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第1回 『養生訓』には無いけれど

 

公開月:2024年5月

仲野 徹
隠居・大阪大学名誉教授


 「長寿を目指す『隠居道』」として連載をさせていただくことになりました。令和4年(2022年)3月に、長らく勤めていた大阪大学医学部を定年退職し、隠居道を極めるべく晴耕雨読+物書きの生活に突入している仲野徹であります。よろしくお願いいたします。

 大阪大学医学部での同級生、畏友にしてミステリー作家の久坂部羊は、長寿など目指すなという内容の本を書いたりしておりますが、何歳まで生きたいかは別として、そこそこ長生きしたいというのが多くの人の願いでありましょう。まぁ、寿命は神のみぞ知るというところもありますので、それ以前に健康な生活をというのが常識的なところでしょうか。

 健康法についてはいろいろと言われとりますが、基本的には江戸時代の貝原益軒が『養生訓』で書き尽くしているような気がします。食べ過ぎない、タバコは吸わない、お酒は飲み過ぎない、といったところです。当たり前すぎておもろないような気がしますが、まぁそんなもんでしょう。養生訓といえば「接して漏らさず」が有名ですが、読んでみればわかるように、性生活についてはほんの少ししか書かれていません。

 現代では健康に重要だとわかっているけれど書かれていないのは運動についてで、食後に軽くした方がいいという程度しかありません。これはおそらく、江戸時代の人は、わざわざ生活習慣に運動を取り入れなくても、日常生活で十分に事足りていたからではないかと推測しています。自動車や電車はもちろん、電化製品もまったくない生活を想像してみたらわかります。お侍さんはともかく、農工商の人々は生活自体がエクササイズみたいな感じやったのではないでしょうか。

 2023年の秋、厚労省から「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」案が発表されました。それによると60歳以上の人には、毎日6,000歩の歩行と、週に2~3回の筋トレが推奨されています。6,000歩のうちの4,000歩は1分に100歩程度の早歩きで、残り2,000歩は家の中を歩くことで稼げるということですから、さほど難しくありません。筋トレも、本格的なものでなくともスクワット程度でいいようです。

 とはいえ、こういうのは、本当に効果があるかどうかがわかりにくいのが問題です。鰯の頭も信心から、というと厚労省に叱られるかもしれませんが、このガイドは科学的エビデンスに基づいたものらしいので、やってみても損はないでしょう。ただ、くれぐれも、やりすぎて体を壊したりせんように。なんせ、運動っちゅうのは基本的に体に悪いもんですから。

著者

仲野 徹(なかの とおる)
 1957年大阪市生まれ。大阪大学名誉教授。大阪大学医学部卒業後、ドイツ留学、京都大学医学部講師、大阪大学微生物病研究所教授を経て、2004年大阪大学大学院医学系研究科病理学教授。2022年定年退職。現在、晴耕雨読+ときどき物書き生活の隠居。著書に『からだと病気のしくみ講義』(NHK出版)、『仲野教授の笑う門には病なし!』(ミシマ社)など多数。

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health 2024年 第33巻第1号(PDF:5.8MB)(新しいウィンドウが開きます)

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