派遣報告書(秋定真有)
派遣者氏名
秋定 真有(あきさだ まゆ)
所属機関・職名
神戸市看護大学 講師
専門分野
老年看護学
参加した国際学会等名称
The 37th Global Conference of Alzheimer's Disease International
学会主催団体名
Alzheimer's Disease International
開催地
フランス リヨン
開催期間
2026年4月14日から2026年4月16日まで(3日間)
発表役割
ポスター発表
発表題目
Nursing Practices in Post-Diagnostic Dementia Support for Older People Living with Dementia and Their Families in Japan
日本の認知症を有する高齢者とその家族を対象とした認知症診断後支援における看護実践の文献レビュー
発表の概要
本発表は、日本における認知症を有する高齢者とその家族を対象とした認知症診断後支援における看護実践の特徴を明らかにすることを目的とした文献レビューである。
医中誌Web、CiNii Research、J-STAGEを用い、「認知症」「診断後」「看護」「高齢者」をキーワードとして検索し、認知症診断後支援における看護実践が記述された文献を対象に分析を行った。その結果、分析対象となった12件の文献から、看護実践として【認知症高齢者の尊厳と主体性の尊重】【継続的かつ包括的な生活・医療マネジメント】【家族介護者の心理的安定と介護継続に向けた支援】が抽出された。一方で、診断後支援における看護実践に関する研究は限定的であり、体系的な知見の蓄積が不十分である現状が示された。本発表では、診断後の「支援の空白期間」において果たす看護職の専門的役割を整理し、今後の看護実践の方向性について国際的視点から発信した。
派遣先学会等の開催状況、質疑応答内容等
本学会は、2026年4月14日から16日までフランス・リヨンのPalais des congrès de Lyonで開催され、「Solutions for Today and Tomorrow」をテーマに、認知症に関する政策、予防、早期診断、ケア、家族支援、当事者参画、研究・イノベーション等の幅広い発表が行われた。世界各国から研究者、医療・福祉専門職、当事者・家族、支援団体関係者が参加しており、認知症を医学的課題としてのみ捉えるのではなく、本人の権利、地域生活、ケア体制、政策形成を含む包括的な課題として議論する雰囲気が印象的であった。
ポスター発表では、参加者から、認知症の人本人の意思をどの時期からどのように確認するのか、家族の意向と本人の意向が異なる場合に看護職がどのように調整するのか、日本の認知症ケアにおけるACP支援の実装可能性などについて質問・意見を受けた。これらの質疑を通して、診断後早期から本人の価値観を尊重し、家族とともに継続的に対話する支援の重要性を再確認した。


本発表が今後どのように長寿科学に貢献できるか等
本発表は、認知症高齢者と家族が、認知症の進行を見据えながらも、その人らしい生活を継続するための看護支援を検討する基盤となるものである。特に、本人の価値観や希望を早期から把握し、家族や多職種と共有する支援は、認知症高齢者の尊厳の保持、意思決定支援、生活の質の向上に寄与するものであり、長寿科学における「長く生きること」と「よりよく生きること」を支える実践知の蓄積につながると考える。
また、本国際学会への参加を通して、認知症ケアにおける本人中心支援や早期支援の重要性は国際的にも共通した課題であることを学んだ。今後は、本発表および学会参加で得られた国際的視点を踏まえ、日本の認知症外来や地域における看護実践の明確化、支援指標の開発、教育・実装へと発展させたい。
参加学会から日本の研究者に伝えたい上位3課題
- 発表者氏名
- Dr. Sarah Griffiths
- 所属機関、職名、国名
- University College London, United Kingdom
- 発表題目
- Time, talk, and teamwork: enhancing communication for post-diagnostic dementia care planning/認知症診断後ケア計画におけるコミュニケーション支援の充実―時間・対話・チームアプローチの重要性―
- 発表の概要
- 本発表では、認知症診断後のケアプランニングにおいて、本人・家族・実践者の間で行われるコミュニケーションの重要性が示されていた。個別化された認知症ケアが政策的に重視されている一方で、現場ではチェックリストに沿った確認が中心となり、本人や家族の思い、生活上の困りごと、今後への不安を十分に把握しきれないという課題が述べられていた。
本発表で特に印象的であったのは、ケアプランニングを単なる情報収集や項目確認として行うのではなく、本人と家族の状況を理解し、関係性を築きながら進めるプロセスとして捉えていた点である。発表者が示した"Checking in, not just checking boxes"という視点は、チェックリストに沿って必要事項を確認するだけでは、本人の不安、生活上の困りごと、家族との関係性、今後の見通しに対する思いを十分に捉えきれないことを示していると理解した。認知症ケアにおいて標準化された確認項目は重要であるが、それだけでは個別化されたケアにはつながりにくい。本人の語りや家族の思いを丁寧に受け止める対話を通して、その人らしい生活を支えるケアプランニングにつなげることが重要であると感じた。
診断直後の認知症高齢者と家族への看護実践を考えるうえでも、この視点は非常に示唆的であった。外来では限られた時間の中で説明や情報提供が行われることが多いが、その中でも看護職が本人・家族の思いや生活上の課題をどのように聴き取り、支援につなげるかが重要になる。今後、看護実践指標を検討する際にも、単に「確認したか」「説明したか」という実施項目だけでなく、本人・家族との対話を通して個別のニーズを把握し、支援につなげる実践を含める必要があると感じた。
- 発表者氏名
- Ms. Chyi En Teoh
- 所属機関、職名、国名
- Dementia Singapore, Singapore
- 発表題目
- An evaluation of post-diagnostic support for persons with dementia, their caregivers, and supporting staff in the Singapore context/シンガポールにおける認知症診断後支援の評価―本人・家族介護者・支援職員を対象として―
- 発表の概要
- 本発表は、シンガポールにおける認知症診断後支援について、認知症の人、家族介護者、支援職員の視点から評価したものであった。発表では、診断後支援の一環として、本人の生活歴、好み、使用言語、文化的背景などを把握し、それを個別ケアプランに反映する取り組みが紹介されていた。ケアパートナーの多くが個別ケアプランを有用であると感じ、本人の好みや生活史に関する新たな気づきが得られたことが示されていた点が印象的であった。また、シンガポールの多文化・多言語社会という背景を踏まえ、本人と家族に適した支援を行うためには、支援職員の言語能力や文化的感受性、認知症ケアの知識・スキルの向上が重要であることも示されていた。
この発表から、認知症の診断後支援は、単に情報提供やサービス紹介を行うだけではなく、本人と家族の生活背景を理解し、今後の生活を共に考えるプロセスとして位置づける必要があると感じた。特に、診断直後の段階から本人の価値観や生活史を把握し、家族や支援者と共有することは、その人らしい生活の継続を支えるうえで重要であり、私が取り組む「認知症外来における診断直後の高齢者と家族を対象とした看護実践指標の開発」にも大きな示唆を得た。
- 発表者氏名
- Ms. Ying Hui Wu
- 所属機関、職名、国名
- Twing-cheng Care and Create Studio, Taipei, Taiwan
- 発表題目
- Case Studies on Dementia Care in A Day Care Center: Integrating Theoretical Knowledge with Practical Experience/台湾のデイケアセンターにおける認知症ケアおよびスタッフ教育の事例研究
- 発表の概要
- 本発表では、認知症の人のケアにおいて、BPSD、活動性の低下、コミュニケーション困難、介護者負担、嚥下障害、感覚障害、夕暮れ症候群、緊急時対応など、多様な課題が生じることが示されていた。発表者らは、デイケアセンターで検討された複数の事例をもとに、利用者の認知症の重症度、生活歴、家族背景、身体機能、心理状態、環境要因などを多面的に分析し、それぞれの課題に応じたケア方略を整理していた。
特に印象的であったのは、認知症ケアを個々のスタッフの経験だけに依存するのではなく、事例検討やチームミーティング、ロールプレイ、ワークショップなどを通して、スタッフ全体で学習し、ケアの質を高めようとしていた点である。対応方略としては、パーソンセンタードな関わり、本人の行動の背景理解、非薬物的介入、安全確保、家族との協働、介護者支援、環境調整、活動内容の調整などが挙げられていた。
この発表から、認知症ケアでは、症状や問題行動だけを見るのではなく、その人の生活歴、心理状態、家族関係、身体機能、環境との相互作用を総合的に捉えることが重要であると感じた。また、質の高いケアを継続するためには、個別事例をチームで検討し、理論的知識と実践経験を結びつけながらスタッフ教育を行うことが有効であると考えられた。これは、認知症の人と家族を支える看護実践を検討するうえでも示唆に富む内容であった。
