健康長寿ネット

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フレイルと栄養

公開日:2021年10月29日 10時00分
更新日:2023年8月23日 10時57分

高齢者の食生活の特徴とは

 高齢者の食生活の特徴として、独居や高齢者だけの世帯になると、同じものばかり食べる、買い物や調理が億劫(おっくう)になる、食事そのものへの関心が薄れ、食生活が単調になってしまう、食事の回数が減る、といったことが挙げられます1)

 また、独居や高齢者だけの世帯では、人との交流が減り社会的に孤立しやすく、外出する頻度の低下や、運動不足から食欲低下、あるいは、食事量の減少を引き起こしやすくなります。

 これらに加え、加齢に伴う生理的、社会的、経済的問題も高齢者の栄養状態に影響を与え、低栄養状態が引き起こされやすくなります。高齢者の代表的な低栄養の要因は次の通りです。

高齢者の代表的な低栄養の要因2)

  1. 社会的要因
    • 独居
    • 介護者または家族による介護力不足・ネグレクト
    • 社会的孤立
    • 経済的困窮
  2. 精神的心理的要因
    • 認知機能障害
    • うつ
    • 誤嚥・窒息の恐怖
    • 孤独感
  3. 加齢の関与
    • 嗅覚、味覚障害
    • 食欲低下
    • 義歯など口腔内の問題
    • 咀嚼・嚥下障害
    • 日常生活動作障害
  4. 身体的要因
    • 臓器不全
    • 炎症・悪性腫瘍
    • 疼痛
    • 薬物副作用
    • 消化管の問題(下痢・便秘)
  5. その他
    • 不適切な食形態の問題
    • 栄養に関する誤認識
    • 医療者の誤った指導

 食事はただ食べるためのものではなく、楽しく、美味しく食べることで生きがいにもつながります。しかし、独居や高齢者二人のみの世帯では、食事の時の会話の楽しみなどが減りがちで、食欲低下や食事量の低下を生じることもあります。生活リズムの乱れから、朝食、昼食が一緒になり1日2食になることもあります1)

 令和元年年国民健康・栄養調査の結果によると、65歳以上の高齢者の低栄養傾向(BMI≦20kg/m2)の人の割合は男性12.4%、女性20.7%、総数16.8%で、およそ高齢者6人に1人が低栄養状態のリスクが高いと考えられています3)

低栄養が及ぼす健康への影響

 低栄養状態では、筋肉量や筋力が低下したサルコペニアを併発していることがあります。高齢者になると、食事はきちんととり、健康的であっても、若いころに比べると、加齢とともに筋肉量や骨量は減少していきます。筋肉量の減少により、転倒しやすくなり、骨量も低下しますので、骨折の危険性は増加します。

 栄養不足の状態が続くと血液中のアルブミンなどのたんぱく質が減っていきます。それにより免疫機能が低下し、風邪などの感染症を引き起こしやすくなり、認知機能の低下、創傷治癒遅延などが引き起こされやすくなり、これらがいくつも重なると、寝たきり状態や死に至る危険性も高まります4)

 低栄養による健康への影響として、近年注視されているのがフレイルです。フレイルとは、「老化に伴う種々の機能低下(予備能力の低下)を基盤とし、様々な健康障害に対する脆弱性が増加している状態、すなわち健康障害に陥りやすい状態」5)のことをいい、健康な状態(健常)と日常生活でサポートが必要な介護状態の中間を意味します。病気や障害などによる健康の喪失、配偶者や友人など親しい人々との死別による喪失などをきっかけとして、社会とのつながりを失うと、生活範囲やこころの健康、口腔機能、栄養状態、身体機能までもが低下をきたし、ドミノ倒しのようにフレイルが進行、重症化していきます。

図:社会とのつながりを失うことがフレイルの最初の入り口であることを示すイラスト。社会とのつながりを失うと生活範囲が狭くなり、こころ、お口、栄養、からだへとドミノ倒しのようにフレイルが進行することを表現している。
図 フレイル・ドミノ
出典:東京大学高齢社会総合研究機構・飯島勝矢:作図
東京大学高齢社会総合研究機構・飯島勝矢ら 厚生労働科学研究費補助金(長寿科学総合研究事業)「虚弱・サルコペニアモデルを踏まえた高齢者食生活支援の枠組みと包括的介護予防プログラムの考案および検証を目的とした調査研究」(H26年度報告書より:未発表)

 フレイル予防には、「運動」「栄養・口腔機能」「社会参加・こころの健康」の3つをバランスよく実践することが大切で、フレイルと低栄養との関連は極めて強く6)、早期からの予防が求められます。

 摂取エネルギーと消費エネルギーのバランスを評価するBMI(体格指数)が、65歳以上での目標範囲(BMI21.5~24.9kg/m23)より低くなると低栄養になる危険性が高いとされています。愛知県東浦町の2010年以降の住民データをもとに、参加者を3つのグループに分け、3年間の介護が必要な累積発生率または死亡率を推定した調査では、「半年以内に2~3kg以上の体重減少」または「BMI18.5未満」のいずれかに当てはまる方では、当てはまらない方に比べて、3年以内に要介護になるリスクが1.7倍になることが報告されています7)

 ただし、フレイルは、健康を崩しやすい状態ではありますが、自立した生活を送ることができない要介護状態とは区別されていて、早い段階で心や体を適切にケアすることによって、健常に近い状態へ改善する、あるいは要介護状態に至る可能性を減らすことができると考えられています。ですから、日ごろから低栄養にならないような食生活を送ることが、フレイル予防やフレイルの進行を防ぐことにもなるのです。

高齢者の低栄養対策のための食生活

家族と会話をしながら食事を楽しむ様子を表す写真。加齢に伴う生理的、社会的、経済的問題は高齢者の低栄養の要因であることを示す。

 高齢者の低栄養の対策として、元気で長生きのための食生活という内容で、以下15項目があります。日々の食生活に気をつけていくことで、低栄養を予防し、健康寿命を延ばしていくことができます。

低栄養を予防し老化を遅らせるための食生活指針4)

  1. 3食のバランスをよくとり、欠食は絶対さける
  2. 動物性たんぱく質を十分に摂取する
  3. 魚と肉の摂取は1対1程度の割合にする
  4. 肉は、さまざまな種類を摂取し、偏らないようにする
  5. 油脂類の摂取が不足にならないように注意する
  6. 牛乳は、毎日200㎖以上飲むようにする
  7. 野菜は、緑黄色野菜、根野菜など豊富な種類を毎日食べ、火を通して摂取量を確保する
  8. 食欲がないときはとくにおかずを先に食べごはんを残す
  9. 食材の調理法や保存法を習熟する
  10. 酢、香辛料、香り野菜を十分に取り入れる
  11. 味見してから調味料を使う
  12. 和風、中華、洋風とさまざまな料理を取り入れる
  13. 会食の機会を豊富につくる
  14. かむ力を維持するため義歯は定期的に点検を受ける
  15. 健康情報を積極的に取り入れる

普段から体重の変化やBMIなどにも注意し、栄養バランスの良い食事を摂るようにしましょう。高齢者では肥満よりも痩せすぎの方の方が、死亡率が高くなります8)

 肉、魚、卵、乳製品などの動物性たんぱく質は人の体の筋肉や血液など身体をつくる役割があります。たんぱく質の摂取不足により、血液中のアルブミン量が減少し、低栄養状態を招くリスクが高まります4)

 高齢者になると1回の食事量が少なくなるため、栄養素の不足によって低栄養を引き起こしがちです。1回の食事で不足する栄養素は、間食で摂るなど工夫しましょう。とくに牛乳などの乳製品には多くのたんぱく質やミネラルが含まれるので、積極的に摂るようにします。

 調理において、いつも似たような味付けばかりだと、食事がマンネリ化してしまいあきてしまいます。和風、洋風、中華などいろいろな料理を入れ、食事を楽しむように心がけましょう。調理が大変な方は宅配食やコンビニ、スーパーなどのお惣菜、冷凍食品などを上手に利用します。

 高血圧の方は食塩の過剰摂取に気をつけましょう。しかし、全体の味付けが薄いと食欲が低下し食事がすすまないことがあります。そのような場合には酢や香辛料、香味野菜などを利用してメリハリのある食事にしましょう。

 栄養バランスの良い食事のメニューや食材選びについては、厚生労働省と農林水産省による「食事バランスガイド」を活用しましょう。毎食を完璧でなくても1日の中で栄養バランスを整えるようにしていきます。その日に食べられなければ、翌日に取り入れるようにしていきます(リンク1、2参照)。

リンク1:食事バランスガイドの概要

リンク2:食事バランスガイドの活用法

フレイルにならないための食事

フレイル予防のために意識したい栄養素

 栄養バランスのとれた食事を摂ることはどの年代でも健康につながりますが、特定の食品に偏らず多様な食品から栄養を取り入れることが大切です。高齢者においてフレイルを予防するために特に意識したい栄養素として、ビタミンD、カルシウム、たんぱく質に含まれる分岐鎖アミノ酸が挙げられます。

ビタミンD

 ビタミンDは、筋肉と骨の健康を保つために重要な役割を担っています。一部の魚介類、卵、きのこ等に含まれていて、1日に10~20㎍の摂取が必要です。食品からの摂取のほか、10~15分の日光浴でも体内でビタミンDを作り出すことができます。

カルシウム

 カルシウムは骨の材料となるため、骨密度の維持や骨折の予防に有用です。1日700~800mgの摂取と、運動による刺激が必要とされています。

たんぱく質

 人の体を構成するたんぱく質は20種類のアミノ酸からなります。その中でも分岐鎖アミノ酸は体内でつくり出すことができない、食事からの摂取が必要なアミノ酸であり、筋肉を作るために必要な栄養素です。具体的には、バリン、ロイシン、イソロイシンの3つの必須アミノ酸のことを指し、BCAA(ビーシーエーエー)とも呼ばれています。これらのアミノ酸は、鶏のむね肉やもも肉、まぐろの赤身やかつお、卵、大豆、牛乳などに多く含まれています9)

口腔機能が低下した人には

 年齢を重ねると、味覚や嗅覚の変化や食事そのものに関心が薄くなったり、運動量が少なくなったりすることで、食欲が低下しがちになります。

 また、噛む力が弱くなったり、飲み下す働きが悪くなったりすることもあります。すると、食べられるものが限定されてしまい、摂取できる食品に偏りが出て、低栄養につながる可能性があります。

 食材の選び方や、調理前の下準備、調理法など、食材に適した「ひと工夫」を加えて、バランスよく栄養素を摂取することを心がけましょう。噛む力や飲み下す働きに自信がなくても、工夫することによりフレイルを改善する食事をとることが可能になります。

文献

  1. 高齢者の食生活の実態:男性と女性の比較 楠原清里ら 京都女子大学食物学会第58号(2003-12-10)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  2. 葛谷雅文 低栄養 新老年医学 第3版 大内 尉 秋山弘子編集. 低栄養 東京大学出版会(東京)2010;579─90.
  3. 令和元年「国民健康・栄養調査」の結果 厚生労働省(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  4. 熊谷修 ちょっとQ&A「肉も食べ続ける食生活の大切さ」 研究所NEWS No.188 地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター研究所(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  5. 葛谷雅文.老年医学におけるSarcopenia & Frailtyの重要性.日老医誌 2009; 46: 279─ 85.
  6. 「日本人の食事摂取基準」(2020年版) 厚生労働省(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  7. Kinoshita K, Satake S, Shimokata H, Arai H. Proposal for the Revising the Nutrition Intervention Standards on the Kihon Checklist. Geriatrics & Gerontology International, July 2020;20(7):731-732.
  8. 肥満指数と死亡率との関係について 国立研究開発法人国立がん研究センター社会と健康研究センター予防研究グループ(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  9. 健康長寿教室テキスト第2版 国立長寿医療研究センター (2020年11月20日閲覧)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)

フレイルとは何?サルコペニアとは何?

 フレイルとサルコペニアの概要、原因、評価方法、予防方法などについて国立長寿医療研究センター理事長 荒井 秀典 先生に解説いただきました。本動画は第32回日本老年学会総会「成熟社会への課題~高齢者は幸せになったか~」の市民公開講座にて公開された動画です。

長寿科学研究業績集「フレイル予防・対策:基礎研究から臨床、そして地域へ」について

 長寿科学研究業績集は学術的研究成果の中で、社会のニーズにあったテーマを医療等従事者向けに編集した研究マニュアルです。各関係機関に活用いただくことで研究成果の普及啓発を図かっております。

 令和2年度長寿科学研究業績集は「フレイル予防・対策:基礎研究から臨床、そして地域へ」(令和3年3月発刊)と題し、著名な先生方にご解説いただきました。

 公益財団法人長寿科学振興財団のホームページで長寿科学研究業績集をご覧いただけます。

業績集「フレイル予防・対策:基礎研究から臨床、そして地域へ」(財団ホームページ)(新しいウインドウが開きます)

画像:令和2年度長寿科学研究業績集の表紙画像

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