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派遣報告書(角田百穗)

派遣者氏名

角田 百穗(かくた ももほ)

所属機関・職名

大阪大学大学院 大学院生

専門分野

生涯発達心理学・老年学

参加した国際学会等名称

Gerontology Society of America annual meeting

学会主催団体名

Gerontology Society of America

開催地

アメリカ ボストン

開催期間

2025年11月12日から2025年11月15日まで(4日間)

発表役割

ポスター発表

発表題目

Age Differences in Older Adults' Usage of Selection, Optimization, and Compensation (SOC) Strategies: Findings from the SONIC Study

高齢期における選択的最適化補償方略利用の年齢差:SONIC研究の結果

発表の概要

 選択的最適化補償(SOC)方略は機能低下に対するウェルビーイングを維持するための認知方略である。SOC方略は生涯にわたり利用されることが想定され、青年期から中年期にかけて利用が増加し、中年期以降減少すると考えられている。しかし、前期高齢期から超高齢期におけるSOC方略の利用量の変化は明らかになっていない。そこで、本研究では、前期高齢期から超高齢期における選択的最適化補償方略の利用の変化を検討した。日本の地域在住高齢者を対象とした大規模縦断研究であるSONIC研究(Septuagenarians, Octogenarians, and Nonagenarians Investigation with Centenarians)の参加者を対象とした。参加者は70歳代、80歳代、90歳代に分け、ポリコリック相関を用いた多母集団同時分析と一元配置分散分析を実施し、因子構造がすべての年代で因子構造が等価であること、得点差があることを確認した。また、SOC方略を構成する4つの下位因子と主観的ウェルビーイング、性格特性、認知機能との相関係数を算出した。「自らによる選択」方略のみ加齢とともに利用が増加したが、「喪失による選択」「最適化」「補償」という3つの方略は70歳代から80歳代にかけて増加したが、80歳代から90歳代にかけて減少していた。また、「自らによる選択」方略のみウェルビーイングと負の相関を示した。「喪失による選択」「最適化」「補償」という3つの方略では、70歳代と80歳代ではウェルビーイングと正の相関を示したが、90歳代では相関係数が小さくなった。これらの結果から、SOC方略の利用の効果は80歳代まで大きく、90歳代で変化することが示され、90歳代におけるウェルビーイングの関連要因はSOC方略だけではないことが示唆された。

派遣先学会等の開催状況、質疑応答内容等

 ポスター発表の時間として75分が設定されていた。生涯発達や加齢変化のセクションで発表したため、高齢期以降の発達に興味を持つ人が多くいらっしゃった。特に、本研究は70歳、80歳、90歳という年齢群を設定し、90歳という超高齢期も含めた量的研究を行っていたため、超高齢期に関する質問を多くいただいた。そのため、SOC方略を聞いたことがあっても、知らない人が多かった。また、方略を知っていても、扱っている研究が本学会ではなかったため来てくれる人がいた。方略の測定方法や、90歳代におけるwell-beingとの関連がなくなる理由、超高齢期における目標設定が異なっていく可能性、身体機能との関連、さらに、SOC方略を研究する社会的意義、どのように社会に還元できるのかについて議論ができ、意見を頂くことができた。

ポスター発表の様子を表す写真。
ポスター発表の様子

本発表が今後どのように長寿科学に貢献できるか等

 SOC方略は個人が環境に適応するための自己調整方略である。高齢期を迎えると、身体機能や認知機能といった機能低下だけでなく、社会関係の縮小や経済状況の大きな変化が起こり、それまでの環境の維持が難しくなり、ウェルビーイングが低下する。しかし、SOC方略の利用により、ウェルビーイングが維持すると考えられている。本研究では、高齢期から超高齢期を対象に、SOC方略の利用頻度と、ウェルビーイングの関連の年齢差を検討した。長寿科学が挙げている高齢者の3つの不安要因である経済、健康、孤独に対して、SOC方略の利用が有効であると考える。SOC方略の利用は、利用可能な資源に適した目標の選択や資源の利用を促し、ウェルビーイングの上昇・維持に寄与する。高齢期から超高齢期という不安要因が増大する時期におけるSOC方略の利用を明らかにすることで、長寿における不安要因を低減することができるという点で、今後長寿科学に貢献ができるだろう。

参加学会から日本の研究者に伝えたい上位3課題

発表者氏名
Susan T. Charles
所属機関、職名、国名
University of California, Professor, US
発表題目
Under Pressure, but Together: Stressor Reactivity and Daily Social Connection in Middle and Later Adulthood/プレッシャー下でも共に:中年期および老年期におけるストレス要因反応性と日常的な社会的つながり
発表の概要
社会的帰属感は、気質、性格、そして幼少期の経験によって形成される安定した個人差特性として、長らく概念化され研究されてきた。本講演では、社会的つながりの感覚が日々どのように変動するか、またその変動がストレス要因への反応性とどのように関連するかを議論された。全米日常体験調査(N=2,022)から得られた8日間の日間データを用い、中年期および高齢期において、日々の社会的つながりがストレス要因への反応として経験されるネガティブ感情とどのように関連するかを検証した。参加者は毎日、日常的なストレス要因(例:口論、職場でのストレス要因、家庭でのストレス要因)を経験したかどうか、および帰属意識の程度を報告した。我々は、ポジティブ感情の平均レベル、ストレス要因への曝露、親の温かさを調整した後、ストレス要因に反応した日に、日々の社会的帰属感のレベルがネガティブ感情の変化とどのように関連しているかを調べるために、マルチレベルモデルを用いた。結果として、帰属意識の高さは負の感情の低さに関連し、ストレス要因への曝露は負の感情の高さと関連していることが示された。また、ストレス要因に曝露された日に帰属意識が高いと感じた場合、ネガティブ感情が低くなることが示された。これらの結果から、日常的なつながりがウェルビーイングと日常生活におけるストレス要因への対応に重要であることが示唆された。

発表者氏名
Gloria Luong
所属機関、職名、国名
Colorado State University, Associate Professor, US
発表題目
Dyadic Adaptation to Moving into a Senior Housing Facility: Changes in Psychological Well-Being/高齢者向け住宅施設への入居に伴う二者間の適応:心理的ウェルビーイングの変化
発表の概要
高齢者にとって、介護付き住宅のような新たな居住施設への移住は、ネガティブ感情の増大、孤独感、抑うつ症状といったより低い幸福感と関連している。こうした研究の多くは個人に焦点を当てられ、夫婦がこの重大な人生の出来事を共にどう乗り越えるかにについて検証している研究は少ない。
本研究では、既婚で異性愛の夫婦(N=41組、82名)が高齢者向け住宅施設への移行に適応する過程を調査した。参加者の年齢は40~95歳であった。移住と移行体験(Relocation and Transitional Experiences; RELATE)研究では、約3~5年にわたる前向き縦断的測定バーストデザイン(prospective longitudinal measurement burst design)を用い、参加者は5回のバーストごとに、連続8日間の生態学的瞬間的評価(EMA)調査、質問紙、健康・認知機能評価を実施した。
5回のバーストにわたる分析から、夫は妻に比べてポジティブ感情が高く、抑うつ症状が少ない傾向が認められた。さらに、夫は妻に比べて時間の経過とともに共感性(相手の立場に立った会話)が低下した。

発表者氏名
Claudia M. Haase
所属機関、職名、国名
Northwestern University, Associate Professor, US
発表題目
New Insights Into Acceptance Across Adulthood/成人期における受容に関する新たな知見
発表の概要
受容(すなわち、感情や思考を判断せずに受け入れること)は、特に老年期において重要となる可能性のある感情調節戦略である。感情調整に関する研究ではポジティブ再評価に関する研究が盛んに行われている一方で、受容については知見が少ない。本研究では、実験と質問紙調査を組み合わせた受容に関する研究プログラムの知見を提示する。
高齢者(N=129、年齢64-83歳)を対象とした実験室研究により、否定的感情の受容は(a)回避や、肯定的再評価よりも好まれる、(b)指示された感情調節中における迷走神経反応性の増大を予測する、(c)特に実行機能に制約がある場合に、より高い精神的健康を予測することが示された。質問紙による研究では、受容と拒絶を区別しつつ、肯定的感情と否定的感情に対する受容における年齢差を検証した。3つの横断研究(N=416、402、412;年齢範囲:18~87歳)において、以下の知見が得られた:(a)高齢者は若年成人と比較して、ポジティブ感情を拒絶する傾向が低く、(一貫性は低いものの)ポジティブ感情を受け入れる傾向が高い。さらに、(b)ネガティブ感情全般では一貫した年齢効果は見られないものの、特に怒りと悲しみについては、受容と拒絶において明確な年齢差が認められた。高齢者(65歳以上)は若者(18-35歳)に比べ、怒りや悲しみを拒絶する傾向が低く、受容傾向が高い。これらの知見は、人生後期における受容の重要性を強調するとともに、成人期を通じた感情調節に関する長年の議論に貢献するものであった。