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第3回 秋の養生

 

公開月:2021年10月

杉山 卓也
薬剤師、漢方アドバイザー、神奈川中医薬研究会会長


 夏の暑さや湿度がようやく収まり、一年のうちでも過ごしやすい秋の時期は夏に取り入れた「陽気」というエネルギーを体の内側に取り込み、それを自分の力として発揮する季節といわれています。秋に運動会や文化祭などが行われるというのも、実はこのあたりに由来しているのかもしれませんね。また、「実りの秋」ともいわれるように、豊かな食材が収穫され、食卓が充実する時期でもあります。寒い冬に向けてバランスよく栄養を摂って英気を養うことが大切ですね。

 季候として秋は次第に大気中の乾燥が起こる時期で、気温も下がっていくため、中医学では「乾燥による害」である「燥邪(そうじゃ)」の影響により「肺」を傷めやすい時期といわれています。特に呼吸器疾患(喘息、気管支炎など)の悪化や、皮膚や粘膜に対する乾燥による炎症や感染症などには注意が必要です(図)。

図:五臓別こころの不調と治し方を表す図。
図 五臓別こころの不調と治し方

 生活における養生として秋はあくまでも物事を整理したり、仕上げたりする時期と認識し、無理に新しいことを始めてエネルギーを過度に消費しないこと、と中医学の古典でもいわれています。

 トラブルの起きやすい「肺」を補う食材としては、れんこん、トマト、百合根、白きくらげ、白ごま、豚肉、梨、柿、ぶどうなどがオススメです。白色の食材は体に潤いを与え、乾燥の害から体を守ってくれるものとして分類されることが多いので参考にするとよいでしょう(図)。

 また、乾燥による体調不良を感じている時には唐辛子や香辛料などの辛味(熱性)の強い食材は状況を悪化させる可能性があるため摂り過ぎを避けることも大切、といわれています。

 用いられる漢方薬としては肺の乾燥による呼吸器の不調(空咳や外に出しにくい痰など)や粘膜の不調(鼻炎などのアレルギーや感染症にかかりやすいなど)には麦門冬湯(ばくもんどうとう)や滋陰降火湯(じいんこうかとう)、玉屏風散(ぎょくへいふうさん)などがよく使われます。

 また、秋は気持ちが沈んだり、センチメンタルになったりすることが増えます。これは日照時間の減少や気温の低下などにより起こるとされていますが、こうしたメンタルの失調への対策として中医学の教えでは、秋はとにかく早く寝て早く起きること、できる限り心を安らかにして悔やんだり妬(ねた)んだりしないことを心がけること、とされています。漢方薬としてはメンタルの不調内容や体質に合わせながら帰脾湯(きひとう)、桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)などを用いることが一般的です。

 なお、秋の不調として上記以外にも夏場に冷たい飲食を摂り過ぎたり、冷房で体を冷やし過ぎたりしてしまうことで、秋のはじめ頃にだるさや胃腸の不調を訴える人も多く見られます。こうした不調を感じた場合は、まず消化のよい温かいものを無理のない分量(腹7~8分目程度)で摂りながら過ごすことを心がけるとよいでしょう。

 季候による体調不良は「夏の不調は秋のはじめ」に、「秋の不調は冬のはじめ」に、というように季節を越えるタイミングで出ることが多いので気をつけましょう。

 生活養生や漢方の知識を活かして気持ちのよい秋の季節をのんびり健やかに過ごしていただければ、と思います。


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