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派遣報告書(CHEN JOU YIN)

派遣者氏名

CHEN JOU YIN(チン ジュウ イン)

所属機関・職名

東京都健康長寿医療センター研究所 研究員

専門分野

疫学

参加した国際学会等名称

Asian Conference for Frailty and Sarcopenia

学会主催団体名

Kaohsiung Veterans General Hospital

開催地

台湾 高雄

開催期間

2025年10月17日から2025年10月18日まで(2日間)

発表役割

ポスター発表

発表題目

Longitudinal Association Between Handgrip Strength and Cognitive Decline Across Older Age Groups: The Otassha Study

地域在住高齢者における握力と認知機能低下の年齢層別縦断的関連:お達者コホート研究

発表の概要

背景と目標

 加齢に伴う認知機能は低下する傾向がある。認知機能低下と筋力低下との関連を検討した縦断研究は限られており、特に高齢者における年齢層別の検討は十分に行われていないのが現状である。本研究の目的は、筋力の指標である握力の水準別に認知機能の12年間の縦断的変化を検討し、この関連が高齢者の年齢層によってどのように異なるかを明らかにすることである。

方法

本研究は、東京都板橋区で実施された地域在住高齢者を対象とした健康診断、お達者研究の情報を用いて、2013年から2024年にかけて12年間で少なくとも6回以上受診した65歳以上の参加者を対象とした。初回参加時の年齢に基づき、65-69歳、70-79歳、80歳以上の3群に分けた。筋力はベースラインの握力で評価し、認知機能はMini-Mental State Examination(MMSE)により毎年繰り返し測定された。握力と認知機能の縦断的関連を検討するために線形混合効果モデルを用いた。

結果

 対象者は621名(平均年齢70.0±5.1歳、男性241名[38.9%])であった。全体では、経年で認知機能の有意な低下が認められ(β=-0.03、p=0.020)、握力低下との交互作用も有意であった(β=-0.08、p<0.001)。年齢層別解析では、交互作用は70-79歳群でのみ有意であり(β=-0.09、p=0.002)、65-69歳群および80歳以上群では有意ではなかった。

結論

 70-79歳の参加者において、低い筋力は認知機能の経時的低下と有意に関連していた。

派遣先学会等の開催状況、質疑応答内容等

 Asian Conference for Frailty and Sarcopeniaは2025年10月17日から18日に開催され、私はポスターセッションで研究成果を発表した。発表の場では、台湾や日本だけでなく、アジアや欧米などさまざまな国の研究者と直接意見を交わすことができた。質疑応答では、サンプルサイズの設定や解析方法について具体的な指摘をいただき、研究デザインの改善につながる有益なアドバイスを得た。

ポスター発表の様子を表す写真。
ポスター発表の様子
会場の様子を表す写真。
会場の様子

本発表が今後どのように長寿科学に貢献できるか等

 本学会を通じて他の研究者の成果や最新の知見に触れたことで、本研究の位置づけや今後の発展の方向性がより明確になった。特に、握力と認知機能の関連が長寿社会における自立支援や認知症予防に重要な役割を果たすことが再確認され、本研究の成果は高齢者の健康寿命延伸に貢献できる可能性が高いと考えられる。今回の学会参加は、国際的な視点を取り入れた研究の質向上につながる貴重な機会となった。

参加学会から日本の研究者に伝えたい上位3課題

発表者氏名
Kenneth Rockwood
所属機関、職名、国名
Dalhousie University, Professor, Canada
発表題目
Rapid Geriatric Assessment: what happens when severe acute illness meets chronic frailty?
発表の概要
Kenneth Rockwood教授の演題では、高齢者における急性重症疾患と慢性的フレイルの関係について議論された。発表では、個人のフレイル指数(Frailty index)が、認知機能や身体機能などの欠損項目の割合として定義されることが示された。また、フレイルケアが老年医学の中心的役割を果たすべきであることが強調され、急性疾患の発症時に慢性的フレイルを考慮する重要性が示された。本発表は、フレイル評価の迅速化と、重症疾患に直面した高齢者への適切な介入戦略の必要性を示唆するものであった。

発表者氏名
Miji Kim
所属機関、職名、国名
Kyung Hee University, Associate Professor, Republic of Korea
発表題目
Association of Growth Differentiation Factor 15 with Sarcopenia Incidence and Mortality in Community-Dwelling Older Adults
発表の概要
Kim教授のポスター発表では、Growth Differentiation Factor 15(GDF-15)というサイトカインが高齢者におけるサルコペニアおよび死亡率とどのように関連しているかが検討されました。本研究は6年間の縦断追跡研究として設計され、地域在住の高齢者1,000名以上が対象となりました。ベースラインで血液サンプルを採取し、GDF-15を測定するとともに、6年間にわたりサルコペニアの発生を追跡しました。その結果、GDF-15とサルコペニアとの間には有意な関連は認められませんでしたが、地域在住高齢者における死亡率とは有意な関連が認められました。私はこれまでこのような生物マーカーを用いた疫学研究に接する機会が少なかったため、本研究は私の視野を広げるものでした。

発表者氏名
Shih-Tsung Huang
所属機関、職名、国名
National Yang Ming Chiao Tung University, Project Assistant Professor, Taiwan
発表題目
Development of Gender-Specific Questionnaire-Based Fall Prediction Models for Community-Dwelling Older Adults
発表の概要
Huang教授の研究では、地域在住高齢者を対象に、1年以内の転倒リスクを予測する指標が開発された。転倒は高齢者の要介護化や死亡につながる重要な危険因子であることから、早期に高リスク群を特定し、予防的介入を行うことは公衆衛生上きわめて重要である。本研究は台北地域の縦断研究(Longitudinal Aging Study of Taipei: LAST)のデータを用い、60歳以上の地域在住高齢者を対象に、質問票に基づく男女別の1年転倒リスク予測モデルを構築した。その結果、当モデルは中等度から良好な識別能を示し、本人による自己評価が可能であり、健康な地域高齢者にも適用できる簡便な指標であることが示された。また、性別ごとに異なるリスク因子が明らかになり、転倒予防において性別に応じた対策の重要性が示唆されました。