健康長寿ネット

健康長寿ネットは高齢期を前向きに生活するための情報を提供し、健康長寿社会の発展を目的に作られた公益財団法人長寿科学振興財団が運営しているウェブサイトです。

フレイルとこころの健康

公開日:2021年10月29日 10時00分
更新日:2022年7月20日 13時25分

 高齢者の心理的な特徴は、脳の老化による感覚機能・認知機能・精神機能の低下の影響を受けます。それらに加えて、身体的な機能低下や価値観、これまでの経験、社会的経済的環境、高齢期特有のライフイベント(配偶者や友人との死別、定年退職)なども影響し、個人差が大きくみられます1)

加齢にともなう心理的変化

 高齢者では加齢にともない、次のような心理的変化がみられます。

  • 新しいことを覚える・新しい環境に順応する能力(流動性知能)が低下する
  • 言葉の知識や理解・独創性・使い続けている専門的な技術(結晶性知能)は保たれやすい2)
  • 短期記憶※1、エピソード記憶※2は低下しやすいが、意味記憶※3や手続き記憶※4は低下しにくい2)
  • 処理速度(課題を実行するスピード)や複数の課題を同時に処理する能力の低下、注意の散漫などがみられる3)
  • 性格的な変化がみられることがあり、「頑固になる」人もいれば、「大らかになる」人も「変わらない」人もいる3)
  • 加齢による機能低下や社会的孤立などの状態から不安やストレスを抱えると、うつ状態、無気力につながることがある1)
※1 短期記憶:
電話をかけるまで電話番号を見て覚えているような数秒~数分の記憶
※2 エピソード記憶:
昨日の晩どこで何を食べたかなど、いつどこで何が起こったかなどという出来事の記憶
※3 意味記憶:
言葉の意味や一般的な知識
※4 手続き記憶:
自転車の乗り方、ピアノの演奏など、習得された技能や動作

精神機能の低下の原因

 高齢者の精神機能低下は、加齢による変化や環境、経験などさまざまな要因によってもたらされます。

 特に高齢期では次のような「喪失」体験が多く起こることが、精神機能の低下に影響しています。

  • 加齢による脳や身体の機能低下
  • 視覚・聴覚の低下3)
  • 病気や障害などによる健康の喪失
  • 配偶者や友人など親しい人々との死別による喪失
  • 定年退職や子どもの独立などによる社会的役割の喪失

 高齢者における「喪失」体験は、生涯における一過点として受け止めて向き合い、社会生活や人との付き合いを維持しながら健康を保っていくことが大切です。しかし、喪失体験から抑うつ(気分の落ち込み)、意欲の低下、孤独感、疎外感、閉じこもり傾向などが増すと、精神機能の低下をきたします3,4)

こころ・心理の虚弱(精神・心理的フレイル)

 抑うつなどの精神機能・認知機能の低下がみられるこころ・心理の虚弱は「精神・心理的フレイル」と呼ばれます5)

 フレイルというと、筋量・筋力の低下(サルコペニア)や運動器機能の低下(ロコモティブシンドローム)などの「身体の虚弱(身体的フレイル)」が一般的なイメージとしてありますが、フレイルには「こころ・心理の虚弱(精神・心理的フレイル)」や「社会性の虚弱(社会的フレイル)」もあり、それぞれの側面は影響しあっています5)

精神機能の低下の影響

 抑うつや意欲の低下などの精神機能低下が起こると、外出することや人と会うことが億劫となって、社会参加や人とのつながりが少なくなります。この社会生活や人とのつながりが失われることがフレイルの入り口となります5)

フレイルの流れ

 高齢期において、社会生活や人とのつながりが失われると生活範囲が狭くなり、活動量が減少します。外出機会が減って閉じこもりがちとなると気持ちも落ち込み、外に出ることが億劫となります。また、一人の時間が多くなり、食欲が低下し、口腔への関心も薄れてきます。それにより、歯の喪失・嚥下機能の低下など口腔機能に不具合が生じると食べられるものが限定され、低栄養になる恐れがあります。

 低栄養は、サルコペニアの要因となり、さらに身体機能の低下が進んでいきます。

 このように、病気や障害などによる健康の喪失、配偶者や友人など親しい人々との死別による喪失などをきっかけとして、社会とのつながりを失うと、生活範囲やこころの健康、口腔機能、栄養状態身体機能までもが低下をきたし、ドミノ倒しのようにフレイルが進行、重症化していきます。

図3:社会とのつながりを失うことがフレイルの最初の入り口であることを示すイラスト。社会とのつながりを失うと生活範囲が狭くなり、こころ、お口、栄養、からだへとドミノ倒しのようにフレイルが進行することを表現している。
図1 フレイル・ドミノ
出典:東京大学高齢社会総合研究機構・飯島勝矢︓作図
東京大学 高齢社会総合研究機構 ・ 飯島勝矢ら 厚生労働科学研究費補助金(長寿科学総合研究事業)「虚弱・サルコペニアモデルを踏まえた高齢者食生活支援の枠組みと包括的介護予防プログラムの考案および検証を目的とした調査研究」(H26年度報告書より)

 フレイル予防には、「運動」「栄養・口腔機能」「社会参加・こころの健康」の3つをバランスよく実践することが大切で、フレイルとこころの健康との関連は極めて強く、早期からの予防が求められます。

精神機能の低下を防ぐには

 フレイルは多面的に機能低下を起こして進んでいく一方で、可逆性があり、健康な状態まで戻ることも可能です。

 高齢者特有のライフイベントで起こる大切な人との死別、役割の喪失などを体験したときや、経済的な問題・病気の発症・家族とのもめごとなど、日常的な不安や悩みを感じたときに共有・理解してくれる仲間や友人がいないと「孤独」を感じやすくなります。社会的な孤立は気分の落ち込みや慢性的なストレスの誘因となり、精神機能の低下をもたらします。

 精神機能の低下を防ぐためには「積極的に社会参加の機会を持ち、人と交流すること」「生きがいや役割を見出すこと」が重要となります。そのためには年を取ったことを理由に新しいものや社会活動から退くのではなく、いろいろなことに興味・関心を持ち、積極的にチャレンジしていく姿勢を持つことです。社会参加を通じて、気軽に悩みや不安を相談し合える友人や仲間を持つことも大切です。

文献

  1. 松田修. 最新老年心理学―老年精神医学に求められる心理学とは―. 第一版. 株式会社ワールドプランニング.2018年7月10日.218-219P
  2. 神崎恒一.加齢にともなう認知機能の低下と認知症. 日本内科学会雑誌第107巻第12号:2461~2468,2018.(2020年11月30日閲覧)(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  3. 佐藤眞一 髙山緑 増本康平.老いのこころ 加齢と成熟の発達心理学.株式会社有斐閣.2014年6月10日.67P,79-82P,102P,125P
  4. 村川浩一・坪山 孝・黒田研二・松井奈美.新大学社会福祉・介護福祉講座高齢者福祉・支援論.第一法規.3-4P
  5. 新田國夫・飯島勝矢・戸原玄・矢澤正人.老いることの意味を問い直す フレイルに立ち向かう.初版.2016年7月31日.32-34P.47-50P

長寿科学研究業績集「フレイル予防・対策:基礎研究から臨床、そして地域へ」の冊子について

 長寿科学研究業績集は学術的研究成果の中で、社会のニーズにあったテーマを医療等従事者向けに編集した研究マニュアルです。各関係機関に活用いただくことで研究成果の普及啓発を図かっております。

 令和2年度長寿科学研究業績集は「フレイル予防・対策:基礎研究から臨床、そして地域へ」(令和3年3月下旬発刊)と題し、著名な先生方にご解説いただきます。

業績集「フレイル予防・対策:基礎研究から臨床、そして地域へ」(財団ホームページ)(新しいウインドウが開きます)

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