派遣報告書(斉藤祐樹)
派遣者氏名
斉藤 祐樹(さいとう ゆうき)
所属機関・職名
国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学医学部附属病院 医員
専門分野
整形外科
参加した国際学会等名称
Orthopaedic Research Society 2026 Annual Meeting
学会主催団体名
Orthopaedic Research Society
開催地
アメリカ合衆国 シャーロット
開催期間
2026年3月27日から2026年3月31日まで(5日間)
発表役割
ポスター発表
発表題目
Evaluation of the utility of phase angle in the diagnosis of rheumatoid sarcopenia
リウマトイドサルコペニアの診断におけるフェーズアングルの有用性評価
発表の概要
関節リウマチ(RA)におけるサルコペニアの併発はリウマトイドサルコペニアと称され、一般的なサルコペニアよりも有病率が高く進行が速いため、早期発見のためのスクリーニング法の確立が望まれている。本研究ではバイオマーカーとしてバイオインピーダンス法により得られるフェーズアングル(PhA)に着目し、RA患者276名を対象としてPhAのサルコペニア診断補助指標としての有用性を検討した。結果として、サルコペニア群(n=54)は非該当群(n=222)よりPhAが有意に低く(3.46±0.58° vs 4.12±0.72°)、筋肉量・身体機能も劣っていた。PhAは握力や歩行速度、筋肉量と有意に相関し、Cochran-Armitage検定にてPhA低下とサルコペニア有病率上昇の有意な傾向を示した。ROC解析でサルコペニアの診断に至るPhAカットオフ値4.00は高精度(AUC=0.76)を示し、PhAはRA患者のサルコペニアを非侵襲的に補助診断できる有用なバイオマーカーである可能性が示された。
派遣先学会等の開催状況、質疑応答内容等
- RA活動性が低い患者が中心だが、高活動性RAでも有用か
- カットオフ4.00は他集団でも使えるか
- PhA低下は原因か結果か

本発表が今後どのように長寿科学に貢献できるか等
本発表は関節リウマチ患者におけるサルコペニアを簡便かつ非侵襲的に評価する可能性を示した点で、長寿科学に重要な貢献をし得ると考える。長寿科学においては、単に寿命を延ばすだけでなく、いかに健康寿命を延伸し、自立した生活を維持するかが大きな課題である。関節リウマチでは、関節炎そのものだけでなく、筋量や筋力の低下を通じて身体機能が障害され、フレイルや転倒、骨折、さらには要介護状態へ進行する危険が高い。Phase angleは、そのような機能低下を早期に把握するための実用的指標となる可能性があり、早期介入による健康寿命延伸に寄与し得る。また疾患単位でみるのではなく、炎症、栄養、筋質、身体機能を含めた包括的な視点で評価することが求められており、RAという慢性炎症性疾患を通じて、老化と身体機能低下の接点を捉え直す試みでもあり、運動療法や栄養介入、リハビリテーションを適切な時期に導入する基盤となる。さらに、この知見はRAに限らず、他の慢性疾患や一般高齢者の筋機能評価にも応用可能であり、長寿科学の発展に広く貢献する可能性を有している。
参加学会から日本の研究者に伝えたい上位3課題
- 発表者氏名
- Anna-Maria Mielke
- 所属機関、職名、国名
- Department of Orthopaedic Surgery, Hospital for Special Surgery, Weill Cornell Medicine, New York, NY, USA
- 発表題目
- Association Between Lumbar and Hip Muscle Degeneration: A Cross-Sectional MRI-Based Analysis/椎と股関節周囲筋の筋変性の関連:MRIに基づく横断解析
- 発表の概要
- 腰椎固定術予定患者を対象に、術前MRI画像を用いて腰椎傍脊柱筋(psoas、多裂筋、脊柱起立筋)および股関節周囲筋(殿筋群、大腿筋群など)の筋断面積と脂肪浸潤を定量的に評価し、両者の関連性を検討した横断研究である。筋量および筋質の指標としてCSA(cross-sectional area)と脂肪浸潤率を用い、相関解析を実施した結果、いくつかの筋群間で中等度の関連が認められた。しかし、多重比較補正を行うと統計学的有意差は消失し、明確な直接的関連を示すには至らなかった。これらの結果から、筋変性は全身的に均一に進行するのではなく、機能的負荷や代償機構に応じて局所的・部位特異的に進行する可能性が示唆された。また、本研究はMRIによる詳細な筋評価の有用性を示すと同時に、筋変性評価における解釈の複雑さを提示するものである。
- 発表者氏名
- Selena Xiang
- 所属機関、職名、国名
- Princeton University; University of California San Diego, USA
- 発表題目
- The Influence of Analgesic Medications on Adaptations of Paraspinal Muscle to Resistance Exercise in Patients with Chronic Low Back Pain/慢性腰痛患者におけるレジスタンス運動に対する傍脊柱筋の適応へ及ぼす鎮痛薬の影響
- 発表の概要
- 慢性腰痛患者を対象に、機械負荷を伴うレジスタンストレーニングプログラムを実施し、その前後で多裂筋および脊柱起立筋の筋容積と脂肪浸潤率をMRIにより評価した研究である。加えて、患者の鎮痛薬使用状況(NSAIDs、SSRIsなど)を詳細に把握し、筋組織の変化との関連を解析した。結果として、運動療法により疼痛、身体機能、筋力は有意に改善した一方で、筋肥大や脂肪減少といった筋組織の構造的適応には薬剤の影響が認められた。特にNSAIDsおよびSSRIsの使用量が多い群では、筋肥大の程度が小さく、脂肪浸潤の改善も限定的であった。さらに、用量依存的な関連も示唆され、薬剤が筋のリモデリング過程や炎症応答に影響を及ぼしている可能性が考えられる。本研究は、症状改善と組織適応が必ずしも一致しない点を示し、運動療法における薬剤使用の影響を再考する必要性を提示するものである。
- 発表者氏名
- Sophie V. Orr
- 所属機関、職名、国名
- Department of Orthopaedic Surgery, University of California Davis Health, USA Position: Not specified
- 発表題目
- Continuous Semaglutide Infusion Impacts Female Mouse Musculoskeletal Tissue During Immobilization Without Changing Food Intake or Body Weight/持続セマグルチド投与は摂食量や体重変化を伴わずに不動化中の雌マウス筋骨格組織へ影響を及ぼす
- 発表の概要
- 片脚不動化モデルを用いた雌マウスに対し、GLP-1受容体作動薬であるセマグルチドを持続投与し、筋および骨に対する影響を検討した実験研究である。実験期間中、摂食量および体重には有意な変化は認められなかったが、ヒラメ筋や腓腹筋などの筋重量はセマグルチド投与群でより大きく減少し、不動化による筋萎縮が増悪する結果となった。また、骨量自体には大きな変化は認められなかったものの、血中骨吸収マーカー(CTX-1)の上昇や骨・筋関連遺伝子の発現変化が確認された。これらの結果は、セマグルチドが体重減少とは独立した経路で筋骨格代謝に影響を及ぼす可能性を示している。特に不動状態においては、筋萎縮や骨代謝異常を助長するリスクがあり、臨床的には薬剤使用時の筋骨格への影響評価の重要性を示唆する研究である。
