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第17回国際シンポジウム「認知症予防のための多因子介入」開催報告

 

公開月:2023年4月

1.長寿医療研究センター国際シンポジウム

 長寿医療研究センター国際シンポジウム(International Symposium on Geriatrics and Gerontology, ISGG)は、2004年に我が国における6番目のナショナルセンタ一としてあらたな活動を開始した国立長寿医療研究センター(National Center for Geriatrics and Gerontology, NCGG)において、長寿医療の発展と普及を促進し、老化のメカニズムならびに老化関係疾患の病態解明と治療薬開発に関する新しい情報を発信することを目的に開催されている。毎年NCGGが主催し、公益財団法人長寿科学振興財団(Japan Foundation for Aging and Health)が共催、多くの企業、団体のご後援を得て、センター内からの発表に加え、当該領域を代表する国内外の著名な研究者ならびに医療関係者を招聘し、広く参加者を求め、定例開催を継続している。2022年12月3日に開催した今回のシンポジウムで、開催は17回を重ね、その評価も定着しつつあるが、今後ますます国際的にも関心の高まる超高齢社会における健康長寿の延伸に向けたさらなる発展をめざすものである。

2.第17回国際シンポジウム開催のねらい

 第17回国際シンポジウムでは、4年前から国立長寿医療研究センターが総力を挙げて行ってきた「認知症予防のための多因子介入研究(J-MINT研究)」が終了することを受け、認知症予防に関する世界の英知を結集して、その最新情報を国内外に広く発信することを目的として企画した(タイトル:Multifactorial Interventions for Prevention of Dementia)。

 認知症予防では、運動、食事、社会参画が基本であるが、その神経科学的バックグランドを明らかにすることが重要である。そこでセッション1では、脳と身体との臓器連関のメカニズムについて3名の研究者に登壇して頂いた。セッション2では、認知症予防のための多因子介入研究が進捗している主要3か国から、北欧のFINGER研究、ドイツのAgeWell.de研究、日本のJ-MINT研究・J-MINT PRIME研究の知見が報告された。セッション3では、認知症予防を研究にとどめるのではなく社会実装する試みについて、豪州、日本から4題の発表がなされた。全体で女性5名を含む11人の演者(海外からは3名)に発表をお願いした。また、ランチョンセミナーでは、アルツハイマー病のバイオマーカーについての講演を計画した。

 COVID-19の対策のため、第17回国際シンポジウムはハイブリッド開催とした。第16回国際シンポジウムもハイブリッド形式の開催であったが、会場の参加者は限られていた。今回は事前に関係学会などに周知することで、多くのオンサイトの参加者があり、face to faceでの情報交換が可能であった。オンラインでも過去最大の参加者があり、3年ぶりに国際学会の雰囲気を再現することができた。シンポジウム終了後の懇親会では、演者、座長をお勤めいただいた先生、実行委員会のメンバーが集まり、和やかに食事を共にすることができた。海外からオンサイトで参加されたSusanne Röhr博士には翌日に京都を案内することもできた。

 以上のように、第17回国際シンポジウムでは、世界の最先端の認知症・老年医学の研究者との交流が可能となり、国立長寿医療研究センターの研究・臨床活動の活性化に貢献した。

3.開催概要

催事名

第17回長寿医療研究センター国際シンポジウム
The 17th International Symposium on Geriatrics and Gerontology

テーマ

Multifactorial Interventions for Prevention of Dementia
「認知症予防のための多因子介入」

開催日時

2022年12月3日(土)10:00~18:00

開催場所

あいち健康の森プラザ 1階プラザホール
(愛知県知多郡東浦町大字森岡字源吾山1番地の1)

主催

国立研究開発法人国立長寿医療研究センター

共催

公益財団法人長寿科学振興財団

ランチョンセミナー共催

エーザイ株式会社

後援

一般社団法人日本老年医学会、公益社団法人日本老年精神医学会、一般社団法人日本認知症学会、一般社団法人日本神経学会、日本神経科学学会、一般社団法人日本サルコペニア・フレイル学会、国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学、公立大学法人名古屋市立大学、藤田医科大学病院、愛知医科大学、国立大学法人三重大学、国立大学法人浜松医科大学、国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学、厚生労働省、愛知県、名古屋市、大府市、東浦町、朝日新聞社、株式会社中日新聞社、株式会社毎日新聞社 中部本社、読売新聞社、東海テレビ放送株式会社、中京テレビ放送株式会社、株式会社CBCテレビ、名古屋テレビ放送株式会社、テレビ愛知株式会社

使用言語

英語

講演者

国内12名(うち、内部5名)、海外3名※ランチョンセミナーも含む

参加人数

会場66名、ライブ配信によるオンライン視聴者308名(延人数)

総括

 第17回国際シンポジウムはハイブリッド形式で行なわれ、会場で68名(長寿研:NCGGは57名)、オンラインでは150名(NCGGは38名)が参加した。事前に関係学会などに周知することで、多くの参加者があり、face to faceでの情報交換が可能であった。オンライン参加者の半数以上は外部からのアクセスであり、認知症の予防に多くの関心が集まっていることが伺われた。

発表者は女性5名を含む11人の講師(海外からは3名)で、ランチョンセミナーでは、アルツハイマー病のバイオマーカーについてご講演をしていただいた。3年ぶりに国際学会の雰囲気が戻ってきたことを実感することができた。

 セッション1は「脳と末梢組織の機能連関」について、歯科、筋肉、また、尿由来細胞からの神経細胞への誘導について講演があった。いずれも質の高い研究であった。脳と末梢臓器の連関についてはこれまでも研究は多いが、ヒトでどのように検証できるかは難しい課題である。前田純宏先生(慶応大学 岡野研)は、細胞を初期化せずに神経細胞に誘導できる手技について紹介され、長寿研の多くのコホート研究でこの技術を導入できれば、"細胞疫学"のような新しい科学を展開する可能性があると思われた。

 セッション2では、認知症予防のための多因子介入研究、FINGER研究、AgeWell.de研究、J-MINT研究・J-MINT PRIME研究の知見が報告された。認知症の非薬物的予防ではFINGER研究は草分け的な研究で、世界に大きなインパクトを与えている。NCGGで行っているJ-MINT研究も解析の段階にある。今後、どのような高齢者において有効であるか、機序についてもデータの蓄積が期待される。FINGER研究の研究者たちとも交流が深く、今回の国際シンポジウムでさらに共同研究が発展すると考えられる。

 セッション3では、認知症予防を研究にとどめるのではなく社会実装する試みについて、豪州、日本から4題の発表がなされた。NCGGでは多くの実証研究が進行しているが、得られた知見を研究コホートだけではなく社会実装することはNCGGの重要なミッションである。社会実装は単に参加者の人数を増やすことではない。実装科学のマナーを学び実践することで、持続性のある社会貢献が進められるよう期待したい。

 以上のように、第17回国際シンポジウムでは、3年ぶりに世界の認知症・老年医学の研究者との交流が可能となり、NCGGの研究・臨床活動の活性化に貢献することができた。

 さいごに、公益財団法人長寿科学振興財団(The Japan Foundation for Aging and Health)様のご共催、多くの企業、団体のご後援、また、センター内外からのご発表者、ご参加の皆様に深く御礼申し上げます。

(国立長寿医療研究センター 研究所長 櫻井 孝)


シンポジウムの詳細な内容については以下のPDFをご確認ください。

第17回国際シンポジウムの概要(PDF:3.1MB)(新しいウインドウが開きます)

長寿科学研究普及事業 国際シンポジウムについて

本事業の詳細については以下のページをご覧ください。

長寿科学研究普及事業