令和7年度若手研究者表彰事業 長寿科学賞受賞者（山口裕子）
受賞者氏名
山口 裕子 氏
所属機関・職名
トヨタ自動車株式会社 先進プロジェクト推進部 主任
所属学会
日本老年看護学会
研究課題名
高齢者における骨格筋低下因子の解明と予防法の確立
研究期間
平成28年度～令和6年度
研究内容及び研究成果の概要
加齢に伴う炎症性サイトカインの上昇、酸化ストレス、不活発な生活や疾患、低栄養等が骨格筋低下に関連する。骨格筋低下のバイオマーカーに関する研究はこれまでにも報告されているが、その多くが動物実験によるものである。そこで、本代表論文では、"Rejuvenating factors(老化を制御する液性因子)"といわれるGDF8, GDF11, FST, WFIKKN1, WFIKKN2に着目し、高齢者の骨格筋力に対する作用について検討した。ボルチモア老化縦断研究(Baltimore Longitudinal Study of Aging)に参加し、2005年から最長12年間にわたりフォローアップされた65歳以上の地域在住高齢者534名を対象に、握力低下とRejuvenating factorsとの縦断的関連について解析した。参加者のうち47.6%が女性、平均年齢は男性75.6±6.3歳、女性75.8±7.0歳、フォローアップ期間の平均は8.87年であった。フォローアップ期間における握力の平均傾斜は-0.73±1.50であり、男性の方が握力低下率はより大きかった。Rejuvenating factorsと握力低下との関連について、男女別に重回帰分析を行った結果、全てのモデルにおいて有意差は認められなかった。よって、GDF8, GDF11, FST, WFIKKN1, WFIKKN2は高齢者の握力低下を予測する因子ではないことが示唆された。マウスを用いた多くの先行研究において、GDF11を補充することにより加齢によって減少した筋量や筋力が回復することが示されている。また、GDF8は骨格筋の調整因子として加齢に伴う筋委縮の抑制に作用することも報告されている。一方で、生理的レベルを超える高い濃度のGDF11によってマウス骨格筋の成長が抑制されるという相反する結果も存在する。本研究では、GDF8, GDF11, FST, WFIKKN1, WFIKKN2と握力低下との縦断的関連において有意な関連は認められなかったが、今後さらなる研究が必要であると考える。本代表論文を発展させ、地域在住高齢者における骨格筋低下を予防する食生活の解明にも取り組んでいる。
代表論文
Yamaguchi Y, Zhu M, Moaddel R, et al. (2023): Relationships of GDF8 and 11 and Their Antagonists With Decline of Grip Strength Among Older Adults in the Baltimore Longitudinal Study of Aging. The journals of gerontology. Series A, Biological sciences and medical sciences, 78(10), 1793-1798.
受賞者
- 山口 裕子（やまぐち ゆうこ）
- トヨタ自動車株式会社 先進プロジェクト推進部 主任
- 略歴
- 2012年：京都大学医学部人間健康科学科看護学専攻 卒業、2012-2014年：京都大学医学部附属病院 看護師、2016年：神戸大学大学院保健学研究科 博士課程前期課程 修了、2016年：神戸大学大学院保健学研究科看護学領域 助教、2020-2021年：ジョンズホプキンス大学医学部 客員研究員、2021年：神戸大学大学院保健学研究科 博士課程後期課程 修了、2023-2025年5月：神戸大学大学院保健学研究科看護学領域 准教授、神戸大学高等学術研究院 准教授（兼任）、2025年6月：トヨタ自動車株式会社 先進プロジェクト推進部 主任職、現在に至る
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