派遣報告書(田口怜奈)
派遣者氏名
田口 怜奈(たぐち れいな)
所属機関・職名
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 特任研究員
専門分野
老年薬学・臨床疫学
参加した国際学会等名称
Gerontological Society of America (GSA) 2025 Annual Scientific Meeting
学会主催団体名
Gerontological Society of America
開催地
アメリカ ボストン
開催期間
2025年11月12日から2025年11月15日まで(4日間)
発表役割
ポスター発表
発表題目
Continuity of Visiting Pharmacist Services for Older Adults With and Without Terminal Cancer in Japan
日本の高齢者における薬剤師の在宅訪問の継続性-末期がん患者と非がん患者との比較-
発表の概要
薬剤師の在宅訪問は在宅薬物療法適正化のための介入として世界11か国で報告されているが、日本のように制度化されている国は少ない。本研究では、薬剤師の在宅訪問が導入された約4,000名の日本の高齢者のリアルワールドデータを用いて、訪問導入後1年間の継続状況と中止の理由を末期がんの有無により層別化して明らかにした。末期がんの参加者において、訪問中止までの期間の中央値は2か月であった。一方、末期がんでない参加者の51.9%は1年後において訪問継続中であった。中止の理由は保険請求データに基づき、死亡、転居、入院・施設入所、中断に分類した。このうち中止の理由として最も多かったものは死亡であり、全体の約20%の患者がエンド・オブ・ライフ期において薬剤師の在宅訪問を受けていることが明らかになった。これらの知見は、薬剤師が個々の患者のニーズと予想されるサービス期間に合わせてケアを調整するのに役立つと考える。さらに、本研究結果は、高齢化や医療資源不足への対処として同様の制度を検討している国々を導き、将来の医療政策の参考になるような情報となることが期待される。
派遣先学会等の開催状況、質疑応答内容等
本学会は、ボストンのHynes Convention Center全体を使用して開催された大規模な会議であり、アメリカ国内のみならず世界各国から多くの参加者が集まっていた。ポスター発表はExhibit Hall Cにて行われ、1時間15分の発表時間の中で、参加者と有意義なディスカッションを行うことができた。
本発表に対しては、日本の介護保険制度に関する質問が多く寄せられた。また、在宅医療におけるエンド・オブ・ライフケアの場面で、薬剤師が具体的にどのように貢献しているのか、今後どのような役割を担い得るのかについて、他国の状況も踏まえた議論が行われた。

本発表が今後どのように長寿科学に貢献できるか等
在宅療養高齢者はポリファーマシーになりやすく、服薬の問題によって在宅での生活が継続困難になることが報告されている。薬剤師の在宅訪問はこのような問題への対応策の一つとして国内外で注目されており、日本においては国が提供体制確保を推進し、内閣府の規制改革推進会議ではタスクシフトとしての役割拡大が議論されている。しかし、その実態に関するエビデンスは不足しており、特にレセプトを用いた客観的かつ大規模な検証はほとんどない。本研究は医療・介護レセプトを連結したリアルワールドデータを用いて地域在住高齢者を包括的に1年間追跡したものであり、薬剤師の在宅訪問の活用可能性の議論に資するエビデンスとして、高齢になっても住み慣れた環境で生活するための長寿科学に貢献することが期待できる。
参加学会から日本の研究者に伝えたい上位3課題
- 発表者氏名
- Cynthia Boyd
- 所属機関、職名、国名
- Johns Hopkins University School of Medicine, Professor, US
- 発表題目
- Identification of Adverse Drug Withdrawal Events after Older Adults Discontinue Statins/高齢者におけるスタチン中止後の有害な薬剤離脱事象の同定
- 発表の概要
- 電子カルテデータを用いて薬剤中止後の有害事象(ADWE)を特定する方法を検討し、スタチン中止と潜在的ADWEとの関連性について報告したポスター発表である。記録の精査と判定は2名の臨床医によって行われた。44件の潜在的ADWEのうち、48%(21/44)は「疑わしい」と判定された(例:スタチン中止後12か月以内に脳卒中が発生したが、心房細動による可能性が高い)。また、48%(21/44)は「可能性あり」と評価され(例:中止後に心筋梗塞が発生したが、がんがその一因となった可能性がある)、4%(2/44)が「可能性高い」(例:中止以外の要因ではADWEを説明できない)、0%(0/44)が「確実」(例:可能性高いと同様の理由に加え、スタチン再投与後の病状改善が確認される場合)と判定された。
発表者とのディスカッションで印象的だったのは、今回、薬剤中止による有害事象はほとんど検出されなかったものの、この結果はむしろ、ポリファーマシー対策としての減薬の安全性を支持するエビデンスになり得るという解釈であった。
- 発表者氏名
- JiYeon Choi
- 所属機関、職名、国名
- Yonsei University, Associate Professor, Republic of Korea
- 発表題目
- Exploring Mobile EMA and GPS to Understand Social Connectedness in Community-Dwelling Older Adults/地域在住高齢者の社会的つながりを理解するためのモバイル生態学的瞬間評価(EMA)とGPSの活用に関する研究
- 発表の概要
- 本発表は、アジア諸国の高齢者を対象とした「地域保健イノベーションによる在宅生活の推進」をテーマとするシンポジウムの一環として行われたものである。発表では、モバイルEMA(Ecological Momentary Assessment)と全地球測位システム(GPS)追跡を用い、地域在住高齢者の社会的つながりとそれに関連する心理社会的反応を評価する研究が報告された。
本研究では、参加した高齢者に対し、スマートフォンを用いて2週間にわたり1日4回、実施中の社会的活動と感情に関する調査が行われ、GPS情報と統合して社会的つながりの空間的動態が解析された。
高齢者においてもスマートフォンの利用が一般化している昨今、このような老年社会学的手法は非常に有用であり、今後の研究展開としても大変興味深いと感じた。
- 発表者氏名
- Amy Linsky
- 所属機関、職名、国名
- VA Boston Health Care System, Associate Professor, US
- 発表題目
- Long-term Effectiveness of Patient-Directed Education to Sustain Deprescribing: A Hybrid Implementation Trial/患者主導型教育による薬剤減量維持の長期有効性:ハイブリッド実施試験
- 発表の概要
- 本発表は、高齢者に対する薬学的介入をテーマとしたシンポジウムの一環として行われたものである。介入は、慢性的に継続処方を受けている患者を対象に実施され、介入群には3種類のPIM(プロトンポンプ阻害薬、高用量ガバペンチン、低血糖リスクのある糖尿病治療薬)のいずれかに関するパンフレットが郵送で提供された。対照群には通常ケアが行われた。調整後回帰分析の結果、介入群では持続的な薬剤減量を示す可能性が有意に高かったが、短期的または遅延した減薬傾向は認められなかった。
患者向け教育資料が減薬を促進し、その効果を持続させる有効な実施戦略となり得ることが示されており、非常に興味深い内容であった。ポリファーマシー対策において、患者の理解を深めることが重要な要素であることを改めて認識した。
