令和7年度若手研究者表彰事業 長寿科学賞受賞者(小林正樹)
受賞者氏名
小林 正樹 氏
所属機関・職名
お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系 基礎栄養学研究室 講師
所属学会
基礎老化学会
研究課題名
カロリー制限による白色脂肪組織の質的変化とその分子基盤の解明
研究期間
平成28年度~令和4年度
研究内容及び研究成果の概要
カロリー制限(Caloric Restriction、以下CR)はヒトと同じ霊長類であるサルを含めた様々な動物種に抗老化・寿命延伸効果をもたらす。しかし、実験と同程度のCRをヒトに適用することは現実的には困難である。このような背景から、CR効果の分子基盤の解明およびその模倣は有力な抗老化戦略になると考えられている。白色脂肪組織(White Adipose Tissue、以下WAT)は、エネルギー源として中性脂肪を貯蔵するだけでなく、特有のサイトカインの分泌により全身の生理機能を調節する。CRした動物のWATでは小型の脂肪細胞が多く観察され、それらは脂肪酸合成やミトコンドリア生合成の促進などの有益な形質を示す。本研究では、これらのCRにより誘導されるWATの質的変化がCR効果において重要な役割を果たすと考え、その分子基盤の解明を目指した。著者らは、転写因子sterol regulatory element binding protein-1c (Srebp-1c) がCR誘導性の脂肪酸合成とミトコンドリア生合成の亢進に関与することに加えて、Srebp-1c欠損マウスではCRによる寿命延伸効果が消失することを明らかとした。さらに、CRがミトコンドリアタンパク質の成熟を担うペプチダーゼmitochondria intermediate peptidase (MIPEP) の発現をWATにおいて増加させ、これが実際に一部のタンパク質の成熟の亢進に関与することも見出した。まとめると、CRはWATにおいてSrebp-1cを介して脂肪酸合成やミトコンドリア生合成を亢進するとともに、MIPEPを介してミトコンドリアタンパク質成熟を活性化する。これらは、WATの脂質代謝とミトコンドリア機能を誘導し、ひいてはCRの抗老化・寿命延長効果の一部を担うものと考えられる。本研究が解明したこれらの分子基盤は、新たなCR模倣標的の同定に寄与すると期待される。
代表論文
Kobayashi M, Takeda K, Narita T et al., FEBS Lett. 2017; 591: 4067-4073.
受賞者

- 小林 正樹(こばやし まさき)
- お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系 基礎栄養学研究室 講師
- 略歴
- 2012年:東京理科大学薬学部薬学科 卒業、2016年:大阪大学大学院医学系研究科博士課程 修了(博士(医学))、2016年:東京理科大学薬学部生命創薬科学科 助教、2021年:東京理科大学薬学部生命創薬科学科 講師、2022年:お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系 講師
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