長寿科学研究に関する情報を提供し、明るく活力ある長寿社会の実現に貢献します。

貢献寿命延伸への挑戦!~高齢者が活躍するスマートコミュニティの社会実装~

檜山 敦(ひやま あつし)

一橋大学ソーシャル・データサイエンス教育研究推進センター教授
東京大学先端科学技術研究センター特任教授

令和4年度長寿科学研究者支援事業「長生きを喜べる長寿社会実現研究支援」採択プロジェクト

 長寿科学振興財団では、「長生きを喜べる長寿社会の実現~生きがいのある高齢者を増やす~」を主課題として掲げ、その実現のために課題解決となる研究開発・社会実装を行い、政策提言に向けた助成事業を行っています。本稿は令和4年度長寿科学研究者支援事業「長生きを喜べる長寿社会実現研究支援」にて採択したプロジェクトの代表者に執筆いただきました。

はじめに

 65歳以上の人口が3割に迫り労働力の減少が深刻化する一方、高齢者の身体機能は向上し、ひとりの一生は100年もの時間を獲得しようとしている。「健康寿命」延伸への取り組みで元気高齢者が増加する一方、さらなる高齢化は社会の不安要素になっている。真に長生きを喜べる社会の実現には、年齢や障害にかかわらず望めば生涯にわたって活躍し貢献できる社会の仕組みが求められる。

 既往研究から高齢期の社会とのつながりが心身の健康に大きな影響を与えることが報告されている1)。地域活動への参加は高齢者本人の心身の健康を支えるだけでなく、人手不足に直面する社会を支えることにつながる。また、参加の形式を取らずともあらゆる形で人と社会に貢献し、感謝される実感を味わえることは本人の生きがいにつながるとともに、地域において「感謝されあう『お互いさま』の価値観・文化」の醸成につながることが期待される。しかしながら、ほとんどの高齢者は地域の活動に関わっていないのが現状である2)

 一橋大学、東京大学、ニッセイ基礎研究所、リクルートマネジメントソリューションズからなる研究チームは、表題のプロジェクトとして、長生きを喜べる・生きがいのある社会づくりに向け、誰もが社会とつながり役割を持てる人生を実現するための「貢献寿命」を提唱し3)、その指標化と社会参加を通じて貢献寿命を延伸する情報プラットフォームの社会実装に取り組んでいる。地域の中で役割や居場所を探す高齢者と、仕事やボランティア、趣味のイベントや生涯学習などのさまざまな地域活動と、サポートを求める住民の声を有機的につないでいく。そのためには、参加を求める地域活動情報を集約するとともに個人の受援力(周りに助けを求めたり、助けを受けたりする力)を引き出し、個人の体力、スキル、嗜好に合わせてマッチングを支援するテクノロジーが有効である4)

 現在、地域の高齢者と地域活動とをつなぐ情報プラットフォームとしてGBER(ジーバー)を研究開発し、熊本県・東京都世田谷区・福井県・神奈川県鎌倉市への社会実装を展開している(図)。GBERは住民が主体的に地域活動を選択・参加することを支援する。本プロジェクトでは、GBERの機能を拡充し、各地域から抽出されたニーズを総合して、高齢者の活躍・貢献領域を拡大することをめざしている。就労領域では、高齢者層の求める柔軟な働き方に対応した複数人で作業を分担するモザイク型の就労マッチングの実現に取り組む。また、貢献寿命の指標を用い、地域の高齢者に対してQOLや自己効力感を定量化・可視化することで参加・貢献意欲を刺激するメカニズムを設計する。同時に地域に対しては社会関係資本の充実度を高める刺激として同指標のフィードバック手法を設計することを目標としている。そして地域での社会実装を通じた持続可能なビジネスモデルの構築とGBERの多地域展開に取り組む。

図、高齢者の社会参加促進プラットフォーム GBER・ジーバーの仕組みを表す図。
図 高齢者の社会参加促進プラットフォーム GBER

長寿社会の問題点

 人々にとって社会とつながり役割を持つことが、心身の健康とwell-beingに大きく寄与し、死亡率の低減にもつながることが示されてきた5)。さらには、単に社会とつながるだけでなく、誰かを支え、役に立っていると感じられることが心身の健康につながることも示唆されている。これらの知見を合わせると、心身が健康な高齢者を増やすだけでなく、仕事を含め社会とつながり役割を持ち、誰かの役に立つ、感謝される、といった関わりを持つ人が増えることが、「真に長生きを喜べる長寿社会」の実現には不可欠であると考えている。

 しかし、60歳や65歳に達すると仕事や社会的な役割から「引退」し、高齢者を社会に「支えられる人」とする社会制度や社会通念は根強い。本プロジェクトメンバーらがこれまで取り組んできた、高齢者がその知識や経験を生かして地域社会の課題解決に関与する「生きがい就労」のシステム開発と社会実装の経験から、打開すべき課題は、

  • (1)就労や社会参加が高齢者の心身の健康維持・増進にもたらす効果が見えづらく、どのような活動が生きる喜び、心身の健康に結びつくかがエビデンスで示されていないこと。
  • (2)企業や地域社会側が、年齢にかかわらず活躍できる多様な働き方や参加の機会を十分に発掘できていないこと。

の2点にあると分析している6)

 本プロジェクトでは、この2点を打開するために、高齢者の就労、社会参加、人と社会とのつながりを包括する「貢献(engagement)」概念を再定義し、客観的な行動と主観的な評価から「貢献寿命(engaged life expectancy)」を指標化する。そして、GBERを用いて簡便に計測し、可視化できるようにすることをめざす。同時に、高齢者の「貢献」を可能にする社会環境が提供できているかを評価する地域社会向けの指標も構築することで、個人の行動変容を促すAIレコメンデーションツールに加えて、地域社会側の環境整備を効率化するツールとしてGBERに搭載することを目標として設定する。

1.住民目線からの課題

 地域に住まう1人の住民としての視点からは、一定の年齢に達すると働く機会が狭まる現状を打開し、多様な形で無理のない範囲で活躍し、人と社会とのつながりを持って暮らし続けられることは100年の一生を豊かにすることに直結する。一口に高齢者といっても心身の状況は相当の幅がある。現状における高齢者の活躍の場は、ボランティア、臨・短・軽(臨時的・短期的、軽易な業務)の福祉的単純労務などが中心であり、それは必ずしも高齢者側の希望には一致していない。就労に関して言えば、多様な経験や能力を活かすことのできる仕事や活動の切り出しが適切に行われ、マッチングが支援されることで、より多くの高齢者が、より多様な現場で活躍し、感謝され、喜びを持って社会と関わることができるようになる。収入が得られる場合は高齢者の生活を経済的に豊かにすることにもつながり、それはめぐって高齢者の消費行動を高め、地域社会の活性化にもつながる。リクルートワークス研究所が指摘する老後の備えに不安を抱える「次世代シニア問題」があり、将来の高齢者が就労できる環境を拡大しておくことは喫緊の課題である7)

2.地域社会目線からの課題

 企業だけでなく、自治体や教育現場、地域社会も支え手不足にさいなまれている。公共、教育、福祉領域や、近隣社会の支えあい、日常の生活支援においても、高齢者の貢献と活躍の場は数多く存在する。これらの人手不足の分野や地域において、持続可能な地域をつくっていくための本質的な課題を抽出し、達成に向けた具体的なアクションが必要となる。そこに地域の高齢者人材を効果的にマッチングさせるとともに、その貢献を効果的に評価する仕組みができることで、地域の担い手不足の問題の解消につながることが期待される。働き貢献する人が増えることは、一方では高齢者自身の健康の維持につながり、他方では納税や消費の拡大につながることから、長期的には社会保障費の削減につながると想定される。つまり高齢人口の増加が社会保障費の増大に結びつく現状を改善すると期待される。

3.地域産業目線からの課題

 生産年齢人口の減少は著しく、2030年には人手が644万人不足すると予測されている8)。人手不足を補う手段として、「退職」状態にあるが意欲や能力が十分に高いシニア層を働き手として活かすことが期待される。特に地域産業を担う中小企業で事業継承の問題は深刻である。地域のシニア人材が若手世代を支える就労モデルおよび、複数のシニア人材がその能力を組み合わせて働くモザイク就労モデルを構築することで、企業の持続可能性を高める産業モデルを創出できる可能性がある。

実現される未来

1.新たな長寿価値「貢献寿命」による生きがい増進

 「人生100年時代」という言葉がすっかり定着した。しかし、それだけの長寿の可能性ある人生の歩み方、その時代に相応しい社会の創り方が不透明なままである。ただ長生きするのではなく、"より良く"長生きできるようにするには、何を意識して、何を目標に日々取り組めばよいか、その提案が待たれている。その答えとして本プロジェクトが提案するのが「貢献寿命」の延伸である。平均寿命および健康寿命の延伸の結果として、「社会とつながり役割を持ち、誰かの役に立つ、感謝されるといった関わりを持ち続けられる自分の老後の生き方」を追究することが高齢期の新たな目標に相応しい。この概念の指標と尺度の開発を行い、個人のみならず社会全体に広げていくことの価値は大きいと考える。

2.シニアの活躍・貢献機会の最大化と地域力・地域経済の活性化

 高齢化対策として、これまでさまざまな政策や民間企業の新たな取り組みも展開されてはきているものの、状況を打破する画期的な方策は未だ確立できていない。その課題の根源にあるのが、"シニアに相応しい"仕事や貢献可能な活動の開拓とマッチングシステムの確立である。GBERを通じ、多様な高齢者の持てる力を最大限に活用しながら、無理のない範囲で地域への貢献に寄与できるモザイク型就労の貢献モデルを実現できれば、社会の仕組みを大きく変えられる。これから2040年頃まで唯一増大し続ける見通しであるシニア層が、高齢になっても活き活きと社会の中で活躍し、人と社会に貢献し続けていく理想が描かれ、ひとりの一生が100年となる社会の持続可能性を高めることができるだろう。

おわりに

 世阿弥の最初の能芸論である『風姿花伝』からの20年余りの時を経て、悟り得たことを集成した秘伝書である『花鏡』には、あらゆる能芸の根源をなす一句として「初心忘るべからず」ということを伝えている9)。この「初心忘るべからず」という一句の中には、「初心の頃から老後に至るまでのその時々の年齢に合った風体を習得していくこと」、そして「老後においてもその風体に似合うことを習う老後の初心を持つことで芸は上達するばかりとなる」という能芸論も含まれる。

 齢を重ねていくどこかの時点に安住し、その時々の初心を持つことを忘れてしまうと、芸はそこから下降し始める。高齢期における貢献を哲学し、社会とのつながりの在り方を考え、新しいテクノロジーや思想を咀嚼していくことも含めて、初めて生きる老後に挑み続けることであり、まさに老後の花を咲かせるための「老後の初心を忘るべからず」であろう。定年退職時を人生の頂点と捉えて老後の初心を忘れてしまうと、そこから芸は下降し老化も進んでいくことになる。

 その時代の哲学やテクノロジーは続く時代に常に更新されていく。「老後の初心」を追究し、実践し、続く世代に伝えようとする思想を広げることへの取り組み、それこそが本プロジェクトがこれからの社会に残す本質的な意義であろう。

文献

  1. 吉澤裕世,田中友規,高橋競,藤崎万裕,飯島勝矢:地域在住高齢者における身体・文化・地域活動の重複実施とフレイルとの関係.日本公衆衛生雑誌 2019;66(6):306-316.
  2. 前田展弘:シニア就労・社会参加の現状と課題─人生100年時代のサスティナブルな社会の構築に向けて─.Aging&Health 2021;30(3):6-9.(PDF)(新しいウインドウが開きます)(2022年9月15日閲覧)
  3. 秋山弘子:「貢献寿命」の延伸を.Aging&Health 2021;30(3):4.(PDF)(新しいウインドウが開きます)(2022年9月15日閲覧)
  4. 檜山敦:シニア就労とテクノロジー.Aging&Health 2021;30(3):18-21.(PDF)(新しいウインドウが開きます)(2022年9月15日閲覧)
  5. Sakurai R, Yasunaga M, Nishi M, Fujiwara Y. et al.: Co-existence of social isolation and homebound status increase the risk of all-cause mortality. International Psychogeriatrics 2019;31(5):703-711.
  6. 今城志保:日本の高齢者就労を考える.Aging&Health 2021;30(3):22-25.
  7. 長島一由,清瀬一善,戸田淳仁,白石久喜,森亜紀:次世代シニア問題 現40歳代がシニアになる前に解決すべきこと.Works Report 2014,リクルートワークス研究所.
  8. パーソル総合研究所:中央大学 労働市場の未来推計2030.(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)(2022年9月15日閲覧)
  9. 世阿弥:花鏡.

筆者

ひやまあつし氏の写真
檜山 敦(ひやま あつし)
一橋大学ソーシャル・データサイエンス教育研究推進センター教授
東京大学先端科学技術研究センター特任教授
略歴
2001年:東京大学工学部卒業、2003年:東京大学大学院情報理工学系研究科修了、2006年:東京大学大学院工学系研究科修了、博士(工学)、東京大学先端科学技術研究センター特任助手、東京大学大学院情報理工学系研究科特任助手、2013年:同特任講師、2016年:東京大学先端科学技術研究センター講師、2021年:同特任准教授、2022年より現職
専門分野
ジェロンテクノロジー、人間拡張工学、複合現実感
過去の掲載記事
檜山敦:シニア就労とテクノロジー.Aging&Health 2021年 第30巻第3号(PDF)(新しいウインドウが開きます)(2022年9月15日閲覧)

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health 2022年 第31巻第3号(PDF:40.8MB)(新しいウィンドウが開きます)