写真1 JR大府駅前のモニュメント

 中でも注目したいのが、「認知症サポーター養成2万人チャレンジ!」の取り組みだ。「第11回健康寿命をのばそう!アワード(介護予防・高齢者生活支援分野)(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)」で厚生労働大臣優秀賞を受賞している。市の人口は約9万3千人で高齢化率は21.6%と低く、若い世代が多いまちだ。2万人は市の高齢者数とほぼ同じ数だという。2018年から3年間で、それまで1万人だったサポーター数を倍の2万人にするというチャレンジ。「認知症サポーターが増えることで、認知症の人がまちで困っている時に声を掛けてもらえる機会が増えれば」と大府市福祉部高齢障がい支援課高齢福祉係長の佐野隆造さん。

市内中学1年生全員が認知症サポーター

 特筆すべきは、認知症サポーター養成講座を「市内中学1年生は全員受講」としたことだ(写真2)。講座を受講した中学生が自宅でその話題に触れることで、親世代へ波及することも1つの狙いだそうだ。その他、高齢者と接する機会の多い場所、例えば金融機関、スーパーマーケット、公共施設、病院等には市職員と市社会福祉協議会職員が出向き、意義を丁寧に説明し、受講を働きかけている。特に金融機関では2021年に全国銀行協会から認知判断能力が低下した顧客との銀行取引についての意見書が公表されたこともあり、市内全ての金融機関に受講の勧奨を行った。

写真2、中学校での認知症サポーター養成講座の様子を表す写真。
写真2 中学校での認知症サポーター養成講座

 当初は2018年から3年でサポーター2万人養成を目指したが、2020年以降のコロナ禍で達成が難しくなり、期間を5年に延長した。制限がある中でも、校長室から養成講座をリモート配信するなど、その歩みを止めなかった。そして2022年7月、中学生の受講をもって「認知症サポーター養成2万人チャレンジ!」を達成し、体育館で盛大にセレモニーを行った(写真3)。

写真3 、「認知症サポーター養成2万人チャレンジ!」達成のセレモニーの様子を表す写真。
写真3 「認知症サポーター養成2万人チャレンジ!」達成のセレモニー

現役世代の認知症サポーター養成が課題

 市の認知症サポーターを年代別で見ると、10代と60代以上が多い。特にサポーターの1/3以上は60代以上で、"自分ごと"として健康を考えるいいきっかけになっている。一方、「現役世代は受講に時間を割くことが難しく、現役世代のサポーターをいかに増やすかが今後の課題」と高齢障がい支援課長の小島紳也さんは話す。2023年7月に開催した「図書館子どもまつり」では認知症をテーマにした紙芝居を発表し、好評を博した(写真4)。子ども向けイベントには必ず大人が付き添うため、「大人世代への認知症の理解が広がることが期待できる」という。

写真4 、「図書館子どもまつり」で認知症を題材に紙芝居を発表している写真。
写真4 「図書館子どもまつり」で認知症を題材に紙芝居

市役所全体をチームオレンジに!

 現在、認知症サポーターがチームで活動する「チームオレンジおおぶ」は2チーム。約40名が認知症カフェや人形劇、オレンジガーデニングプロジェクトに意欲的に取り組んでいる。2023年度は「市役所のチームオレンジ化」を目標に掲げ、各課からメンバーを募り、フォローアップ研修を実施。「市役所全体で認知症の人にやさしい取り組みを進めていきたい」と佐野さんは意気込みを話す。

認知症へ負のイメージをなくし、気軽に認知症検査を受けてもらう

 市では、2024年度中に「大府もの忘れ検診」(認知症診断助成制度)を実施し、65歳以上の市民を対象に認知機能の検査費用を市が全額補助する予定だ。これにより認知症の早期発見・早期対応を進める予定である。「徐々に認知症の負のイメージを払拭し、高齢になったらかかりつけ医で毎年1回、風邪で受診するような気持ちで認知症検査を受けていただきたい」と小島さん。市内には長寿医療の専門機関の国立長寿医療研究センターがあり、専門的治療が必要になった時も安心だ。

 「認知症サポーター養成2万人チャレンジ!」達成後は、2030年までに「3万人養成」を新たな目標に掲げた。鉄道事故で父を亡くしたご家族は、「2007年当時、父は誰にも知られずに事故に遭ってしまったが、今なら誰かに声を掛けてもらえて事故が防げたかもしれない」と話していたそうだ。

 認知症基本法が施行され、2023年末には新規アルツハイマー病治療薬が保険適用となり、認知症の治療も新時代を迎えた。認知症を正しく知り、認知症に対する恐怖心・偏見をなくし、気軽に検査を受け、適切な治療を受ける。これからの大府市の認知症不安ゼロのまちづくりに注目したい。

写真提供:大府市


公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health 2024年 第33巻第1号(PDF:5.8MB)(新しいウィンドウが開きます)

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