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第5章 口腔ケア6.在宅での口腔ケアとチームアプローチの実際

 

公開日:2020年5月28日 09時00分

西田歯科医院 院長
西田 泰大

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 准教授
島田 康史

国立長寿医療研究センター
歯科口腔先進医療開発センター 顧問
西田 功

1:はじめに

 日本の高齢化が進行していることは周知のことであり、それと同時に医療機関での死亡率が延び、「死ぬ場所は病院であることが常識化」してきた。その是正のため医療制度改革において、在宅医療の推進が位置づけられている。

 要介護状態になっても、自宅で安心して療養生活が送れるように、医師・歯科医師・看護師・薬剤師・栄養士・リハビリ専門職などのほか、ケアマネジャー・ホームヘルパーなどが連携し「みんなで支える在宅医療」が推進され、今後の医療体制を考える上で大きな変革を迫られている。

 昔から口は「健康(病気)の入り口、魂の出口」と言われているが、人間らしく生きる上で口腔の果たす役割は、計り知れないものがある。歯科医療体制においても、「高齢者の口腔機能維持・向上のプログラム」は国の重要な施策のひとつになっている。

2:高齢社会における歯科の役割

 これまで口腔における予防手段は、口腔疾患そのものを予防する観点から、う蝕や歯周病の予防が中心であった。高齢社会の進展に伴い、自ら口腔管理ができない要介護高齢者の数も増加し、口腔機能が低下することによりオーラルフレイルを発症して心身機能低下を起こしてくることが問題となっている。歯科医療は「歯という器官」を修復するだけでなく、「食べる・話す・呼吸する」という生命維持に関する臨床である。

 高齢者の歯科医療は、口腔衛生や口腔機能維持・回復手段だけでなく、全身状態の改善や全身疾患の予防に向けた医療の一環と位置付けられるようになってきた。

1.高齢社会で必要とされる歯科医療

 口からおいしく食べることが在宅で療養を受けている要介護高齢者の大きな生きがいの1つである。食べるためには、口腔機能、摂食・嚥下機能が十分に働くことが重要となる。口腔状態の改善により誤嚥性肺炎が減少し栄養状態が改善され、身体的にも精神的にも回復することが多くみられる。しかし、歯科における訪問歯科医療は誰でも・何時でも・何処でも受診できる体制になっていない。ニーズはありながら要介護高齢者への訪問歯科医療への対応は進んでいない。在宅で療養を受けている要介護高齢者への歯科医療が安全にそして効果的に行われ、口腔機能の維持回復がなされることによりQOLの維持向上に役立つようになることが期待されている。

2.在宅歯科医療への期待

 生涯自分の歯で過ごしたいという思いは多くの人々の共通した思いであり、歯科医療の目標でもある。8020運動がスタートして四半世紀以上すぎた。平成29(2017)年の歯科疾患実態調査では80歳で20本以上の歯を有する人が50%を超えた。高齢者で多くの歯が残っている方は、疫学的データにおいて健康で長生きであることが報告されている。

 このように歯科医療は健康寿命の延伸に寄与し、QOLの向上に貢献してきた。しかし、その対象となったのは、主に通院可能な健康な人々であり、通いたくても通えない要介護高齢者は病気や介護を境に歯科医療とのかかわりが途絶えてしまっているのが現状だ。多くの歯を残す高齢者が増加しているが、高齢者は多くの疾患を抱えており、歯科診療処置により様々なリスクが増してくる。そのため、従来の歯科的治癒を目指すばかりでなく、患者の状況に応じて現在の口腔機能を維持するということも考慮する必要がある。

 わが国の急速な高齢化の中で、健康に通院できる患者だけを対象とした歯科医療では、広く国民のニーズに応えられないという危機感がある。高齢社会を迎えて病気を抱えている人や介護を必要としている人々の生活をどう支えていくのか、歯科医療をするものにとって果たす役割の大きな課題である。

3:在宅で求められる口腔ケア

 歯科医療は、生命(死)との直接的関連が薄いとされ、医療全体のなかでの優先順位が低くみられるという面があったことは否定できない。しかし、要介護高齢者の生活機能のなかで食生活がQOLに占める割合が高く、高齢社会における医療のきわめて重要な部分を歯科医療が担っていることが認識されるようになってきた。要介護高齢者はさまざまな機能障害をおこしてくるが、口腔も例外ではなく口腔機能障害を生じてくる。多くの要介護高齢者は口腔状況の崩壊も顕著にみられ口腔機能は低下する。低下して使われなくなった機能は廃用症候群として失われ、それに伴って嚥下機能も低下して誤嚥を起こす。こうした口腔機能の維持・回復に口腔ケアは有効な手段である。

1.在宅歯科医療における口腔ケアの意義

 訪問歯科医療において、口腔ケアは最も重要な歯科医療行為である。要介護高齢者にとって口腔ケアの実践は口腔内の問題にとどまらず、全身疾患と深く関連していることが知られているが、口腔ケアを実施していくことが健常者と比較して困難であることが多い。専門的口腔ケアは口腔清掃を目的としたケアと同時に、様々な疾患により口腔機能が障害され、麻痺や拘縮、緊張、弛緩、廃用症候群などで動きにくくなっている口唇や頬・舌など摂食・咀嚼・嚥下に関わる口腔器官の運動機能改善を目的とした口腔ケアである(表1)。

表1 在宅における口腔ケアの目的

  1. う蝕や歯周疾患の予防
  2. 口腔内残渣の誤嚥予防
  3. 発音・摂食などの口腔機能の維持増強
  4. 食欲を増進させて栄養摂取により体力増強
  5. 味覚が鈍くなるのを防止
  6. 唾液の分泌を促し口腔内の自浄作用を増強
  7. 定時の口腔ケアを実施することによる生活リズム
  8. 口臭の予防

 口から食べることは経管栄養摂取者を除けば毎日欠かすことのできない人間の営みである。訪問歯科医療における口腔ケアは、生活を営むためのエネルギー摂取において重要な役割を果たす口腔機能を維持向上させる役割がある。介護者にとって、口腔機能の維持、う蝕や歯周病の予防、全身疾患の予防といった概念があっても、実際の介護において十分な時間をかけてケアすることは困難な場合が多い。口腔ケアは介護業務の中の1つであり大切な項目であるが、食事介助や排泄介助など他の身体介助と比べると優先順位は低い。介護者がその重要性を認識しつつも、他の業務との兼ね合いから口腔ケアを簡略化や省略化してしまうことも現実の問題として多くある。また、介護者に口腔ケアの意義についての知識が不足している場合もある。それは口腔ケアについて学ぶ機会が少ないことも原因としてあげられるが、口腔ケアについて正しい知識を提供すべき歯科医療関係者が介護の領域に関わる機会が少ないことが大きな理由でもある。

 口腔は、身体の中でもっとも敏感で頻繁に使う器官であるばかりでなく、大脳皮質の運動野の1/3を占め、食を通して生命維持に密接に関与している。近年多くの看護・介護の関係者が関心を寄せているが、歯科医療関係者に積極的に口腔ケアに取り組む姿勢がないのも事実である。

 要介護高齢者の口腔ケアは非常に地道な歯科医療行為で悪ければ改善させ、改善させたならば、その状態を維持していく努力が必要である。逆に行わないと、すぐに悪化する困難な一面もある。しかし、空気と栄養の摂り入れ口の「口腔の健康」を守ることは高齢者のQOL向上には欠かせない。今後は在宅ケアが中心となっていく中で、口腔ケアも重要視され最期まで患者と向き合う姿勢が歯科医師・歯科衛生士に求められている。

2.在宅歯科医療における口腔ケアの現状

 要介護高齢者の口腔ケアといっても、一人一人に個性があり生活習慣が違うように口の中も千差万別である。また、脳血管障害、認知症などにより精神的身体的機能が低下している場合には口腔ケアが困難なことが多く、口腔清掃を的確に行うには経験に基づいた種々の工夫が必要となる。本来、こうした方々の口腔ケアは、歯科医師や歯科衛生士が専門的口腔ケアを行うことが望ましいが、多くの現場では介護者や看護師などが全身的なケアに加え、口腔ケアに関与しているのが現状である。しかし、他人の口の内を清潔にすることは、介護の中でも難しい技術の1つである。口腔ケアの実際の方法について、介護者や看護師に対しても必ずしも十分な教育が行われているとはいえず、口腔内の清掃法についてもそれぞれの現場で経験的あるいは慣例的に行われているのみで、系統だった方法が確立しているわけではない。今でも介護者や看護師が行う口腔ケアは、口腔清拭にとどまっていることが多い。歯科医師や歯科衛生士が行う専門的口腔ケアにおいても普及しているとはいえない。これは在宅における要介護高齢者に対する口腔ケアの手技が難しいこともあるが、訪問歯科医療が進まないことが大きな原因である。

 今後、歯科医師や歯科衛生士が積極的に地域歯科医療に貢献して、要介護高齢者の口腔を良好な状態に保ち、QOLを向上させエビデンスに基づいた安全かつ効果的な専門的口腔ケアの普及が望まれている。

3.要介護高齢者への口腔ケアの実際(図1、2)

図1:施設での水で口腔内を洗浄し、汚染水を医療用吸引装置をつかって排出する様子を示した写真
図1 施設での口腔ケア
図2:在宅においてジェルにより口腔内の汚れをからめとり吸引器で口腔外に排出する様子を表した写真
図2 在宅での口腔ケア

 口腔ケアは汚染物の排出に水を使用するのが一般的である。しかし、訪問歯科医療の対象の多くは口腔機能が低下した要介護高齢者で、うがいも満足にできない人が多い。そうした方を口腔ケアした場合、口腔内に水分が残ってしまう。多くの場合は、吸引スポンジや医療用吸引装置などで除去するが、口腔内の汚染水が咽頭に流れても気づかないことが多くある。要介護高齢者は咳反射・嚥下反射が低下している方が多く、水を使用して口腔ケアを行うと誤嚥の危険が伴い、口腔内細菌が気管や肺に入り込むことによって医原性誤嚥性肺炎を引き起こすことが指摘されてきた。それを回避するためには口腔内の吸引が必要となる。特に自立清掃能力を失った要介護高齢者では口腔ケアを行うことは重要で、それに伴う吸引は医療用吸引器で行うことは必須の歯科医療行為である。

 栄養補給を鼻腔栄養や胃瘻、それに点滴などに頼り、口から食べないので口腔ケアをしない場合が見られる。しかし、要介護状態にある人は、体力が落ち、舌や頬をはじめ、口の周りの様々な機能低下により自浄作用はほとんどなくなる。そのため、何も口から入れなくても、粘膜の新陳代謝や痰などの粘液で口の中が不潔になりやすくなるため、口から食べていない人ほど口腔ケアは必要となる。

 従来、様々な口腔ケア手法が行われてきた。しかし、要介護高齢者の口腔ケアは改善されてきたとは思われない。これは意識障害や口腔機能が低下していることが多く、含嗽が不可能でムセが強く、口腔内に水が留まってしまうなどの条件を有する場合は、水を使用することが困難なことが多くある。残存歯がある場合には、必ずブラッシング(ブラシによる刷掃)が必要となる。清拭だけでは、口腔や歯に対するケアとしては不十分だが、ブラッシングには水がなければ口腔ケアはできないというのが常識であった(表2)。

表2 在宅における口腔ケアの要点

  1. 剥離上皮の除去清掃
  2. 口腔乾燥の改善
  3. 常時の保湿が必要
  4. ムセや含嗽への対応
  5. 異物の咽頭への流入防止
  6. 口腔粘膜のマッサージ
  7. 強い口臭の改善

 こうした問題を国立長寿医療研究センター歯科口腔先進医療開発センターでは従来の水で行う口腔ケアではなく、口腔内の汚れを「ジェル」によりからめ捕り吸引器で口腔外に排出させることで口腔内の汚れが咽頭に垂れこむことを防ぐようにしている。患者にとっても咽頭への垂れこみがなく楽に口腔ケアを受けることが出来るよう「水を使わない口腔ケア」の実用化を進めている。訪問歯科医療の口腔ケアにおいて、「水を使わない口腔ケア」を活用することで咽頭に水が垂れこみ「水に溺れた状態」になり、体が不自由な要介護高齢者が苦しみ暴れることが無くなり安心・安全・確実に口腔ケアを行うことが出来るようになった。

 歯科口腔先進医療開発センターでは、「お口を洗うジェル」(日本歯科薬品 製造販売)をはじめ、口腔ケア用吸引嘴管・口腔ケア用吸引装置の開発に取り組み「水を使わない口腔ケア」のシステム化に取り組んでいる。口腔の本来もっている働きを健全な状態に維持し続け、あるいは口腔の環境や働きが阻害されたとき、それらを賦活化させ、死ぬまで人間性を保つための総合的な専門的口腔ケアを目指している。

4:在宅でのチームサポート(図3)

診療室での歯科医療
  • 診療室完結型医療
  • 疾病の治療
  • 治す歯科治療
  • 社会復帰
  • 治療的アプローチ
  • 歯科治療重視
在宅での歯科医療
  • 地域集約型医療(多職種連携)
  • 障害との共存
  • 生活を支える歯科治療
  • 社会復帰
  • 代償的アプローチ
  • 口腔管理重視

図3 診療室と在宅との歯科医療の違い

 高齢社会の到来とともに有病者・要介護高齢者が増加し、今までの診療室完結型医療では適切な対応が困難になってきた。要介護高齢者の歯科受診が困難であることは容易に想像できる。要介護高齢者の主な介護者が高齢であったり、日中に仕事をしていたりするために、歯科医院への送迎が困難であり、歯科疾患がかなり重症にならないと受診しない傾向にある。また、要介護高齢者の歯科治療は困難であり、健常者と同様な治癒が容易に期待できるものではない。口腔環境が悪化し不潔な口腔状態となると、誤嚥性肺炎の発症や食物の経口摂取を妨げ生命に直結した障害をもたらす。

 口腔はしっかりした口腔管理がされない場合、歯科疾患だけでなく全身疾患が急速に重篤化していく。そのためにも地域包括ケアシステムの中で、医科・看護・介護・福祉領域とチームアプローチしながら多職種連携していくことが求められている(表3)。

表3 チームアプローチを成功させるには

  1. 他職種との共通言語を持つこと
  2. 他職種との適切なコミュニケーション
  3. 患者の状態把握の一致
  4. 業務分担の確立
  5. 相互理解
  6. 多分野の知識の習得

1.在宅歯科医療に求められる口腔管理

 要介護高齢者に対する口腔管理は高齢社会の中で求められる重要な歯科医療の1つである。訪問歯科医療は、通常の歯科診療室で行われる診療と比較して、診療行為自体が不自由であり歯科治療の範囲も限定されてしまう傾向にある。重装備の診療器材を用意して診療範囲を広げることは可能であるが、歯科診療が困難であることには変わりはなくリスク管理が難しい。こうしたことから、訪問歯科医療の対象者に対する口腔管理は治療以外の経過観察や口腔ケアを行うことによって、歯科疾患の重篤化の予防や、歯科疾患や口腔の汚れによって二次的に引き起こされる全身疾患の予防が主体となる。

 訪問歯科医療においては歯科医療の根底にあった歯科治療によって歯科的治癒を目指すことは困難であるが、患者の現状に応じて口腔機能を維持するための「口腔を管理する」ことが重要である。

 要介護高齢者は咀嚼障害を抱えている場合が多くみられる。咀嚼障害を考えたとき、その原因は器質的咀嚼障害と機能的咀嚼障害が考えられる。器質的咀嚼障害は歯をはじめとする咀嚼器官の欠損によっておこる咀嚼障害で、この障害に対しては口腔の形態修復が必要となる。一方、高齢社会では避けて通ることができない機能的咀嚼障害は、生理的老化により運動機能が低下するだけでなく、脳梗塞・脳出血・パーキンソン病などの神経性疾患、アルツハイマー病をはじめとする認知症の疾患等を発症し著しい運動機能の低下を起こしてくる。これらの運動機能障害は口腔にも及び、咀嚼障害を引き起こす。機能的咀嚼障害は下顎や舌、口唇、頬、軟口蓋などの咀嚼器官が運動障害によっておこる咀嚼障害である。要介護高齢者は歯の欠損や義歯の不適合による咀嚼障害とともに、咀嚼器官の運動障害による咀嚼障害を伴っている。運動障害の原因疾患やその状態によっては、十分な治癒は望めず運動機能訓練も十分な結果が得られないことが多くある。運動機能訓練の効果が望めない場合、結果として咀嚼障害が残存する。しかし、咀嚼障害が残存したままでも安全に食べることができ十分に栄養を摂ることが出来る食事の形態や方法を管理栄養士に依頼することが望まれる。こうしたチームアプローチも「咀嚼を守る」重要な方法である。咀嚼機能の回復が望めない場合、時として義歯が不要であることを進言しなければならない場合もある。通常の方法では要介護高齢者の歯科治療は困難であり、健常者と同様な治療が容易に期待できるものではない。しかし、要介護高齢者の口腔は、しっかりした口腔管理がなされない場合、歯科疾患が急速に重篤化する傾向にある。さらに、口腔環境の不良は全身状況と密接に関連している。不潔な口腔は、誤嚥性肺炎の発症や食物の経口摂取を妨げるという生命に直結した障害をもたらす。こうしたことから、要介護高齢者への歯科治療はもちろん必要であるが"口腔ケアを含めた口腔管理"に集約されてきた。

 診療室での歯科医療は疾患の治癒を目指した歯科治療で、形態修復や機能回復を主体とした診療室で完結する歯科医療であった。しかし、訪問歯科医療は障害と共存し治療的アプローチより代償的アプローチを重視した「管理型歯科医療」が必要である。

2.在宅歯科医療と多職種連携

 高齢社会を迎えて歯科医療提供者が高齢者、特に要介護高齢者への対応を急がねばならない状況である。しかし、訪問歯科医療は歯科単独で行うものでなく、医科と歯科それに介護の相互連携を基盤とした地域包括ケアシステムの中で行うもので、これまでのように歯科診療所で治療が完結するものではなく多職種との連携が必要になってくる。

 歯科医療は身体医療と異なり生命と直結するというより、より良い生活をおくるためのQOLの維持・向上に貢献するということが理解されていないため、医療介護連携システムのなかでの位置づけが明確でない。また、口腔機能や口腔管理の評価がなされていないだけでなく要介護高齢者や介護者の意識も後回しにされやすく、地域包括ケアシステムの中で放置されてきた。

 歯科外来通院ができずに在宅(介護施設)療養している要介護高齢者の口腔は、本人の意欲・機能の低下により口腔の管理がなされず放置されている場合が多いのが現状である。訪問歯科医療が必要とされる要介護者は何らかの疾患に罹患しており、心身の状態が悪いことや治療環境が整っていないことなどから期待されるような治療効果が得にくいことも多い。そのような中で、安全に効率よく安心して訪問歯科医療を実施していくためには、かかりつけ医との連携のもと病状の情報提供に加え、急性期・回復期病院からの医療情報等を活用して罹患疾患の予後・感染症の有無等の心身の状態を把握・管理する必要がある。その上で、要介護者を中心に介護者の協力の下、関係職種が共通の目的意識をもち連携することが大切である。

 連携の手段としては、ケアカンファレンスへの参加・情報提供に加えて、症状の変化が多く考えられる症例においては、要介護者・主介護者も含めて毎日の症状の変化・要望、サービス提供者間の申し送り等事項の記録が有効である。このように要介護者を中心に介護者及び医師・看護師・理学療法士・言語聴覚士等の関連する職種との連携・協力のもと、歯科的疾患への対応のみならず歯科衛生士の行う専門的口腔ケアに加えて、日々の口腔ケアを指導・管理することが望まれている。

 訪問歯科医療を進めていくうえで多職種連携を考慮しなければ何も進展しない。要介護高齢者が地域で生活する上で歯科医療だけでは成り立たない。地域包括ケアシステムがあって安心して要介護高齢者が暮らしていけることを念頭において進めていく必要がある。

5:さいごに

 これまでの福祉・医療体制のもとでは、介護領域への歯科医療の関与はほとんどみられなかった。しかし、医療・看護・介護が体系化されてくると地域包括ケアシステムの連携の中に歯科医療も組み込まれてきた。要介護高齢者の「口腔ケア」、「口腔管理」は単に口腔衛生や口腔機能の予防的手段ではなく、全身疾患の維持向上に向けた医療の一環として位置づけられてきた。しかし、訪問歯科医療を実践するには従来の歯科医療の知識だけでなく、医療・介護・福祉領域の知識を習得して多職種連携の中で「生活を支える歯科医療」を実践していかなければならない。

 若年者のカリエスはPMTC(Professional Mechanical Tooth Cleaningの普及でDMFT値(総う蝕経験値)は激減してきた。歯科界はその経験を生かして要介護高齢者へのPMOC(Professional Mechanical Oral Cleaningを普及させ、地域包括ケアシステムの中で訪問歯科医療を進めていくことが必要である。

 厳しい条件のもと診療室で行う歯科治療を無理に訪問歯科医療に施すよりも、口腔内の快適さや尊厳を守り、経過を見据えながら要介護高齢者に、より負担をかけない「口腔ケア」や「口腔管理」を主体に訪問歯科医療を行うことがより現実的である。

※D:未処置歯,M:う蝕原因の喪失歯,F:充填歯,T:D+M+Fの合計歯数

文献

  • 1)角保徳,植松宏(編著):5分でできる口腔ケア 介護のための普及型口腔ケアシステム.医歯薬出版,2004.
  • 2)西田泰大,島田敏江,角保徳:在宅や施設での歯科衛生士の役割と専門的口腔ケアの注意点.デンタルハイジーン 2014; 34(12).
  • 3)角保徳:新春提言 高齢者歯科医療の確立をー超高齢社会におけるわが国の歯科医療発展への方策ー.歯界展望 2012; 125(1).

プロフィール

著者:西田泰大
西田 泰大(にしだ やすひろ)
西田歯科医院 院長
最終学歴
2003 年 愛知学院大学歯学部卒
主な職歴
2003年 大垣市民病院研修医 2005年 愛知学院大学歯学部第二口腔 外科入局、一宮市民病院 2010年 稲沢市大里デンタルクリニック 2013年 小牧市西田歯科医院院長 現在に至る
専門分野
口腔ケア、訪問歯科
著者:島田康史
島田 康史(しまだ やすし)
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 准教授
最終学歴
1986年 東京医科歯科大学歯学部卒
主な職歴
1995年 東京医科歯科大学歯学部歯科保存学第一講座助手 2000年 同・大学院医歯学総合研究科う蝕制御学分野助手 2007年 同・大学院医歯学総合研究科う蝕制御学分野助教 2017年 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科歯科保存修復学分野准教授 現在に至る
専門分野
歯科保存修復学、接着歯学、歯内療法学
著者:西田功
西田 功(にしだ つとむ)
国立長寿医療研究センター 歯科口腔先進医療開発センター 顧問
最終学歴
1974 年 愛知学院大学歯学部卒
主な職歴
1974年 愛知学院大学歯学部第二口腔外科入局 1974年 港湾福利厚生協会 臨港病院 1976年 愛知県済生会病院 1978年 小牧市西田歯科医院開院 現職 小牧市西田歯科医院、国立長寿医療研究センター歯科口腔先進医療開発センター顧問
専門分野
口腔ケア、高齢者歯科、波長可変レーザーとその応用

※筆者の所属・役職は執筆当時のもの

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