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令和7年度若手研究者表彰事業 長寿科学賞受賞者(中川威)

中川威氏の表彰式の様子を表す写真。

受賞者氏名

中川 威 氏

所属機関・職名

大阪大学大学院人間科学研究科 准教授

所属学会

日本老年社会科学会

研究課題名

加齢に伴う喪失前後の変化を捉える測定法の基盤確立

研究期間

令和3年度~令和6年度

研究内容及び研究成果の概要

 サクセスフル・エイジングは、高齢期における幸福と健康の維持を目指す重要な概念であり、医学、社会学、心理学といった学問分野で論じられてきた。医学モデルは、疾患と障害がなく、心身の機能が保たれ、社会参加していることをサクセスフル・エイジングの条件とする一方、心理学モデルは、加齢に伴う喪失に適応し、幸福(well-being)を保つことを条件とする。発表者は、主に心理学モデルに基づき、「老い、病み、死ぬとしても、人は幸福に生きられるか」という問いに答えようとしてきた。

 主に高齢者を対象とする複数の縦断研究に参画し、加齢、疾患、死に伴って心身の健康がどのように変化するか、心身の健康の変化にはどのような個人差があるか、その個人差に何が関連するかを検証してきた。これまで参画した縦断研究には、大阪大学と東京都健康長寿医療センター研究所が実施するSONIC、国立長寿医療研究センターが実施するNILS-LSA、東京都健康長寿医療研究センター研究所が実施するJAHEADが含まれる。

 一連の研究の結果、加齢、疾患、死に伴い、平均的には心身の健康が低下すること、心身の健康の変化には大きな個人差があること、社会関係が築かれていれば心身の健康を保ちうることが示された。

 主な研究成果として、加齢に伴う人生満足感の変化(Nakagawa & Kobayashi, 2023)、脳血管疾患の発症に伴う身体機能の変化(Nakagawa, Noguchi, Komatsu, & Saito, 2022)、死に伴う人生満足感の変化(Nakagawa & Hülür, 2020)を報告してきた。本発表では、死に伴う人生満足感の変化(Nakagawa & Gizem, 2020)を中心に報告しながら、「老い、病み、死ぬとしても、人は幸福に生きられるか」という問いに対して、「加齢、疾患、死を経験する人の多くにとって幸福に生きることは難しいが、人とのつながりを築いている一部の人は幸福に生きられる」という答えを示す。

代表論文

Nakagawa, T., & Hülür, G. (2020). Social integration and terminal decline in life satisfaction among older Japanese. The Journals of Gerontology Series B: Psychological Sciences and Social Sciences, 75(10), 2122-2131.https://doi.org/10.1093/geronb/gbz059

受賞者

なかがわたけし氏の写真
中川 威(なかがわ たけし)
大阪大学大学院人間科学研究科 准教授
略歴
2007年:大阪大学人間科学部卒業、2012年:大阪大学大学院人間科学研究科 博士後期課程単位取得退学、2012年:大阪大学大学院人間科学研究科 助教、2016年:日本学術振興会 海外特別研究員、2018年:日本学術振興会 特別研究員(PD)、2020年:国立長寿医療研究センター 室長 2021年 国立長寿医療研究センター 主任研究員、2024年:大阪大学大学院人間科学研究科 准教授、現在に至る

若手表彰事業について

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