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各論3 まちづくりを通してのフレイル予防・対策 3. フレイル予防産業:多面的なアプローチ①食品業界から

 

公開日:2021年9月24日 10時41分

キユーピー株式会社 経営推進本部
食と健康推進プロジェクト
東京大学高齢社会総合研究機構 学術支援職員
内山 奈美

1:はじめに

 我が国は、急速な高齢化の中にあり、2025年には最大の人口集団である団塊の世代が後期高齢期に入る。現在までの政策の主流であった要支援段階での介護予防の重点を、より早期の可逆性の高い段階での対応であるフレイル予防に移していくことは大きな課題である。

 東京大学高齢社会総合研究機構 飯島勝矢教授は、高齢期におけるフレイルの要因は、身体機能低下だけでなく、口腔機能、食品多様性をはじめとする食の偏り、生活の広がりや人との付き合いなどを代表とする社会性の低下などが強く関連していることを明らかにし、「栄養(食・口腔機能)」「身体活動(運動など)」「社会参加(就労、余暇活動、ボランティアなど)」包括的視点に立った三位一体型の予防プログラムである「フレイルチェック」を完成させた。フレイルチェックは、地域に在住する元気シニアが地域の健康づくりの担い手として活躍するボランティア(フレイルサポーター)となり、早期の状態においてチェックを受ける本人に気づきを与え、よりよい生活改善を目指す「一次予防」の方法である。言い換えれば、ゼロ次予防もイメージしたポピュレーションアプローチである。この健康増進につながるより早期からのフレイル予防が広く国民の取り組むものになるには、日常生活の延長線上で展開されるべきものであり、民間企業が創意工夫を凝らして参入ができる分野でもある。地域の社会参加、社会性を保つコミュニティ形成に向けて民間の役割は大きく、中でも日々の暮らしに関わる食品業界は、フレイル予防における産業発展の切り口として重要な役割を果たすことができるのではないかと考える。『フレイル予防に資する食関連の産業界』が、地域における様々な資源と今まで以上につながり、国民に食力の維持・向上に寄与する情報や商品・サービスを日常の生活の中で提供することは、必ずや健康寿命の延伸につながることは間違いない。

 本稿では、フレイル予防における民間事業者の果たす役割、食品産業からの多面的なアプローチについて、一例としてキユーピー株式会社(以下キユーピー)の超高齢社会に向けた産学官連携の取り組み事例から紹介する。

2:人生100年時代におけるフレイル予防

 フレイル予防は「栄養(食と口腔機能)」「運動」「社会参加」が三位一体となり、包括的に確保されていることが基本となることは、前述の通りである。

 フレイルの代表指標として、サルコペニアに至る機序について触れたい。これまで、サルコペニアの予防としては、栄養状態、身体活動の低下を起因として対策を考えることが一般的であった。しかし、図1の通り飯島らの柏スタディの研究結果により、栄養・身体活動の低下につながる上流に、社会性の欠如・低下が関連していることが分かった。つまり、人とのつながり、生活の広がり、誰かと食事する頻度などが低下することなどである。このことから、フレイル予防においては、根本的な起因となる社会性の低下について対策を考えることが重要となる。

図1:サルコペニアに至る機序と社会性の重要性を示す図。
図1 サルコペニアに至る機序、及びその中での社会性の重要性
(飯島勝矢:平成26年度 厚生労働科学研究費補助金(長寿科学総合研究事業)「虚弱・サルコペニアモデルを踏まえた高齢者食生活支援の枠組みと包括的介護予防プログラムの考案および検証を目的とした調査研究」報告書より引用)

 社会性を伴う食の場は、スーパーでの買い物、レストラン、フードコート、集いの場、共食の場、家庭での食卓など、人々の多様なライフスタイルに合わせて様々な形で存在し、多くの業態が関わる。これからは、食が介在し社会性を維持する場の提供が重要となってくることが考えられる。社会性を伴う食の場、共食の場において、人とのつながり、生活の広がりを持つことで、気づきや学び、生きがいにつながり、フレイル予防に資する食習慣が日々の暮らしの中に溶け込んでいく。それが繰り返されて習慣化することで、人(すなわち生活者)の行動変容、健康づくりにつながり、生活レベルが向上させることが出来るのではないか。民間事業者がビジネスとして健康増進からフレイル予防に資するサービスを提供することによって、多くの拠点で拡がり、様々な業態への波及し、フレイル予防のポピュレーションアプローチとなることが期待される。

 重要となるのは普段の消費活動の中で、日々の暮らしに取り込むことが出来る健康への学びや気軽な食習慣があることで、自然とフレイル予防に資する行動変容が行われることであると考える。

3:「食」から見える社会課題の変遷とキユーピーの取り組み

1.「食」から見える社会課題の変遷

 「食」の視点からの国家課題は、時代とともに変遷を遂げてきた。戦中・戦後の食糧難の時代は、体位向上への取り組みに代表されるように、食料不足による栄養不良の解消が主要な課題であった。そして高度経済成長を経て飽食の時代へと移り変わる中で、生活環境の改善や医学の進歩によって感染症(疫病)が激減する一方で、がんや循環器疾患などの生活習慣病が増加するなど、疾病構造が大きく変化してきた。あわせて、壮年期における生活習慣病の予防が課題となり、メタボリックシンドローム、通称メタボという言葉は多くの国民が知ることとなった。

 しかしながら、日本は急速な高齢化により、これまでの壮年期の課題に対応したメタボ予防から、高齢期の課題に対応したギアチェンジを必要とする時代が来ている。最も有効性が高い分野として「より早期の段階での予防政策を普及させる社会基盤」の構築があげられる。生活習慣病、そしてフレイルの予防が、国民の生活の中で自然と行われる社会基盤を作ることが、国策からも重要となると考えられる。

 食に関わる世代別の課題と連動性を図2に示す。食生活の影響は、母親の胎内に居る時から始まり、幼少期における食生活は成人期における生活習慣病に影響し、生活習慣病はフレイルにも関連していることが明らかとなっている。人生100年間を少しでも自立生活を長く保ち生き切るためには、これらの課題の連動性を前提に、国民のリテラシー向上、生涯にわたる生活習慣の適正化が重要となる。

図2:人生100年時代の食に関する世代別の課題を示す図。
図2 人生100年時代 食に関する世代別の課題
(東京大学高齢社会総合研究機構・産学連携プロジェクト 飯島勝矢ら作成)

2.キユーピーと3つの柱の取り組み

 以下に、キユーピーの事例を紹介する。

 キユーピーは、2019年に創業100年を迎えた食品メーカーである。創業当時100年前の日本人は、現在と比べると栄養状態も悪く、体も小さかった。創始者の中島董一郎は、「おいしく、栄養のあるマヨネーズを、生活必需品となるまで広く普及させて、日本人の体格と健康の向上に貢献したい」という想いで、1925年、栄養価の高い「キユーピー マヨネーズ」を発売するに至った。

 当時「生活必需品となるまで広く普及」させることにこだわり、食シーンを描いた広告や、度重なる値下げを行った。日本人の体格と健康の向上に貢献するには、新しい食文化が国民の日々過ごしているくらしの中、つまりは毎日の献立、食卓、触れる情報、買い物、友人との会話の中など、日常の生活に溶け込む必要があると考えたからである。キユーピーの創始者である中島がめざしたのは、当時日本には存在しなかった栄養豊富で食べ方の展開があるマヨネーズが「生活必需品となるまで広く普及」することで、それを取り巻く食卓が変わり、栄養豊富な欧米の食生活の要素が日本人の食卓に溶け込むことにより、日本人の体格が向上し健康になっていくことであったと考える。

 このように、産業の発展は社会の中にある。くらしの中での行動が文化となり定着していくには、産業の発展に伴う商品・サービスが、当たり前に社会の中に存在することが欠かせない。この事実は、優れた経営学者とされる先人の言葉からも読み取れる。現代経営学の父とも呼ばれる、ピーター・ドラッカーの「企業にとっての利益の追求は、自動的に社会的責任の遂行を意味する」「企業を基盤とする社会は、個々の企業が自らの社会的意識にかかわらず、社会の目的と安定に貢献することによってのみ機能する」などが代表的なものである1)

 当時の志は、現在のグループのめざす姿「私たちは、『おいしさ・やさしさ・ユニークさ』をもって、世界の食と健康に貢献するグループを目指します。」という宣言に引き継がれている。しかし、ライフスタイルも食課題も多様化する現在、1食品メーカーが提供・貢献できることは、人々の一日のくらしの中のほんの一部でしかない。これからの時代、国民一人ひとりのくらしに寄り添い、新しい食文化の形成をめざすには、もっと高い視座が必要になる。これからの食と健康への貢献を考えた際に、飯島らにより提唱された、生涯健康でいるための3つの柱、「栄養(食・口腔機能)」「身体活動(運動など)」「社会参加(就労、余暇活動、ボランティアなど)」を三位一体として包括的に底上げし、早い時期からのフレイル予防が重要である、という考え方に非常に共感しこの考えの元、スタートできた取り組みがある。

 例えば、キユーピーでは3つの柱を最上段に、食と健康の啓発を行っている(図3)。キユーピーは食品メーカーであるため、関連の大きい項目は「栄養」の要素になるが、生涯健康でいるためには栄養だけでなく、口腔機能、運動、社会参加も重要となるメッセージを伝えている。具体的には、社員による講演会、お客様に配布するリーフレット、株主総会での展示・説明などの啓発を行ってきた。このことにより食と健康への貢献の志が高くなり、多くのステークホルダーの皆様にも共感いただいている。

図3:キユーピーで使用している啓発資料を表す図。
図3 キユーピーで使用している啓発資料
キユーピー株式会社 統合報告書 (外部サイト)(新しいウインドウが開きます)より引用)

 他業種と連携した取り組みもスタートしている。例えば、フィットネス業界との協働事業として、運動施設の一部にキッチンを設け、「食」に関する健康情報を発信している。キッチンを使って、短時間でできるおいしくてヘルシーなキユーピー提供メニューをスタッフが調理実演、紹介するという新しい取り組みである。運動と食がつながった一例である。

 さらに、同志社女子大学 日下菜穂子教授らの進めるシェアダイニングの考え方に共感し、商品提供などを行っている。シェアダイニングとは、単に集まって食べるという行為だけでなく、調理や食の情報活用、これらの情報発信などによるつながり拡大、そして、健康や生活の質を向上させる食空間の創出をめざすプロジェクトである。食と社会参加をつなぐ取り組みの一例と考えている。

 また、産業の壁を越え、自治体との取り組みとして、長野県松本市が立ち上げた一般財団法人 松本ヘルス・ラボと学校法人 松商学園 松本大学と共同で、野菜と卵の摂取に着目した健康的な食生活提案のための研究を開始している。健康的な食生活提案の参考にするため、平均寿命が全国トップクラスである長野県の食生活について、松本市、松本大学と共同で研究を進めている。長野県は野菜の摂取量が全国1位であり、そこで、野菜の摂取量と、良質なたんぱく質などさまざまな栄養素を含む卵の摂取量に着目した調査となる。さらに、調査にご協力頂いた市民のみなさまとは、調査結果の個別フィードバックや食の講演会などを通じたコミュニケーションを続けている2)

 また、3つの柱のもと、従業員一人ひとりの健康意識向上を促す健康経営の風土づくりにも取り組んでいる。コロナ禍における外出自粛や在宅勤務に伴い、健康に不安を感じる従業員も増えていたため、「栄養」「運動」「社会参加」の情報をWEB版の社内報を通じて従業員に発信した3)

 このように、それぞれは小さな取り組みではあるが、キユーピーの食と健康の活動に広がりが出てきた。3つの柱は、企業の枠を超えて様々な地域資源をつなぐことができる、大きな志と成り得ると感じている。

3:キユーピーの貢献できる高齢者の「食力」を維持向上させる食

 キユーピーがより具体的に貢献できる、高齢者が「食力」を維持し続けるために提供できる食についても触れていきたい。

 フレイル予防に資するための重要な要素として、日々の暮らしの中に簡単に取り入れることができ、習慣化できることがあると考える。先に述べたように、フレイル予防は包括的な対応が必要であることから、一商品、一食に着目するものではない。つまり、食習慣が大切となり、その中で、キユーピーが得意とするサラダとタマゴの提案は、日常の食生活の中で自然と摂りやすい食材・メニューであり、貢献できるのではないかと考えている。

 高齢期において筋力を落とさないため特に必要となる栄養素はたんぱく質であるということは、多くの方が認識していることだと思う。日本人の食事摂取基準(2020年度版)でも成人に比較し、高齢者ではより多くのたんぱく質摂取が必要とされており、フレイル、サルコペニア予防には少なくとも1.0g/㎏体重/日のたんぱく質が必要とされている4)

 さらに、サルコペニア、フレイル状態の高齢者は1.2-1.5g/㎏体重/日程度かそれ以上の摂取が必要となるという報告もある5)

 しかしながら、たんぱく質を含むどのような食(食事メニュー)を、いつ、どのように、どれくらい摂取すればよいのかは分からない方も多いのではなかろうか。もちろん、多様な食材から薄く広く摂ることが基本となる。たんぱく質を多く含む代表的な食材は、肉、魚、大豆、乳製品など様々あるが、その中でもタマゴは、少量で効率よく、栄養価も高く、安価で摂取できる食材である。

 誰もが知っている通り、受精したタマゴはひよこになる。つまり生命を構成するためのすべての要素が過不足なくタマゴの中に入っている。たんぱく質や体に有益な脂質が豊富に含まれているだけでなく、リン、カルシウム、鉄分などの無機物、ビタミンA、B1、B2、Dなども多く含まれており、完全栄養食品とも呼ばれている。さらに、タマゴのたんぱく質は体内での利用効率が極めて高い、良質のタンパク源となっている。(図4)

図4:食材別体内たんぱく質利用効率を表す図。
図4 食材別体内たんぱく質利用効率
(キユーピー株式会社「食と健康 啓発リーフレット」より引用)

 一方で、食の課題というと栄養の内容もさることながら、「食力」を維持する下支えとなる口腔機能についても重要な要素となる。いわゆる、オーラルフレイルの概念である。オーラルフレイルは、口に関するささいな衰えを放置したり、適切な対応を行わないままにしたりすることで、口の機能低下、食べる機能の障害、さらには心身の機能低下まで繫がる負の連鎖が生じてしまうことに対して警鐘を鳴らしている。

 就学期においては、定期的な歯科検診や、家庭や学校で「よく噛んで食べること」「食後には歯を磨くこと」といった、基本的なことがフォローされている。しかし、青年・壮年期においては自己管理となり、歯科に足が遠のいている方も多いのではなかろうか。そのような中で、食品が噛みづらい状況が起き、食べにくい食材を避けるようになると、下り坂を下るように「噛まなければ噛めなく」なる。食べ続けるためには、噛める状態を維持することが重要な要素であり、普段の食生活に咀嚼を必要とする食材が入り込み続けることが大事であると考えられる。その代表的なものが野菜であり、さらには、より咀嚼を必要とするサラダメニューであると考える。高齢期になってからだけではなく、子供のころからの野菜などをよく噛んで食べる習慣は、将来のオーラルフレイルを防ぐ観点からも大切であると言える。

 野菜を食べると健康につながるイメージはほとんどの国民が有しており、実際多くの研究の結果、野菜はその種類や成分に様々な生理作用があり、人の健康に非常に有益であることが明らかになってきている。しかし、日本人の野菜摂取量は、高齢期に向けて増えていくものの、どの年代においても推奨されている350g/日に届いていない。野菜は「健康に良い」と理解していても、意識しなければ十分な量を摂取することができないという、行動変容を起こす難しさがよく分かる例である。これまでキユーピーは野菜を楽しくおいしく食べていただくために、素材・組合せによって多彩なメニューや、ドレッシングなどの調味料で多くのフレーバーを展開してきている。これからも、生活環境が変わる中で、国民が野菜を楽しくおいしく食べる工夫を行うことは、キユーピーだけでなく食品産業界において必要なことと考える。

 さらに、野菜をおいしく食べる調味料の一つとして、約100年前に日本で発売を開始したマヨネーズは、高齢期において有用な性質を複数持ちあわせている。効率的に取り入れられるエネルギー源となること、食材のパサつきを抑え食べやすくすること、食塩値の低い調味料であることなどである。

 さらに、サラダとタマゴを組み合わせたメニューについても展開している。例えば、サラダにタマゴを一つ追加するだけで、とてもバランスのいいメニューになる、といった普段の生活で取り入れやすい提案である。

 サラダとタマゴの良さは、日常の食生活の中で自然と摂りやすい食材・メニューであり、高齢期の課題に対応できる上、全世代に共通する「たんぱく質や野菜など、いろいろな食品をバランスよく、よく噛んで食べること」というユニバーサルな概念になる点である。たんぱく質の摂取は、どの年代でも筋肉をつけるために共通して必要とされ、野菜摂取は生活習慣病予防にも良いとされる。青年・壮年期と高齢期の変化の中で、どちらの世代にも価値が発揮できる。以上はキユーピーの一例であるが、このような具体的なフレイル予防に資する食習慣が、人とつながる共食の場などにおいて啓発とセットで提供され、また日々の暮らしに戻り、繰り返されることによって、高齢期になっても食力が維持され、地域の中で元気に居続けてもらえるのではないかと考えている。

4:今後の展望

 以上、キユーピーの事例をいくつか提示したが、このように、現在既に生活に溶け込んでいる商品やサービスが、社会の状況、エビデンス、地域のステークホルダーや資源とさらに繋がることによって、最終的に新たな価値を発揮することができれば、超高齢社会に潜在している多種多様な課題に対して解決の糸口になることは間違いない。

 また、自治体と民間企業がこの課題に対して協働して取り組むしくみも必要である。虚弱化した高齢者は自宅から外に出ることが少なくなるので、共食などの場をつくり、地域が一体となって取り組むためには自治体との協働が不可欠である。この様な新しい習慣やまちづくりを通して、地域の住民が日常の生活を永く続けられるしくみをひろげていくことが必要となる。さらに、本稿の「はじめに」で述べたように、フレイルサポーターなど地域における住民の力も大きい。

 急速な高齢化が進む超高齢社会日本において、今後は「自助・互助」の力が大切になってくる。特に重要となるフレイル予防においては、民間企業のくらしに溶け込む商品やサービスが果たす役割も大きく、産学官民一体となった総合力・総合知が必要になると考える。

 これらの課題を受け、2019年より東京大学高齢社会総合研究機構と志を共にする企業が本格的に連携し、高齢者の食力向上に向けて業界連携の場を設けた。飯島らが提唱する、健康長寿のための3つの柱の考え方に共感し、同じ志を持つ企業が結成した、高齢社会における食の在り方コンソーシアムを結成している。コンソーシアムでは、各企業、それぞれに役割を持ち、高齢者の食力維持・向上を目的とした産学官民連携の新たなビジネスモデルを発展させることをめざしている。(図5)

図5:高齢者の食力イジ・向上を目的とした産学官民連携の新たなビジネスモデルの概要を示す図。
図5 高齢期における食力の維持・向上に向けて

 コンソーシアムにより、商品・サービスの開発、改良から、高齢期の食に関係するエビデンスの活用、同業種、異業種間との連携など、新しい視点からのビジネス創出も視野に入れて取り組むことが始まりだした。分野を越えた企業間での連携には、健康長寿の3つの柱「栄養」「身体活動」「社会参加」の三位一体となった形で、「食」をフレイル予防産業の入口としている。ここに新たに運動や社会参加の要素が加わり、今後は旅行やフィットネスなど、フレイル予防に資する様々な産業の発掘と健全な育成に展開していくことを期待している。

5:おわりに

 日本は、人類が直面したことのない超高齢社会に突入しており、特に高齢期の適正な食習慣の維持は健康な身体を構成する上での重点課題である。高齢者の食を守るための新しい食文化の形成、社会性と学びを伴う新たな食の場の構築においては、食品産業界には大きな役割があり、製造業、レストラン業界による新製品開発、サービス提供と併せて不断の努力が欠かせないものとなる。

 フレイル予防に資するポピュレーションアプローチにおいては、産学官民連携による総合知を包含した取り組みを行っていくことが重要になると考えるが、食品業界が牽引者となり、果たせる役割は多い。しかも、食は全ての人間にとって原点であり、無関心層等にも情報を届かせるためにも食品業界の担っている役割は大きいのであろう。これまでも、そしてこれからも、国民のくらしの中で「食」は生きる上で欠かすことができないものである。単なる栄養摂取にとどまらず、食そのものを楽しむことや食を通したコミュニティづくりとしても重要な役割がある。キユーピーをはじめとする食品業界の多くの企業が、具体的な食提案と健康長寿の3つの柱「栄養」「身体活動」「社会参加」の三位一体の取り組みを軸に業種業態を超えて地域の一員として、地域に根差した食と健康の取り組みを推進していくことを期待したい。

文献

プロフィール

写真:筆者_内山奈美先生
内山 奈美(うちやま なみ)
キユーピー株式会社 経営推進本部
食と健康推進プロジェクト
東京大学高齢社会総合研究機構 学術支援職員
最終学歴
東京大学大学院新領域創成科学研究科卒
主な職歴
2007年 キユーピー株式会社品質保証本部 2015年 キユーピー株式会社経営推進本部 経営企画部 2019年 キユーピー株式会社経営推進本部 食と健康推進プロジェクト担当兼東京大学高齢社会総合研究機構協力研究員 現在に至る