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派遣報告書(伊藤久美子)

派遣者氏名

伊藤 久美子(いとう くみこ)

所属機関・職名

東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野・大学院生(博士課程)

専門分野

疫学、公衆衛生

参加した国際学会等名称

11th IAGG Asia/Oceania Regional Congress 2019

学会主催団体名

International Association of Gerontology and Geriatrics

開催地

台湾 台北

開催期間

2019年10月23日から2019年10月27日まで(5日間)

発表役割

ポスター発表

発表題目

Time spent walking and disability-free survival in elderly Japanese: the Ohsaki Cohort 2006 Study

日本の高齢者における歩行時間と無障害生存期間:大崎コホート2006研究

目的

 歩行時間が長いことは、死亡や要介護発生の予測因子であることが報告されているが、歩行時間の長さによって、どの程度、健康寿命が延伸されうるかは明らかでない。本研究の目的は、1日平均歩行時間と無障害生存期間との関連を明らかにすることである。

方法

 2006年に宮城県大崎市の65歳以上の住民全員(31,694人)を対象に、1日の平均歩行時間を含んだ生活習慣に関する自記式質問紙調査を実施した。曝露変数は、1日の平均歩行時間とし、「30分未満」、「30分から1時間未満」、「1時間以上」の3群に分類した。主要エンドポイントは11年間(2006年~2017年)の新規要介護認定または死亡の発生の複合アウトカムとし、無障害生存期間はベースライン時点から複合アウトカムが発生するまでの期間と定義した。解析は、第一に、Cox比例ハザードモデルを用い、「30分未満」の群を基準群とした複合アウトカムのハザード比と95%信頼区間(95%CI)を算出した。第二に、Laplace回帰分析を用い、「30分未満」の群を基準群とした50パーセンタイル差(50thPD:イベント発生50%に至るまでの期間の差)と95%信頼区間(95%CI)を推定した。

結果

 11年間の追跡の結果、解析対象者(14,342人)のうち、複合アウトカムの発生者は7,761人であった。「30分未満」群に対する複合アウトカムの多変量調整ハザード比(95%CI)は、「30分から1時間未満」で0.84(0.79, 0.88)、「1時間以上」で0.78(0.74, 0.83)となり、歩行時間が長い者ほど複合アウトカムのリスクは低かった(傾向性のP値<0.001)。また、「30分未満」群に対する50thPD(95%CI)の推定値(多変量調整)は、「30分から1時間未満」で238日(155~322日)、「1時間以上」で360日(265~454日)となり、歩行時間が長い者ほど無障害生存期間が有意に長かった。

考察

 本研究の結果、歩行時間が長い者では無障害生存期間が7~12ヶ月ほど有意に長かった。したがって、歩行時間を長くすることによって、健康寿命が延伸されうることが示唆された。

派遣先学会等の開催状況、質疑応答内容等

 IAGGは老年学に関する世界最大規模の学会です。本国際学会では、35か国以上から3,200人以上が参加し、およそ1,000題の演題の発表が行われました。発表において、老年学に関する研究者らと、年齢・性別ごとの分析結果の交互作用の有無の重要性、日本の高齢化の現状に関する課題、要介護認定のデータの収集方法などについて議論することができました。また、その他の演題発表やシンポジウムを聞いて、老年医学に関する疫学や行動科学の研究者から健康寿命延伸に関する有用な情報を得ることができました。

写真:平成31年度第2期国際学会派遣事業派遣者:伊藤久美子氏が発表ポスターの脇に立って写した写真

本発表が今後どのように長寿科学に貢献できるか

 歩行は、身近な身体活動です。本研究では、歩行時間が長い者では無障害生存期間が長いことが明らかとなりました。これらの成果は、世界中で人口の高齢化が進行する中で、歩行習慣が健康寿命の延伸の一助となる可能性があることを示唆しています。健康寿命を延伸することによって、個人の健康状態の改善だけでなく、社会保障費の削減に繋がることも期待されます。