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平成30年度若手研究者表彰事業 長寿科学賞受賞者について

長寿科学振興財団長寿科学賞第19回若手研究者表彰式の写真

 平成30年度若手研究者表彰事業における「長寿科学賞」受賞者2名が決定し、平成30年11月2日(金)名古屋マリオットアソシアホテルにおいて、第19回若手研究者表彰式を行いました。受賞者には表彰状、表彰盾、副賞(研究費100万円)が贈呈されました。受賞者とその研究概要は以下のとおりです。

(1)受賞者氏名

谷口 優 氏

所属機関・職名

地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター 研究員(主任)

研究課題名

繰り返し測定データを用いた高齢期の心身機能および生活機能の加齢変化パターンの類型化とその意義

研究期間

平成28年度~平成30年度

研究内容及び研究成果の概要

 高齢期の生活機能は、認知症や要介護状態を評価するための重要な健康指標である。Lawton, M.P.は、高齢者の生活機能について単純なものから複雑な活動までを含む7つの階層モデルを提唱しており、通常の加齢変化では高次の生活機能が基本的な機能よりも先に失われることが知られている。健康長寿の実現には、高次生活機能の維持が重要であるが、その加齢変化パターンは明らかではなかった。

 本研究では、草津町で17年間実施してきた疫学研究のデータを用いて、高次生活機能(老研式活動能力指標:Lawtonモデルの上位3つに相当)の加齢変化パターンと死亡リスク及び社会保障給付費との関連を明らかにした。延べ約1万件のデータから、高次生活機能の加齢変化パターンは4つの群 (高群36.3%、中高群40,1%、中低群17.4%、低群6.1%)に類型化でき、低群になる程、総死亡リスク及び心血管疾患による死亡リスクが高まることを示した。平均医療費(月当たり)は、高群、中高群、中低群で加齢に伴う上昇がみられた一方低群では低下を示し、平均介護費は、中低群及び低群で加齢に伴う上昇がみられた。本研究から、65歳時点で高次生活機能が既に低くその後直線的な低下を示す約6%の集団(低群)に加えて、65歳時点では高次生活機能に問題はみられないが65歳以降に直線的な機能低下がみられる約17%の集団(中低群)に対して生活機能の向上を図ることにより、平均余命の延伸並びに社会保障給付費の削減が期待できることを示した(代表論文)。

代表論文

Taniguchi Y et al. Association of Trajectories of Higher-Level Functional Capacity with Mortality and Medical and Long-Term Care Costs Among Community-Dwelling Older Japanese. J Gerontol Med Sci, in press.

写真2:長寿科学振興財団長寿科学賞第19回若手研究者表彰式の写真

(2)受賞者氏名

杉本 昌隆 氏

所属機関・職名

国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 室長

研究課題名

組織老化・疾患における細胞老化の役割

研究期間

平成24年度~平成30年度

研究内容及び研究成果の概要

 細胞はストレスを受けると、細胞老化と呼ばれる増殖停止状態に陥る。細胞老化を起こした細胞(老化細胞)は、ヒトやマウスなどの哺乳動物において、加齢とともに様々な組織に蓄積することが古くから知られていた。しかしながら、組織老化や加齢性疾患との因果関係については不明であった。

 我々は、組織老化における老化細胞の役割を明らかにするために、生体から老化細胞を排除可能な遺伝子改変マウスを樹立した。これまでに我々は、このマウスを用いて、肺組織の老化における老化細胞の役割について解析を行ってきた。肺組織は老化すると組織弾性を失い、呼吸器能が低下する。しかしながら、肺組織から老化細胞を排除した老齢マウスでは、若齢肺に近い組織形態を示し、組織弾性にも顕著な回復が認められた。さらに肺組織の遺伝子発現について、網羅的に解析したところ、加齢性変化を示す遺伝子の半数以上が、肺組織に蓄積した老化細胞に依存した変動を示すことを見出した。これらの結果から、肺組織の老化は、少なくとも部分的に、加齢とともに組織内に蓄積する老化細胞に起因すること、さらに老化細胞を排除することにより組織を「若返らせる」ことが可能であることが示唆された。

 肺組織の老化は、肺気腫などの疾患のリスクを高めることが知られている。我々は肺気腫モデル動物を樹立し、老化細胞が気腫病態に及ぼす影響についても解析を行ってきた。これまでに、老化細胞を排除した肺組織では、気腫モデルにおいて炎症が緩和され、病態の進行が阻止されることを示す結果を得た。これらの結果から、肺組織の老化細胞は、炎症が惹起されやすい環境を形成することにより、気腫病態を加速させることが強く示唆された。

 さらに我々は、将来的にヒトへの応用を見据えた研究として、薬理学的に老化細胞をターゲッティングすることにより、肺気腫モデル動物において病態を緩和することが可能であることを明らかにした。以上、我々の研究結果からは、老化細胞が肺気腫の治療・予防に極めて有効な標的となることが期待される。

代表論文

Hashimoto M., Asai A., Kawagishi H., Mikawa R., Iwashita Y, Kanayama K., Sugimoto K., Sato T., Maruyama M., and Sugimoto M. EIimination of p19ARF-expressing cells enhances pulmonary Function in mice. JCI insight 1(12). e88057.2016

写真3:長寿科学振興財団長寿科学賞第19回若手研究者表彰式の写真