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総論 フレイルの全体像を学ぶ 4.運動によるフレイル予防:最新のエビデンス

 

公開月:2021年9月

同志社大学スポーツ健康科学部 教授
石井 好二郎

1:はじめに

 フレイルは時間的連続性があり徐々に進行する。サルコペニアはフレイルの中核的な病態として位置づけられている。また、サルコペニアは「筋量・筋力の減少」→「身体活動量の減少」→「食欲低下(摂食量の減少)」→「低栄養」→「筋量・筋力の減少」の悪循環を生じさせ、フレイルサイクルの負の連鎖を加速させる。したがって、サルコペニアを予防・改善させることと、フレイル以前の健常(robust)な状態で進行を評価できれば、フレイル予防に繋がるように思われる。本稿では、骨格筋の加齢変化、サルコペニア・フレイルに対する運動介入、および体力評価によるフレイル予防について述べることとする。

2:骨格筋の加齢変化

1.骨格筋の基礎知識

 骨格筋は生体内で最大の臓器・組織であり、成人男性で体重の約40%、成人女性では約35%を占める。また、骨格筋は収縮特性から2種類の筋線維タイプに分けられる。ミトコンドリアが多く、収縮速度は遅いが持久的(有酸素的)能力に優れる遅筋(slow-twitch: ST)線維と、ATPase活性が高く、大きな収縮力を生み出せるが持久的能力が低い速筋(fast-twitch:FT)線維である。なお、ST線維はtypeⅠ線維、FT線維はtypeⅡ線維とも呼ばれる。さらに、FT線維は、持久的能力も合わせ持つFTa(typeⅡa)線維と、持久的能力に乏しく瞬間的収縮力に富むFTb(typeⅡb)線維の2種類に区分される。

2.加齢に伴う筋線維の減少

 筋の再生能力の大部分を担っているのは骨格筋幹細胞である筋サテライト細胞(筋衛星細胞)であるが、加齢に伴う筋サテライト細胞の減少は、FT線維において顕著である1)。すなわち、加齢性の筋萎縮がFT線維に顕著であり、その背景には、FT線維での筋サテライト細胞数の減少が影響している可能性がある。一方で、マウスを用いた実験では、筋サテライト細胞は骨格筋再性能に影響を及ぼすものの、サルコペニアには関連しないことを示唆する報告もあり2)、加齢期の筋サテライト細胞の役割については今後の課題となっている。

 近年では、骨格筋のオートファジー(自食)の機能不全が、サルコペニアに関連することが示唆されている。加齢筋において、変性タンパク質を処理するためのLC3(microtubule-associated protein light chain-3)活性化が見られない。その結果、オートファジー経路によって分解されるべきアダプタータンパク質であるp62が筋細胞質内に沈着したままになっている。すなわち、オートファジー経路の障害により、骨格筋内の不要なタンパク質や機能不全ミトコンドリアなどを処分できず、細胞内の恒常性を保てないことがサルコペニアに深く関与すると考えられている(図1)3)

図1:加齢筋におけるオートファジー経路不全の様子を表す図。
図1 加齢筋におけるオートファジー経路不全
※図は佐久間邦弘先生(東工大)より提供

3:サルコペニア・フレイルに対する運動処方

1.サルコペニアからの骨格筋増量に必要な運動介入

 システマティックレビュー(RCT)により一次性サルコペニア(骨格筋量で評価)の骨格筋量増加のための運動介入について検討した研究では、最大挙上重量(1RM)の80%以上の強度で、挙上回数8-12回/セットを2-3セット、週3回の頻度で、3カ月以上の期間の筋力トレーニングが必要であるとしている6)。ほぼ同様のトレーニングを51名の高齢者(71±4歳)に行なった研究5)では、トレーニングにより筋線維断面積はST・FT線維共に増加するが、筋サテライト細胞数はFT線維のみに増加が認められたことが報告されている。また、筋サテライト細胞数が増加した者ほど、FT線維の断面積も増加した。さらに、トレーニングによりST・FT線維間の断面積や筋サテライト細胞数に有意な差は認められなくなった。すなわち、加齢が原因である一次性サルコペニアの明らかな骨格筋量増加には、この程度の強度・量(回数)・頻度・期間が必要なのかもしれない。

2.日本サルコペニア・フレイル学会によるサルコペニアに対する運動介入のシステマティックレビューおよびステートメント

 日本サルコペニア・フレイル学会のサルコペニア診療ガイドライン2017年版では、骨格筋量の減少に加えて筋力の低下、または身体機能の低下を組み合わせてサルコペニア診断を行なったRCTを対象としたシステマティックレビュー6)が紹介されている。抽出されたのは4論文であり、効果が認められた3論文では、ゴムバンドやアンクルウェイトを用いたレジスタンストレーニングに、バランスや歩行を組み合わせた包括的運動プログラムを、1回60分、週2回、3カ月間実施していた。包括的運動プログラムでは四肢骨格筋量、最大歩行速度、膝伸展筋力に有意な改善効果が見られている(表1)6)。なお、このシステマティックレビューではEWGSOP(European Working Group on Sarcopenia in Older People7)やAWGS(Asian Working Group for Sarcopenia8)のサルコペニア診断基準を満たしたRCTが検索されなかったため、運動の効果については考慮すべき点もある。したがって、サルコペニア診療ガイドライン2017でのステートメントでは、運動のエビデンスレベルはサルコペニア発症の予防・抑制は「低」、治療法としては「非常に低」であり、推奨レベルは予防・抑制、治療法共に「弱」であった(表2)9)

表1 運動介入プロトコールの概要
Yoshimura Y, et al, 20176)より著者作表)
研究(発表年)介入群(n)対照群(n)運動介入の内容対照群の内容その他
Kim et al(2012) 77 78 60分間の包括的運動プログラムを週2回
  1. 栄養:アミノ酸
  2. 健康教育
4群で検討:1)運動+栄養、2)運動のみ、3)栄養のみ、4健康教育のみ
Kim et al(2013) 64 64 60分間の包括的運動プログラムを週2回
  1. 栄養:茶カテキン
  2. 健康教育
4群で検討:1)運動+栄養、2)運動のみ、3)栄養のみ、4)健康教育のみ
Kim et al(2016) 71 68 60分間の包括的運動プログラムを週2回
  1. 栄養:アミノ酸・茶カテキン
  2. 健康教育
4群で検討:1)運動+栄養、2)運動のみ、3)栄養のみ、4)健康教育のみ
Wei et al(2016) 20 60 全身振動刺激トレーニング トレーニングなし 3群で検討:振動刺激の1)低周波、2)中周波、3)高周波、および振動刺激なし
表2 サルコペニア診療ガイドライン2017年版でのステートメント・エビデンスレベル・推奨レベル
(サルコペニア診療ガイドライン作成委員会(編), 20179)より引用)
CQステートメント
運動がサルコペニア発症を予防・抑制できるか? 運動習慣ならびに豊富な身体活動量はサルコペニア発症を予防する可能性があり、運動ならびに活動的な生活を推奨する。
(エビデンスレベル:低、推奨レベル:強)
運動はサルコペニアの治療法として有効か? サルコペニアを有する人への運動介入は、四肢骨格筋量、膝伸展筋力、通常歩行速度、最大歩行速度の改善効果があり、推奨される
(エビデンスレベル:非常に低、推奨レベル:弱)

3.日本サルコペニア・フレイル学会によるフレイルに対する運動介入のシステマティックレビューおよびステートメント

 フレイル診療ガイド2018年度版10)ではフレイルの発症・進行予防に対する運動介入は、歩行、筋力、身体運動機能、日常生活活動度を改善し、フレイルの進行を予防し得るため推奨されるとし、エビデンスレベル:1(後述する1+以外のRCTおよびそれらのメタアナリシス/システマティックレビュー)、推奨レベル:A(強い推奨)であった(表3上)。歩行や筋持久力、日常生活活動には改善効果が認められるものの、バランス能力全体や身体機能、Timed Up and Goテスト、QOL(Quality of life)に対してはメタアナリシスでは有効な効果は確認できていない。さらに、運動介入効果が認められるのは軽度から中等度のフレイルであり、重度のフレイルには効果が見られなかったとのことであった。なお、介護保険制度のあるわが国では健常と要支援・要介護者の中間的臨床像として捉えていることが多いため、わが国のフレイルは軽度から中等度に相当すると筆者は捉えている。また、フレイルの発症・進行を予防するための運動プログラムとしては、レジスタンス運動、バランストレーニング、機能的トレーニングなどを組み合わせる多因子運動プログラムが推奨されるとし、エビデンスレベル:1+(質の高いRCTおよびそれらのメタアナリシス/システマティックレビュー)、推奨レベル:Aであり、運動プログラムは中等度から高強度の運動で、漸増的に運動強度を上げていくことを推奨している(エビデンスレベル:1+、推奨レベル:A)(表3下)10)

表3 フレイル診療ガイド2018年版での要約・エビデンスレベル・推奨レベル
(荒井秀典(編集主幹), 201810)より引用)
CQ要約
フレイルの発症・進行予防に運動介入は有効か? フレイルに対する運動介入は、歩行、筋力、身体運動機能、日常生活活動度を改善し、フレイルの進行を予防し得るために推奨される。
(エビデンスレベル:1、推奨レベル:A)
フレイルの発症・進行予防するにはどのような運動が推奨されるのか?

フレイルの発症・進行を予防するための運動プログラムとしては、レジスタンス運動、バランストレーニング、機能的なトレーニングを組み合わせる他因子運動プログラムが推奨される。
(エビデンスレベル:1+、推奨レベル:A)

運動プログラムは中等度から高強度の運動強度で、漸増的に運動強度を上げていくことが推奨される。
(エビデンスレベル:1+、推奨レベル:A)

4:フレイル予防のための進行評価ツール

1.健康関連体力と文部科学省新体力テスト

 フレイルは時間的連続性があり徐々に進行する。したがって、フレイル以前の健常(robust)な状態で進行を評価できれば、フレイル予防に繋がるように思われる。筆者らのグループは地域在住高齢者の健康づくりにかかわり、健常な状態でのフレイルへの進行度を知るツールについて検討している。その一つとして、文部科学省の新体力テスト(以下、体力テスト)である。人間の身体的な能力の総合的な概念としての体力(physical fitness)は筋力や筋持久力、全身持久力、柔軟性、平衡性などの様々な要素によって構成されており、健康関連体力(health-related physical fitness)と技能関連体力(skill-oriented physical fitness)の2つに大きく分類される(図2)11)。このうち健康関連体力は、種々の慢性疾患や健康障害に関連し、健康的な日常生活を支える上で重要な体力であることが知られている。アメリカスポーツ医学会(American College of Sports Medicine: ACSM)は「健康関連体力の要素は、健康状態との間に深い関係があり、活力に満ちた日々の活動を行なう能力によって特徴づけられる。それら健康関連体力に係わる構成要素の個々のレベルは、運動不足病の初期の症状を反映する指標となっている」と述べている12)。この考えはフレイルの概念と極めて近い。健康関連体力の要素には、心肺系体力、身体組成、柔軟性、筋力、筋持久力が含まれており13)、新体力テストの項目がほぼ該当する(身体組成項目はない)(図2)。

図2:フレイル予防のための進行評価ツールの一つ新体力テストの項目を表す図。
図2 体力は2つに分類され、健康関連体力の要素は文部科学省新体力テスト項目にほぼ該当する

2.簡便な方法による健康関連体力のスクリーニング

 体力テストの実施には体育館や測定器具が必要であり、簡便には実施できない地域もある。筆者らのグループは地域在住高齢者を対象として、ロコモ度テストの一つである2ステップテスト値と長座体前屈を除く体力テスト項目との間に相関を認めた(図3)14)。この結果は年齢および性別を制御変数とした偏相関分析においても同様であった14)。2ステップテストは3mほどのスペースとメジャーがあれば実施可能であり、健康関連体力のスクリーニングとしても有効なツールである。また、同じくロコモ度テストの自記式調査票であるロコモ25でも、開眼片足立ち、10m障害物歩行、6分間歩行との間にそれぞれ有意な相関を認めた15)。したがって、ロコモ25は紙ベースでバランス能力や歩行能力の低下を早期に評価することが可能な有用なテストである。

図3:2ステップテストと新体力テスト各項目の単相関分析を表す図。
図3 2ステップテスト(2ステップ値)と新体力テスト各項目の単相関分析
(伊藤祐希,他,202014)より引用)

5:おわりに

 精神・心理的フレイルに対する運動の間接的な効果に対して興味深い報告がある。地域の運動グループに月1回以上参加している者の割合が10%増えると、参加しているか否かにかかわらず、その地域の高齢者全体で見た抑うつリスクが男性で11%、女性で4%低くなることが確認された16)。そのメカニズムについては不明であるが、肥満や禁煙は伝染するという社会的伝播や、インフォーマルな社会統制(周りにつられて個人で運動する人が多くなる)、スポーツ参加者の意見や要望により、健康増進のための施設や産業、条例が整った地域になっているかもしれない(社会的効力)などの影響が考えられている17)。運動に参加する高齢者は決まっており、運動に参加しない高齢者をどうするかが問題になることが多々ある。しかしながら、運動は参加者のみならず、その地域の高齢者のこころの健康(精神・心理的フレイル)に有益である可能性がある。したがって、高齢者の運動参加が増えることは、世界保健機関(WHO)が提唱するAge-Friendly Cities(高齢者に優しい都市)や、我が国が推し進める「地域づくりによる介護予防」に資するとも言えるのである。

文献

  • 1)Verdijk LB, Koopman R, Schaart G, et al: Satellite cell content is specifically reduced in type Ⅱ skeletal muscle fibers in the elderly. Am J Physiol Endocrinol Metab 2007; 292(1): E151-157.
  • 2)Fry CS, Lee JD, Mula J, et al: Inducible depletion of satellite cells in adult, sedentary mice impairs muscle regenerative capacity without affecting sarcopenia. Nat Med 2015; 21: 76-80.
  • 3)Sakuma K, Kinoshita M, Ito Y, et al: p62/SQSTM1 but not LC3 is accumulated in sarcopenic muscle of mice. J Cachexia Sarcopenia Muscle 2016; 7: 204-212.
  • 4)宮地元彦, 安藤大輔, 種田行男, 他: サルコペニアに対する治療の可能性 : 運動介入効果に関するシステマティックレビュー. 老年医誌 2011; 48(1): 51-54.
  • 5)Verdijk LB, Snijders T, Drost M, et al: Satellite cells in human skeletal muscle; from birth to old age. Age (Dordr) 2014; 36(2): 545-557.
  • 6)Yoshimura Y, Wakabayashi H, Yamada M, et al: Interventions for treating sarcopenia: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled studies. J Am Med Dir Assoc 2017; 18(6): 553.e1-553.e16.
  • 7)Cruz-Jentoft AJ, Baeyens JP, Bauer JM, et al: Sarcopenia: European consensus on definition and diagnosis. Report of the European working group on sarcopenia in older people. Age and Ageing 2010; 39: 412-423.
  • 8)Chen LK, Liu LK, Woo J, et al: Sarcopenia in Asia: consensus report of the Asian working group for sarcopenia. J Am Med Dir Assoc 2014; 15: 95-101.
  • 9)サルコペニア診療ガイドライン作成委員会(編集): サルコペニア診療ガイドライン 2017年版. 36-37,46-49, ライフ・サイエンス, 東京, 2017.
  • 10)荒井秀典(編集主幹): フレイル診療ガイド2018年版. 33-36, ライフ・サイエンス, 東京, 2018.
  • 11)田中喜代次:高齢者の体力, 最新スポーツ科学事典(日本体育学会), 309-311, 平凡社, 東京, 2006.
  • 12)日本体力医学会体力科学編集委員会(監訳): 運動処方の指針:運動負荷試験と運動プログラム(アメリカスポーツ医学会編). 57, 南江堂, 東京, 2011.
  • 13)青木純一郎, 内藤久士(監訳): 健康にかかわる体力の測定と評価(アメリカスポーツ医学会編). 1-6, 市村出版, 東京, 2010.
  • 14)伊藤祐希, 青木拓巳, 佐藤健, 他: ロコモ度テストの2ステップテストは健康関連体力を反映する. 日本サルコペニア・フレイル学会誌 2020; 4(1): 62-68.
  • 15)佐藤健, 青木拓巳, 伊藤祐希, 他: 健常高齢者におけるロコモ25の有用性について~新体力テストを体力・運動能力のアウトカムとして~. 日本サルコペニア・フレイル学会誌 2020; 4(1): 55-61.
  • 16)Tsuji T, Miyaguni Y, Kanamori S, et al: Community-level sports group participation and older individuals' depressive symptoms. Med Sci Sports Exerc 2018; 50(6): 1199-1205.
  • 17)Kawachi I, Berkman LF: Social capital, social cohesion, and health. Social Epidemiology. 2nd ed (Berkman LF, Kawachi I, Glymour MM), 290-319, Oxford University Press, New York, 2014.

プロフィール

写真:筆者_石井好二郎先生
石井 好二郎(いしい こうじろう)
同志社大学スポーツ健康科学部 教授
最終学歴
1989年 兵庫教育大学大学院学校教育学研究科修了
主な職歴
1992年 広島大学総合科学部助手 1997年 北海道大学教育学部講師 2000年 北海道大学大学院教育学研究科講師 2002年 北海道大学大学院教育学研究科助教授 2007年 北海道大学大学院教育学研究院准教授 2007年 順天堂大学スポーツ健康科学部客員教授(2014年度まで) 2008年 北海道大学大学院医学研究科客員教授(2010年度まで) 2008年 同志社大学スポーツ健康科学部教授 他に、同志社大学スポーツ医科学研究センター長
所属学会
日本サルコペニア・フレイル学会理事、日本肥満学会理事、日本肥満学会・日本サルコペニア・フレイル学会合同「サルコペニア肥満」ワーキンググループ委員長、日本臨床運動療法学会理事、日本体力医学会評議員・近畿地方会幹事、日本抗加齢医学会評議員、日本未病システム学会評議員、日本健康支援学会理事・評議員、日本スポーツ栄養学会評議員など